“TMT(トレイルメイキングテスト)”は高次脳機能障害である視覚的注意や視覚運動協調性に対して使われる検査の一つです。
臨床や現場で非常によく使用される検査ですが、方法は知っていても、どう解釈したらよいのか?…なんて作業療法士が多いようです。
そこで本記事では、TMTの目的や方法、カットオフ値などについて解説します。
TMT(トレイルメイキングテスト)とは?
TMT(トレイルメイキングテスト)は、高次脳機能障害の評価に広く用いられる神経心理学的検査で、注意機能や認知機能を多角的に測定します。
特に、注意の維持や視覚的探索能力、処理速度、そして遂行機能の評価に適しており、これらの機能の低下が疑われる場合に有用です。
このテストは、被験者が数字やアルファベットを順番に結びつける課題を行う形式で進行し、TMT-A(数字を順番に結ぶ)とTMT-B(数字とアルファベットを交互に結ぶ)の二段階構成です。
テストBでは課題が複雑化するため、注意の転換や認知的柔軟性を評価することが可能です。
結果は実施時間やエラー率を基に評価され、個々の認知機能の状態を的確に把握するためのデータとして活用されます。
TMT検査の開発背景
TMT(トレイルメイキングテスト)の開発背景についてですが、ここでは…
- 1944年の開発
- 開発者
- 当初の評価対象
- 1946年の展開
- その後の発展
- 現在の使用目的
…というトピックスにおいてそれぞれ解説します。
1944年の開発
TMTは、1944年にアメリカ陸軍が「Army Individual Test Battery」の一部として開発しました。
当初の目的は、兵士の一般的な知能を評価し、軍務への適性を判断することでした。
このテストは、単純な注意力だけでなく、複雑な認知能力を測定するために設計されました。
視覚的な注意や処理速度を測定する要素が組み込まれ、軍事訓練や配置の判断に利用されました。
この時点でのTMTは、主に兵士の効率性と適応力を評価する実用的なツールとして位置付けられていました。
開発者
TMTは、アメリカの神経心理学者ラルフ・ライテンによって考案されました。
ライテンは、臨床神経心理学の基礎を築いた研究者の一人として知られ、TMTの設計を通じて視覚的注意や遂行機能の評価方法を確立しました。
彼の研究は、心理学的評価の分野において革新的なものであり、今日の神経心理学的検査の発展に大きく寄与しています。
TMTの開発は、当時の心理学的評価手法を超え、神経心理学に新たな視点をもたらしました。
ライテンの貢献は、認知障害の評価において現在も高く評価されています。
当初の評価対象
当初、TMTは視覚的注意の維持能力を評価するために設計されました。
このテストは、被験者が視覚情報を迅速かつ正確に処理する能力を測定することで、注意機能の基礎的な要素を評価するものです。
また、「タスクスイッチング」の能力、つまり異なる課題間で注意を転換する能力を基に兵士の知能を測定する意図がありました。
この設計により、TMTは単純な知能検査ではなく、認知機能の多面的な評価ツールとしての特性を持つことになりました。
特に軍事環境で求められる迅速な意思決定能力の評価に役立てられました。
1946年の展開
1946年、臨床心理学者スチュワート・G・アーミテージが、TMTを第二次世界大戦中に負傷した兵士の脳損傷評価に使用することを提案しました。
この提案により、TMTは臨床的な利用が拡大し、軍事用ツールから医療用ツールへの転換点となりました。
脳損傷患者の注意機能や遂行機能の評価において、その有効性が確認されました。
この発展により、TMTは認知障害の評価における標準的な検査ツールとして確立されていきました。
また、TMTの臨床利用は、その後の神経心理学的評価手法の基礎となりました。
その後の発展
TMTは、より包括的な神経心理学的評価ツールである「ハルステッド・レイタン神経心理学的検査バッテリー(HRNB)」に組み込まれることでさらに発展しました。
この組み込みにより、TMTは単独で使用されるだけでなく、他の検査と組み合わせて総合的な脳機能評価を行うための重要な要素となりました。
HRNB内での役割は、前頭葉機能や遂行機能の評価に特化しており、臨床神経心理学の分野で広く受け入れられるようになりました。
この発展により、TMTはより多様な患者の評価に適用されるようになり、認知機能の包括的な分析が可能となりました。
現在の使用目的
現在、TMTは前頭葉を含む多くの脳機能障害の特定と診断のために広く使用されています。
特に、高次脳機能障害、認知症(アルツハイマー病など)、脳損傷後のリハビリテーションの評価において重要なツールとなっています。
このテストは、認知機能全般を評価する能力から、医療現場や研究で欠かせない存在として位置付けられています。
また、TMTの結果は、治療方針や支援プランの策定に活用され、患者のQOL(生活の質)向上に寄与しています。
開発当初の目的を超え、現代の神経心理学において不可欠な存在となっています。
TMTの目的について
TMTは、注意機能や認知機能を評価するための神経心理学的検査です。
様々な目的で実施されます。
主なものとしては…
- 注意機能の評価
- 持続性注意の評価
- 選択性注意の評価
- 配分性注意の評価
- 遂行機能の評価
- ワーキングメモリの評価
- 視覚的探索機能の評価
- 視覚運動協調性の評価
- 精神的な柔軟性の評価
- タスクの切り替え能力の評価
- 処理速度の評価
- 認知機能障害のスクリーニング
- 高次脳機能障害の評価
- 認知症(特にアルツハイマー病)の評価
- 自動車運転能力の評価
- 高齢者の転倒リスクの評価
…があげられます。
それぞれ解説します。
注意機能の評価
TMTは、注意機能を多角的に評価するために設計されています。
被験者が課題中に必要な情報を正確に処理し続ける能力を測ることで、集中力や注意の安定性を判断します。
この評価は、日常生活や作業中における注意散漫のリスクを理解するために役立ちます。
また、テストAでは単純な注意を、テストBでは注意の切り替えを含む複雑な能力を評価します。
これにより、注意機能全般の状態を包括的に把握することが可能です。
持続性注意の評価
持続性注意とは、長時間にわたって集中力を維持する能力を指します。
TMTでは、被験者が課題を途切れることなく行えるかどうかが評価の対象となります。
この能力は、特に慢性疲労や注意障害を抱える人々において重要視されます。
テスト中の集中力の低下やミスの頻度から、持続的注意の問題があるかどうかを判別可能です。
日常生活での長時間の作業や学習に必要な能力を測る指標となります。
選択性注意の評価
選択性注意とは、多数の情報の中から必要なものだけを選び出す能力です。
TMTでは、適切な数字やアルファベットを探して順番通りに結ぶという課題を通じて、この能力を評価します。
この評価は、不要な情報に惑わされず、重要な情報に集中する力を測ることが目的です。
選択性注意の低下は、情報処理が複雑な環境での作業効率の低下を引き起こす可能性があります。
特に、認知機能が低下している高齢者や脳障害患者で有用な指標です。
配分性注意の評価
配分性注意は、複数の課題や情報に同時に注意を向ける能力を指します。
TMTのB部分では、数字とアルファベットを交互に結ぶという課題を通じて、被験者が注意を効率的に配分できるかを測定します。
この能力は、マルチタスクが求められる作業環境や日常生活において重要です。
配分性注意が低下すると、効率の悪化や作業の遅れが生じる可能性があります。
特に遂行機能障害の評価やリハビリ計画の策定に役立ちます。
遂行機能の評価
遂行機能は、目標設定、計画、問題解決、そして目標達成のための行動の実行に関連する能力を指します。
TMTの課題では、順序を守りつつ目標を達成するプロセスを観察することで、遂行機能の状態を評価します。
この評価は、脳の前頭葉の機能と密接に関連しており、前頭葉損傷を伴う患者における重要な指標となります。
遂行機能の低下は、日常生活や職場でのタスク管理能力に悪影響を及ぼす可能性があります。
このため、リハビリテーションや支援計画において重要なデータを提供します。
ワーキングメモリの評価
ワーキングメモリは、情報を一時的に保持しながら操作する能力を指します。
TMTの課題では、数字やアルファベットの順序を記憶し、それを結ぶ動作を通じてワーキングメモリの働きを評価します。
この能力は、課題遂行中に情報をリアルタイムで利用するために重要であり、特に認知的な柔軟性や計画力とも密接に関係しています。
ワーキングメモリの低下は、情報の保持や操作が必要な場面で困難を引き起こす可能性があります。
この評価は、認知機能障害や注意欠陥の診断に有用です。
視覚的探索機能の評価
視覚的探索機能は、視野内の特定の対象を迅速かつ正確に見つける能力を指します。
TMTでは、被験者が数字やアルファベットを順序通りに探し出す過程でこの機能が評価されます。
この能力は、環境内での目標物の発見や、視覚的情報を基にした意思決定に不可欠です。
視覚的探索機能の低下は、特に高齢者や脳損傷患者で日常生活の自立に影響を及ぼすことがあります。
テスト結果を基に、視覚的探索のトレーニングや支援の必要性を判断できます。
視覚運動協調性の評価
視覚運動協調性とは、視覚情報を基に手や指の動きを正確に制御する能力を指します。
TMTでは、数字やアルファベットを正確に結ぶ動作を通じて、この能力を測定します。
この評価は、視覚と運動の統合に問題がある場合の診断に役立ちます。
視覚運動協調性の低下は、細かな作業や道具の操作に困難を伴う可能性があります。
結果は、リハビリや作業療法の方針決定において重要な指標となります。
精神的な柔軟性の評価
精神的な柔軟性は、変化する状況に適応し、新しいルールや要求に素早く対応する能力を指します。
TMTのB部分では、数字とアルファベットを交互に結ぶ課題を通じて、この能力が評価されます。
このテストは、適応力や思考の切り替えに問題を抱える患者の診断に有用です。
精神的な柔軟性が低下している場合、日常生活や職場での予期せぬ事態への対応が難しくなる可能性があります。
この評価は、前頭葉機能の障害や遂行機能障害の診断に特に重要です。
タスクの切り替え能力の評価
タスクの切り替え能力は、ある課題から別の課題に迅速かつ効率的に移行する能力を指します。
TMTのB部分では、異なるカテゴリー(数字とアルファベット)を切り替える動作が求められるため、この能力を評価することができます。
この能力は、マルチタスクが必要な場面で特に重要です。
タスク切り替え能力が低下している場合、仕事や日常生活での効率低下やストレスの増加につながる可能性があります。
評価結果は、遂行機能の障害の診断や治療計画に役立てられます。
処理速度の評価
処理速度は、情報を認識し、理解し、それに基づいて素早く反応する能力を指します。
TMTでは、課題を完了するまでにかかる時間が、被験者の処理速度を示します。
処理速度が遅い場合、学習や仕事の効率が低下し、複雑な環境での適応が難しくなる可能性があります。
この評価は、認知機能障害や加齢による認知低下の早期発見に有効です。
結果は、処理速度の改善を目指したトレーニングプログラムを設計する際の基礎情報となります。
認知機能障害のスクリーニング
TMTは、認知機能障害の初期スクリーニングツールとして有用です。
注意機能、遂行機能、処理速度など、複数の認知領域を簡便に評価できるため、認知機能低下の有無を迅速に判断できます。
このスクリーニングは、特に高齢者や脳損傷患者における認知機能の低下を早期に発見する目的で活用されます。
結果は、詳細な検査や治療計画の必要性を判断する指標となります。
また、認知機能障害の重症度を評価するための基礎データとしても利用されます。
高次脳機能障害の評価
高次脳機能障害とは、脳損傷や疾患により認知や行動に影響を及ぼす障害を指します。
TMTでは、注意機能や遂行機能など、高次脳機能の中核を担う領域を評価することで、障害の程度や特徴を明らかにします。
この評価は、障害の特定やリハビリ計画の立案において重要な役割を果たします。
特に、患者の日常生活への影響を予測し、適切な支援を提供するために不可欠です。
評価結果は、医療や介護の現場でのアプローチを検討する際の指標となります。
認知症(特にアルツハイマー病)の評価
TMTは、認知症、特にアルツハイマー病の診断や評価に活用されます。
このテストでは、注意機能や遂行機能、処理速度の低下が認知症の特徴として明確に現れるため、診断の補助として有効です。
特に、TMTのB部分は、認知症初期に見られる注意の転換や遂行機能の障害を敏感に捉えることができます。
評価結果は、認知症の進行状況や治療効果をモニタリングするための基礎データとなります。
また、介護やリハビリ計画の策定にも役立ちます。
自動車運転能力の評価
TMTは、自動車運転能力の評価においても利用されます。
運転には注意機能、タスク切り替え能力、視覚的探索機能が必要とされるため、TMTの結果が運転能力の指標となります。
特に、高齢ドライバーや脳損傷後の患者において、運転の安全性を評価する際に役立ちます。
評価結果は、運転再開の可否や必要なサポート内容を判断するためのデータとして活用されます。
また、事故リスクを低減するための対策を検討する材料ともなります。
高齢者の転倒リスクの評価
TMTは、高齢者の転倒リスクの評価にも応用されます。
注意機能や視覚運動協調性の低下は、転倒のリスクを増加させる要因となります。
TMTの結果を基に、高齢者のバランス感覚や反応速度の問題を明らかにすることができます。
この評価は、転倒予防プログラムやリハビリ計画を立てる際に重要な役割を果たします。
評価を通じて、転倒によるケガのリスクを減らすための具体的な対策を講じることが可能です。
TMTの対象疾患
TMT検査の対象としては以下のような疾患、ケースがあげられます。
- 高次脳機能障害
- 軽度認知障害(MCI)
- 認知症
- 前頭前野損傷
- 外傷性脳損傷(TBI)
- アルツハイマー病
- 脳血管障害
それぞれ解説します。
高次脳機能障害
TMT(トレイルメイキングテスト)は、高次脳機能障害の評価に広く使用されています。
外傷性脳損傷(TBI)により発生する高次脳機能障害は、注意機能、遂行機能、ワーキングメモリ、視覚的探索機能など、複数の認知領域に影響を及ぼします。
TMTは、これらの機能を評価するために設計されており、特に注意機能と遂行機能の評価に優れています。
例えば、TBI患者はTMT-Bでのタスクスイッチングに苦労することが多く、これにより前頭葉機能の障害を示すことができます。
高次脳機能障害の評価は、リハビリテーションプログラムの設計や効果的な治療計画の立案に不可欠です。
軽度認知障害(MCI)
TMTは、軽度認知障害(MCI)の評価にも有用です。
MCIは、日常生活には大きな影響を及ぼさないものの、正常な老化と認知症の中間に位置する状態で、早期発見が重要です。
TMTは、特に注意機能と遂行機能の評価においてMCIを検出するのに役立ちます。
例えば、MCI患者は通常、TMT-Bでのパフォーマンスが低下し、タスクスイッチングや視覚的探索に時間がかかる傾向があります。
このような評価結果は、早期介入や予防策の計画に役立ち、認知症への進行を遅らせるための適切な対策を講じるための基礎を提供します。
認知症
認知症の評価にもTMTは広く使用されており、アルツハイマー病などの診断に役立ちます。
認知症患者は、TMT-Bにおいて特に困難を示し、数字と平仮名を交互に結ぶタスクでの遂行時間が著しく長くなります。
TMTは、注意機能、遂行機能、視覚的探索機能など、認知機能全般の低下を示すため、認知症の程度を評価する上で重要です。
例えば、アルツハイマー病患者はTMT-Bで多くのエラーを犯し、指示に従うのが難しくなることが多いです。
このテストの結果は、診断確定後の治療計画や生活支援の策定に役立ちます。
前頭前野損傷
前頭前野の損傷は、遂行機能障害を引き起こし、TMTはその評価に特に有効です。
前頭前野は、計画、組織、問題解決、タスクスイッチングなどの高次の認知機能を担当しています。
TMT-Bは、特に前頭前野の機能を評価する上で重要で、患者は数字と平仮名を交互に結ぶ課題で困難を示します。
例えば、前頭前野損傷患者は、計画性の欠如やエラーの修正が困難になるため、TMT-Bのパフォーマンスが著しく低下します。
この評価は、特にリハビリテーションの目標設定や治療方針の決定に重要な情報を提供します。
外傷性脳損傷(TBI)
外傷性脳損傷(TBI)患者において、TMTは注意機能や遂行機能の障害を評価するために利用されます。
TBIでは、視覚的探索能力やタスク切り替え能力が損なわれることが一般的であり、TMTはこれらの障害を明らかにします。
特にTMT-Bでは、損傷の重症度やリハビリの効果を測定するための有力な指標となります。
検査結果は、治療目標の設定や日常生活での支援策の計画に活用されます。
また、TBIの影響が長期的にどのように変化するかを追跡する際にも役立ちます。
アルツハイマー病
アルツハイマー病の患者では、注意の維持や遂行機能、認知の柔軟性が著しく低下するため、TMTはその評価に適しています。
このテストでは、アルツハイマー病の初期段階で見られる注意の転換能力や視覚的探索能力の障害を敏感に捉えることができます。
TMTの結果は、病気の進行度を評価し、治療の効果をモニタリングする際の重要な指標となります。
また、患者の生活の質を向上させるための介入計画を立てる際にも活用されます。
この検査を通じて、早期診断と適切な対応が可能になります。
脳血管障害
脳血管障害は、脳卒中や一過性脳虚血発作(TIA)などを含む疾患で、注意機能や遂行機能に影響を及ぼします。
TMTは、脳血管障害患者の認知機能の評価において重要なツールです。
特に、損傷の部位や範囲に応じた認知機能の低下を定量的に評価することができます。
TMT-Bの結果は、注意の切り替え能力や認知の柔軟性の低下を検出する上で有用です
TMTの適応年齢
TMT(トレイルメイキングテスト)は、適応年齢が一般的に20歳から89歳までとされていますが、これはあくまで標準的な範囲であり、個々の被験者の認知機能や身体的状態によって適応年齢が変わることがあります。
例えば、若年層でも特定の認知障害や注意障害がある場合、TMTを使用して評価することが有効です。
また、高齢者の場合、認知機能が著しく低下していない限り、89歳を超えても適用可能な場合があります。
適応年齢を柔軟に考慮することで、個々の患者の状態に合わせた正確な評価が可能となります。
TMTの柔軟な適用は、特定の認知機能障害の早期発見や効果的な治療計画の立案において重要な役割を果たします。
TMTの所要時間
TMTの適応年齢は、一般的に20歳から89歳までとされています。
この範囲は標準的な目安であり、個々の被験者の認知機能や身体的状態に応じて柔軟に適用することが可能です。
たとえば、若年層において注意障害や特定の認知障害がある場合、20歳未満でもTMTを用いた評価が有効とされています。
一方で、高齢者においても、89歳を超えて認知機能が著しく低下していない場合には適用可能な場合があります。
また、日本版のTMT-Jでは、20歳から89歳までの健常者を対象とした標準化が行われており、これにより日本人特有の年齢別基準を用いたより正確な評価が可能となっています。
適応年齢を柔軟に考慮することで、個々の状態に合わせた認知機能の正確な評価や早期発見、効果的な治療計画の立案に役立つ検査として位置付けられています。
TMTの準備物品について
TMT検査を行う際に必要な物品は以下の通りです。
- 鉛筆
- 消しゴム
- ストップウォッチ
- 検査用紙
これらについてもそれぞれ解説します。
鉛筆
TMT(トレイルメイキングテスト)を行うために必要な物品の一つは鉛筆です。
被験者はこの鉛筆を使って、検査用紙上の数字や平仮名を順番に線で結びます。
鉛筆は、適度な濃さと滑らかな書き心地が重要で、被験者がスムーズに線を描けるようにするためです。
鉛筆の選択には、HBやBなどの一般的な硬度が推奨されます。
鉛筆の使いやすさは、テストの正確な遂行と結果の信頼性に直接影響するため、質の良い鉛筆を使用することが望ましいです。
消しゴム
消しゴムもTMTを実施するために欠かせない道具です。
被験者が間違えた場合や線を引き直す必要があるときに、消しゴムを使って修正することができます。
消しゴムは、紙を傷つけずにきれいに消せる柔らかいタイプが推奨されます。
これにより、被験者はエラーを素早く修正し、テストの進行を妨げずに続行することが可能です。
消しゴムの適切な使用は、被験者のストレスを軽減し、テスト結果の正確性を維持するために重要です。
ストップウォッチ
TMTの実施にはストップウォッチも不可欠です。
ストップウォッチは、テストの所要時間を正確に計測するために使用されます。
所要時間は、被験者の認知機能を評価する重要な指標であり、特にTMT-Bではタスクスイッチングの能力を測定するための主要なデータとなります。
高精度のストップウォッチを使用することで、時間計測の誤差を最小限に抑えることができます。
時間の計測結果は、認知機能の評価や診断において重要な情報を提供するため、正確な時間管理が求められます。
検査用紙
TMTを行うためには、専用の検査用紙が必要です。
TMT-AとTMT-Bのそれぞれに対応した検査用紙があり、異なるタスクが記載されています。
TMT-Aでは、数字を順に結ぶシンプルな課題が提供され、TMT-Bでは数字と平仮名を交互に結ぶより複雑な課題が提供されます。
これらの検査用紙は、適切にデザインされており、被験者がタスクを遂行する際の視覚的なガイドラインとして機能します。
検査用紙の質とデザインは、テストの正確性と被験者のパフォーマンスに大きく影響するため、標準化された用紙を使用することが推奨されます。
TMTのA検査、B検査について
TMT検査は…
- TMT-A
- TMT-B
…の2つで1セットとして扱います。
それぞれ解説します。
TMT-A
TMT-Aは、被験者が1から順番に数字を鉛筆で線で結ぶ課題です。
この部分では、主に視覚的探索と運動速度(手の動きの速さ)を評価します。
被験者は、用紙上に散在する数字を見つけ出し、それらを順に結んでいく過程で視覚的注意と運動能力を試されます。
TMT-Aのパフォーマンスは、視覚情報を効率的に処理し、素早く正確に反応する能力を反映します。
特に、視覚的探索機能や視覚運動協調性に問題がある場合、被験者はTMT-Aで困難を感じることが多く、検査結果はリハビリテーションの方針や治療計画の策定に役立ちます。
TMT-B
TMT-Bは、数字と平仮名を交互に順番通りに線で結ぶ課題です(例:1→あ→2→い→3…)。
この部分は、主に認知的な柔軟性(タスクの切り替え能力)を評価します。
被験者は、異なるカテゴリーの情報を交互に処理し、タスクを適切に切り替える必要があります。
TMT-Bのパフォーマンスは、前頭葉機能、特に遂行機能やワーキングメモリの状態を反映し、認知障害や注意障害の評価において重要です。
例えば、認知症患者や高次脳機能障害を持つ被験者は、TMT-Bでのタスクスイッチングに困難を示すことが多く、この評価結果は診断や治療計画に重要な情報を提供します。
TMT-Aの概要と検査方法について
TMT-A(トレイルメイキングテストA)は、視覚的探索と運動速度(手の動きの速さ)を評価するためのテストになります。
ここでは…
- TMT-Aの具体的な検査方法
- TMT-Aの練習教示方法
- TMT-Aの本検査教示方法
- TMT-Aの計測方法
- TMT-Aの評価と意義
…について解説します。
TMT-Aの具体的な検査方法
TMT-A(トレイルメイキングテストA)は、視覚的探索と運動速度を評価するためのテストで、被験者が用紙上の数字を順番に結んでいく方法で行います。
使用する用紙はA4サイズで、1から25までの数字がランダムに配置されています。
被験者は、鉛筆を使って1から順に数字を結んでいくことで、視覚的な注意力と手の動きの速さを評価されます。
数字を結ぶ際には、鉛筆を紙から離さないようにし、途中で順番を間違えた場合には指導者の指示で訂正します。
この過程で、正確な手の動きと視覚的な探索能力が重要視されます。
TMT-Aの練習教示方法
TMT-Aの練習教示は、被験者がテストの流れを理解し、実際のテストに備えるために行われます。
指導者は、練習用のTMT-A用紙を被験者に見せながら、具体的な指示を提供します。
例えば、「今から、検査のための練習をします。
この用紙に書かれている数字の1から2、3というように数字の順番に、できるだけ早く線で結んでください」と説明します。
指導者は、被験者が順番を間違えた場合や鉛筆を紙から離した場合に適切なフィードバックを提供し、正しい方法でタスクを遂行できるようにサポートします。
この練習は、被験者がテストの形式に慣れ、自信を持って本検査に臨めるようにするために重要です。
TMT-Aの本検査教示方法
本検査の教示も練習と同様に重要で、被験者が正確にタスクを理解し、実行できるように詳細な説明が行われます。
指導者は、「今度は本番です。数字が多くなっていますが、やり方は一緒です。
この用紙に書かれている数字の①から順に、できるだけ早く線で結んでください」と説明します。
被験者が理解した後、テストを開始し、指導者は同時にストップウォッチをスタートします。
被験者が数字を順番に結ぶ間、指導者は進行を監視し、必要に応じて誤りを指摘し、修正を促します。
この過程では、被験者の集中力と正確さが試されます。
TMT-Aの計測方法
TMT-Aの計測では、被験者が最後の数字「25」に到達するまでの所要時間を正確に計測します。
ストップウォッチを使用して、テスト開始から終了までの時間を計測し、これにより被験者の視覚的探索能力と運動速度を評価します。
被験者が順番を間違えた場合や鉛筆を紙から離した場合、指導者は適切な指示を出して修正を促し、計測を続けます。
計測された時間は、被験者の認知機能の評価に使用され、特に視覚的探索と運動速度に関する情報を提供します。
このデータは、被験者の認知機能の診断やリハビリテーション計画に役立ちます。
TMT-Aの評価と意義
TMT-Aの結果は、視覚的探索と運動速度に関する重要な評価指標を提供します。
被験者の遂行時間やエラーの数は、認知機能や運動機能の状態を反映し、これにより視覚的注意力や手の動きの速さが評価されます。
例えば、遂行時間が長い場合やエラーが多い場合は、視覚的探索や運動速度に問題がある可能性を示唆します。
TMT-Aは、特に高次脳機能障害、認知症、運動機能障害の診断において有用であり、リハビリテーションの効果を測定するためにも使用されます。
この評価は、被験者の認知機能の状態を総合的に把握し、適切な治療計画を立案するための基礎となります。
TMT-Bの概要と検査方法について
TMT-B(トレイルメイキングテストB)は、視覚的探索、運動速度、注意の持続、選択性、配分性、遂行機能(前頭葉機能)、ワーキングメモリなどの高次脳機能を評価するためのテストです。
ここでは…
- TMT-Bの具体的な検査方法
- TMT-Bの練習教示方法
- TMT-Bの本検査教示方法
- TMT-Bの計測方法
- TMT-Bの評価と意義
…について解説します。
TMT-Bの具体的な検査方法
TMT-B(トレイルメイキングテストB)は、高次脳機能の評価を目的とした検査で、視覚的探索、運動速度、注意の持続、選択性、配分性、遂行機能(前頭葉機能)、ワーキングメモリを測定します。
使用する用紙はA4サイズで、1から13までの数字と「あ」から「し」までの平仮名がランダムに配置されています。
被験者は、数字と平仮名を交互に順番通りに線で結んでいくというタスクを行います(例:1→あ→2→い→3→う…)。
この方法により、被験者の認知的柔軟性やタスクスイッチング能力が評価されます。
特にTMT-Bは、複雑なタスクを要求するため、前頭葉機能の状態を詳細に把握することができます。
TMT-Bの練習教示方法
TMT-Bの練習教示は、被験者が検査の流れを理解し、実際のテストにスムーズに移行できるようにするために行われます。
指導者は、練習用のTMT-B用紙を被験者に見せながら、「今度は少し違うことをしていただきます。
最初はまた練習です。今度は『1-あ-2-い-3-う』というように数字と仮名を交互に、順番に結んでいっていただきたいのです」と説明します。
指導者はさらに、「もし途中で数字と仮名が交互でなかったり、順番を間違ったりしたときには、『間違っています』といいますので、すぐ訂正して次に進んでください。
また、鉛筆が紙から離れたときには、『鉛筆が浮いています』といいますので、すぐに鉛筆を紙につけてください」と詳細な指示を提供します。
この説明の後、練習を開始し、ストップウォッチで時間を計測します。
TMT-Bの本検査教示方法
本検査では、練習と同様に被験者に詳細な説明を提供し、正確にタスクを遂行できるようにします。
指導者は、「今度は本番です。数字と文字が多くなっていますが、やり方は一緒です。
今度も『1-あ-2-い-3-う』というように数字と仮名を交互に、順番に結んでいっていただきます」と指示します。
被験者が準備ができたことを確認し、本検査を開始します。指導者は同時にストップウォッチをスタートし、被験者の進行を監視します。
被験者が間違えた場合や鉛筆を紙から離した場合には、適切に修正を促し、正しい方法でテストを続行させます。
TMT-Bの計測方法
TMT-Bの計測では、被験者が最後の数字「13」に到達するまでの所要時間を正確に測定します。
ストップウォッチを使用して、テスト開始から終了までの時間を計測し、被験者の認知的柔軟性やタスクスイッチング能力を評価します。
特にTMT-Bでは最大5分の制限時間が設定されており、この時間内に完了しない場合は評価対象外となります。
被験者が順番を間違えた場合や鉛筆を紙から離した場合、指導者は適切な指示を出して修正を促し、計測を続けます。
計測された時間は、被験者の認知機能の評価に使用され、特に認知的柔軟性やタスクスイッチング能力に関する情報を提供します。
TMT-Bの評価と意義
TMT-Bの結果は、被験者の認知的柔軟性とタスクスイッチング能力に関する重要な評価指標を提供します。
被験者の遂行時間やエラーの数は、認知機能や遂行機能の状態を反映し、これにより前頭葉機能の評価が可能となります。
例えば、遂行時間が長い場合やエラーが多い場合は、認知的柔軟性やタスクスイッチングに問題がある可能性を示唆します。
TMT-Bは、特に高次脳機能障害、認知症、注意欠陥多動性障害(ADHD)の診断において有用であり、リハビリテーションの効果を測定するためにも使用されます。
この評価は、被験者の認知機能の状態を総合的に把握し、適切な治療計画を立案するための基礎となります。
TMT-AとTMT-Bで共通する点、異なる点
“TMT-A”、“TMT-B”それぞれの共通する点、また異なる点については以下のとおりになります。
共通点
“TMT-A”、“TMT-B”の両者に共通する点としては…
- 視覚的探索
- 運動速度
- 注意力
- 検査方法
…があげられます。
それぞれ解説します。
視覚的探索
TMT-AとTMT-Bはどちらも視覚的探索能力を評価するためのテストです。
被験者は、用紙上にランダムに配置された数字や平仮名を見つけ出し、それらを指定された順序で線で結ぶ必要があります。
この視覚的探索は、被験者が視覚情報を効率的に処理し、目的の数字や文字を迅速に見つける能力を試します。
視覚的探索能力の評価は、特に視覚認知障害や注意障害の診断に重要であり、TMTの結果から被験者の視覚的探索能力を詳細に評価することができます。
運動速度
両方のテストは、被験者の手の動きの速さ、つまり運動速度を評価します。
被験者は、鉛筆を使って数字や平仮名を結ぶ動作をできるだけ速く行う必要があり、この速度は運動機能や視覚運動協調性を反映します。
運動速度の評価は、特に運動機能障害や高齢者の運動能力の低下の診断に役立ちます。
TMTの結果は、被験者の運動速度を測定し、そのデータはリハビリテーションや運動機能の改善に関する治療計画に利用されます。
注意力
TMT-AとTMT-Bは、被験者の注意力を評価するテストでもあります。
被験者は、指定された順序で数字や平仮名を追跡し、それらを正確に結ぶ必要があります。
この過程で、持続性、選択性、配分性といった注意力の各側面が試されます。
注意力の評価は、特にADHDや注意障害の診断において重要であり、TMTの結果から被験者の注意力の詳細な評価が可能です。
これにより、適切な介入方法や治療計画の立案が可能となります。
検査方法
TMT-AとTMT-Bの検査方法は共通しており、どちらも鉛筆と紙を使用します。
被験者は、鉛筆を使って用紙上の数字や平仮名を指定された順序で結び、テストを進めます。
このシンプルな方法により、TMTは広範な評価を簡便に実施できる利便性を持ちます。
検査の際には、被験者のエラーや所要時間を記録し、それに基づいて認知機能の詳細な評価を行います。
異なる点
また、異なる点としては…
- 評価する能力
- 検査内容
- 所要時間
…があげられます。
これらについてもそれぞれ解説します。
評価する能力
TMT-Aは主に視覚的探索と運動速度を評価します。
被験者は1から順に数字を結ぶことで、視覚情報の処理速度と手の動きの速さが測定されます。
一方、TMT-Bは認知的柔軟性、特にタスクの切り替え能力を評価します。
被験者は数字と平仮名を交互に結ぶため、異なる情報セット間を迅速に切り替える能力が試されます。
これにより、TMT-Bはより高度な認知機能を必要とし、前頭葉機能の詳細な評価が可能です。
検査内容
TMT-Aでは、被験者は単純に1から順に数字を結ぶだけであり、その内容は比較的シンプルです。
一方、TMT-Bでは、被験者は数字と平仮名を交互に結ぶ必要があり、検査内容が複雑になります。
例えば、「1→あ→2→い→3→う…」という順序で進行するため、被験者は異なる種類の情報を交互に処理しなければなりません。
この違いにより、TMT-Bは被験者の認知的柔軟性と遂行機能の評価に適しています。
所要時間
一般的に、TMT-BはTMT-Aよりも時間がかかります。
これは、TMT-Bがタスクの切り替え能力を評価するため、被験者はより複雑な認知作業を行う必要があるためです。
被験者が数字と平仮名を交互に結ぶ過程で、注意深く順序を守りながら進行するため、自然と所要時間が長くなります。
TMT-Bでは、最大5分の制限時間が設けられており、この時間内にタスクを完了できなかった場合は、評価対象外となります。
TMTにおける注意点について
TMTを実施する際には以下の点に注意が必要です。
- 練習問題の実施
- 鉛筆の使用
- 制限時間
- 間違いの訂正
- 間違い訂正の観察
- 鉛筆使用の細かい指導
- 制限時間の設定意義
それぞれ解説します。
練習問題の実施
TMT(トレイルメイキングテスト)を実施する際には、本番前に必ず練習問題を行うことが推奨されます。
練習問題は、被験者がテストの流れを理解し、適切に実施できるようにするための重要なステップです。
被験者は練習問題を通じて、数字や平仮名をどのように順番に結ぶかを実際に体験し、テストの進行方法を把握します。
指導者は練習問題を使って具体的な指示を与え、被験者がタスクを正しく遂行できるようサポートします。
この準備段階により、被験者は本番テストに対する不安を軽減し、正確なパフォーマンスを発揮することができます。
鉛筆の使用
TMTを実施する際、鉛筆は紙から浮かさないようにすることが重要です。
鉛筆が紙から浮いてしまうと、テストの正確な評価が難しくなるため、指導者は被験者に対して常に鉛筆を紙につけた状態で作業を続けるように指示します。
もし鉛筆が紙から離れた場合、指導者は「鉛筆が浮いています」と声をかけ、被験者がすぐに鉛筆を紙に戻すよう促します。
このように、鉛筆の使用方法に注意を払うことで、テストの信頼性と一貫性を確保することができます。
また、被験者が緊張している場合や慣れていない場合は、練習段階で十分な指導を行うことが重要です。
制限時間
TMT-Bでは、特に制限時間が5分と設定されています。
この時間内にテストを完了できない場合、結果は評価対象外となります。
制限時間を設けることで、被験者のタスク遂行能力やスピードを効率的に評価することができます。
被験者が時間内にタスクを完了するためには、迅速かつ正確に作業を進める必要があり、これにより注意力や遂行機能の評価が可能となります。
指導者は、テスト開始前に被験者に制限時間を説明し、時間内に完了するよう促すことが重要です。
間違いの訂正
テスト中に被験者が間違った場合、その時点で指導者は「間違っています」と注意し、すぐに訂正するように指示します。
ただし、間違いの訂正中でも時間測定は停止せずに続行されます。
これは、訂正を含めた被験者の遂行能力全体を評価するためです。
間違いが発生する場合は、被験者の注意力やタスクスイッチング能力に問題がある可能性を示唆します。
指導者は、被験者が間違いに気付いて修正する過程を観察し、その能力も評価の一部として取り入れます。
間違い訂正の観察
間違いを訂正する過程も評価の一環として重要です。
被験者が誤りに気付き、適切に修正する能力を観察することで、注意力や遂行機能の詳細な評価が可能となります。
訂正の過程を観察し、記録することで、被験者の認知機能に関する包括的なデータが得られます。
このデータは、診断や治療計画の立案において非常に有用です。
鉛筆使用の細かい指導
鉛筆を使用する際の注意点について、練習段階で詳細に指導することが求められます。
被験者が鉛筆を紙から離さずに作業を進めることができるように、指導者は適切なフィードバックを提供します。
被験者が鉛筆を正しく使用することで、テスト結果の一貫性が保たれ、運動速度や視覚運動協調性の正確な評価が可能となります。
このような指導は、特に初めてテストを受ける被験者にとって重要です。
制限時間の設定意義
制限時間を設けることは、被験者のタスク遂行能力を効率的に評価するために重要です。
被験者が限られた時間内でタスクを完了することで、認知機能や遂行機能の評価が精度高く行われます。
制限時間を守ることで、テスト結果の比較可能性が向上し、異なる被験者間のパフォーマンスを一貫して評価することができます。
指導者は、被験者に制限時間の重要性を十分に理解させることが必要です。
TMT適応外の例
TMTを行うべきでない、いわゆる適応外の例については以下のとおりになります。
- 鉛筆を使用できない場合
- 指示理解困難の失語症の場合
- 半側空間無視の場合
…などがあげられます。
以下それぞれ詳細について説明します。
鉛筆を使用できない場合
TMT(トレイルメイキングテスト)の適応外となる一例として、被験者が鉛筆を使用できない場合が挙げられます。
これは、被験者が鉛筆を持ったり、鉛筆で線を引いたりする運動能力を持っていない場合です。
例えば、手や腕の重度の麻痺、筋力低下、震えなどの症状がある被験者は、鉛筆を正確に操作することが難しく、テスト結果が正確に評価されない可能性があります。
運動機能に問題がある場合、TMTの代替として、コンピュータを使用した視覚探索タスクや音声指示に基づくテストが検討されることがあります。
適切な代替手段を用いることで、被験者の認知機能を正確に評価し、効果的な治療計画を立案することが可能です。
指示理解困難の失語症の場合
指示理解が困難な失語症の被験者も、TMTの適応外となる場合があります。
失語症は、言語能力が低下している状態であり、被験者がテストの指示を正確に理解することが困難です。
言語理解が不十分な場合、被験者は指示に従って数字や平仮名を結ぶことができず、テスト結果が正確に反映されません。
さらに、文化教育レベルが低い場合も、テストの手順や内容を理解することが難しく、結果に影響を与える可能性があります。
このような場合には、言語を使用しない評価方法や、簡便な視覚的タスクを用いることで、認知機能を評価する方法が検討されます。
半側空間無視の場合
半側空間無視がある被験者も、TMTの適応外となることがあります。
半側空間無視は、視覚空間の一部を無視する症状であり、被験者が視覚情報を片側だけしか認識できない状態です。
このため、被験者はTMTの用紙上の数字や平仮名をすべて認識することができず、正確に結ぶことが困難です。
半側空間無視のある被験者がTMTを実施すると、結果が信頼性を欠き、認知機能の評価が正確に行えません。
このような場合には、視覚空間に配慮した特別な評価方法を使用することで、被験者の認知機能を適切に評価することが求められます。
TMTの平均値、カットオフ値について
“TMT-A”、“TMT-B”における検査結果における平均値、カットオフ値については様々な報告や研究が行われていますが「○○点」という明確な設定がされていないのが現状です。
以下に各論文や報告別に平均値や標準値、カットオフ値について記載します。
TMT-Aの平均値とカットオフ値
TMT-A(トレイルメイキングテストA)の平均値は、被験者の年齢や性別により異なります。
一般的に、若年層は迅速にテストを完了する傾向があり、平均値は低めです。
逆に、高齢者は平均的な遂行時間が長くなることが多いです。
カットオフ値としては、自動車運転の適性評価において47秒以内とされています。
このカットオフ値は、運転中の視覚的注意力と運動速度が一定以上であることを示す指標となり、47秒を超える場合は運転適性に疑問が生じる可能性があります。
TMT-Bの平均値とカットオフ値
TMT-B(トレイルメイキングテストB)の平均値も、被験者の年齢や性別により異なります。
若年層はタスクスイッチング能力が高く、平均的な遂行時間は短くなりがちです。
一方、高齢者や認知機能に問題がある被験者は、TMT-Bの遂行時間が長くなる傾向があります。
自動車運転の適性評価におけるカットオフ値は133秒以内とされており、この時間を超える場合は運転適性に影響があると判断されることがあります。
このカットオフ値は、タスクスイッチング能力と認知的柔軟性の評価基準となります。
TMTと自動車運転のカットオフ値について
注意機能や遂行機能の検査として有用なTMT検査ですが、高次脳機能障害の方や高齢者の自動車運転再開、運転免許更新のための指標としての研究も行われています。
しかし現段階では自動車運転におけるTMT検査のカットオフ値は明確に指定はされていないものの、
- TMT-A:168秒
- TMT-B:244秒
…という暫定的なカットオフ値が算出されています。
参考論文:生活訓練利用者における実車運転評価と神経心理学的検査との関連性について
TMTの検査用紙(pdf)について
TMTの検査用紙はインターネット上でダウンロードできますが、著作権の関係、また検査の正確性などの観点から正規に販売しているものを購入することをおすすめします。
Q&A
Q.縦型と横型があるけど、どちらを使用したらよい?
A.国内で使用されているTMTは統一されておらず、Reitanの日本語改訂版や鹿島らの日本語版など複数の図版が用いられているのが現状です。また、両者ではその線の長さや軌跡の違いから遂行時間が異なる点で縦型と横型を比較することはできません。そのためTMTで検査した際は、縦型で行ったのか、横型で行ったのかを記載しておく必要があります。国際比較を前提として検査するには、Reitanらの図版のアルファベットを仮名文字に置き換えた改訂版を使用するほうがよいようです。
Q.被験者が順番を誤った数字(ひらがな)を結んでしまった場合は誤りを指摘すべきか?
A.被験者が順番を誤り数字やひらがなを結んでしまった場合は、その都度検者が指摘し修正することが求められます。その際ストップウォッチは止めず計時は継続したままで、最後まで到達した時点で所要時間(秒)を記録します。