就労支援において、本人の能力を向上するように訓練するアプローチも重要です。
しかし、職場や家庭といった環境を本人の能力、特性に合わせるように調整するってことも同じくらい重要なことなんです。
でも、支援する側にとっていざ「環境を調整する」といっても…
- どこから手を付けていいのかわからない
- どんな環境調整の方法があるのかわからない
…と悩むことも多いようです。
そこで今回は、就労支援における、環境に対する情報収集と連携方法について解説します。
情報収集する対象になる3つの環境
労働者であるクライアントを取り巻く環境に対する情報収集ですが、その対象は次のようになります。
- 職場環境
- 地域生活環境
- 職場生活環境
以下にそれぞれ解説します。
職場環境
ます”職場環境”を評価することで、労働者であるクライアントの職場やそこでの職務を明確化することができます。
そうすると、その職場環境下での、“具体的な到達目標”とそのための“評価基準”を明らかにすることができます。
その結果、クライアントの能力と比較検討し課題抽出につなげることができます。
評価項目としては次のような項目があげられます。
物理面 | 作業空間、照明、喚起、清潔、音響、振動、湿度、温度、危険性、有毒性、姿勢、胴さを規制する機器・道具の構造など |
技術面 | ①器用さ・正確さ ②精神面(注意力、判断力、創意力、積極性) ③責任度 ④職務に関する知識 ⑤心身の耐久性 |
組織面 | 組織における地位と役割の体系、役割行動 |
心理社会面 | 職員間の心理的な結合関係、職業にたいしての社会的な価値観 |
経済面 | 給料や賃金の安定性などの条件 |
職場外 | 職業的な活動の他に許容される役割と時間 |
地域生活環境
だれにでも当てはまることですが、長期間、安定し適応した職業生活を送るためには地域生活の維持が必要です。
そうなると、クライアントが生活する”地域生活環境”に関する情報も収集する必要があります。
項目としては次のとおりになります。
住宅事情 | 障害特性に適合した構造か |
地域生活 | 地域の地理と店舗 |
家族など | 適切な支援、擁護力 |
余暇生活 | 余暇の過ごし方 |
福祉制度 | 福祉・年金制度の知識と活用状況 |
支援体制 | 援助機関、人的資源の状況 |
社会の態度と理解 | 地域住民の障害者への理解や態度 |
職業生活環境
これはクライアントの職業生活に関わる人的・物的環境…というよりは、情勢や法律、制度といったシステムを指しています。
項目としては次のようになります。
各種施設 | 共同作業所・授産厚生施設・福祉工場の実状 |
産業雇用 | 職場選択圏内の事業所内容や就職可能な職種 |
技術環境 | 技術革新の動向や新職種 |
勤務形態 | 在宅就労やフレックスタイム |
職場との連携について
クライアントの就労継続、定着支援として重要な項目のひとつに“事業主側へのフォローアップ”があげられます。
職場との連携の強化…ということですね。
方法としては職場訪問や電話などを使用しての方法が主なものですが…ここで一つポイントがあります。
それは、クライアントの就職面接の段階で、自分が医療機関の担当者であることを伝ておく…ということです。
そうすることで相手の警戒心が和らぎ、その後の職場訪問や電話連絡がスムーズになる場合が多いようです。
また、職場訪問は調整が必要な時期が来ることを予想して早め早めに行うべきです。
なにかトラブルが発生し調整が必要になったときに初めて行うものではないことも忘れないようにしないといけません。
就職初日、就職してから3日目、2~3週目、3ヶ月目…と徐々に期間を伸ばしながら訪問し、直接職場の経営者や上司にクライアントの働きや職場の人間関係を聞き、本人への対応についての確認と助言を行います。
また同時にクライアントのわずかな表情を読み取り、詳しく情報収集をする。
何よりも重要なことは、問題が表面化する前…潜在化している段階から調整が必要ということになります。
支援側はそのすぐに“気付く”能力が求められるのかもしれません。
家族との連携について
安定した就労や職業生活は、日常生活が安定していることが前提で長く継続するものです。
この日常生活の支援については、家族の協力が必要不可欠になります。
なので、家族の中のキーパーソンになる人と支援者側が連絡や情報交換がすぐにできる状況にあることが大切といえます。
クライアントにとって、家族のなかでだれがキーパーソンなのか。
どんな関係で、どんな風に方向性を考えていくかを把握しておくことも重要です。
ちなみに、クライアントの家族との連携を図る際のポイントとしては…
- 舵取りは1つにする
- 日常生活の変化はすぐに連絡をする
- 結果より過程を大切にする
…などがあげられます。
以下に解説します。
舵取りは1つにする
就労中には様々な予測されない問題が発生し、職場を休んだりやめたりしなければなりません。
その際m最終決定をしなければいけない時に、だれがかじ取りを行うか?を明確にしておく必要があります。
対象者は家族の言うことを無視できません。
そうすると援助者と家族の意見が食い違うと大変支援が難航してしまいます。
できれば、マネージメントをしている援助者の方針で行くことを事前にお願いしておく…ということも重要です。
日常生活の変化はすぐに連絡をする
メンタル面の波が安定しにくい知的障害や精神障害を持つクライアントの場合、なにかしらわずかであっても日常生活に変化があった場合には連絡するように伝えておくことが重要です。
この日常生活の変化とは…
- 睡眠時間
- 食欲
- 会話量
- 表情
- 職場の愚痴
…などが主なものとしてあげられます。
家庭内でクライアントがこのような項目に変化があって、家族が「あれ?」と気づいたら遠慮なく支援者側に連絡できるような仕組みを作っておくことも重要かもしれませんね。
結果より過程を大切にする
何かを継続するためには“結果”だけではなくその“過程”を重要視しないといけません。
仮に「働いたけど1週間で止めてしまった」ということが起こっても、それを“失敗”と捉えるのではなく、“うまくいかないという経験をした”と視点を変えて捉える癖をつける必要があります。
家族はクライアントの就労に対して熱心になるが故に、“長く働けない=失敗”と捉えがちです。
クライアントの就労意欲があるときに就労にチャレンジし、結果がたとえ短い期間であろうと、「働こうと思って努力した過程」は評価すべきポイントといえます。
この過程を評価することにより、クライアントも家族も、支援者側も“経験値”として蓄積していくことができるのだと思います。