注意障害を評価する方法のひとつである”CAT”。
本記事ではこのCATについて解説します。
CATとは?
CAT(Clinical Assesment for Attention)は”標準注意検査法”と呼ばれている注意力を検査するツールです。
そもそも注意力というものを評価する際、その方法や尺度は評価者によって左右され、標準化されたスケールがなく非常に曖昧なものでした。
この打開策のためにCATが作られ、共通の尺度で標準化した評価によって注意力を評価することができるようになりました。
ちなみに開発には日本高次脳機能障害学会(旧 日本失語症学会)が中心になっていたようですが、7年もの歳月がかかったようです。
CATの特徴
CATの特徴として、評価項目が7つで構成されており、その7つの項目それぞれ異なった注意の質・種類を評価することができます。
そのため被験者は注意障害といってもどのような注意の能力低下を課題にしているのか?という部分を抽出できることが特徴といえます。
CATの目的
何度か触れているようにCATの検査目的としては”注意障害“を評価することにあります。
ただし注意障害の有無を判別するに限らず、その程度、質を把握することも目的としています。
注意障害によって被験者が今後日常生活上でどのような問題が浮上するか?を予測し、作業療法訓練につなげる…という使い方がおすすめかと思います。
CATの主な対象者
脳卒中や頭部外傷といった疾患によって、注意障害が疑われるような高次脳機能障害の方を主な対象としています。
検査環境について
CAT検査は注意障害についての評価を行うこともあり、できる限り外部からの騒音が届かない、集中して検査に向かうことができる環境(個室)が望ましいです。
また景色や物もなるべく被験者に刺激が入らないような工夫が必要です。
検者と被験者の一ですが、基本的には対面の位置で検査を行っていきますが、CPT(パソコン課題)を行う場合は、被験者の斜め後ろから確認する…といった工夫が必要です。
CATに使用する物品について
CATには以下のようなセットの物品があります。
- CPT検査用CD-ROM(1枚)
- 聴覚性検出課題用、PASAT用CD(1枚)
- 評価用紙(5部)
- プロフィール健常例(20歳代、30歳代、40歳代、50歳代、60歳代、70歳代・各5部)
- プロフィール右半球損傷例(5部)
- 視覚性スパン用図版(1枚)
- 視覚性抹消課題用用紙(4種類・各5部)
- SDMT用用紙(5部)
- 評価用透明シート(1枚)
- 上中下検査用用紙(5部)
検査時間について
パソコンを使用するCPTはそれ単独でも50分かかるため、後日実施する…という形式でも問題はないようです。
また、CPTを除いた6つのテストでもすべて実施するのに約50分かかります。
被験者への負担がかかるテストのため、一度に検査できないような場合は前半(①~③)と後半(④~⑥)に分けて行うことも可能のようです。
ただしその際はできるだけ間をあけず、1週間以内に完了するようにします。
CATの検査方法について
CATには…
- Span
- 末梢・検出検査
- SDMT(Symbol Digit Modalities Test)
- 記憶更新検査(Memory Updating Test)
- PASAT(Paced Auditory Serial Addition Test)
- CPT(Continuous Performance Test)
…といった下位検査があります。
以下にそれぞれ解説します。
Span
Spanの検査は単純な注意の範囲や強度を検討する目的で行われます。
(短期記憶の代表的検査とも言えます)
Spanの検査には『数唱』と『視覚性スパン』の二つがありその方法としては以下の通りになります。
数唱(Digit Span)
数唱は検者が読み上げた数列式をすぐに復唱する課題(forward)と、読み上げた数列式を逆からいう課題(backward)から構成されています。
それぞれ2桁から9桁まであり、第1系列、第2系列が設けてあるのが特徴です。
視覚性span(Tapping Span)
ここでは視覚的な記憶範囲を求める検査になります。
検者が検査図版に描かれた9個の正方形を順に指さし、被験者はそれをすぐに同じ順序で指さす…という課題(forward)と、逆の順番で指さす課題(backward)から構成されています。
数唱同様、それぞれ2桁から9桁まであり、第1系列、第2系列が設けてあるのが特徴です
末梢・検出検査
抹消・検出検査では“注意の持続能力”と“選択能力”が評価されます。
末梢・検出検査には『視覚性抹消課題』と『聴覚性検出課題』の2つがあり、その方法としては以下の通りになります。
視覚性抹消課題(Visual Cancellation Task)
課題遂行を邪魔する刺激(干渉刺激)の中に含まれたターゲット(目標刺激)をできるだけ速く、見落としがないように消していく…という課題になります。
図形2種類、数字、ひらがなの4つの課題から構成されています。
聴覚性検出課題(Auditory Detection Task)
付属のCDを使用し、提示される5種類の語音の中からターゲット語音である「ト」の音声に対して反応(タッピングetc)する課題になります。
干渉語音としては「ゴ」「ド」「ポ」「ゴ」とターゲット語音に呼び方が近い語音が使われます。
SDMT(Symbol Digit Modalities Test)
SDMTの課題では、適切にかつ同時に複数の情報に注意を配分する“注意の分配性”が評価されます。
SDMTは9つの記号と数字が記載された対応表をもとに、記号に対応する数字を記入していく…という課題になります。
問題数は110個であり、制限時間は90秒と設定されています。
この90秒以内にできるだけ多く反応することが求められています。
記憶更新検査(Memory Updating Test)
この記憶更新検査ではある情報を一時的に保ちながら他の操作を同時行う…“ワーキングメモリー(作動記憶)”が評価されます。
検者が連続して読み上げる数系列のうち、末尾3つ(3スパン)ないし、4つ(4スパン)を数唱課題と同様のやり方で復唱する…という課題になります。
3スパン、4スパンともA/B二つのセットがあり、各セット8問で構成されています。
PASAT(Paced Auditory Serial Addition Test)
PASATではSDMT同様“注意の分配性”が評価されます。
付属のCDで連続して提示される1桁の数字について、前後の数字を順次暗算で足していく検査になります。
CATにおけるPASATでは、数字の提示間隔が異なる2つの課題…つまり1つの数字を提示し終わってから次の数字の提示開始までの間隔が2秒の課題(2秒条件)、1秒の課題(1秒条件)によって行います。
どちらも問題総数は60個になります。
上中下検査(Position Stroop Test)
上中下検査では、ある刺激から次の刺激へと適切に切り替え、注意を移す能力…“注意の転動性”が評価されます。
3つの位置…上段、中段、下段に配属された上、中、下という漢字の位置を口頭で述べる…という課題になります。
この場合漢字を読むのではなくその位置を読むので、語の持つ意味が位置を判断するための妨害刺激として作用します。
CPT(Continuous Performance Test)
CPTでは様々な認知機能障害における持続的注意力を客観的に評価します。
この検査では提示された刺激のうちある一定の刺激に対してボタンを押す…ということが求められる検査になります。
またCPTでは『反応時間課題(SRT課題)』『X課題』『AX課題』の3つで構成されています。
反応時間課題(SRT課題):数字の7のみがランダムな間隔で80回表示されます。7が表示される度にできるだけ早くキーを押すことが要求される検査です。
X課題:1~9までの数字が400回ランダムに表示されます。その中でターゲットである7が表示したときのみできるだけ早くキーを押す…という課題です。
AX課題:X課題同様1~9までの数字が400回ランダムに表示されますが、このAX課題でのターゲットは“3の直後に表示される7”のみになります。
CATのカットオフ値、平均値について
CATのカットオフ値、平均値は年齢によって異なります。
著作権の関係上、詳細は記載できませんので公式に販売されている”CATプロフィール”に記載されている値を参考にすることが推奨されます。
適応外の例
CATはその検査方法から失語症や記憶障害を有する…つまり注意障害以外の高次脳機能障害がある方には検査を遂行するにあたっての影響をうける場合があります。
また認知機能低下の方では低成績になることが多く、純粋に注意障害を洗い出すことが困難になってしまいます。
参考
標準注意検査法(CAT)と標準意欲評価法(CAS)の開発とその経過