HDS-Rの検査項目でよくある注意点について【結構間違えやすいんです】

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HDS-Rとは?

一般高齢者から認知症高齢者をスクリーニングする目的で、1974年に長谷川らによって作成されました。
その後長谷川式簡易知能評価スケール(HDS)の質問項目と採点基準などの見直しが行われ、1991年に加藤らによって改訂され現在に至ります。

正常な高齢者には比較的簡単にこたえられるような問題から構成されており、通常5~10分程度で施行することができます。

HDS-Rのカットオフ値

HDS-Rは年齢、見当識、3つの言葉の記名と遅延再生、計算、野菜の名前列挙(言葉の流暢さ)などの9項目から構成されます。
またカットオフ値についてですが、30点満点中20点以下で認知症が疑われる…とされています。

ちなみに21点以上を認知症の疑いなし、20点以下を疑いありとした場合、感度は0.93、特異度は0.86で感度が高いとの報告があります。

HDS-Rの実施可能or実施不可の判断基準について

HDS-Rは被験者が自分の生年月日さえわかれば実施は可能とされています。

HDS-Rの検査項目でよくある注意点

臨床で起こしやすいHDS-Rの検査でよくある注意点とはどんなものがあげられるでしょうか?
ここでは検査項目である…

  1. 年齢
  2. 時間の見当識
  3. 場所の見当識
  4. 記銘力
  5. 計算問題
  6. 数字の逆唱
  7. 遅延再生
  8. 物品記名
  9. 言語流暢性

…それぞれの注意点について解説します。

1.年齢

教示:お年はいくつですか?

注意点ですが、2年までの誤差は正解とします。
理由としては、 数え年で答える人もいて、検査日の時点で誕生日を迎えているかどうかで誤差が生まれる可能性を考慮しているためになります。
また、生年月日を言うことができても、年齢が言えなければ0点とみなします。

2.時間の見当識

教示:今日は何年の何月何日ですか?

注意点ですが、年、月、日、曜日が正解でそれぞれ1点ずつの採点になります。
また、年月日の順番通りに質問しなくても問題ないとされています。
(今日は何曜日ですか?何日ですか?何月ですか?何年ですか?)

3.場所の見当識

教示:私たちが今いるところはどこですか?

注意点ですが、自発的に答えられれば2点、5秒おいて「家ですか?」「病院ですか?」「施設ですか?」の選択肢のなかから正しい選択をすれば1点に採点します。
また病院名や施設名を言えなくても、本質的に自分がどこにいるのかを把握できていれば正解とします。
ちなみに「家ですか?」「病院ですか?」「施設ですか?」という選択肢はあくまで一例のため、被験者の状況によっては「家ですか?」「デイサービスですか?」「病院ですか?」としても問題はないとされています。

4.記銘力

教示:これから言う3つの言葉を言ってみてください。あとでまた聞きますのでよく覚えていてください。
1:a)桜 b)猫 c)電車   
2:a)梅 b)犬 c)自動車

注意点としては、この質問項目の3つの言葉は、HDS-Rを作成する際に「植物の名前」「動物の名前」「乗り物の名前」から連想する言葉の上位2つから選んで作成している背景があります。
そのことからも、他の言葉に置き換えて質問することはNGとされています。
 

5.計算問題

教示:100から7を順番に引いてください(100-7は?それからまた7を引くと?)

シリアル7課題(serial 7)と呼ばれる課題で、MMSEでも使われます。
注意点として、質問する際「93ひく7はいくつですか?」と伝えてはいけません。
これは「100-7」の答えである「93」を保持し次の課題に取り組むための能力…ワーキングメモリの能力も評価するためとされています。

つまり、「100-7は…93」「そこからまた7を引くと…あれ?何から引くんだっけ?」といった反応を示した場合はこのワーキングメモリの低下を疑います。
また「100-7は?」の質問に対しての答えが「92」といったように暗算自体にミスがあった場合は「92-7」という次の課題に進むようなことはせず、そこでこの質問項目は打ち切りになります。

6.数字の逆唱

教示:私がこれから言う数字を逆から言ってください(6-8-2、3-5-2-9)

注意点ですが、この質問項目では検者が数字を言うスピードについてですが、ゆっくりと1秒程度の間隔で伝えるようにします。
またこの質問項目の課題理解が不十分な場合は、「たとえば1,2,3を反対から言うと?」といった“練習問題”を事前に行っても問題ありません。

この質問項目はQ5の計算問題同様、提示された数字の順番を頭に留めておきながら逆に言うというワーキングメモリの能力を評価します。
3桁の逆唱課題(6-8-2)を失敗した段階でこの質問項目は打ち切りになります。

7.遅延再生

教示:先ほど覚えても立った言葉をもう一度言ってみてください
(自発的に回答があれば各2点、もし回答がない場合以下のヒントを与え正解であれば1点)
a)植物 b)動物 c)乗り物

ヒントの与え方ですが、「植物と動物がありましたね?」というような複数のヒントの提示ではなく、あくまで一つずつ与えることがルールになっています。

8.物品記銘

教示:これから5つの品物を見せます。それを隠しますのでなにがあったかを言ってください。(時計、鍵、タバコ、ペン、硬貨など必ず相互に無関係なもの)

注意点ですが、提示する物品に関しては特に決まっていないものの、本人にとって馴染みのないもの、また相互関係がないものでなければなりません。
また、物品の提示の仕方ですが、「これは時計ですね」「これはタバコですね」と1つずつ物品名を確認しながら被験者の目の前に置くようにします。

5つの物品を置いた後は「これはなんですか?」と聞き、「時計」と回答したら、「それではこれは?」-「タバコ」と答えてもらい再度確認をしていきます。
物品名を答える順番は特に決まっていないので、バラバラでも問題ありません。
ですので、被験者には「覚えているものから順に答えて構いません」と促してもよいとされています。

9.言語流暢性

教示:知っている野菜の名前をできるだけ多く言ってください。

この質問項目では“野菜の名前をどれだけ知っているか?”という“知識”をみるのではなく、“どれだけスラスラ言葉がでてくるか?”という“言語流暢性”を評価します。
よくある間違いなのですが、被験者が同じ野菜を言った場合は「それはさっき言いましたね」とさえぎるのではなく、重複したままでも10個の野菜名を言い終わるまで継続します。その後重複した分を減点とします。
同じ野菜名を繰り返し回答する場合や「白菜は言いましたか?」などと聞き返す場合には近時記憶障害が疑われます。

ちなみに5つ目までを採点せず、6つ目から採点される理由としては、HDS-Rを作成時に、認知症高齢者の平均出現個数が約5個、健常高齢者の平均出現個数が 約10個であったという開発背景によるものになります。
また、野菜の名前を質問項目に採用した理由としては、性差や地域差がないものを項目にしているからになります。

HDS-RはQ1から順番に行っていかなければならないのか?

順番に関しては特に取り決めはないことから、被験者の性格によっては日常会話に織り交ぜながら質問しやすいものから行っても問題ありません。
しかしQ4~7は順番通り続けて行わないといけません。

HDS-R導入の際の注意点

HDS-Rの検査導入の際に、いきなり「認知症の検査をします」や「物忘れの検査をします」というと、被験者は非常に不快感や不安を感じ、その後のラポール形成に支障をきたす場合があります。
ですので、HDS-Rを開始する前は世間話をしたり、ある程度の関係性を構築したうえで行うといった配慮が必要になります。

終了後のフォローも重要

HDS-Rの検査は被験者によっては疲労感を示す場合もあります。
終了後のフォローとして「疲れましたか?」という言葉がけや最後の質問項目で使用した野菜に関しての世間話をするといった配慮が必要になります。

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