早期認知症のスクリーニングに使用される検査の一つに“かなひろいテスト”があります。
今回はこのかなひろいテストの目的や方法、採点方法や解釈、そしてカットオフ値について解説します。
かなひろいテストを臨床で役立てるマニュアルの一つとして活用できたら幸いです。
かなひろいテストとは?
かなひろいテストとは、1983年に浜松医療センターで金子満雄氏と植村研一氏によって開発された「浜松方式高次脳機能スケール」のサブテストの一つになります。
かなひろいテストの種類
浜松式高次脳機能スケールにおけるかなひろいテストには、
- 無意味綴:文章自体には意味を持たない
- 有意味文:文章に物語がある
…の2種類の課題があります。
以下にそれぞれ解説します。
無意味綴
無意味綴の課題では、文章自体には意味を持たない文字列が提示されます。
これは、単に言葉を読む能力だけでなく、被験者が文字や語句を正確に認識し、それらを記憶して再現できるかを試すためのものです。
無意味綴を読むことは、患者の言語処理能力や注意深さを評価する上で重要です。
無意味な文字列を正確に読み取ることは、日常生活ではほとんど経験することがないため、この課題は患者の集中力や処理速度、さらには作業記憶の機能をチェックするのに適しています。
無意味綴を用いることで、語彙理解や意味処理の影響を受けずに、純粋な言語のデコード能力を評価することが可能になります。
有意味文
一方、有意味文の課題では、文章には物語や意味が含まれています。
この課題は、患者が文章を読み、その内容を理解し、情報を記憶して再現できるかを評価することを目的としています。
有意味文を用いることで、言語の理解力、情報の統合能力、そしてその情報を基に記憶や推論を行う能力が試されます。
日常生活においては、情報を読み取り、理解し、適切に反応する能力が常に要求されるため、この課題は患者の実生活における言語使用能力を反映するものと言えます。
また、物語を理解し記憶する過程では、患者の注意を引きつけ、維持する能力も同時に測定されます。
このように有意味文を通じて、高度な言語処理能力や認知的複雑さに対処する能力が評価されます。
かなひろいテストを行う目的について
かなひろいテストは早期認知症の診断に加えて、注意障害の評価として使用されます。
それぞれの主な目的としては次の通りです。
- 無意味綴:選択的注意機能
- 有意味文(物語文):選択的注意機能・配分的注意機能・二重課題(前頭前野を中心としたワーキングメモリが関与した機能)
もう少し踏み込んで解説します。
無意味綴
無意味綴の主な目的は、選択的注意機能の評価です。
このテストは、意味のない文字列によって注意力を集中させ、被験者がどの程度効率的に情報を処理し選択できるかを測定します。
そもそも選択的注意とは、無関係な情報を排除し、関連する情報に集中する能力を指します。
無意味綴テストは、特に注意力の分散や集中力の問題が疑われる際に重要な役割を果たします。
有意味文
有意味文テストは、選択的注意機能と配分的注意機能、さらには前頭前野を中心としたワーキングメモリの機能を評価することを目的としています。
物語の理解と記憶には、これらの複数の認知プロセスが関与します。
物語文を用いることで、被験者は関連する情報を選択し、同時に複数の情報を処理する必要があります。
これには、複雑な情報の整理と記憶、そして情報の維持と操作が必要とされ、ワーキングメモリの能力が重要になります。
必要物品
では、実際にかなひろいテストを行うにあたってどんな物品が必要でしょうか?
主なものとして…
- 検査用紙
- 鉛筆
- ストップウォッチ
…になります。
適用年齢
15歳~89歳
かなひろいテストの実施方法について
かなひろいテストの実施方法ですが、ここでは…
- 準備
- 例題の実施
- 本検査の実施
- 終了とフィードバック
…というステップで解説します。
準備
かなひろいテストを開始する前の準備段階は、参加者がテストの目的と手順を完全に理解できるようにするために不可欠です。
このステップでは、実験者はテストの概要を説明し、参加者が持つ可能性のある質問に答えます。
目的の説明には、テストが認知機能、特に注意力や処理速度、言語理解能力の評価を目指していることが含まれます。
手順の説明では、具体的にどのように「あ・い・う・え・お」を探し、どのようにマークするかを明確にします。
この準備ステップは、参加者がテストに安心して臨めるようにし、最も正確で有意義な結果を得るための基盤を築きます。
例題の実施
テストの本格的な実施に入る前に、簡単な例題を提供することで、参加者にテスト形式に慣れてもらうことが目的です。
この例題は、本テストと同じ形式で行われるものの、より短い文章やより少ない文字数で構成されていることが一般的です。
例題を通じて、参加者は実際のテストで求められるタスクの実施方法を具体的に理解し、どのようにして「あ・い・う・え・お」を効率的に見つけ出し、マークするかの練習を行います。
このプロセスは、参加者の不安を軽減し、テスト中のパフォーマンスを最大化することを目指します。
本検査の実施
本検査では、無意味綴りと有意味文の2種類の課題が順に実施されます。
各課題には制限時間が設けられており、参加者はこの時間内にできるだけ多くの「あ・い・う・え・お」を見つけてマークする必要があります。
無意味綴りでは、ランダムに並べられたひらがなの中から特定の文字を識別する能力が試され、有意味文では、文章の意味を理解しながら特定の文字を見つける二重の課題が課せられます。
この段階は、参加者の注意力、処理速度、および言語理解能力を包括的に評価することを目的としています。
終了とフィードバック
各課題の終了後、実験者は参加者に対してフィードバックを提供します。
このフィードバックには、課題の進め方、発見された困難、及び改善点の提案が含まれることがあります。
また、参加者からの質問に答え、彼らがテスト中に経験したことについての理解を深めます。
このステップは、参加者が自身の認知機能についての洞察を得ることを助けるだけでなく、将来的に類似のテストや日常生活の中での認知タスクに対処する際の自信を構築するためにも重要です。
フィードバックと評価の過程は、参加者と実験者の間の対話を促進し、認知機能の理解を深める貴重な機会を提供します。
制限時間について
制限時間は2分間で、その時間になったら作業をストップし、そこまでの結果で採点をします。
かなひろいテストの採点方法について
ここでは、かなひろいテストの採点方法について解説します。
無意味綴
無意味綴の課題では、以下の項目に対して採点を行います。
- 正答数:拾い上げた「あ・い・う・え・お」の数
- 到達数:2分間に到達したターゲットの数
- 正答率:正答数を到達数で除して算出した割合(正答数/到達数×100で算出)(正答数、到達数の最大60)
- 見落とし数:到達数-正答数で算出
有意味文
有意味文の課題では、以下の項目に対して採点を行います。
- 正答数:拾い上げた「あ・い・う・え・お」の数
- 到達数:2分間に到達したターゲットの数
- 正答率:正答数を到達数で除して算出した割合(正答数/到達数×100で算出)(正答数、到達数の最大61)
- 見落とし数:到達数-正答数で算出
- 内容把握:物語の内容を把握し、あらすじを説明できるかどうかで判断
有意味文の場合は、採点方法として大きな違いは物語の内容把握への評価です。
2分間でターゲットの文字を拾い上げた後、物語のあらすじを説明できるかどうかを評価します。
あらすじの説明ができている場合は「十分」、やや曖昧な場合は「不十分」ほとんど説明できていない場合は「不可」の3段階で判定します。
かなひろいテストの平均、カットオフ値について
かなひろいテストは、年代別に標準値が示されており、40歳以下は年代ごとの標準値が示されています。
年齢別の平均点、カットオフ値についての報告や情報はこちらを参照にしてみてください。
かなひろいテストの解釈について
かなひろいテストの結果解釈についてですが、その点数結果が初回の評価結果と再評価の結果とでどれほど変化していたか、カットオフ値に対して上回っているか、下回っているかという「点数結果」は判断基準ですがあくまで一つになります。
生活を支援する作業療法士としては、被験者がかなひろいテストに臨む際に、その作業過程の中でどのような反応を示したか?と把握し、解釈する視点も必要になります。
主な例としては、以下のとおりになります。
教示した際にその内容を理解できたかどうか?
→指示理解能力の程度
かなを拾う作業にミスはあったか?そのミスに偏りはないか?
→物語の後半にミスが多い…と言った場合は“注意の持続力”に問題がある傾向があります。
読み、かな拾い、内容の把握が同時にできているかどうか?
→できていない場合はワーキングメモリの問題と判断できます
検査中、周囲の音などに注意がそれないかどうか?
→選択的注意の能力の程度を判断できます