障がい者を雇用することのメリット・デメリット【ビジネス、経営、マネジメント的な視点からの再考】

障がい者を雇うことは企業の義務の一つです。
でも、業務遂行に大きな支障をきたしたり、利益につながらず事業そのものを圧迫するのであれば、それは「負担」になります。
本当に障がい者の雇用を推進したいと願うなら、雇用する側である企業や事業主にとっての利益になるようにするのも、就労支援における重要な業務なのだと思います。

そこで今回は障がい者を雇うことでのいくつかのメリット、デメリットについて考えていきます。

本記事が少しでも、障害を持つ人のを雇うことになったけど、経営を圧迫しないかどうか心配…な企業の方の一助になれれば幸いです。

障がい者を雇用することでのメリット

まず、障がい者を雇用することで期待されるメリットを深堀していきます。
考えられるメリットとしては次の通り。

  • 助成金、報奨金の獲得
  • 企業そのものの価値の向上と競合への差別化
  • ステークホルダーからの信頼の獲得
  • 優秀な人材を確保できる可能性がある
  • 優秀な人材に育てるノウハウが取得できる
  • ワークシェアリングの促進が図れる
  • 社内コミュニケーションの向上
  • マネジメント能力の向上
  • ダイバーシティの推進
  • イノベーションを起こすことができる

以下に詳しく解説します。

助成金、報奨金の獲得

障がい者の法定雇用率を満たしている企業には、“障害者雇用調整金”や“障害者雇用報奨金”として雇用している障がい者数に応じて行政から受給できる制度になります。
事例として、関東で約150の店舗のスーパーマーケットを経営している企業では、各店舗、1~2人の障がい者を雇用することで障がい者雇用率約2.28%となり、その結果年800万円の障がい者雇用調整金を受けているようです。

もちろん障がい者でも長く働きやすい環境にするための努力は必要ですが、その先にはこういった行政からの経済的支援も見込めることはメリットとしてあげられます。

企業そのものの価値の向上と競合への差別化

一般的に障がい者雇用=社会的責任(CSR)活動とされています。
このCSR活動によって得られる恩恵はなにかと考えると、なにより企業や事業そのもののブランディングとしての側面が強いと考えます。
現代では新しい商品やサービスを立ち上げたとしても、技術の発展からすぐに同様のサービスが現れ競合が増え、その結果価格競争の渦にまきこまれてしまいます。
そうなると、商品やサービスそのものの価値だけでなく、それを扱う企業そのものの価値を向上させる必要性が高まってきます。

CSR活動に力を入れている企業としてのブランディングに加え、国ですら水増しするほどの難渋するであろう障がい者雇用に積極的に取り組んでいるということは、非常に競合との差別化を生むことになります。

ステークホルダーからの信頼の獲得

ステークホルダーとは、株主・債権者・消費者・従業員、地域社会といったその企業に直接的、間接的に利害を与えるものを指します。
障がい者雇用といったCSR活動に力を入れている企業は、こういったステークホルダーからの信頼を獲得することにつながります。

マズローの5段階欲求のピラミッドからもわかるように、人間には自己実現欲求という高次の欲求があります。
「自分にしかない能力を試したい」「自分の限界に挑戦したい」という欲求とされる自己実現欲求ですが、この欲求の特徴として無償性を含んでいるという点があげられます。
つまり「社会の役に立ちたい」という欲求です。
マズローの5段階欲求の理論からすれば、この自己実現欲求は中核的なものであり、すべての欲求は自己実現欲求につながっていくとされています。

ステークホルダーにとって、自分が関わる企業が社会貢献に力を入れているという事実は、この自己実現欲求を満たすための手段として認識することができます。
その結果企業そのもののステークホルダーからの信頼を獲得することができ、企業体力の向上につながっていきます。

優秀な人材を確保できる可能性がある

そもそも“障がい者=劣悪な労働資源”と捉えていること自体非常に企業側の損失だと思います。
障害の程度によってはまったく健常者と同じように働ける人材もいれば、障害の種類によっては健常者よりも抜き出た才能を持っている人材もいます。

現代では“優秀な人材”とされるいくつかの基準として…

  • 応用力
  • 忍耐力
  • 優先順位の決定力

…などがあげられます。
これは完全に個人が元々持っている才能によるもので、良くも悪くもオールマイティな才能になります。

しかし劣悪な労働資源と捉えられがちな障がい者が持つ才能を、その企業や事業主が“採掘”すること。
その才能にマッチした業務の提供、環境の整備を行う“調整”をすることで、非常に優秀な人材に変化する可能性は十分にあります。

優秀な人材に育てるノウハウが取得できる

「優秀な人材を確保できる可能性がある」の項目に続きますが、障がい者の持つ才能を引出すこと、強化すること、そしてその才能に合った業務や環境をマッチングさせる過程で培ったノウハウは、「優秀な人材育成」のための重要な情報資産になり得ます。
そしてこのノウハウは健常者である一般職員に対しても流用することができます。

つまり、長期的にみれば企業側の全体の業務改善につながっていくことができます。

ワークシェアリングの促進が図れる

ワークシェアリングとは、「仕事の分かち合い」を意味します。
これによって労働者1人当たりの労働時間を短縮することができ、社会全体の雇用者数を増やそうとする厚生労働省が推進している政策になります。
1日の業務量を細分化し、そのなかで優先順位や業務遂行の難易度、種類別に分け、その業務を「できる人に適切なタイミング、適切な業務量で分配する」ことで労働時間の短縮、一人一人の負担の軽減につなげられます。

障がい者が働く上で重要な点は…

  • できることをみつけること
  • 負担のない業務量に調整すること
  • 長期的に継続できる労働時間に調整すること

…になります。
この点からもワークシェアリングの本質とこの障がい者雇用は非常に親和性が高いと考えられます。

社内コミュニケーションの向上

障害の有無に関わらず、離職の原因の多くは「職場の人間関係」であることは事実ですし、多くの人がイメージできるかと思います。
職場の人間関係は結局のところコミュニケーションによるものが大きいです。

よく勘違いされるのが、「良いコミュニケーション」というのはただ闇雲にベタベタ仲良くすることではないということです。
必要なのは“適切な距離感”であり、これは多くの人が働く職場ならなおさらです。

精神障害の方はこの適切な距離感を取ることが非常に難しいとされています。
距離が近すぎるとそれは“依存”になり、距離が遠すぎると“拒絶”になります。
でもこれは健常者でも同じことです。

精神障がい者の社員との距離の取り方を身につけることは、他の健常者の社員とのコミュニケーションの取り方への向上が期待できます。
これは企業…特に経営の立場にいる人は知っておくべき視点だと思います。

マネジメント能力の向上

仕事は突き詰めるところマネジメントで大きく向上します。
そもそもマネジメントとは、「経営管理」などの意味を持つ言葉になります。

組織の目標を設定し、その目標を達成するために組織の“経営資源”を効率的に活用するだけでなく、“リスク管理”も実施する…これがマネジメントであり経営管理になります。
つまり、ひとつの“目標”を達成するために、複数の“経営資源”と“リスク管理”を行わなければなりません。

この能力は個人にも求められますが、企業という組織においては上の立場になればなるほど強く求められるようになります。
様々な多種多様な“経営資源”と“リスク管理”を上手に扱うことができないとその企業はやはり成長しにくくなってしまいます。
障がい者雇用を通して、このマネジメント能力を鍛えていくという発想も、企業にとっては必要になってくると思います。

ダイバーシティの推進

現代社会で謳われ始めた“ダイバーシティ”という概念。
ダイバーシティとはそもそも「多様性」という意味であり、これは「多様な人材を積極的に活用しようという考え方」ともされています。
性別、年体、性格、学歴、価値観の違いを柔軟に受け入れ、積極的にその多様性を活かしていく能力が企業には求められます。

これは少子高齢化がますます進んでいく社会で必要不可欠な考え方です。
もちろん障害の有無もダイバーシティに含まれます。
社会全体がこの多様性を受け入れていく流れになっている今、企業もその流れに順応していく必要があります。

イノベーションを起こすことができる

企業が生き残るにはブランディングと差別化が重要です。
そのために障がい者雇用はCSR活動の観点からも有益であることは前述しました。

加えて、障がい者雇用は非常にイノベーションを起こすことにも有益なことだと考えます。
イノベーションとは物事の…

  • 新結合
  • 新機軸
  • 新しい切り口
  • 新しい捉え方
  • 新しい活用法

…を創造する行為のことで、商品、サービスだけでなく、新しいアイデアから社会的意義のある新たな価値を創造することともされています。
このイノベーションを起こすために必要なことは、なによりも「多種多様な情報の収集」です。

この多種多様な情報とは、「生活のしにくさ」をなにより感じている障がい者がもつ情報が非常に重要だと考えます。
つまり障がい者の生活自身が、非常にイノベーションに繋がる情報にあふれているという視点です。

企業が障がい者雇用をただの“社会的な義務”としてみていることや“経営や業務の負担”として扱うことは、このイノベーションを起こす機会損失になってしまうことにそろそろ気づくべきかもしれません。

障がい者を雇用することでのデメリット

もちろん障がい者を雇用することにはメリットだけではありません。
もちろんデメリットも考えられます。
想定されるものとしては次のとおりになります。

  • 業務スピードの低さ
  • 差別と偏見がある
  • 環境やインフラの調整へのコスト

以下にそれぞれ解説します。

業務スピードの低さ

身体障害でも精神障害でも、やはり健常者と比較すると業務スピードやペースが遅いことは多いようです。
業務内容にもよるでしょうが、より早いスピードを求められる業務の場合、企業にとってはこれは大きなデメリットになります。

差別と偏見がある

障害者差別解消法があり、「障害がある人を差別していけない」という社会的なルールがあったとしても、差別や偏見がなくならないことは事実です。
これは障害の有無に関わらず、性別、出身地、年齢、教育歴、価値観、結婚歴、趣味や嗜好…様々なものを切り口に差別や偏見は生まれます。

この差別や偏見が生まれる要因としては“スケープゴート理論”や“内集団バイアス”といった心理学的背景があります。
やはり多数の人が集団として所属する企業では全く皆無にするということは難しいとされています。

結果として社内の人間関係の軋轢につながり業務遂行の悪化を招くというリスクだけでなく、離職率の向上、定着率の低下となり企業イメージの低下を招いてしまいます。

環境やインフラの調整へのコスト

身体障がい者の場合は環境整備へ、精神障がい者や発障がい者の場合は指示や連絡方法、作業手順といった環境調整が必要になります。
こういったインフラの整備、調整には大なり小なり経済的、人的、時間的コストがかかります。

このコストが障がい者雇用によって得られる恩恵を上回ると、明らかに企業へのダメージとなり“障がい者雇用=デメリット”となってしまいます。

まとめ

本記事では、障がい者を雇用することのメリット・デメリットについて解説しました。

障がい者を雇用することは企業にとってメリットがあるものにしなければなりません。
これは作業療法士をはじめとした障がい者雇用を支援する側、障がい者を雇用する企業側だけでなく、雇用される人材である障がい者自身にも課せられた課題です。
障がい者を雇用することでのメリット、デメリットをそれぞれが理解することと、責任は自分にあるという心がけが何より重要なのかなと思うんです。

こうやってメリット、デメリットを比較すると、メリットの方が多いような気がします。
ただ障がい者を雇用することをメリットとするには、支援者、企業、障がい者それぞれが「考え方」「捉え方」を変える事と、他者への「配慮」が必須であり前提になると思うんです。

企業が「障がい者を雇ってやってるんだぞ!」って言うのも横暴ですし、障がい者が「俺は障害があるんだからもっと配慮しろ!」って言うのも間違ってますからね。

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