「人への教え方」ってすごい難しいと思います。
一つ一つ丁寧に手取り足取り教える方法から、「俺のやり方を見て覚えろ!」という方法まで…。
教える事、教わることは生まれた瞬間から始まるといってもいいかと思います。
そこで今回はこの「教える方法」の一つでもある“モデリング法”をテーマに解説します。
モデリング法とは?
モデリング法とは、端的に言うと…
何かしらの対象物をモデル(見本)にして、そのものの動作や行動を見ることで、同じような動作や行動をすること
…となります。
心理学用語の一つとして扱われている他、就労支援といった職業リハビリテーションや企業内での研修、教育の現場でも使用されているようです。
提唱者はアルバート・バンデューラ
またこのモデリングによる社会的学習ですが、理論的に説明、提唱しているのが“自己効力感”や“社会的学習理論”で知られるカナダ人心理学者である“アルバート・バンデューラ”になります。
1950年代後半、当時優勢であった行動主義学習理論(内的・心的状態に依拠せずとも科学的に行動を研究できるという主張)の中で、社会的学習理論(モデリングによる学習)を提唱した人物になります。
人間の成長は主にモデリングによって成り立つ
人間…特に子供が成長するためには、対象の動作や行動を見てマネすることから始まります。
つまりこの成長過程では、主にモデリングによる学習が必要不可欠ということになります。
モデリング法はいつ使用すべきか?
では、実際このモデリング法はどのようなタイミングで行うのがよいのでしょうか?
想定される場面や状況について…
- 新しい技能を習得する第1段階の時
- 言葉による指示と組み合わせて課題を明確にする手段として
- 間違って課題を行ったときに正しい答えを教えるための修正手続きとして
…の3つにまとめて解説します。
新しい技能を習得する第1段階の時
どんな人でも一番初めに新しい技能を習う際にはどのように始めたらよいかわからないのが当然です。
同時に、教える側もどのように教えたらよいのか迷うことも多いかと思います。
モデリング法はまさに”最初の教示方法”として非常に有益な方法と言えます。
言葉による指示と組み合わせて課題を明確にする手段として
教わる側が取り組む課題が明確に理解していない状況下では、どのような手段で教えてもなかなか身につくことはないかもしれません。
モデリング法によって、見本を視覚的に見せ、口頭での指示と組み合わせることで”課題の明確化”が行え、より理解しやすい教示にすることができます。
間違って課題を行ったときに正しい答えを教えるための修正手続きとして
その課題に対して取り組み方が誤っている場合、モデリング法を使用することでよりわかりやすく、かつイメージにつなげて”修正”することができます。
ただ闇雲に「そのやり方ではダメだ!」と指摘するだけではミスうに気づいても修正にはつながらないのです。
モデリング法のメリット・デメリットについて
では、このモデリング法におけるメリット、デメリットについて解説します。
メリット
モデリング法の最大のメリットとしては…
- 短時間でに上達しやすい
…という点になります。
その課題をクリアするための手法を指導者が行うように真似ることで取り組むので、必然的に成功率は高くなります。
デメリット
その一方、モデリング法のデメリットとしては、
- 自分の価値観を捨てる
- 自分の考え方を手放す
…という点になります。
指導者の教示した方法を真似ることでその課題に取り組むので、短時間で達成はすることはできても「本当に自分だけの力で達成できたのか?」という疑問は残りやすいと言われています。
モデリング法の応用的手法について
上記のようなモデリング法のデメリットを回避するためにも、モデリング法には応用的な手法があります。
それが次の3つになります。
- 順行性チェイニング
- 逆行性チェイニング
- シェイピング
以下に詳しく解説します。
順行性チェイニング
順行性チェイニング(forward chaining)とは、その課題を工程順に教えていく手法になります。
最初のステップから1つずつやらせることでその課題をクリアしていく…という方法です。
逆行性チェイニング
逆行性チェイニング(backward chaining)とは、その課題の最後の工程から教えていく手法になります。
- 7つのステップで構成されている課題の場合
- 1~6までは指導者が行う
- 最後の7番目のステップのみ対象者が行う
- その後徐々に指導者が行うステップ数を最後のステップから減らしていく
…こんな方法になります。
シェイピング
シェイピング(shaping)とは、目的とする行動の変化にたどり着くために、その方向で少しだけやりやすい変化をもたらす所から始め、”徐々に目的に近づけて行くやり方”になります。
“逐次接近法”とも呼ばれる方法で、行動分析学の創始者である“バラス・フレデリック・スキナー”によって開発されました。
このシェイピングは、すでにその行動をどのようにすればよいか知っていても、その仕方が今ひとつ上手くいかない場合に用いられます。
はじめはどれにでも強化しますが、その後は強化を中止し消去します。
それによって、対象者は強化された反応と似た反応を試行錯誤で繰りかえすようになり、反応のレパートリーを増やしていき、その結果目的とする行動を身につけさせる…という方法です。
必要なのは組み合わせること
「人に何かを教えること」って非常に難しいです。
モデリング法を使用することで短時間で習得はできる反面、オリジナリティやイノベーションの喪失の危険性も含みます。
そのメリット、デメリットを理解したうえで、応用的手法を組み合わせて指導や教示をすることでよりわかりやすい方法にたどり着けると考えられます。
まとめ
今回は、モデリング法を中心にそのメリット、デメリット、そして応用的手法である順行性・逆行性チェイニング、シェイピングについて解説しました。
「人への教え方」って非常に属人的になってしまう傾向があります。
それよりは、ある程度画一的な方法で基礎的な能力の底上げを図る…って方法も必要なんだと思います。

