FIM(Functional Independence Measure)の食事評価は、患者が自立して食事を摂る能力を評価し、必要な介助量を測定する重要な指標です。
本記事ではFIMの食事を評価する際の採点対象や基準、注意点などについて解説します。
FIMにおける食事の評価について
FIM(Functional Independence Measure)における食事の評価は、日常生活動作(ADL)の介護量を把握するための重要な評価方法です。
具体的には、食事が適切に用意された状態で、適切な食器を使って食べ物を口に運ぶ動作から咀嚼し嚥下するまでが含まれます。
FIM(食事)の評価対象の項目
FIMにおける食事動作の評価項目は…
- 適切な食器・道具を使うこと
- 食べ物を口に運ぶ動作
- 咀嚼し、嚥下すること
…になります。
それぞれ解説します。
適切な食器・道具を使うこと
FIMにおける食事の評価の一つ目は、適切な食器や道具を使用する能力です。
これは、患者が自分の手でスプーンやフォーク、ナイフなどの食器を使えるかどうか、また特別な補助具が必要な場合、それを正しく使いこなせるかを評価します。
この評価では、患者がどの程度のサポートなしで食器を操作できるかが重要視されます。
例えば、手の震えや筋力の低下がある場合、特別な持ちやすい食器や滑りにくいマットを使用することで自立度が向上する場合があります。
このような補助具の使用も含めて、適切に食器を使う能力を評価することは、患者の自立した食生活をサポートするために不可欠です。
食べ物を口に運ぶ動作
FIMの二つ目の評価対象は、食べ物を口に運ぶ動作です。
この動作は、手や腕を使って食べ物を口に運ぶ一連のプロセスを指します。
患者が自分でスプーンやフォークを使って食べ物をすくい取り、それをこぼさずに口まで運ぶことができるかどうかを評価します。
ここでは、動作の正確さやスムーズさが重要となります。
また、この動作を行う際に必要な手の協調性や腕の筋力も評価のポイントです。
例えば、脳卒中後のリハビリを受けている患者では、この動作が困難になることが多く、練習やリハビリテーションを通じて改善を図ることが求められます。
自分で食べ物を口に運ぶ能力を維持または向上させることは、患者の自立した生活を支える重要な要素です。
咀嚼し、嚥下すること
三つ目の評価項目は、咀嚼と嚥下の能力です。
この段階では、食べ物を口に入れた後、それを十分に噛み砕き、嚥下する過程が評価されます。
咀嚼は、食べ物を口の中で適切な大きさに砕くことで、嚥下を容易にし、誤嚥のリスクを減少させる役割を果たします。
嚥下は、食べ物を口から食道に送り込むプロセスで、この過程が円滑に行われることが重要です。
咀嚼や嚥下に問題がある場合、誤嚥性肺炎のリスクが高まるため、リハビリテーションや適切な食事形態の調整が必要となります。
患者の咀嚼および嚥下能力を正確に評価することで、適切なケアプランを立て、食事中の安全性を確保することが可能です。
FIM(食事)の採点基準
このFIMの食事の採点基準ですは以下のとおりになります。
7点(完全自立)
患者は補助具や介助なしで、自分で全ての食事動作を行うことができます。
例:特別な補助具や他者の助けを一切必要とせず、食器を使用して食べ物を口に運び、咀嚼し、嚥下することができる。
6点(修正自立)
患者は食事を行うのに時間がかかったり、補助具や装具、自助具を使用する必要があります。または、特別な食事形態や服薬が必要です。
例:スプーンホルダーやカップホルダーを使用して自分で食事を摂るが、介助は必要としない。
5点(監視・準備)
患者は食事を行うのに監視、準備、指示、または促しが必要です。物理的な介助は必要ありません。
例:他者が食事の準備をし、食べ始めるように促すが、食事自体は自分で行う。
4点(最小介助)
患者は食事の75%以上を自分で行うことができますが、最小限の身体的介助が必要です。
例:他者が時々手を添えて食べ物を口に運ぶのを助けるが、ほとんどの食事動作は自分で行う。
3点(中等度介助)
患者は食事の50%から75%未満を自分で行うことができますが、一定の身体的介助が必要です。
例:他者が頻繁に手を添えて食べ物を口に運ぶのを助ける。
2点(最大介助)
患者は食事の25%から50%未満を自分で行うことができますが、大部分の身体的介助が必要です。
例:他者がほとんどの食事動作を行い、患者はわずかに手を動かす程度。
1点(全介助)
患者は食事の25%未満しか自分で行うことができず、ほとんどの動作を他者に依存します。
例:他者が全ての食事動作を行い、患者は食べ物を口に運ぶことがほとんどできない。
FIMにおける食事評価の注意点
では、FIMで食事を評価する際の注意点とはなにがあげられるでしょうか?
ここでは…
- 配膳後の手を加えた場合の“準備”としての評価
- 配膳や下膳行為は評価対象外
- 配膳前のきざみ対応についての評価
- 咀嚼や嚥下より食物を口に運ぶことの重み
- 総合的な評価の重要性
…について解説します。
配膳後の手を加えた場合の“準備”としての評価
FIMで食事を評価する際、食事が配膳された後に手を加える行為は「準備」として評価されます。
これは、患者が自分で食事を始める前に、他者が食器の配置を整えたり、食べやすいように食材をカットしたりする場合です。
たとえば、患者が自分でスプーンを持つことができても、スプーンに食べ物をすくってもらう必要がある場合、その行為は準備として評価されます。
このような準備行為が必要な場合、患者は完全に自立しているとはみなされず、監視や準備が必要なレベルの点数(5点)が付けられます。
この評価方法により、実際の自立度が正確に反映され、適切なケア計画が立てられます。
配膳や下膳行為は評価対象外
FIMの食事評価では、配膳や下膳の行為は評価対象外とされます。
つまり、食事を配膳する、テーブルに置く、または食事後に食器を片付けるといった行為は、FIMのスコアには影響しません。
これは、食事自体の動作に焦点を当て、実際に食べることに関連する自立度を評価するためです。
配膳や下膳は、他者が行う場合が多く、患者自身の食事能力を直接的に示すものではないため、評価から除外されます。
これにより、食事のプロセスにおける純粋な自立度が測定され、正確なリハビリテーションプランが立てられます。
配膳前のきざみ対応についての評価
食事の準備において、配膳前に食材を刻むなどの対応が必要な場合、それは6点(修正自立)相当として評価されます。
これは、患者が自分で食事を摂るために特別な準備が必要な状況を反映しています。
たとえば、食べ物を噛み砕く能力が低下している患者のために、食材を細かく刻む必要がある場合、この準備行為は評価に含まれます。
こうした対応は、食事の安全性と快適性を確保するために重要であり、その必要性が評価に反映されることで、患者の実際の自立度が正確に示されます。
このように、特別な準備が必要な場合も、患者の自立度の一環として評価されることが重要です。
咀嚼や嚥下より食物を口に運ぶことの重み
FIMの食事評価において、咀嚼や嚥下よりも食物を口に運ぶ動作のほうが採点の重みがあります。
これは、口に運ぶ動作が患者の自立度において非常に重要であるためです。
食べ物を口に運ぶことができなければ、咀嚼や嚥下のプロセスに進むことはできません。
このため、この動作の評価が高い重みを持ちます。
たとえば、スプーンやフォークを使って食べ物をすくい取り、こぼさずに口まで運ぶ能力は、患者の自立した食事の重要な要素です。
この動作がうまくできるかどうかが、自立度の評価において大きな影響を与えます。
総合的な評価の重要性
FIMの食事評価におけるこれらの注意点を理解することで、患者の自立度を正確に評価し、適切なケアプランを立てることが可能です。
食事動作の各ステップ、特に食べ物を口に運ぶ動作に重きを置くことで、患者の実際の能力をより正確に把握できます。
また、配膳や下膳行為を評価から除外することで、純粋な食事動作の自立度を評価することができます。
特別な準備が必要な場合や、配膳後に手を加える場合も評価に含めることで、患者の総合的な自立度が正確に反映されます。
これらのポイントを踏まえて評価を行うことで、患者の生活の質を向上させるための効果的なリハビリテーションプランを策定することができます。
義歯を使用している場合は?
FIMにおける食事の評価で義歯を使用している場合ですが…
- 総義歯や部分義歯を使用して食事が自立している場合
- 義歯の準備や装着に介助が必要な場合
- インプラントを使用して食事が自立している場合
…について解説します。
総義歯や部分義歯を使用して食事が自立している場合
FIMの評価で総義歯や部分義歯を使用して食事が自立している場合、これは補助具の使用とみなされ、6点(修正自立)となります。
この評価は、義歯を装着することで患者が自立して食事を摂ることができることを反映しています。
ただし、6点の評価を受けるためには、患者が義歯の準備や装着を自分で行えることが前提となります。
義歯の準備や装着に介助が必要な場合
義歯の準備や装着に介助が必要な場合、FIMの評価は5点となります。
これは、患者が義歯を使用して食事を摂る際に他者の助けが必要な状況を反映しています。
具体的には、義歯を装着する、清潔に保つなどの準備段階で介助が必要であるが、食事自体は自立して行える場合が該当します。
インプラントを使用して食事が自立している場合
インプラントを使用して食事が自立している場合、FIMの評価では7点(完全自立)となります。
インプラントは自然の歯に近い機能を提供し、特別な準備や装着が不要であるため、補助具の使用とみなされません。
患者がインプラントを使って問題なく食事を摂ることができる場合、この評価基準により完全自立として評価されます。
FIMの食事におけるエプロンについて
FIMにおける食事の評価でエプロンを使用している場合ですが…
- エプロンを自分でつけることができる場合
- エプロンをつけるための準備や介助が必要な場合
…によって点数が異なります。
それぞれ解説します。
エプロンを自分でつけることができる場合
FIMの食事評価でエプロンを自分でつけることができる場合、これは完全自立とみなされ、7点の評価となります。
エプロンの着用は食事中の清潔さを保つために重要であり、患者が自分でエプロンを正しく装着できることは、全体的な自立度を示します。
特別な補助を必要とせず、エプロンを自分で取り扱い、着用できる場合、患者は食事において完全に自立していると評価されます。
エプロンをつけるための準備や介助が必要な場合
エプロンをつけるための準備や介助が必要な場合、FIMの評価は5点となります。
この評価は、患者がエプロンを使用するために他者の助けが必要な状況を反映しています。
具体的には、患者が自分でエプロンをつけるのが難しく、他者がエプロンの装着を手伝う必要がある場合です。
このような場合、患者は食事自体は自立して行うことができても、エプロンの準備に関しては介助が必要なため、5点の評価が与えられます。