職業復帰に必要な4つの基準(クライテリア)【どのくらい能力があれば仕事ができる?】

ここ最近は、比較的若い年齢で脳卒中になられた方のリハビリを行う機会が多くなっている印象を受けます。
まだまだ働き盛りの世代の方ですので、職場復帰や就労支援なども行っています。

その中でも、脳卒中を発症後でも職業復帰につながるケースと、そうでないケースの両極端に分かれてしまいます。
その原因はどこにあるのでしょうか?

今回は脳卒中後の職業復帰に結び付く基準や尺度(クライテリア)について解説します。

本記事が少しでも、脳卒中クライアントの職場復帰のリハビリを行っているけどどうしたらよいか悩んでいる…という作業療法士の方の一助になれれば幸いです。

脳卒中後の職業復帰に必要な要素について

Melamedらの論文を参考にすると、脳卒中後の職場復帰に必要な要素については次の4つがあげられます。

  • ADL遂行能力が高い
  • 疲労なしに少なくとも300mの距離を歩行できる
  • 作業の質を低下させないで、15秒以上の精神的負荷を維持できる
  • 障害の受容ができている

これらの4つを、職業復帰に結びつく総合的な尺度・基準(クライテリア)として示しています。
では、以下にそれぞれ解説します。

ADL遂行能力が高い

クライアント自身の、基本的な動作や活動が行えるかどうかは雇用する企業、事業所にとっても一つの基準として捉えられます。
当たり前といえば、当たり前なのですが、自分の身の回りのことが一通り自立レベルになることで初めて「就労できる」…という考え方が一般的ということですね。

FIMで言えば、運動項目の各項目がすべて6点以上が求められる…ということになります。

疲労なしに少なくとも300mの距離を歩行できる

“歩行”という点で移動手段が限定されているのはやや疑問ではありますが、確かに移動手段が歩行で可能ならなお復職には有利…という判断で問題ないのかと。
300m疲労なしに歩くことができる…という点から、職場復帰するためにはある程度の耐久性も必要という解釈なら納得はいきます。

作業の質を低下させないで、15秒以上の精神的負荷を維持できる

これを評価するためにはなかなか難しいなと思ってます。
何を持って“作業の質”を判断するのかにもよりますし、どのような精神的負荷なのかも曖昧です。
俯瞰的な視点で見れば、ある程度の精神的な抵抗力が必要…という解釈でいいのかもしれません。

臨床的な印象になってしまいますが、「急な変化や突発的なアクシデントに対してパニックにならずに作業を継続できる」という視点かなと思います。

障害の受容ができている

この障害の受容というのは、復職をし、職業生活を送る上で「自身の特性」を客観的に知ることと言えます。
自身の障害による弱みをしっかりと把握することで、就労するうえでのリスクヘッジに繋がっていきます。

以上の4点が脳卒中後の職業復帰に必要な4つのクライテリアと言われているものです。

職業復帰し継続していくためには本人だけの力では限界があります。
ただ、脳卒中後の復職、職業生活を成功させるためには、そのクライアントを取り巻く環境への配慮も必要です。

次にこの環境因子について考えてみます。

脳卒中後の復職を成功に至らせる環境要因

様々な論文でも言及されていますが、脳卒中後の復職、職場復帰を成功させるための環境要因としては次の4つになります。

  • 職業的な方向性をもったリハビリテーションの提供
  • 雇用主の柔軟性
  • 社会保障
  • 家族や介護者からのサポート

以下に解説します。

職業的な方向性をもったリハビリテーションの提供

復職や就労支援といった職業リハに関わる人ほど、「早期からの職場復帰を意識した介入」の必要性を感じています。
これは急性期、回復期の病院での作業療法場面でも同じことです。

  • まだ歩けないうちから職場復帰のことを考えても仕方がない
  • ADLが自立してから、ゆっくり仕事のことを考えましょう

支援する作業療法士側はこんな意見では、正直言って遅すぎます。
これはあらゆる研究でも言われています。

精神疾患の方を対象とした復職支援プログラムである“IPS”で謳われている「Train-Placeアプローチ」よりも「Place-Trainアプローチ」が復職支援の成功につなぎやすいという事実は、脳卒中だけでなく様々な障害を持つ人への復職支援にも当てはめることができるはずです。
少なくても、クライアントの目標が復職であるなら、早期から復職をイメージしたトップダウンアプローチによる作業療法支援を行うべきだと思います。
この考え方は、place-then-trainモデルで説明ができます。

雇用主の柔軟性

とは言っても、復職はクライアントや支援者だけで成り立つものではありません。
受け入れる雇用主によって左右されることも事実と言えます。
この雇用主の柔軟性についてですが、どのような雇用形態を取るか?ということになります。

一般的な9:00~17:00のフルタイム勤務ではなく、パートタイムなら可能なのか?それとも業務の一部を任せることで可能なのか?
もちろんこれは雇用主の経営的な損害を受けない範囲での配慮を考えないといけませんので“両者の折衷案”の部分が理想なのかもしれません。

社会保障

この場合の社会保障は、雇用主への助成金といった社会保障も含みます。
前述したように、障害を持ったクライアントを企業が雇用することにおいては、なにかしらの「メリット」がないといけません。
それはCSRといった企業の社会貢献的な意味合いとしてや、国から受給される助成金もあると思います(現実的な話としてね)。

でも、やはり障害を持つクライアントが働くことでの企業経営への貢献できるというメリットを見出さないといけなくなります。
法律で決められた義務である障害者雇用を、法律に関係なく積極的に障害者を雇用することで生まれるメリットも見出していくことも、広義の意味では作業療法士の業務になると思います。

家族や介護者からのサポート

復職や職業生活への理解だけでなく、生活面、精神面でのサポートも必要です。
これは長い職業生活において必要不可欠なことであるため、作業療法士はこの人的環境へのサポートや支援も必要と言えます。

まとめ

本記事では、脳卒中後の職業復帰に結びつく基準や尺度について解説しました。

復職という社会参加に至るには本人・環境の“どちらか”ではなく“どちらも”支援が必要と言えます。
その為には作業療法士が持つ知識や技術を使うこと、病院や医療職に限らず他職種を巻き込んで支援していく体制を作っていくことが必要と言えるのではないでしょうか?

参考論文

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