日常生活を営むには、様々な予定を実行しないといけません。
そして将来なにをするか?を記憶しておく「展望記憶」が必要です。
でも記憶障害の方はこの展望記憶が障害されることで…
- 「あれ?何をすればよいんだっけ」
- 「え?そんな予定あった?」
…と約束事を覚えておくことができなくなります。
これは生活するうえでは大きな問題になります。
そこで今回は記憶障害に関わる展望記憶について解説します。
展望記憶とは?
展望記憶(Prospective memory:PM)とは…
未来に予定されたタスクやアクションを覚えておき、適切な時に実行することができる能力
…を言います。
展望記憶の例は?
例でいえば…
- 午後の2時に恋人とデートにいく
- 今日の夜に宿題を終わらせる
- 来月に病院の受診がある
…などがあげられます。
これらは未来に予定されている事柄です。
これらを覚えておき、それを実行するために必要な情報を取得することができるようにすることが展望記憶の主な役割になります。
展望記憶の歴史について
ニューヨーク州立大学バッファロー校の名誉教授であるJohn A. Meachamが、1970年代初頭に研究を開始したとされています。
1975年にシカゴで開催されたアメリカ心理学会の会議で発表された彼の論文は、心理学者であるUlric Neisserが1982年に発表した本「Memory Observed: Remembering in Natural Contexts.」に引用され広く注目を集めました。
これ以前は、John A. Meachamの論文と彼による他の3つの論文はほとんど注目されていませんでしたようです。
John A. Meachamはこの「将来の記憶」を、「帰宅途中に店に立ち寄るなどの将来の行動に影響を与える情報」と定義し、「展望記憶」という用語を導入しました。
また、過去からの情報の想起に関連する回想的記憶と区別しました。
展望記憶の種類について
展望記憶には大きく分けると2種類あります。
- 時間基盤型展望記憶
- 事象基盤型展望記憶
以下にそれぞれ解説します。
時間基盤型展望記憶
時間基盤型展望記憶(Time Based Prospective memory:TBPM)は、時間的な基準に基づいて計画したことを実行するための記憶になります。
例えば、「午後3時に銀行にいく」などがあげられます。
これは、時間が経過したときに、自分が予め設定した時間に適切な行動を起こすための記憶です。
事象基盤型展望記憶
一方、事象基盤型展望記憶(Event Based Prospective memory:EBPM)は、特定の事象が起こったときに計画したことを実行するための記憶になります。
例でいえば、「銀行に行ったら、お金をおろすだけじゃなく通帳も記帳する」になります。
特定のイベントが起こった時に、それに対するアクションを起こすことを覚えておくための記憶ですね。
展望記憶のプロセスメカニズム
将来の予定を忘れずに行うために必要な展望記憶ですが、脳内ではどのようなメカニズムが背景にあるのでしょうか?
簡単に言えば…
- 将来の予定を覚える(符号化)
- その予定を覚え続ける(保持)
- 思い出す(想起)
- 実行する(遂行)
…の4つのステップがあります。
以下に解説します。
将来の予定を覚える(符号化)
まず将来行うべき予定を覚えるステップです。
これは「符号化」とも呼ばれます。
符号化とは、新しい情報を脳にとりこんで記憶に保存するために必要な過程のことを言います。
将来行う予定やタスクの実行のためには、そもそもそのこと自体を記憶情報として保持しておく必要があります。
「記銘」とも呼ばれるプロセスですね。
例:「3時に銀行に行ってからスーパーで卵を買う」
その予定を覚え続ける(保持)
予定を実行するまでには、その予定を覚え続けないといけません。
これを難しく言えば「保持」と言います。
でも予定を実行するまでは、予定に関係あることも関係ないことも情報として入ってきてしまいます。
それに邪魔されずに保持しておかないといけません。
- 予定に関係あること:背景課題
- 予定に関係ないこと:忘却干渉
…とするなら、いかに他の情報に干渉されず、背景課題をこなしながら符号化した情報を保持しておくかも重要です。
例:
- 3時に銀行にいてからスーパーで卵を買う…そのために、着替えをして銀行のカードが入った財布を持っていく(背景課題)
- 3時に銀行にいてからスーパーで卵を買う…前に友人から電話が来て、話終わったら何をするのか忘れてしまった(忘却干渉)
思い出す(早期)
将来行う予定を覚えておくだけでなく、適切なタイミングで思い出す必要があります。
符号化して保持した将来の予定思い出すことをちょっと難しく言うと「存在想起」と言います。
例でいえば「なんか予定があったな…」と思い出すことが存在想起です。
それに対し「3時に銀行に行ってからスーパーで卵を買う」と細かい内容まで思い出すことを「内容想起」と言います。
この想起のためにはきっかけが必要です。
この将来の予定を思い出すためのきっかけを「展望記憶手がかり(PM cue)」と呼びます。
簡単に「cue」とも言ってしまいます。
そしてこのcueも…
- 自発的に行えるのか(自分で「あ、3時に銀行とスーパーに行って卵買わなきゃ」と思い出す)
- 外部のものに頼るのか(3時に「銀行、スーパー、卵買う」とリマインダーをセットする)
…の2つがあります。
実行する(遂行)
符号化し、保持し続けた将来の予定を想起したら、適切なタイミングで実行する必要があります。
この実行するには、展望記憶だけでなく遂行機能や注意機能が関わってきます。
なので、厳密に言えば展望記憶の領域に含まれないような気もしますが…どうなんでしょ?
疑問
ちなみに論文や文献などもみてみましたが、どうしても背景課題についての解釈に疑問を持っています。
展望記憶障害の論文内での実験などでは、背景課題と忘却干渉課題が混合してあるような気がします。
もしうまいこと解説できる方がいましたら、ご連絡ください。
まとめ
本記事では、展望記憶について解説しました。
記憶障害という高次脳記憶障害のクライアントに対しては、どのようにリハビリを行ったらよいのか迷うことが多いと思います。
少しでも参考になれば幸いです。