認知症の高齢者にかかる介護の度合いを分類した「認知症高齢者の日常生活自立度」。
本記事ではこの指標の定義や目的、基準や注意点について解説します。
認知症高齢者の日常生活自立度とは?
認知症高齢者の日常生活自立度は、認知症の程度や意思疎通の程度、症状や行動などに基づいて評価する指標です。
厚生労働省が基準を定めている公的な評価尺度です。
目的
では、この認知症高齢者の日常生活自立度はどのような目的で行われるのでしょうか?
ここでは…
- 介護の必要性を判断するため
- 介護保険サービスの利用者の自己負担金額を決定するため
- 介護職員が適切な介護を提供するため
…の3つについて解説します。
介護の必要性を判断するため
この自立度の判定目的は、認知症を抱える高齢者の日常生活自立度を適切に評価し、介護の必要性を分類することにあります。
認知症は認知機能の障害を伴い、日常の生活において支援が必要な場合があります。
この判定を通じて、個々の高齢者の介護ニーズを正確に把握し、適切な介護計画を策定する基礎を提供します。
介護者や関係者が必要なサポートを的確に行うために、認知症の進行に応じた介護の方針を確立する上での有益な指針となります。
介護保険サービスの利用者の自己負担金額を決定するため
また、この判定は、介護保険制度において要介護状態を認定する上での材料として活用されます。
要介護認定は、高齢者がどれだけの介護が必要かを判定し、介護保険サービスを利用するための条件を決定します。
言い方を変えれば、判定結果は利用者の自己負担金額を算定する際にも参考にされるということになります。
自己負担金額の明確な設定は、高齢者やその家族が介護負担を適切に把握し、サービスの選択や利用の計画を行う上で重要です。
介護職員が適切な介護を提供するため
さらに介護職員が認知症を抱える高齢者に対して、適切かつ個別化された介護サービスを提供する上での指針となります。
認知症は個人差が大きく、特定の介護アプローチが必要です。
日常生活自立度の評価により、認知機能の低下に応じたサポートやコミュニケーションの方法を理解し、個別のケアプランを立てることが可能となります。
これにより、高齢者自身がより良い生活を送ることが期待されます。
対象
「認知症高齢者の日常生活自立度」の対象は、認知症を発症した高齢者になります。
「認知症高齢者の日常生活自立度」についての情報を提供するだけであれば、医師の診断は必要ありませんが、認知症の診断や治療については、医師の診断が必要になります。
ランク
認知症高齢者の日常生活自立度のレベルと判断基準、見られる症状・行動をまとめると次のようになります。
ランク | 判 断 基 準 | 見られる症状・行動の例 |
---|---|---|
Ⅰ | 何らかの認知症を有するが、日常生活は家庭内及び社会的にほぼ自立している。 | |
Ⅱ | 日常生活に支障を来たすような症状・行動や意思疎通の困難さが多少見られても、誰かが注意していれば自立できる。 | |
Ⅱa | 家庭外で上記Ⅱの状態がみられる。 | たびたび道に迷うとか、買物や事務、金銭管理などそれまでできたことにミスが目立つ等 |
Ⅱb | 家庭内でも上記Ⅱの状態が見られる。 | 服薬管理ができない、電話の応対や訪問者との対応など一人で留守番ができない等 |
Ⅲ | 日常生活に支障を来たすような症状・行動や意思疎通の困難さが見られ、介護を必要とする。 | |
Ⅲa | 日中を中心として上記Ⅲの状態が見られる。 | 着替え、食事、排便、排尿が上手にできない、時間がかかる。 やたらに物を口に入れる、物を拾い集める、徘徊、失禁、大声・奇声をあげる、火の不始末、不潔行為、性的異常行為等 |
Ⅲb | 夜間を中心として上記Ⅲの状態が見られる。 | ランクⅢaに同じ |
Ⅳ | 日常生活に支障を来たすような症状・行動や意思疎通の困難さが頻繁に見られ、常に介護を必要とする。 | ランクⅢに同じ |
M | 著しい精神症状や問題行動あるいは重篤な身体疾患が見られ、専門医療を必要とする。 | せん妄、妄想、興奮、自傷・他害等の精神症状や精神症状に起因する問題行動が継続する状態等 |
注意点
判定における注意点としては次のようなものがあげられます。
- 認知症に関連する症状の特記事項への記載
- 「火の不始末」の適切な評価と特記事項への記載
それぞれ解説します。
認知症に関連する症状の特記事項への記載
非認定項目である「幻視・幻聴」、「暴言・暴行」、「不潔行為」、「異食行動」などについて、関連する項目の特記事項に詳細を追記する。
「火の不始末」の適切な評価と特記事項への記載
「火の不始末」は「4-12 ひどい物忘れ」で評価される際に、適切な選択肢を選び、具体的な状況を特記事項に具体的に明記する。