シフリンとシュナイダーのモデルは、人間の情報処理を自動性と制御のプロセスに分け、認知心理学に新たな視点を提供します。
本記事ではこのモデルの特徴や具体例などについて解説します。
シフリンとシュナイダーのプロセスモデルとは?
シフリンとシュナイダーの自動性と制御のプロセスモデルは、1977年にRichard Shiffrinと Walter Schneiderによって提唱された、人間の情報処理に関する理論です。
このモデルは、人間が情報をどのように処理するかについての理解を深めるために、特に注意プロセスに焦点を当てています。
特徴
シフリンとシュナイダーの自動性と制御のプロセスモデルは、1977年に発表され、人間の情報処理の仕組みを明確に理解するための重要な枠組みを提供します。
ここでは、このモデルの主な特徴として…
- 自動的プロセス
- 制御が必要なプロセス
…について解説します。
自動的プロセス
自動的プロセスは、意識的な努力を要せずに行われる認知活動です。
これにより、人間は複数のタスクを同時に効率的に処理することが可能になります。
例えば、熟練した運転手が車を運転しながら会話をすることができるのは、運転技術が自動的プロセスとして内部化されているためです。
このタイプのプロセスは、繰り返し行われることで発達し、一度習得されると、ほとんどの注意資源を必要としません。
自動性の主な利点は、その効率性と低い認知負荷ですが、一方で新しい状況に対する柔軟性が低下する可能性もあります。
自動的プロセスは、習慣や慣れによって形成され、変更が困難になることも特徴です。
制御が必要なプロセス
制御が必要なプロセスは、新しい、未知の、または複雑なタスクを処理する際に必要とされる認知活動です。
このプロセスは高度な注意と意識的な努力を要求し、新しい情報を学ぶ、問題を解決する、あるいは難しい判断を下す場合に使用されます。
制御プロセスは、その性質上、認知リソースを大量に消費するため、他の活動との同時実行が難しいことがあります。
また、疲労やストレスの影響を受けやすく、パフォーマンスが低下することもあります。
このプロセスの肝心な部分は、柔軟性と適応性であり、新しい状況に対応する能力を提供します。
シフリンとシュナイダーのモデルは、人間の認知プロセスがどのようにして自動化されたり、新しい状況に適応するために制御を必要とするかを示すものです。
この理解は、認知心理学、教育心理学、人間工学、AI技術など、多岐にわたる分野での研究や応用に影響を与えています。
シフリンとシュナイダーとは?
シフリンとシュナイダーは、認知心理学の分野で重要な貢献をした研究者です。
彼らは特に、人間の情報処理の仕組みに関する理論の発展に寄与しています。
以下に、それぞれの研究者について解説します。
Richard Shiffrin
リチャード・シフリンは、認知心理学者であり、特に記憶と注意に関する研究で知られています。
彼はインディアナ大学の心理学教授で、多くの重要な認知心理学の理論を提唱しています。
シフリンの研究は、人間が情報をどのように処理し、記憶するかに焦点を当てており、その中でも「自動性と制御のプロセスモデル」や「アテンションゲートモデル」と共に、ロバート・ノイザーと共同で発表した「多段階モデル」などが特に有名です。
これらのモデルは、情報の獲得、処理、保持、忘却のメカニズムを解明するための基礎を築きました。
Walter Schneider
ウォルター・シュナイダーは、同じく心理学者で、シフリンと共に「自動性と制御のプロセスモデル」を開発しました。
シュナイダーの研究は、視覚認知、記憶、注意力、神経心理学にまたがっています。彼は特に、脳の画像化技術を用いて認知プロセスを探求する研究においても貢献があり、人間の認知活動と脳機能との関連を明らかにすることに努めています。
シュナイダーの研究は、認知の神経生物学的基盤を理解する上で重要な役割を果たしています。
シフリンとシュナイダーのプロセスモデルにおける注意障害
では、もう少し具体的にシフリンとシュナイダーの自動性と制御のプロセスモデルを踏まえて、注意障害について考えてみます。
ここでは、このモデルが注意障害において持つ意義として…
- 自動的プロセスと注意障害の理解
- 制御プロセスの必要性と介入戦略
- 認知的過負荷の理解と管理
…という文脈から考えてみます。
自動的プロセスと注意障害の理解
注意障害のある個人は、一般的に、自動的プロセスの確立が困難であることが多いです。
例えば、ADHD(注意欠如・多動性障害)の子供たちは、通常の学習タスクを自動化することが難しく、常に意識的な努力を要することが一因とされています。
シフリンとシュナイダーのモデルは、これらの自動性の遅れや不足がどのようにして日常生活に影響を及ぼすかを説明するための枠組みを提供します。
習慣的な活動や日常的なタスクでさえも、注意障害のある個人にとっては大きな労力を必要とし、これが学業や職業生活での挑戦につながることを理解するのに役立ちます。
この理解により、より具体的かつ効果的な支援や介入策を設計することが可能になります。
制御プロセスの必要性と介入戦略
注意障害のある個人は、制御プロセスの使用にも困難を抱えがちです。
新しい情報の処理や複雑な課題の実行に際して、彼らはしばしば集中力を維持するのに苦労します。
シフリンとシュナイダーのモデルを用いることで、これらの課題が注意資源の配分と管理に関連していることを示すことができます。
特に、課題が新しく、未知のものである場合、これらの個体は通常よりも多くの認知的リソースを必要とします。
この知識をもとに、具体的な認知行動療法や教育介入プログラムを設計する際に、どのようなサポートが必要かを特定し、個別のニーズに合わせた介入を行うための方針を立てることができます。
認知的過負荷の理解と管理
注意障害のある個人は、しばしば認知的過負荷を経験します。
これは、制御が必要なプロセスが過度に要求されることに起因します。
シフリンとシュナイダーのモデルを適用することで、どのようにしてこれらの個人が日常的な課題において認知的リソースを速やかに枯渇させるかを理解することができます。
これにより、教室や職場での調整を行う際に、具体的な支援策(例えば、作業の細分化、休憩の導入、必要な情報の明確化など)を検討する基礎となります。
また、これらの認知的負担を軽減するための環境調整が、彼らのパフォーマンスを向上させ、ストレスを減少させることにつながることが期待されます。
シフリンとシュナイダーのモデルの具体例
「車椅子から立ち上がる際に車いすのフットレストに足を上げたまま立ち上がってしまい、転倒の危険が高い注意障害の患者」というリハビリ場面でよくあるケースについて、シフリンとシュナイダーの自動性と制御のプロセスモデルを用いて考えてみます。
ここでは…
- 自動的プロセスの誤動作
- 制御が必要なプロセスへの移行
- 訓練と適応
…という文脈から解説します。
自動的プロセスの誤動作
注意障害のある患者が車椅子から立ち上がる際にフットレストに足をかけたまま立ち上がってしまうケースでは、通常自動的に行われるべきプロセスが誤って動作していることが考えられます。
健康な成人の場合、立ち上がり動作は多くの繰り返しを通じて自動的なプロセスとして定着します。
しかし、注意障害のある患者では、この自動性が正しく機能しないため、本来ならば無意識のうちに行うべき動作が適切に行われないことがあります。
この自動性の誤動作は、適切な身体動作のタイミングや手順を誤ることにつながり、転倒などの危険を高める可能性があります。
制御が必要なプロセスへの移行
自動的プロセスの誤動作を補うために、注意障害のある患者は、立ち上がる動作を含めた日常活動において、より多くの制御が必要なプロセスに頼る必要があります。
このプロセスは、意識的な注意と努力を必要とし、患者は各ステップを意識的にチェックし、実行する必要があります。
たとえば、立ち上がる前には「まずフットレストから足を下ろす」という手順を意識的に思い出し、それに従って行動する必要があります。
このように意識的な制御を強化することで、安全な行動が保証され、転倒のリスクを減少させることができます。
訓練と適応
自動的プロセスの不備を補い、制御が必要なプロセスを効果的に用いるためには、繰り返しの訓練が必要です。
注意障害のある患者に対して、特定の動作や手順を繰り返し訓練することで、これらの動作を徐々に自動化することが目指されます。
訓練は、患者が安全に、かつ自信を持って動作できるようにするために、個別にカスタマイズされるべきです。
適応としては、このプロセスを日常生活に組み込むことで、患者が新しいスキルを自然な環境で使いこなせるようになることが重要です。
この段階的な適応と訓練により、患者は日常生活の中でより高い自立性と安全性を獲得することができます。
繰り返しの訓練による弊害
病院でのリハビリを行っていると、リハ室や病棟ではその動作は行えても、退院後の自宅では汎化しない…なんてことがよくあります。
訓練室で学んだスキルが自宅での日常生活に汎化しない問題に対処するためのヒントとして”エピソードバッファの理論”がおすすめかもしれません。