就労支援事業所には、一般就労につなげるための様々なプログラムが行われています。
でも利用者の多くは、“働きにくさ”って目の前の問題をどのように対処すればよいのかわからずパニックに陥っている…って場合が多いような気がします。
そういった働きにくさを解消するために作業療法士は何ができるのか考えると、対処のための「知識」を学ぶ環境設定も一つなんだなと思っています。
そこで今回は、作業療法士がセミナーやワークショップを就労支援プログラム化する有用性について解説します。
就労に関しての実体験、知識量が少ない
就労支援事業では、支援プログラムの内容のひとつに“セミナー”という形で働くことに関する様々な知識を得る環境を設定していることが多くあります。
就労準備性を高める一環としての就労セミナーは、障害を有しながらも、就労を目指す際の“予備知識”を得る手段の一つとして重要な機会になってきます。
というのも、障害を有する人たちの多くは、学生時代のアルバイトの経験といった「働くこと」への実体験が少ないこと、あったとしても非常にネガティブな体験をしていることが多く、就労に関する予備知識の量と質の少なさがハンディキャップとなる場合が多いようです。
知識を身に着けるためのプログラムが必要
そこで一般的な就労に関する知識、そして就労する場合の自分の障害の特性について“知識”を身に着けることが必要になってきます。
そのための学習プログラムを様々な“セミナー”や“ワークショップ”として設定し、実施することが支援事業所では必要になってきます。
例としては…
- 仕事の探し方
- 履歴書の書き方
- 面接の受け方
- 雇用制度について
- 雇用の契約と退職手続き
…といった仕事をするうえでの最低限の予備知識から、
- 病気・服薬と受診日の確保の方法
- 職場での対人関係
- 職場でのストレスと対処法
- 疲労と休息の取り方
- 就労継続のポイント
…といった自分の障害の特性に合った知識をセミナーやワークショップという形で学んでいきます。
ハローワークが『ジョブガイダンス』という形で、精神障害の方を対象に行っているサービスも近いものとしてあげられます。
ポイントは“知識”を“知恵”に変化すること
こういったプログラムで就労に関してや自分の障害特性についての“知識”を得る事は非常に重要です。
でも、実はこのままでは実際の職業生活でうまくこの“知識”を活用することは難しい場合があります。
単純な“知識”をより具体的に、自分に合ったもの…つまり“知恵”に変化して身に着けることが必要になってきます。
体験することでより“知恵”にしていく
結論から言えば、講義的な形式である“セミナー”によって基礎を学んで得た“知識”に、実際の体験を加える事で“知識”に変化していくことができます。
就労支援事業所といった特別な環境下では、実践的な軽作業やSSTの技法のポジティブサポート・フィードバック、ロールプレイなどによってより“体で覚える”という体験をしていくことが重要になってきます。
この部分は非常に作業療法士がその職種特性として強みを発揮できる部分でもあるので、“知識”として学んだものを“知恵”に変化させていくアプローチをしていく必要があります。
もちろん本人の意思を尊重することも重要
しかし、このセミナー、ワークショップという形のプログラムも、その目的をしっかり提示しないと「学校みたいでいやだ」、「勉強は好きじゃない」という感情的な理由から意欲的に取り組まず、拒否的な反応を示す場合があります。
導入部分を注意する必要もありますが、なにより本人の社会生活をする上での能力向上を希望しない場合は、現在持っている能力を軸に環境調整とサポートをどのように組み立てていくかという“代償アプローチ”にシフトして支援していく柔軟性も、支援者側には必要と言えます。
実践的な体験の過程を通して
上述したセミナーやワークショップという形式でのプログラムは、あくまで支援事業所内といった“守られた、特別な環境下”で行われるため、実際の職場で起こり得るイレギュラーな事象に対応しきれなくなる場合があります。
そこで、事業所内における就労セミナーでの“知識”を、体験学習を通して“知恵”に変化させ、さらに実際の現場で“経験”することが重要になってきます。
そのために作業療法士は…
- 職場開拓をし、トライアル雇用(期間限定の職場実習)につなげる
- 精神障害の場合は、“社会適応訓練事業”を保健所と連携して活用する
- “職場適応訓練制度”や“就業体験支援事業”を障害者職業センター・ハローワークとの連携で活用する。
…といった“実践的体験学習”のための具体的なアプローチ、コーディネートは必要となってきます。
実践的体験学習実施過程でのポイント
これらの実践的体験学習を実施するプロセスにおいて、作業療法士は以下の項目に着目しておくことが必要になってきます。
- 職務内容勤務状況に関する負荷量の吟味・検討
- 当面の目標と課題の確認、達成されそうもない場合の回避法の確認
- 再発予防のための工夫
- 受診・服薬・ストレスに対するセルフケア
- 就労支援関係者との連携
- 職場の関係者との連携
- 家族の協力体制作りの大切さ
- 専門家以外のサポート(当事者による相互支援など)の重要性など
逆説的に言えば、上記の項目について知識を得るためのセミナー、体験するためのワークショップを支援プログラムとして提供しておくことが就労を支援する作業療法士としては必要なのかもしれません!
まとめ
今回は、作業療法士がセミナーやワークショップを就労支援プログラム化する有用性について解説しました。
働きにくさを回避するためには、非常に様算な“知識”が必要になってきます。
しかし大枠での知識のみでは、より個人レベルでの状況に当てはまらない場合もあるため、その“知識”を体験学習によって“知恵”に変化させ、さらに実践的な環境下で“経験”していくことが就労、定着につながっていくのでしょうね!