排泄動作はADLのなかでもプライベートな要素を含んでいることから、非常にデリケートな問題になってきます。
その中でも、尿失禁ひとつとってもその原因は様々です。
失禁対策やリハビリでトイレ動作の自立を目指すためにも、尿失禁の種類や症状の違いを知ることが前提となります。
そこで今回は“尿失禁”の5つの種類とその症状について解説します。
尿失禁とは?
まず尿失禁とは…不意に尿が漏れる状態と定義されます。
つまり、自分の意志とは関係なく尿が漏れる状態…ということです。
尿失禁の統計について
では、どの程度の高齢者の方は尿失禁を起こしてしまうのでしょうか?
高齢者失禁ガイドラインによれば…
- 在宅者の10%
- 施設入所者の50%
…に尿失禁がみられると報告されています。
また…
- 60歳以上の高齢者の50%以上に尿失禁がある
- その実数は300万人とも400万人ともいわれている
…とも報告されています。
このガイドラインは平成12年に発表されたものなので40年近く前のものになりますので、現代の統計とは実数にはズレがあるかと思います。
しかし、EBMに基づく尿失禁診療ガイドラインによれば、2040年台には約1000万人の高齢者が尿失禁を有するかもしれないという推測が記載されています。
尿失禁の種類について
今後社会的にも大きな課題になる尿失禁ですが、その種類について考えてみます。
尿失禁は、病態に基づく分類によって次の5つに分けられます。
- 腹圧性尿失禁
- 切迫性尿失禁
- 溢流性尿失禁
- 機能性尿失禁
- 反射性尿失禁
*この5つの他に、特殊な尿失禁として“尿道外尿失禁”と“小児夜尿症”が含まれます。
尿失禁の種類と病態、その基礎疾患について
尿失禁の5つの種類と、それぞれがどのような病態か、またどのような基礎疾患が背景にあるのかは以下の表を参照にしてみます。
尿失禁タイプ | 病態 | 基礎疾患 |
---|---|---|
腹圧性尿失禁 | 尿道過可動 | ・加齢・分娩・骨盤内手術・先天性骨盤底形成異常 |
内因性尿道括約筋不全 | ・放射線治療・尿失禁手術・婦人科手術・萎縮性尿道炎(エストロゲン低下)・特発性 | |
切迫性尿失禁 | 排尿筋過活動 | ・脳血管障害・パーキンソン病・多発性硬化症・加齢・尿路感染・特発性 |
溢流性尿失禁 | 下部尿路閉塞 | 前立腺肥大症・尿道狭窄 |
排尿筋低活動 | ・糖尿病性ニューロパシー・骨盤内手術(直腸癌・子宮癌)・腰部椎間板ヘルニア、など | |
機能性尿失禁 | トイレへの移動障害 | ・認知症・ADL障害・寝たきり |
反射性尿失禁 | 排尿筋過活動 | ・高位脊髄損傷、など |
*参考:EBMに基づく診療ガイドライン作成の手順
腹圧性尿失禁
腹圧性尿失禁の定義についてですが…
尿道抵抗の低下により、腹圧時の膀胱内圧上昇が尿道抵抗を上回り、膀胱収縮を伴わずに尿が漏れるもの
…とされており、女性の尿失禁の3分の1以上がこのタイプになります。
走ったり、くしゃみをしたり、重い物を持ち上げたりすることをきっかけに尿漏れの症状が起こる場合です。
切迫性尿失禁
切迫性尿失禁の定義としては…
蓄尿時に急に強い尿意(尿意切迫感)を伴う不随意の膀胱排尿筋収縮が起こり、尿失禁が起こるもの
…とされています。
“UUI(Urgency Urinary Incontinence)”という略称で言われ始めてもいる症状です。
力を入れてもいないのに尿漏れしたり、トイレに駆け込もうとして目の前で間に合わない…といった場合がこのUUIに当てはまります。
溢流性尿失禁
溢流性尿失禁の定義としては…
尿排出障害のため、膀胱内に顕著な残尿があり、常に膀胱が充満した状態となるため、膀胱内の尿があふれて少しずつ漏れる状態
…とされており、これは常に膀胱内に残尿が残っている状態です。
このことから、尿意がはっきりしている場合は頻尿にもなりやすくなります。
機能性尿失禁
機能性尿失禁の定義としては…
膀胱尿道機能に関係なく、認知症や身体運動障害のため、トイレ以外の場所で尿を漏らす状態
…とされています。
この場合は、排尿機能は正常であっても、身体機能や認知機能の低下によってトイレに間に合わない…という場合が当てはまります。
反射性尿失禁
反射性尿失禁の定義ですが…
尿意を伴わず、膀胱内に尿が溜まると膀胱収縮反射が不随意に引き起こされ、尿が漏れるもの
…とされていて、主に高位の脊髄損傷の患者に見られる症状です。