注意機能スクリーニング検査の一つである”D-CAT”。
本記事ではこの特徴や方法、理論的背景について解説します。
D-CAT(注意機能スクリーニング検査)とは?
D-CAT(注意機能スクリーニング検査)は、高次脳機能障害が疑われる成人(18歳以上)の注意機能を簡便に評価・診断することを目的とした検査です。
特徴
D-CATは、その実施においていくつかの特徴的な利点を持っています。
ここでは…
- 実施時間について
- 特別な装置や器具を必要としないこと
- 簡単な採点・評価
- 実用性の基準を満たす
…という特徴について解説します。
実施時間
D-CATは、所定の問題用紙(3枚)、筆記具(鉛筆など)、秒針のある時計を用意するだけで、4~5分で実施可能です。
この短時間での実施は、被検者への負担を最小限に抑えると同時に、多忙な臨床現場や研究設定での利用を容易にします。
迅速な評価が可能なため、大量の被検者を効率的にスクリーニングする際にも有用です。
特別な装置や器具を必要としないこと
D-CATは特別な装置や器具を必要としないため、実施が非常に手軽です。
これは、特にリソースが限られている環境や、移動が難しい被検者にとって有利です。
また、検査自体がストレスを与えることなく、被検者にとって快適であるため、より正確な結果を得ることが期待できます。
簡単な採点・評価
D-CATの採点と評価は、特別な訓練を必要とせずに行えます。
短時間での実施と併せて、これは特に時間や人員の制約がある環境において重要です。
簡単な採点方法は、研究者や臨床家が多忙な中でも迅速に結果を得ることを可能にし、迅速な介入や治療決定に寄与します。
実用性の基準を満たす
D-CATは、神経心理学研究において脳損傷者の認知機能を評価する際に指摘される「実用性の基準(Criterion of Practicality)」を満たしています。
この基準は、特に神経心理学的検査の有用性を評価する上で重要な要素とされており、D-CATの有効性を示しています。
簡潔で迅速な実施が可能であること、特別な装置や高度な訓練を必要としないことは、実際の臨床や研究の現場での適用性を高め、幅広い被検者群に対して効率的に使用できることを意味します。
また、この基準を満たすことで、D-CATは信頼性と妥当性の両方を兼ね備えた、実用的な神経心理学的検査ツールとしての地位を確立しています。
方法
ランダムに並んだ数字の中からある数字を抹消します。
1文字、2文字、3文字の末梢を3回行って各回の作業量、見落とし率、各回での作業の変化率、間違いの数について検討します。
D-CATの理論的背景
D-CATは、Sohlberg and Mateer(1989)による注意機能の臨床モデルに基づいています。
このモデルは、注意機能を階層的な複数の要素で構成されるものと捉えています。
D-CATで評価される具体的な注意機能要素は…
- 注意の焦点化
- 注意の維持
- 選択的注意
- 注意の切り替え
- 注意の分割
…になります。
以下にそれぞれ解説します。
注意の焦点化
これは特定の感情刺激に対する直接反応の能力を指し、情報処理速度の側面を反映しています。
この能力は、迅速かつ正確に特定の刺激に反応することを要求される状況で重要です。
例えば、交通量の多い道路を横断する際に、車両の動きに集中し反応する能力が該当します。
この能力は、日常生活における速度要求のある作業において、効率的なパフォーマンスを可能にします。
注意の維持
これは連続的で一貫した反応を維持する能力を指し、心的コントロールや作業記憶と密接に関連しています。
この能力は、長期間にわたる集中が求められるタスクで特に重要です。
例えば、講義や会議での長時間の集中や、複雑なプロジェクトの追跡などが該当します。
注意の維持が不足すると、タスクの遂行が困難になり、エラーが増加する可能性があります。
選択的注意
これは干渉刺激が存在する状況で、行動および認知的構えを維持できる能力を指します。
この能力は、不要な刺激や情報を無視し、関連するタスクに集中することを可能にします。
例えば、騒がしい環境での作業や、複数の情報源から重要な情報を選び出す際に必要です。
選択的注意が低い場合、不要な情報や刺激に簡単に気を取られ、タスクの効率が低下することがあります。
注意の切り替え
これは異なる認知的課題や行動間で注意を移動させる能力を指します。
日常生活において、私たちは常に複数のタスクを同時に処理する必要があります。
例えば、仕事中に緊急の電話に応対する必要が生じた場合、効果的に注意を切り替える能力が求められます。
注意の切り替えがスムーズでない場合、一つのタスクから別のタスクへの移行に時間がかかり、生産性が低下する可能性があります。
注意の分割
これは複数の課題や認知的要求に同時に対応できる能力を指します。
例えば、運転中にナビゲーションの指示を聞きながら、交通の状況を観察し、安全を確保する必要があります。
このように、複数のタスクを同時に行う状況では、各タスクに適切な注意を割り当てることが重要です。
注意の分割能力が不足していると、多任務処理時にタスクの一つ一つに十分な注意を払うことが困難になり、パフォーマンスが低下する可能性があります。
これらの要素は、日常生活や職場でのパフォーマンスに直接影響を及ぼすため、D-CATのような評価ツールは、これらの注意機能の強化やリハビリテーションにおいて非常に有用です。
D-CATの関連研究
D-CATに関連する研究の紹介ですが、ここでは…
- D-CATの信頼性と妥当性について
- ストループ色語テストとD-CATとの相関関係
…について解説します。
D-CATの信頼性と妥当性について
Hatta, Yoshizaki, Ito, Mase, & Kabasawa (2012) の研究では、D-CATの信頼性と妥当性を評価しています1)。
このテストは、情報処理速度、注意の焦点化、実行機能など、前頭葉機能のさまざまな側面を評価するために開発されました。
被検者はランダムに並べられた数字の中から特定のターゲット数字を削除します。
この研究では、テスト-再テストのパラダイムを使用してD-CATの信頼性を評価し、脳外傷を持つ参加者を使用して構成妥当性を検証しています。
その結果、D-CATは注意機能のスクリーニングテストとして信頼性と妥当性があることが示されました。
ストループ色語テストとD-CATとの相関関係
Nagahara, Ito, Iwahara, Hotta, & Hatta (2012) による研究では、ストループ色語テストとD-CATとの相関関係を調査しています2)
この研究の目的は、ストループ色語テストが認知低下を検出するために有用かどうかを検討することでした。
結果は、ストループテストが高齢者の認知低下を検出するための有用性を示しており、D-CATとは異なる注意の側面を反映していることが示唆されています。
参考
- 1)Hatta, T., Yoshizaki, K., Ito, Y., Mase, M., & Kabasawa, H. (2012). RELIABILITY AND VALIDITY OF THE DIGIT CANCELLATION TEST, A BRIEF SCREEN OF ATTENTION. Psychologia, 55, 246-256. https://doi.org/10.2117/PSYSOC.2012.246.
- 2)Nagahara, N., Ito, E., Iwahara, A., Hotta, C., & Hatta, T. (2012). A study of the Stroop Color-Word Test as the cognitive screening test. Journal of Human Environmental Studies, 10, 29-33. https://doi.org/10.4189/SHES.10.29.