FAB(Frontal Assessment Battery:前頭葉機能検査)-目的・検査方法・解釈・カットオフ値・平均値などについて

FAB(Frontal Assessment Battery:前頭葉機能検査)-目的・検査方法・解釈・カットオフ値・平均値などについて 検査

前頭葉機能障害に対して行われる“FAB”は、作業療法をはじめとしたリハビリテーションの臨床や現場でよく使用される神経心理学検査の一つです。
そこで今回はこの“FAB”の検査方法や解釈、カットオフ値などについて解説します。


  1. 前頭葉機能とは?
  2. FAB(前頭葉機能検査)とは?
  3. FABの開発について
  4. FABを使用する職種について
    1. 作業療法士
    2. 精神科医
    3. 臨床心理士
  5. FABが広く使用されている理由について
    1. ベッドサイドでも行えること
    2. 短時間(約10分)で検査実施が可能なこと
    3. 特別な用具を用いないこと
  6. FABの対象疾患について
    1. 脳卒中(脳梗塞・脳出血)
    2. 頭部外傷
    3. パーキンソン病
    4. 統合失調症
    5. うつ病
    6. 認知症(アルツハイマー型認知症・前頭側頭型認知症など)
  7. FABの検査目的について
    1. 言葉の概念化(類似の把握)
    2. 言語流暢性
    3. 運動プログラミング
    4. 干渉への感受性
    5. 抑制性制御
    6. 理解行動
  8. FABの検査項目について
    1. 1.概念化課題(類似性)
    2. 2.思考の柔軟性・知的柔軟性課題(語の流暢性)
    3. 3.運動系列課題(運動プログラミング)
    4. 4.葛藤指示課題(鑑賞刺激に対する過敏性)
    5. 5.GO/NO-GO課題(抑制課題)
    6. 6.把握行動(環境に対する非影響性)
  9. FABの合計点数について
  10. FABの平均値について
    1. くも膜下出血
    2. 脳出血
    3. 脳梗塞
    4. 脳腫瘍
  11. FABのカットオフ値について
  12. FABの結果解釈について
    1. 知能や記憶といった他の認知機能
    2. 運動機能
    3. 注意、集中といった能力
    4. 総合的な解釈の重要性
    5. 他の評価方法の併用
  13. FABのメリット・デメリット
    1. メリット
    2. デメリット
  14. FABと失語症について
  15. FABを精神科で使用する際のポイント
  16. ALSに対してのFAB
  17. FABと他の検査との相関性
  18. FABの保険点数・診療報酬について
  19. FABはまだ発展途上?
  20. FABとBADSも遂行機能(実行機能)の検査方法
  21. 参考
  22. 関連文献

前頭葉機能とは?

前頭葉機能とは、脳の前頭葉でも特に前頭前野(前頭前皮質)と呼ばれる領域が担う機能を指します。
前頭葉機能とは、大脳の前部に位置する前頭葉が担う様々な機能のことです。
前頭葉は、思考力、意思決定、感情のコントロール、記憶の保持と処理、注意力、行動の制御など、人間の高度な認知機能を司っています。
具体的には、以下のような役割を果たしています。

  • 思考力: 物事を考える力で、情報を集めて次の行動を考える役割を担います。
  • 感情のコントロール: 複雑な心境や感情を表出し、過剰な情動を抑える働きがあります。
  • 意思決定: 複数の選択肢の中から最適なものを選ぶプロセスを指揮します。
  • 状況判断: 周囲の状況を判断しながら適切な行動を決定します。
  • 記憶の保持と処理: 日常生活や仕事で必要な記憶の保存と処理に関与します。
  • 行動の制御: その環境に対して適した行動をとることです。
前頭葉機能 - 役割・検査・障害・原因・鍛え方などについて
前頭葉は高度な認知機能を司る脳の重要な部分です。前頭葉機能を鍛えるための具体的な方法やその障害について詳しく解説します。

前頭葉は、歳を取ると老化し、これらの機能が低下することが知られているんだ!
前頭葉の機能は、日常生活を送る上で非常に重要な役割を果たしているんですね!

FAB(前頭葉機能検査)とは?

FABはリハビリテーション医療でも特に作業療法の分野で広く使用される高次脳検査の一つです。
FAB(Frontal Assessment Battery:前頭葉機能検査)は、前頭葉機能障害を評価するために使用される神経心理学的検査で、特にリハビリテーション医療や作業療法の分野で広く用いられています。
6つのサブテストで構成され、概念化課題、思考の柔軟性課題、運動系列課題、葛藤指示課題、GO/NO-GO課題、把握行動の各テストを通じて、前頭葉が担う高次脳機能、特に遂行機能(実行機能)を評価します。

短時間で実施可能で、特別な道具を必要とせず、脳卒中、頭部外傷、パーキンソン病、統合失調症、うつ病、認知症など様々な疾患の患者さんの前頭葉機能評価に有用です。

FABの開発について

FABはDuboisらによって開発され、2000年に「The FAB  A frontal assessment battery at bedside」という論文が発表されました。
FABは“Dubois”らによって開発され、2000年に「The FAB A frontal assessment battery at bedside」という論文が発表されました1)
その後、ベッドサイドで簡単に前頭葉機能を検査できる方法として広く使用される検査となりました。

FABを使用する職種について

FABはリハビリテーション医療の分野では、作業療法士や精神科医、臨床心理士が使用する頻度が多い検査です。
FAB(Frontal Assessment Battery:前頭葉機能検査)は、主に以下の職種で使用されています。

  • 作業療法士
  • 精神科医
  • 臨床心理士

それぞれ解説します。

作業療法士

FAB(Frontal Assessment Battery:前頭葉機能検査)は、作業療法士が患者の日常生活動作の改善を目指して使用する重要なツールです。
作業療法士は、患者が独立して生活するために必要なスキルを評価し、訓練する専門職です。
前頭葉機能の評価を通じて、患者の遂行機能(計画、組織、問題解決能力など)を理解し、具体的なリハビリテーションプランを立案します。
FABを使用することで、作業療法士は患者の認知機能の現状を把握し、適切な介入方法を選択することができます。

また、この評価により、患者の能力を最大限に引き出すためのカスタマイズされたアプローチを設計し、日常生活の質を向上させることが可能となります。

精神科医

FABは、精神科医が精神疾患の診断や治療計画の立案において使用する効果的なスクリーニングツールです。
精神科医は、患者の精神的健康を評価し、治療を提供する専門家です。
前頭葉機能障害は、多くの精神疾患に関連しているため、FABによる評価は診断の重要な一環となります。
例えば、統合失調症やうつ病、双極性障害などの患者に対して、前頭葉機能の異常を早期に発見し、適切な治療法を選択することができます。

また、FABの結果を基に、薬物療法や心理療法の効果をモニタリングし、治療プランを柔軟に調整することが可能です。

臨床心理士

臨床心理士は、患者の心理状態を評価し、適切な心理療法を提供するためにFABを活用します。
臨床心理士は、心理的な問題を抱える個人を支援し、治療を行う専門職です。
前頭葉機能の評価を通じて、患者の認知的および感情的な状態を総合的に理解し、適切な介入を行うための基盤を築きます。
FABを使用することで、臨床心理士は患者の遂行機能や注意力、抑制コントロールの状態を把握し、それに基づいた個別の治療プランを作成します。

また、評価結果を基に、治療の進行状況をモニタリングし、必要に応じてアプローチを調整することで、より効果的な心理療法を提供することができます。

これらの専門家は、FABを用いて患者の前頭葉機能障害の有無や程度を評価し、それに基づいた治療や支援を行うことができるんだ!
FABは特別な道具を必要とせず、短時間で実施可能であるため、臨床現場での利便性が高いとされていますね!

FABが広く使用されている理由について

FABが広く使用されている理由について
FABがリハビリテーションや精神、心理の分野で広く使用されている理由としては…

  • ベッドサイドでも行えること
  • 短時間(約10分)で検査実施が可能なこと
  • 特別な用具を用いないこと

…があげられます。
それぞれ解説します。

ベッドサイドでも行えること

FAB(Frontal Assessment Battery:前頭葉機能検査)は、ベッドサイドで簡便に実施できるため、リハビリテーションや精神、心理の分野で広く使用されています。
多くの神経心理学的検査は特定の環境や専用の機器を必要とするのに対し、FABは患者がベッドに横たわっている状態でも施行可能です。
この利便性により、患者が移動することなく前頭葉機能の評価が行えるため、特に入院患者や動くことが難しい患者に対して有効です。
また、ベッドサイドで実施できることで、急性期の患者に対しても迅速な評価が可能となり、早期のリハビリテーション介入を支援します。

これにより、患者の回復過程を迅速に評価し、適切な治療計画を立てるための貴重な情報を提供します。

短時間(約10分)で検査実施が可能なこと

FABは短時間で実施できることも、その広範な利用を支える重要な特徴です。
一般的な神経心理学的評価は時間がかかることが多いですが、FABは約10分で完了するため、忙しい臨床現場でも簡便に導入できます。
短時間で完了するため、患者の負担も少なく、特に集中力や体力が限られている高齢者や重症患者に対しても適用しやすいです。
迅速な評価が可能なため、複数の患者に対して連続して検査を実施することも容易であり、効率的な患者管理が可能となります。

このように、時間的効率の良さが、FABの広範な臨床応用を支える一因となっています。

特別な用具を用いないこと

FABは特別な用具を必要とせず、基本的な道具だけで実施できる点も、その普及の一因です。
多くの神経心理学的検査では専用の器具やテストキットが必要ですが、FABはシンプルな指示と口頭でのやり取りで実施できるため、どのような環境でも柔軟に対応できます。
この特性により、リソースが限られた施設や、フィールドでの迅速な評価が求められる状況でも利用可能です。
また、用具を使用しないことで、検査の準備や後片付けに時間を取られることがなく、医療従事者の負担も軽減されます。

このシンプルさと利便性が、FABを広範な臨床現場で利用しやすくしているのです。

FABが広く使用されている理由は、ベッドサイドでも簡便に実施でき、短時間で特別な用具を必要とせずに前頭葉機能を評価できるためなんだ!
この利便性により、多様な臨床現場で迅速かつ効率的な評価が可能となり、リハビリテーションや精神、心理の分野で広く採用されているんですね!

FABの対象疾患について

FABの検査の対象疾患としては…

  • 脳卒中(脳梗塞・脳出血)
  • 頭部外傷
  • パーキンソン病
  • 統合失調症
  • うつ病
  • 認知症(アルツハイマー型認知症・前頭側頭型認知症etc)

…があげられます。
それぞれ解説します。

脳卒中(脳梗塞・脳出血)

FAB(Frontal Assessment Battery:前頭葉機能検査)は、脳卒中患者の前頭葉機能障害を評価するために用いられます。
脳卒中は、脳の血管が詰まる(脳梗塞)または破裂する(脳出血)ことによって発生し、前頭葉を含む脳の特定の領域に損傷を与えることがあります。
前頭葉が損傷されると、遂行機能や注意、抑制のコントロールが影響を受けるため、FABを用いてこれらの機能を評価することが重要です。
評価結果は、リハビリテーションの方向性を決定し、患者の回復を支援するための具体的な介入方法を設計するのに役立ちます。

さらに、脳卒中後の機能回復の進行状況をモニタリングし、治療の効果を評価するためにも利用されます。

頭部外傷

FABは頭部外傷患者の前頭葉機能の評価にも広く使用されています。
頭部外傷は、外部からの強い衝撃によって脳が損傷を受けるもので、特に前頭葉が影響を受けることが多いです。
前頭葉の損傷は、計画や組織化能力、意思決定、衝動の抑制などの遂行機能に大きな影響を与えるため、FABを用いた評価が不可欠です。
この評価によって、患者の認知機能の障害の程度を把握し、個別のリハビリテーションプランを立てることが可能になります。

また、治療の過程で前頭葉機能の回復をモニタリングし、必要に応じてリハビリテーションプランを調整することもできます。

パーキンソン病

パーキンソン病は運動機能だけでなく、前頭葉機能にも影響を与える神経変性疾患です。
FABは、パーキンソン病患者の遂行機能や注意力、認知の柔軟性を評価するために用いられます。
前頭葉機能の低下は、日常生活の活動や独立性に重大な影響を与えるため、早期にこれらの機能を評価し、適切な介入を行うことが重要です。
FABの評価結果は、リハビリテーションプログラムの設計や薬物療法の効果をモニタリングする際にも役立ちます。

また、認知機能の変化を追跡することで、疾患の進行を把握し、必要な支援を提供することが可能となります。

統合失調症

統合失調症は、前頭葉機能の障害が顕著に現れる精神疾患の一つです。
FABは、統合失調症患者の前頭葉機能を評価し、遂行機能の障害の程度を明らかにするために用いられます。
具体的には、計画、組織化、問題解決能力の評価を通じて、患者の日常生活における困難さを特定し、適切な治療や支援を提供するための基礎情報を得ることができます。
FABの結果は、治療計画の立案や心理社会的介入の設計に役立ちます。

また、治療の進行状況をモニタリングし、治療効果を評価する際にも重要な役割を果たします。

うつ病

うつ病患者においても、FABは前頭葉機能の評価に用いられます。
うつ病は、感情や気分の障害に加えて、遂行機能や注意力の低下を引き起こすことがあります。
FABを使用してこれらの認知機能を評価することで、患者の症状の全体像をより深く理解することができます。
評価結果は、薬物療法や認知行動療法などの治療法を選択する際の参考となり、個別の治療計画を立てるための貴重な情報を提供します。

また、治療の効果をモニタリングし、必要に応じて介入方法を調整することで、患者の回復を支援します。

認知症(アルツハイマー型認知症・前頭側頭型認知症など)

認知症患者の前頭葉機能を評価するためにもFABが使用されます。
アルツハイマー型認知症や前頭側頭型認知症など、認知症のタイプによって前頭葉機能の障害が異なるため、FABによる詳細な評価が重要です。
評価結果は、認知症の進行を把握し、適切な治療やケアプランを設計するための基礎情報を提供します。
特に、前頭葉機能の低下が日常生活や社会的な活動にどのように影響を与えるかを理解するために役立ちます。

また、評価を通じて、認知症患者の生活の質を向上させるための具体的な介入方法を導入することができます。

特別な道具を準備する必要がないことが、FABのメリットともいえるね!
だからこそ教示方法や注意点はしっかりと守ったうえで実施する必要がありますね!

FABの検査目的について

FABはその名前のとおり、前頭葉機能を検査することが目的です。
FAB(Frontal Assessment Battery:前頭葉機能検査)の主な検査目的は、前頭葉の機能を中心に評価することです。
前頭葉は高次脳機能、特に遂行機能(実行機能)に関わる重要な部位であり、以下のような能力を評価するためにFABが用いられます。

  • 言葉の概念化(類似の把握)
  • 言語流暢性
  • 運動プログラミング
  • 干渉への感受性
  • 抑制性制御
  • 理解行動

それぞれ解説します。

言葉の概念化(類似の把握)

FAB(Frontal Assessment Battery:前頭葉機能検査)の言葉の概念化テストは、被験者が物事の共通点や類似点を理解し、それを言語化する能力を評価します。
例えば、2つの異なる物体や概念がどのように似ているかを説明することが求められます。
これは、抽象的思考能力や概念形成能力を測る重要な指標となります。
前頭葉はこの種の高次認知機能を司っており、脳損傷や神経疾患がある場合、この能力が低下することがあります。

このテストの結果は、患者の認知的柔軟性や問題解決能力を理解するための重要な手がかりとなり、治療やリハビリテーションの方向性を決定する際に役立ちます。

言語流暢性

FABの言語流暢性テストは、特定の条件下で言葉を連想し、口頭で表現する能力を評価します。
被験者には、一定の時間内に特定の文字で始まる単語をできるだけ多く挙げるように求められます。
これは、前頭葉が関与する言語生成および連想能力を測定するものであり、脳の言語処理機能の健全性を評価するのに役立ちます。
言語流暢性の低下は、認知症や脳卒中、精神疾患などの前頭葉機能障害と関連していることが多いです。

このテストを通じて得られる情報は、患者の言語能力の現状を把握し、適切な言語療法やリハビリテーションプランを策定するために重要です。

運動プログラミング

運動プログラミングのテストは、一連の動作を正確に実行する能力を評価します。
被験者には、特定の順序で動作を繰り返すように指示され、その正確さと一貫性が観察されます。
前頭葉はこのような運動の計画と実行を統合する役割を果たしており、損傷がある場合、動作のプログラミング能力が低下することがあります。
このテストは、運動制御や遂行機能の評価において重要な指標となり、特に脳卒中や頭部外傷後のリハビリテーションにおいて有用です。

運動プログラミング能力の評価結果は、具体的なリハビリテーション戦略の立案に役立ち、患者の機能回復を支援するための基盤となります。

干渉への感受性

干渉への感受性のテストは、複数の指示に対して適切に反応する能力を評価します。
被験者は、異なる指示が与えられる中で、適切な反応を選択し実行することが求められます。
これは、注意力や反応選択能力を測るためのものであり、前頭葉の遂行機能に深く関与しています。
前頭葉の損傷や機能低下は、この種の干渉に対する感受性を増大させ、適切な反応を選択する能力が低下することがあります。

このテストの結果は、患者の日常生活における適応能力や注意制御の状態を理解するために重要であり、治療や介入方法の決定に役立ちます。

抑制性制御

抑制性制御のテストは、不必要な反応や行動を抑制する能力を評価します。
被験者には、特定の条件下で反応を抑制するか実行するかを判断することが求められます。
前頭葉は衝動の制御や適切な行動選択を管理する重要な部位であり、障害がある場合、この抑制性制御能力が低下します。
このテストは、ADHDや行動障害、神経疾患などの患者において特に重要な評価項目となります。

抑制性制御の評価結果は、行動療法や薬物療法の適用を考える際に参考となり、患者の行動管理や適応行動の改善を図るための基盤となります。

理解行動

理解行動のテストは、環境に適応した行動を取る能力を評価します。
被験者が環境や状況に応じて適切な行動を選択し、実行することが求められます。
前頭葉はこの種の適応行動を統合する役割を果たしており、機能障害があると適応能力が低下することがあります。
このテストは、患者が日常生活や社会的状況にどの程度適応できるかを評価するために用いられます。

評価結果は、患者の生活の質を向上させるための具体的な介入方法や支援プランを設計する際に重要な情報を提供します。

もちろんこれらの症状は前頭葉機能の低下だけが原因ではないこともあるからね!
でもFABを行うことで、前頭葉の機能低下がこれらの症状の原因の一端を担っているのかどうか…を評価することができるんですね!

FABの検査項目について

FABは次の6つの下位課題で構成されています。
FABは次の6つの下位課題で構成されています。

  1. 概念化課題(類似性)
  2. 思考の柔軟性・知的柔軟性課題(語の流暢性)
  3. 運動系列課題(運動プログラミング)
  4. 葛藤指示(鑑賞刺激に対する過敏性)
  5. GO/NO-GO課題(抑制コントロール)
  6. 把握行動(環境に対する非影響性)

…以下にそれぞれ解説します。

1.概念化課題(類似性)

FABの概念化課題(類似性)
FAB(Frontal Assessment Battery)の概念化課題は、被験者に2つまたは3つの物事がどのように似ているかを答えさせることで、抽象的思考能力を評価します。
これは、前頭葉が担う高次認知機能の一部であり、物事の共通点を見つけ出す能力を測るものです。

例えば、「リンゴとオレンジの共通点は何か?」という質問に対して、両者が果物であることや食べられることを答えられるかを評価します。
この課題は、患者の概念形成能力や抽象的思考の柔軟性を把握するのに役立ち、前頭葉の機能障害がある場合に、この能力が低下することがよくあります。

評価結果は、患者の認知的柔軟性や問題解決能力を理解するための重要な手がかりとなり、リハビリテーションや治療計画の基礎情報となります。

このサブテストでは、被験者の抽象的思考能力と概念形成能力を評価するために設計されてるんだ!
物事の共通点を見出し、それを言語化する能力を測定する狙いがあるんですね!

2.思考の柔軟性・知的柔軟性課題(語の流暢性)

FABの思考の柔軟性・知的柔軟性課題(語の流暢性)
知的柔軟性課題では、被験者に特定の文字から始まる言葉をできるだけ多く挙げてもらうことで、言語の流暢性を評価します。
例えば、「かで始まる言葉を1分間でできるだけ多く挙げてください」といった形式の課題が出されます。
前頭葉は言語生成や連想能力に深く関与しており、この課題を通じて、その機能が正常に働いているかを評価します。
言語流暢性の低下は、認知症、脳卒中、精神疾患などの前頭葉機能障害に関連していることが多いです。

このテストの結果は、患者の言語能力の現状を把握し、適切な治療やリハビリテーションプランを策定するための重要な情報を提供します。

語の流暢性は、前頭側頭型認知症やパーキンソン病など、言語産出や思考の柔軟性に影響を及ぼす可能性のある状態の診断に役立つだろうね!
この課題は、患者さんが日常生活で直面するかもしれない実際の課題や困難を反映しているため、臨床的にも非常に重要ですよね!

3.運動系列課題(運動プログラミング)

FABの運動系列課題(運動プログラミング)
運動系列課題では、被験者に指定された手の動きを正確に行わせることで、運動プログラミング能力を評価します。
例えば、「グー、パー、チョキの連続動作を繰り返す」といった指示が与えられ、その通りに動作を実行する能力を測定します。
前頭葉は運動の計画と実行を統合する役割を果たしており、この能力が損なわれると動作の正確さや一貫性が失われます。
この課題は、運動制御や遂行機能の評価において重要な指標となり、特に脳卒中や頭部外傷後のリハビリテーションに有用です。

運動プログラミング能力の評価結果は、具体的なリハビリテーション戦略の立案に役立ち、患者の機能回復を支援するための基盤となります。

運動系列課題は、前頭葉の障害やその他の運動機能障害を示す神経系の条件、例えばパーキンソン病や脳卒中後の回復過程において、運動能力の損失を評価するのに特に有用といわれているね!
このテストを通じて、セラピストは運動プログラミングや実行の問題を特定して、適切な治療計画やリハビリテーションプログラムを立てることができますね!

4.葛藤指示課題(鑑賞刺激に対する過敏性)

FABの葛藤指示課題(鑑賞刺激に対する過敏性)
葛藤指示課題では、被験者に複数の指示に従って反応させることで、注意力と反応の選択能力を評価します。
被験者は異なる指示が与えられる中で適切な反応を選択し実行することが求められ、例えば、「1回タップしたら被験者は2回タップ、2回タップしたら被験者は1回タップする」といった課題が出されます。
前頭葉はこの種の注意制御と反応選択に関与しており、機能障害がある場合には適切な反応を選択する能力が低下します。
このテストは、患者の注意制御や適応能力を理解するために重要であり、特に前頭葉機能障害が疑われる場合に有用です。

評価結果は、治療や介入方法の決定に役立ち、患者の日常生活での適応能力を向上させるための具体的な介入策を提供します。

この課題は、注意欠如・多動症(ADHD)、前頭葉障害、パーキンソン病など、前頭葉の認知機能に影響を与える可能性のある様々な状態の患者さんにおいて、抑制制御の問題を識別するのに特に役立つんだ!
葛藤指示課題を通じて、セラピストは患者さんの認知機能の詳細な評価を行い、必要な治療や介入の計画を立てることができますね!

5.GO/NO-GO課題(抑制課題)

FABのGONO-GO課題(抑制課題)
GO/NO-GO課題は、被験者が指示に従って反応するか抑制するかを判断することで、抑制コントロールを評価します。
例えば、「1回タップしたら被験者は1回タップする、2回タップしたら被験者はタップしない」といった形式の課題が出されます。
前頭葉は衝動の制御や適切な行動選択を管理する重要な部位であり、障害がある場合、この抑制性制御能力が低下します。
この課題は、ADHDや行動障害、神経疾患などの患者において特に重要な評価項目となります。

抑制性制御の評価結果は、行動療法や薬物療法の適用を考える際に参考となり、患者の行動管理や適応行動の改善を図るための基盤となります。

GO/NO-GO課題の成績は、注意力、反応速度、そしてとりわけ抑制制御の能力に関する重要な情報を提供するんだ!
抑制制御の困難は、ADHDのような注意欠陥障害だけでなく、脳の損傷や疾患が原因で前頭葉機能が低下している場合にも見られることがありますね!

6.把握行動(環境に対する非影響性)

FABの把握行動(環境に対する非影響性)
把握行動のテストでは、被験者が環境に適応した行動を取る能力を評価します。
例えば、「握手しないでください」と指示したうえで被験者の手に触れたときの反応を観察します。
前頭葉は環境への適応行動を統合する役割を果たしており、機能障害があると適応能力が低下します。
このテストは、患者が日常生活や社会的状況にどの程度適応できるかを評価するために用いられます。

評価結果は、患者の生活の質を向上させるための具体的な介入方法や支援プランを設計する際に重要な情報を提供します。

特に前頭側頭型認知症やパーキンソン病など、実行機能の障害が見られる状態でこのような把握行動が観察されることがあるだろうね!
把握行動の評価は、これらの疾患の診断や、前頭葉の損傷の程度を理解する上で重要な指標となりますね!

FABの合計点数について

FABの合計点数について
FAB(Frontal Assessment Battery:前頭葉機能検査)は、合計で18点満点の検査です。
各サブテストは3点満点で、6つのサブテストを合計した点数が患者の前頭葉機能を示します。

FABの点数は、患者の前頭葉機能のスクリーニングに有用な情報を提供しますが、他の検査結果や症状と照らし合わせて総合的に評価する必要があるんだ!
また、点数だけでなく、患者の反応の質や行動の特徴も重要な情報源となりますね!

FABの平均値について

FABの平均値について
FAB(Frontal Assessment Battery:前頭葉機能検査)の平均値は、健常者や特定の疾患を持つ患者群によって異なります。
一般的に健常な成人の場合、FABの平均値は高い傾向にありますが、具体的な数値は研究や評価する集団によって変わる可能性があります。

研究によると、特定の疾患を持つ患者群では以下のような平均値が報告されています2)

  • くも膜下出血:13.3±4.1点
  • 脳出血:11.7±6.5点
  • 脳梗塞:10.5±4.1点
  • 脳腫瘍:9±2.8点

くも膜下出血

くも膜下出血患者におけるFAB(Frontal Assessment Battery:前頭葉機能検査)の平均値は13.3±4.1点と報告されています。
くも膜下出血は、脳の表面を覆うくも膜下腔に出血が起こる病態であり、通常は動脈瘤の破裂が原因です。
出血によって脳の圧迫や血流の障害が生じ、前頭葉機能に影響を与えることがあります。
このため、FABを用いた評価においては、遂行機能や注意、抑制コントロールなどの前頭葉機能が低下していることが示されることがあります。
13.3±4.1点という平均値は、健常者に比べて低いスコアを示しており、くも膜下出血による前頭葉機能障害の程度を反映しています。

この評価結果は、リハビリテーション計画の立案や患者の治療方針を決定する際に重要な情報を提供します。

脳出血

脳出血患者のFAB平均値は11.7±6.5点と報告されており、これは出血が脳の内部で発生し、脳組織に直接ダメージを与える結果、前頭葉機能が影響を受けることを示しています。
脳出血は、高血圧や血管の異常などが原因で発生し、脳のさまざまな部分に出血を引き起こすことがあります。
前頭葉が損傷されると、遂行機能や注意、言語能力などに障害が生じることが一般的です。
この11.7±6.5点という平均値は、健常者に比べて顕著に低く、脳出血の重症度や損傷の範囲を反映しています。

FABの評価結果を基に、個別のリハビリテーションプランを立案し、患者の機能回復を支援することが可能です。
また、評価を通じて、治療の進行状況をモニタリングし、必要に応じて介入方法を調整することも重要です。

脳梗塞

脳梗塞患者におけるFABの平均値は10.5±4.1点とされており、これは脳の特定の領域への血流が遮断されることによって生じる機能障害を示しています。
脳梗塞は、動脈が閉塞することで脳組織が酸素不足に陥り、損傷を受ける病態です。
前頭葉が影響を受けると、遂行機能、注意、抑制制御などが低下し、患者の日常生活に支障をきたすことが多いです。
この10.5±4.1点というスコアは、健常者と比較して明らかに低く、前頭葉機能の低下の程度を示しています。
FABの評価結果は、脳梗塞後のリハビリテーション計画を策定するための重要なデータを提供し、患者の機能回復を促進するための基盤となります。

また、評価を通じて、治療効果をモニタリングし、リハビリテーションの進捗を追跡することが可能です。

脳腫瘍

脳腫瘍患者のFAB平均値は9±2.8点と報告されており、これは腫瘍が脳組織に直接的な圧迫や浸潤を引き起こす結果、前頭葉機能に影響を与えることを示しています。
脳腫瘍は良性・悪性を問わず、脳のさまざまな部位に発生し、特に前頭葉に影響を及ぼす場合、遂行機能や認知能力、行動の抑制などに重大な障害を引き起こします。
9±2.8点という平均値は、前述の他の疾患に比べても特に低く、腫瘍の影響が前頭葉機能に深刻な影響を与えていることを反映しています。
この評価結果は、治療方針やリハビリテーション計画を決定する際に重要な情報を提供し、腫瘍による認知機能障害の管理に役立ちます。

また、評価を通じて、治療の効果や病状の進行をモニタリングすることが重要です。

これらの数値は、18点満点中の平均点数を示しており、前頭葉機能障害の程度を反映しているんだ!
ただし、これらの数値はあくまで参考であり、個々の患者の状態や背景に応じて評価が必要ですね!

FABのカットオフ値について

FABの平均値とカットオフ値について
FAB(Frontal Assessment Battery:前頭葉機能検査)のカットオフ値は、一般的には12/11点に設定されています3)
このカットオフ値は、前頭葉機能障害のスクリーニングにおいて、潜在的な障害の有無を判断するための基準点として使用されます。

FABの合計得点がこのカットオフ値以下である場合、前頭葉機能障害の可能性が高いと考えられます。

ただし、FABの得点がカットオフ値以下であったとしても、それだけで前頭葉機能障害があると断定することはできないんだ!
他の臨床的な評価や検査結果と照らし合わせて、総合的な判断が必要ですね!

FABの結果解釈について

FABの点数が年齢平均以下であったり、カットオフ値を下回る結果になったからといって、「そのクライアントの前頭葉機能に障害がある!」と短絡的に解釈してはいけません。
FABの点数結果のみに捉われず…

  • 知能や記憶といった他の認知機能
  • 運動機能
  • 注意、集中といった能力
  • 総合的な解釈の重要性
  • 他の評価方法の併用

…などの評価結果も踏まえた上で解釈していく必要があります。
これらについてもそれぞれ解説します。

知能や記憶といった他の認知機能

FAB(Frontal Assessment Battery)の点数が年齢平均以下であったり、カットオフ値を下回る結果となった場合でも、その結果だけで前頭葉機能に障害があると断定するのは適切ではありません。
知能や記憶といった他の認知機能の評価も考慮することが重要です。
例えば、患者が全体的に知能が低い場合や記憶力が低下している場合、FABの点数が低くなることが考えられます。
これらの認知機能が低下している背景には、前頭葉機能以外の要因が関与している可能性があります。
そのため、包括的な認知機能の評価を行い、複数の視点から患者の状態を総合的に判断することが必要です。

運動機能

FABの点数が低い場合、運動機能の評価も同時に行うことが重要です。
前頭葉機能には運動の計画と実行を統合する役割が含まれており、運動機能の低下がFABの結果に影響を与えることがあります。
例えば、被験者が指示された動作を正確に行えない場合、その原因が前頭葉機能障害ではなく、運動機能そのものの問題である可能性があります。
筋力の低下や運動の協調性の欠如などが影響している場合、FABの点数が低くなることがあります。
したがって、運動機能の詳細な評価を行い、その結果を踏まえてFABの点数を解釈することが不可欠です。

注意、集中といった能力

注意力や集中力もFABの評価結果に大きな影響を与える要因です。
前頭葉機能の評価では、被験者が注意深く指示を理解し、適切に反応することが求められます。
もし被験者が注意力や集中力に欠けている場合、FABの点数が低くなる可能性があります。
このような場合、注意欠陥多動性障害(ADHD)や他の注意力に関連する問題が原因であることも考えられます。
そのため、FABの点数が低い場合には、注意力や集中力の評価を行い、それらの結果を総合的に考慮する必要があります。
注意力や集中力の問題が前頭葉機能の評価にどのように影響しているかを理解することで、より正確な診断と適切な治療方針の立案が可能となります。

総合的な解釈の重要性

FABの点数は、前頭葉機能を評価するための重要な指標であるものの、他の認知機能、運動機能、注意力や集中力といった多面的な評価結果を踏まえて総合的に解釈することが求められます。
単一のテスト結果に基づいて短絡的に結論を出すことは避けるべきです。患者の全体像を把握するためには、包括的な評価と多角的なアプローチが必要です。
こうした総合的な評価に基づいて、個々の患者に最適なリハビリテーションプランや治療方針を策定することができます。
これにより、患者の機能回復や生活の質向上を効果的に支援することが可能となります。

他の評価方法の併用

FABの点数だけでなく、他の評価方法を併用することも重要です。
例えば、知能検査や記憶力テスト、運動機能の詳細な評価、注意力や集中力の測定など、複数の評価ツールを用いることで、患者の状態をより正確に把握することができます。
これにより、前頭葉機能障害の有無やその程度をより精確に判断することができます。
複数の評価結果を統合して分析することで、より包括的な理解が得られ、患者にとって最適な介入方法を選択することが可能となります。

このような多面的な評価アプローチが、患者の全体的な健康と福祉を支援するための鍵となります。

FABの点数が年齢平均以下であったり、カットオフ値を下回る結果になったとしても、他の認知機能、運動機能、注意力や集中力の評価結果を踏まえて総合的に解釈することが重要なんだ!
単一のテスト結果に基づいて前頭葉機能障害を断定せず、患者の全体像を把握するために多角的な評価を行う必要がありますね!

FABのメリット・デメリット

FABのメリット・デメリット
前頭葉機能を評価する“FAB”ですが、使用するにあたってのメリット、デメリットとはどのようなものになるのでしょうか?

メリット

まずメリットとしては…

  • 短時間で実施可能
  • 特別な道具が不要
  • 広範な評価が可能
  • 多くの疾患での適用

…があげられます。
それぞれ解説します。

短時間で実施可能

FAB(Frontal Assessment Battery:前頭葉機能検査)の大きなメリットの一つは、約10分程度で完了するため、忙しい臨床現場でも容易に実施できる点です。
多くの神経心理学的検査は時間がかかることが多いですが、FABはその迅速さゆえに、患者に過度な負担をかけずに前頭葉機能を評価することができます。
この短時間での評価は、特に急性期の患者や高齢者、集中力や体力が限られている患者にとって重要です。
迅速な評価が可能であるため、複数の患者に対して連続して検査を実施することも容易であり、効率的な患者管理が可能となります。

また、診断から治療計画の立案までのプロセスを迅速に進めることができ、患者の早期回復を支援します。

特別な道具が不要

FABは特別な機材や道具を必要としないため、ベッドサイドで簡単に実施できるという利点があります。
多くの神経心理学的検査では専用の器具やテストキットが必要ですが、FABはシンプルな指示と口頭でのやり取りだけで実施できるため、どのような環境でも柔軟に対応できます。
この特性により、リソースが限られた施設や、迅速な評価が求められるフィールドでの使用にも適しています。
用具を使用しないことで、検査の準備や後片付けに時間を取られることがなく、医療従事者の負担も軽減されます。

このシンプルさと利便性が、FABを広範な臨床現場で利用しやすくしているのです。

広範な評価が可能

FABは前頭葉機能の多面的な評価が可能で、遂行機能障害のスクリーニングに非常に有用です。
6つのサブテスト(概念化課題、知的柔軟性課題、運動系列課題、葛藤指示課題、GO/NO-GO課題、把握行動)を通じて、前頭葉が担う様々な高次脳機能を評価します。
これにより、抽象的思考、言語の流暢性、運動プログラミング、注意制御、抑制コントロール、環境適応など、多岐にわたる認知機能を包括的に把握することができます。

この広範な評価能力により、FABは前頭葉機能障害の有無やその程度を正確に評価し、リハビリテーションや治療計画の立案に役立つ重要な情報を提供します。

多くの疾患での適用

FABは、脳卒中、パーキンソン病、認知症など、多様な疾患において前頭葉機能の評価に利用されます。
これらの疾患は、いずれも前頭葉に影響を与えやすく、遂行機能や認知能力に障害をもたらすことが多いため、FABを用いた評価が非常に重要です。
例えば、脳卒中患者では出血や梗塞による前頭葉の損傷を早期に発見し、リハビリテーションの方向性を決定するのに役立ちます。
パーキンソン病患者では、運動機能だけでなく認知機能の低下も評価し、適切な治療や介入を行うための基盤を提供します。

認知症患者においては、疾患の進行状況をモニタリングし、生活の質を向上させるための具体的な介入方法を設計する際に有用です。

FABは約10分程度で実施でき、特別な機材を必要としないため、忙しい臨床現場でも容易に実施可能なんだ!
また、前頭葉機能の多面的な評価ができ、脳卒中やパーキンソン病、認知症など多くの疾患に対して有用なんですね!

デメリット

一方、FABのデメリットとしては…

  • 標準化された基準値の不足
  • 包括的な評価には限界がある
  • 文化的・言語的適応の問題
  • 総合的な評価の必要性
  • 信頼性と一貫性の向上

…があげられます。

標準化された基準値の不足

FAB(Frontal Assessment Battery)のデメリットの一つは、得点に関する標準化された基準値が確立されていないため、解釈にある程度の主観が入る可能性がある点です。
FABは臨床現場で広く使用されていますが、評価結果を客観的に判断するための基準値が明確ではないことが課題となっています。
これにより、同じ得点でも評価者によって解釈が異なる場合があり、一貫性のない診断結果を招く可能性があります。
例えば、同じ得点を示す患者でも、評価者の経験や知識により異なる解釈がなされることがあるため、結果の信頼性が低下するリスクがあります。

標準化された基準値の確立は、FABの評価結果の客観性と信頼性を向上させるために不可欠です。

包括的な評価には限界がある

FABは前頭葉機能のスクリーニングツールとして有用ですが、包括的な評価には限界があります。
具体的には、FABは短時間で簡便に実施できることを目的として設計されているため、詳細な前頭葉機能の評価には他の検査との組み合わせが必要です。
例えば、FABでは評価できない微細な遂行機能や感情の制御、社会的行動などを評価するためには、より専門的な検査やインタビューが必要となります。
この限界を補うために、臨床現場ではFABの結果を他の神経心理学的検査と組み合わせて使用することが推奨されます。

包括的な評価を行うことで、患者の前頭葉機能障害の全体像をより正確に把握し、適切な治療計画を立てることが可能となります。

文化的・言語的適応の問題

FABのデメリットとして、異なる文化や言語背景を持つ人々に対して、項目が適切に適応されているかが問題となることがあります。
FABの項目は、特定の文化や言語に基づいて設計されているため、異文化圏での使用に際しては、文化的・言語的適応が必要です。
例えば、言語流暢性のテストでは、特定の文字から始まる単語を多く挙げる課題がありますが、言語の構造や使用頻度が異なる場合、公平な評価が難しくなることがあります。
また、文化的な価値観や行動様式の違いが、概念化課題や葛藤指示課題の結果に影響を与えることも考えられます。

このような文化的・言語的適応の問題を解決するためには、各地域や言語に適した標準化が求められます。

総合的な評価の必要性

FABは前頭葉機能のスクリーニングに有用なツールである一方、その結果を総合的に解釈するためには、他の評価手段と組み合わせて使用することが重要です。
FABの得点が示す結果だけで前頭葉機能障害を断定することは避け、患者の全体的な認知機能や生活状況を考慮する必要があります。
例えば、知能検査や記憶力テスト、運動機能の詳細な評価、注意力や集中力の測定など、複数の評価を統合して患者の状態を総合的に判断することが求められます。
これにより、前頭葉機能の評価においてより精確な診断と効果的な治療計画の立案が可能となります。

総合的な評価アプローチは、患者の全体的な健康と福祉を支援するために不可欠です。

信頼性と一貫性の向上

FABのデメリットを補うためには、信頼性と一貫性の向上が必要です。標準化された基準値の確立や文化的・言語的適応の問題を解決するために、さらなる研究とデータの蓄積が求められます。
臨床現場での使用においても、評価者が適切なトレーニングを受け、一貫した評価方法を使用することが重要です。
これにより、FABの結果がより客観的で信頼性の高いものとなり、患者に対する評価と治療が一貫性を持って行われるようになります。
継続的な改良と研究により、FABはより効果的な前頭葉機能評価ツールとして進化し続けることが期待されます。

FABは前頭葉機能障害の有無を迅速にスクリーニングする有効なツールだけど、その結果は他の臨床的評価や検査結果と照らし合わせて総合的に解釈する必要があるんだ!
また、FABの結果を用いて個々の患者の治療計画やリハビリテーションの方向性を決定する際には、慎重な判断が求められますね!

FABと失語症について

FABと失語症について
FABの検査項目のほとんどは…

  • 言語性課題を含む検査方法であること
  • 制限時間内に語を想起させる課題があること

…が特徴としてあげられます。
つまり、その点数結果によって被験者の失語症の有無の検出に有効ともいわれています。

むしろ失語症の影響により教示内容が理解できない…という場合もあり得ます。
前述したようにFABの点数だけで判断せず、“SLTA”といった失語症に特化した検査を行い総合的に判断することが重要ですね。

FABを精神科で使用する際のポイント

FABを精神科で使用する際のポイント
FABは“前頭前野機能”や“遂行機能障害”をターゲットにした検査方法ですので、統合失調症やうつ病、ADHDのクライアントの前頭葉の機能検査にも有効とされています。

ALSに対してのFAB

ALSに対してのFAB
筋委縮性側索硬化症(ALS)のクライアントによるFABの点数は健常者に比べると優位に低下していたとの報告があります。
このことから、ALSには前頭葉機能障害が存在することが示唆されています。

下位項目では特に“類似性の理解”と“語の流暢性”の低下が著明にみられるとの報告もあります。
このようなことからも、ALSのクライアントに対する認知機能の評価としてFABを行うことは有意義であることがわかります。

ただしALSに対してFABを行う場合は、症状の進行による運動障害や呼吸障害が検査結果に影響する可能性があるため注意が必要です。

参考:筋萎縮性側索硬化症における Frontal Assessment Battery による

FABと他の検査との相関性

FABと他の検査との相関性
FABの得点はMMSE、Clinical Dementia Raiting(CDR)、記憶検査の結果との正の相関を有しています。
FABとMMSE、CDRとの正の相関性をみると、FABの得点は知能や記憶などの認知機能全般を反映していると考えられます。

つまりこのことから、“Frontal”ではなく、“Cognitive(認知力の)”Assessment Batteryと捉えるべきではないか?との意見もあるようです。

FABの保険点数・診療報酬について

FABの保険点数・診療報酬について
現時点(平成30年)の時点ではFABはまだ診療報酬、保険点数の対象となっていません。
あくまでもリハビリテーション、作業療法の枠組み内での検査…という扱いになります。

FABはまだ発展途上?

広く使われている一方、FABの検査結果はまだ標準化されていません。
そのため、点数の基準値がはっきりしていないのが現状のようです。
広く使われている一方、FABの検査結果はまだ標準化されていません。

そのため、点数の基準値がはっきりしていないのが現状のようです。

FABとBADSも遂行機能(実行機能)の検査方法

FABは前頭葉機能の検査でも、あくまで簡便な検査方法(スクリーニング)として使用されます。
被験者の遂行機能を詳細に検査する方法としては“Behavioural Assessment of the Dysexecutive Syndrome(BADS)”があげられます。

この2つの検査の使い分けですが…

  • 1.FABでスクリーニング的に前頭葉機能を検査する
  • 2.その後必要に応じてBADSによる検査を行う

…という流れが、被験者にも過度な負担を与えずに済む方法になるかと思います。

FABとBADSの両方を上手に臨床で使うことが求められるだろうね!
だからこそ複数の検査を行い包括的に扱う必要があるでしょうね!

参考

関連文献

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