現在うつ病で休職中。
日常生活はなんとか送れるようになってきたものの、次のステップの復職となると不安。
やっと少しずつよくなってきたうつ病の症状がまた悪化するのも怖い…。
でもこのままなにも働かないでいるのもつらいし、生活がなりたたない…。
気持ちばかり焦って、何をどうしたらいいのかわからない。
うつ病で苦しんでいる当事者だからこそ、不安が先に頭をいっぱいにしてしまいがちですよね。
そこで今回は、リハビリセラピストで、両立支援コーディネーターでもある作業療法士が、うつ病の方の復職の方法やプロセスについて解説します。
うつ病についてもう一度知る
自分自身の病気についてですから、誰よりも本やインターネットなどでうつ病について調べたと思います。
改めてうつ病について知ることは「いまさら?」と思うかもしれませんが、客観的に振り返る意味でも必要なことだと考えます。
うつ病とは?
うつ病とは、憂うつな気分や無気力な状態が長い間(2週間以上)続き、社会生活に困難をきたす病気になります。
よく心の病気とされていますが、現在は脳の機能障害によるものという認識が広がりつつあります。
復職をするという目標の前に前提として知っておいて欲しいことは、決して心が弱いからうつ病になったわけではないということです。
まず、この部分をしっかりと頭に入れておく必要があります。
うつ病の症状や特徴
うつ病の主な症状としては次のとおりになります。
- 気分の障害
- 意欲の障害
- 行為の障害
- 思考の障害
- 身体障害
少しだけそれぞれの症状について以下に解説します。
気分の障害
基本的に気分は落ち込みやすく、その状態が長く続くのがうつ病の主な症状とも言えます。
朝からずっと憂うつな気分が続き、自尊心の低下から「自分はダメな人間だ」という劣等感を常に感じています。
将来に対しての絶望感を強く感じるのもうつ病の症状と言えます。
意欲の障害
元気な時の趣味や好きなことに対しての興味がなくなるのもうつ病の症状の特徴です。
今まで楽しかったはずの趣味や習い事に対してつまらなく感じたり、億劫になったりして、興味すらなくなった。
こんな経験、思い当たるのではないでしょうか?
行為の障害
うつ病の多くの人は、全体的に動作がゆっくりになったり、行動の開始が非常に遅くなる症状があります。
決して怠けるつもりではないのに、キビキビ動くことが難しい。
むしろ、どうやっていろんなことを2つも3つも同時にこなしていたんだっけ?
…元気だったときの自分の行動の仕方が思い出せないという訴えもよく聞かれます。
思考の障害
うつ病の人は、実は思考に大きな歪みを抱えている場合があります。
物事の捉え方が悲観的になってしまっている状態です。
いわゆる「ネガティブ思考」ですね。
元々の性格や考え方の偏りが基礎にある場合もありますが、やはり脳の機能がうまく働いていない状態も影響しているのが理由になります。
話をしている相手が少し視線を外した→自分は嫌われている
メールの返事が返ってこない→自分が何か怒らせるようなことを言ったのかもしれない
元気だったときは気にもしなかったことが、常に気にするようになり、しかもマイナスな捉え方をしてしまいます。
他の人には「考えすぎ」と言われますが、頭ではわかっていても気持ちがそうなってしまっている。
…そんな状態が思考の障害です。
身体障害
うつ病は実は体にも強い影響を及ぼします。
体は疲れているはずなのになかなか眠れない不眠、やっと眠れたと思ってもすぐに起きてしまうという中途覚醒。
多くのうつ病の人にみられるものに、こういった睡眠障害があります。
また、食欲の低下による体重減少。
胃のむかつきやもたれ、吐き気や嘔吐、便秘や下痢といった消化器症状もみられます。
その他にも耳鳴りや肩こり、頭痛や手足の冷えといった症状を訴える方も多くいらっしゃいます。
もちろんこれらすべてが当てはまるわけではありませんが、こういった症状が複数重複してみられる場合があります。
うつ病の予後と再発について
うつ病は急速に回復する人としない人とで二極化する傾向があります。
加えて、非常に再発が多いとされてもいます。
ひどいうつ病を経験した60%が2度目の発症を経験しています。
さらに2回経験した人が3度目の発症を経験する可能性は70%、さらに3回経験した人が4回目も経験する可能性は90%であるといわれています。
また、うつ病の発症を繰り返すにしたがって徐々にうつ状態は長くなり、重症度が増していくというのも特徴です。
「いま少し良くなってもまたいつ悪化するか不安」というのを“予期不安”と言いますが、これもうつ病をはじめとした気分障害の特徴とも言えます。
うつ病の復職前の状態について
では、なんとか日常生活は送れるようになったといううつ病の方の、次のステップである復職前の状態について解説します。
- 体や気持ちにまだ波がある
- 将来に対して不安が強くなる
- 経済的な問題で苦しくなる
様々なケースがあると思いますし、人によっても変わってくると思いますが共通するのは上記のような状態かと思います。
少しそれぞれについて深堀りしてみます。
体や気持ちにまだ波がある
「仕事をしなきゃ」と思う反面…
「うまく復職できるかな?」
「また症状が悪化したらどうしよう」
「結局また休職したら…」
…という不安が大きいため、「○○月から復職する!」と決めてもなかなか思うように進まないことが多いようです。
また、体の調子も“最悪の状態”からは抜け出してきたものの、やっぱりまだ波はあるのも事実。
ちょっとした気温の変化や季節の移り変わりの時期は思うように動けないし、急な出来事に対してはパニックになってしまいます。
親しい人や家族とは外出することができても、一人で外出するのには抵抗はあります。
やっぱり「元気だったときと何も変わらない状態」とはやっぱりまだ言えないと思います。
将来に対して不安が強くなる
常に「ずっとこのままだったらどうしよう」と将来に対して不安になるのもこの時期の特徴かもしれません。
何も考えられず、動くこともできなかった“最悪の時期”と比べればまだ頭も体も働くようになったが故に、今の「働いていない」という状況に非常に不安になります。
朝になると、同僚だった人や同世代の友人は普通に仕事に向かっているのに、自分はパジャマのまま…。
「今はしょうがいない」とは割り切ろうとしても、やっぱり気持ちが“ギュッ”となってしまう。
でもこの状況を抜け出す方法がわからないし、不安だからこそ具体的な行動に移せない…。
日常生活をなんとか過ごすことができるようになった段階だからこそ、その「なんとか過ごす」だけで精一杯な自分に気づいてしまい、余計に不安になってしまうのがこの時期の特徴かもしれません。
経済的な問題で苦しくなる
仕事をしていない状態が続いて、収入が0に等しい状態にもかかわらず、毎日の生活費に加えて定期的な受診料や薬のお金で経済的な不安がなお強くなるのもこの時期かと思います。
また家族を養う状況にある人の場合だったら、子供の教育費などの問題もあり余計に「1日でも早く仕事に復帰しなきゃ」と追われるような気持ちになってしまいます。
いい意味でも悪い意味でも、自分の状況を客観視できたという見方もできますが、それでも不安なことには変わりありません。
*ちなみに経験上ですが、悪徳商法やマルチ商法まがいのネットワークビジネスに手を出してしまうのもこの時期ですので注意が必要です。
うつ病の就労や復職に関して統計から考える
ここではうつ病の就労や復職に関しての統計的なデータからみてみます。
うつ病の患者数
躁鬱病を含む気分障害の患者数についてですが、平成29年の厚労省のデータによると127万人を超えています。
内訳として男性が約49万人、女性が約78万人のようです。
しかもこのデータはあくまで医療機関で受診などの対応をされた人数になるので、実際うつ病やうつ病の症状で苦しんでいる人の人数はもっと多いとされています。
また世界的にもうつ病は増加していて、その有病者数は約3億2200万人とも言われています。
このうつ病に対してなにも対策もされない場合は、2010年~2030年までに世界経済に最大16兆ドルの損失が生じるとの研究報告もあります。
それでも、WHOはその多くは正しい診断や適切な治療を受けられていないと指摘しています。
では、うつ病に関わる仕事や就労に関しての統計データについて解説します。
2005年に“社会経済生産本部”という機関が行った「労働組合のメンタルヘルスの取り組み」というアンケート調査を基にしています。
少し古いデータですが参考になれば幸いです。
うつ病の休業の理由
うつ病になり仕事を休業する理由については次のような結果になっています。
- 職場の人間関係:30.4%
- 仕事の問題:18.6%
このデータにおいて、様々な企業の労働組合の実に49.9%が原因として「コミュニケーションの希薄化」と答えています。
うつ病対策に取組んでいる企業規模と取組内容
次に従業員のうつ病対策に取り組んでいる企業の規模についてですが、
- 1000人以上:約90%
- 300人以上:60%以上
…という結果になっています。
またどのような取り組みを行っているかについてですが、
- 相談(カウンセリング)の実施:55.2%
- 定期健康診断における問診:43.6%
- 職場環境の改善:42.3%
…とあります。
うつ病対策に取組んでいない企業規模
逆に、全くうつ病の対策に取り組んでいない企業規模についてですが、
- 50人~100人未満:67.6%
- 30人~49人:73.4%
- 10人~29人:79.8%
…という結果になっています。
このことからも、大規模な事業所では何かしらのうつ病に対しての予防といった対策や取り組みは行っている反面、100人未満の規模の事業所では全く進んでいないということがわかります。
うつ病の復職成功率
実はうつ病の復職成功率は2割というデータがあります。
これはうつ病の特徴の一つである「再発しやすい」という点からも納得がいきます。
うつ病の復職に必要な能力
では、うつ病の人が再度仕事に復帰し、しかも長く働き続けるために必要な能力とはどのようなものがあげられるでしょうか?
主なものとしては次の5つになります。
- きちんとした生活習慣を身につける
- 基礎体力と運動習慣
- 物事の捉え方の歪みを自覚する
- 感情のコントロール
- 自己肯定感を身につける
以下に詳しく解説します。
きちんとした生活習慣を身につける
上述したように、うつ病の人は食欲低下と不眠が症状として見られます。
加えて意欲の低下や動作の緩慢さなども加わって、どうしても毎日の生活が一定のものではなく乱れがちになってしまいます。
就職して、仕事を毎日するということは、一定の決められた作業をその時間にこなす能力が必要になります。
朝決まった時間に起床して、身支度をして、食事を取って出社する。
仕事が終わり、帰宅して夕食を取り、入浴をし決められた時間に就寝する。
毎日の就労生活をこなしていくためには、こういった決められた生活の作業や活動を繰り返していくことが重要になります。
『健全なる精神は健全なる身体に宿る』と言われるように、毎日の生活習慣が乱れてしまっては気持ちだってふさぎ込みがちになってしまいます。
基礎体力と運動習慣
仕事をするということはやはり体力が必要です。
基礎的な体力がないと1日の仕事をこなすことが困難になり、しかもその生活を毎日繰り返すことが難しくなります。
その結果、長い時間働き続けることが難しくなってしまいます。
休職中はどうしても家に閉じこもりがちになってしまい、運動習慣もないため体力は低下する一方です。
そのための毎日の運動習慣は無理のない程度で身につけて、基礎体力を向上、維持しておく必要があります。
加えて運動療法の観点からも、適度な運動をして筋力を鍛えることは心身のリラックス効果が期待できます。
また、体力の向上と運動習慣は脳への刺激と酸素供給量を上げることからも創造的思考力を鍛える効果があります。
うつ病になってから頭の回転が遅くなった…という人にとっては非常に必要とされる能力と言えます。
物事の捉え方の歪みを自覚する
うつ病の人の多くは非常に「物事の捉え方の歪み」を持っています。
これは上記の「思考の障害」の項目でも触れましたが、うつ病の症状の特徴とも言えます。
そのため仕事をしても早合点や勘違いしやすく、些細なことを気にしてしまい精神的な疲労が非常に高い状態になりやすいと言えます。
多くのうつ病の就労支援の医療機関や事業所では、この歪みを修正するために『認知行動療法』といった方法を取り入れたプログラムを行っています。
自分自身の物事の捉え方、認知の歪みに気づき、それを修正するコツを知ることは、就労生活において余計な精神的疲労を避けることができます。
感情のコントロール
感情が乱されることって、ほぼ周囲の環境の影響によるものです。
それが同僚のちょっとした一言でも、お客さんの態度でも乱されますし、天気や季節によっても起こり得ます。
“感情をコントロールすること=感情を抑え込む”と勘違いされがちですが、実は客観的に理解するだけで十分だったりします。
「あ、自分は今悲しいんだな」や「あの一言で自分は苦しんでいるんだな」と客観的に捉えることがコントロールすることの一歩になります。
様々な人間関係が必要な就労生活において、どんな人と接してもどんな環境に置かれても、自分の感情を振り回されないための能力というものが必要になります。
自己肯定感を身につける
うつ病の多くは自己評価が低く、自尊心が低い人がほとんどと言えます。
そしてうつ病を発症するきっかけが、多くの場合何かしらの「失敗」によるものです。
上司に怒られた、仕事でミスをした、職場の人間関係でつまづいた…
程度の差や内容は様々でも、うつ病の発症のきっかけとしてこういった「失敗」があるはずです。
そこに“捉え方の歪み”が重なると、「一つの失敗=自分は何をやってもダメな人間」という考えになってしまいます。
自分自身の“良いところ”や“得意なこと”といった“強み”があるはずなのに、それに気づかなくなってしまいます。
もちろん過度に自意識過剰でも困りますが、自己評価って何より行動化するためには必要な要素だったりします。
自己評価の低さ、自己肯定感の低さは不安を強くし、その結果行動化を抑制してしまいます。
自分自身の強みを把握し、小さな成功体験を積むことで自己肯定感を高める事って重要なことなんです。
うつ病の復職するための方法
では実際に現在休職中のうつ病の人が復職するための方法について解説します。
主な方法としては次の3つです。
- 就労支援デイケアの利用
- 障害者職業センターの利用
- 就労移行支援事業所の利用
以下に詳しく解説します。
就労支援デイケアの利用
今現在、精神科の病院やクリニックに通院している場合は、その医療法人の事業として就労支援に力を入れている精神科デイケアがあるのかどうか確かめてみるとよいかもしれません。
仕事を休職中の方や就職に向けて活動されている人を対象に様々な復職支援のプログラムを行っている場合があります。
内容としては様々でしょうけど、集団認知行動療法を中心とする復職に向けた基礎能力のトレーニングや、SST(ソーシャル・スキルズ・トレーニング)、スポーツ、レクリエーションといった内容のプログラムを組み合わせて行っているようです。
また、多くの場合作業療法士が所属しているのでより専門的なアドバイスを受けることができます。
加えて、医療機関であるため、自立支援医療・各種保険が利用可能なことから利用料金が安価ですむ場合があります。
一方、デメリットとしては、集団プログラムが中心のため自分と合わなかったり、復職につながりにくい作業や活動に時間を使われてしまうこと。
そのことからも就労訓練としては物足りなく感じてしまうケースも多いようです。
障害者職業センターの利用
もう一つの方法としては、障害者職業センターを利用することです。
この障害者職業センターは高齢・障害・求職者雇用支援機構が運営しています。
プログラム内容としては、ストレス対処講座、認知行動療法、そして事務課題や労務作業を行い、自分の得意不得意な作業を評価するといった内容が主なものになります。
訓練やトレーニングというよりは、自分の得意不得意なこと、認識の歪みなどについての検査や評価が中心になる印象を受けます。
メリットとしては利用料が無料という点と、ジョブコーチによる職場、主治医と連携しコーディネートも図ってくれるため、より復職しやすい環境に身を置くことができるという点です。
ただし、デメリットとしては、都道府県に1つか2つしかないこと、約2ヶ月の利用期間であるため症状や状態によってはプレッシャーになってしまうことがあげられます。
就労移行支援事業所の利用
3つ目の方法としては、就労移行支援事業所を利用することです。
これは民間の就労支援サービスの事業所になります。
就労支援のプログラム内容も、病気に対しての知識の講座や、基本的なビジネススキル、パソコン操作や資格取得に力を入れている事業所も多くあります。
メリットとしては、常に新しい情報が集まる点、利用者個人に合わせたプログラムを行いやすい環境であること、より実務的なプログラムになっていることなどがあげられます。
逆にデメリットとしてですが、利用料金がかかること、様々な障害を有している利用者がいるため利用者間の関係性を築くのが大変なことなどがあげられます。
最近では、うつ病専門の就労移行支援事業所【シゴトライ】
のようなものも増えてきたことから、さらに利用者は増えてくるかと思われます。
復職するために重要なこと
うつ病の人が復職し、さらに長く働き続けるためには
- 自分に合った環境を選ぶこと
- その環境を自分に合わせる手段を利用すること
- その環境に自分を合わせるようにしていくこと
この3つだと思います。
自分に全く合わない環境を選ぶことは非常に危険です。
多少なりとも自分が居心地がよい環境に身を置くこと。
そのためにその環境を変える手段は、就労移行支援事業所でもデイケアでも、ジョブコーチでも様々なものが利用できます。
ただ、注意することは環境を変えるだけではだめということです。
その環境に自分が合うような努力をする必要もあります。
この努力は決して我慢ではありません。
自分が受け入れやすいように認識を変え、捉えなおす能力を身につけることが前提条件として考えられます。
まとめ
うつ病の復職をテーマにした本記事をまとめると下記になります。
- うつ病について改めて客観的に知ることは重要
- また、復職を考え出す時期特有の自分の心と体の状態を知ることも重要
- その上で、うつ病の復職に必要な5つの能力を身に着けていく
- その方法としては、デイケアや障害者職業センター、就労移行支援事業所などを利用する
- ただしそれぞれメリット、デメリットがあるため天秤にかけて選ぶ必要がある
- 長く働き続けるためには、自分に合う環境を選び、環境を変える手段を使い、自分もその環境に合うようにする
- なにより重要なのは物事の捉え方、歪みを修正していくこと
…こんな感じでまとめてみました。
この記事が少しでも復職に向けての一助になれれば幸いです。