FIM移乗評価は、患者がベッド、椅子、車いす間でどの程度自立して移乗できるかを評価し、準備や介助の必要性を含めてリハビリ効果を測定する重要な指標です。
本記事ではFIM移乗(ベッド・イス・車いす)の評価のポイント、項目、具体例などについて解説します。
FIMにおける移乗(ベッド・イス・車いす)の評価について
FIM(機能的自立度評価表)の移乗項目は、ベッド、椅子、車椅子の間でのすべての移乗動作を評価し、患者の自立度を具体的に数値化するための重要な指標です。
この評価は7点(完全自立)から1点(全介助)までの基準に基づき、患者がどの程度自立して移乗できるかを判定します。
たとえば、7点は補助具や介助なしで自立して行えることを意味し、1点は25%未満しか自分で行えないことを示します。
この評価を通じて、リハビリテーションの進行度や効果を明確に把握し、適切な治療計画を立てることができます。
FIM移乗(ベッド・イス・車いす)の評価対象の項目
ベッド・椅子・車いすへの移乗をFIMで評価する際の対象項目としては…
- 座面から立ち上がる
- 方向転換
- 座る
…といった3つの主要な動作があげられます。
それぞれ解説します。
座面から立ち上がる
FIMの移乗項目では、まず座面から立ち上がる動作が評価対象となります。
この動作は、患者がベッドや椅子、車椅子から自力で立ち上がることを指し、下肢の筋力やバランス能力を評価する重要な指標となります。
立ち上がる動作は、日常生活の基本動作の一つであり、独立した生活を送るためには欠かせません。
評価は、補助具や介助の有無、立ち上がるまでの時間や安全性などの要素を基に行われます。
例えば、完全自立(7点)と評価されるためには、補助具や介助なしで安全かつ迅速に立ち上がることが求められますが、全介助(1点)の場合は、患者がほとんど自分で立ち上がることができず、介助者の全面的な支援が必要となります。
方向転換
次に、FIMの移乗項目では、方向転換の動作も評価対象となります。
方向転換とは、立った状態から別の方向へ体を回転させる動作を指し、バランス能力や調整能力を評価するための重要な動作です。
方向転換がスムーズに行えるかどうかは、日常生活での移動や転倒リスクに大きく影響します。
評価基準には、患者がどの程度の支援や介助を必要とするか、方向転換中の安定性やスピードなどが含まれます。
例えば、修正自立(6点)と評価される場合、患者は時間がかかるものの、自助具の使用や軽度の指示のみで方向転換が可能であることを示します。
一方、最大介助(2点)の場合は、患者が方向転換中に50%以上の介助を必要とし、自力ではほとんど行えないことを意味します。
座る
最後に、FIMの移乗項目では、立った状態から座る動作も評価対象となります。
この動作は、患者がベッドや椅子、車椅子に自力で安全に座ることを指し、下肢の筋力やコントロール能力を評価するための重要な指標です。
座る動作がスムーズに行えるかどうかは、日常生活の中での安全性や快適性に直接関係します。
評価は、患者がどの程度の支援や介助を必要とするか、座る際の安定性や正確さなどに基づいて行われます。
例えば、最小介助(4点)と評価される場合、患者は手で触れる程度の軽い介助であれば自力で座ることができることを示します。
一方、中等度介助(3点)の場合は、患者が座る際に50%以上の介助を必要とし、自力では難しいことを意味します。
FIM移乗(ベッド・イス・車いす)の採点基準
FIM移乗(ベッド・イス・車いす)の採点基準は次の通りになります。
7点(完全自立)
補助具や介助なしで、安全かつ確実に移乗動作を自立して行える。
例:患者が自分でベッドから車いすに移り、車いすから椅子に移乗する際に、まったく補助具や介助を必要とせず、安全に動作を完了する。
6点(修正自立)
時間がかかる、装具や自助具の使用が必要、安全性の配慮が必要だが自立して行える。
例:患者がベッドから車いすに移る際に、自助具(例:手すり)を使用し、ゆっくりと時間をかけて安全に移乗する。
5点(監視・準備)
監視や準備、指示、促しが必要であるが、身体的な介助は必要ない。
例:患者がベッドから車いすに移る際に、介助者が近くで見守り、必要に応じて指示を出すが、実際の移乗動作は患者が自力で行う。
4点(最小介助)
手で触れる以上の介助は必要ない。移乗動作の75%以上を自分で行う。
例:患者が車いすから椅子に移る際、介助者が患者の腕を軽く支えるだけで、患者自身がほとんどの動作を自力で行う。
3点(中等度介助)
手で触れる以上の介助が必要。移乗動作の50%〜75%未満を自分で行う。
例:患者がベッドから車いすに移る際、介助者が患者の腰を支えながら、患者も自力で移乗を試み、動作の一部を自分で行う。
2点(最大介助)
移乗動作の25%〜50%未満を自分で行う。
例:患者が椅子から車いすに移る際、介助者が患者のほとんどの体重を支え、患者自身は移乗動作の一部を補助的に行うだけ。
1点(全介助)
移乗動作の25%未満しか自分で行えない。
例:患者がベッドから車いすに移る際、介助者が完全に移乗動作を行い、患者はほとんど全く動作に参加しない。
FIM移乗(ベッド・イス・車いす)評価の注意点
FIM移乗(ベッド・イス・車いす)評価の注意点ですが、ここでは…
- 車いすの位置変え、セッティングについて
- 抑制帯をしている場合
- 掛布団を片付ける場合
- 移乗の往復で介助量が異なる場合
- 昼と夜とで異なる場合
- ベッドからの起き上がりも評価対象
…について解説します。
車いすの位置変え、セッティングについて
FIMの移乗評価において、患者がより容易に移乗できるように車いすの位置を変えたり、適切なセッティングを行うことは、「準備」として評価されます。
これは、患者が自力で行える動作を補助するための環境調整として重要です。
たとえば、車いすをベッドの横にぴったりと配置することで、患者がよりスムーズに移乗できるようにします。
この準備作業は、評価において患者の自立度を適切に反映させるための要素として考慮されます。
よって、これらのセッティングが必要な場合は、完全な自立とはみなされず、準備が必要な分だけ評価点が低くなります。
抑制帯をしている場合
普段、歩き出しや転倒防止のために抑制帯を使用している患者の場合、移乗時にスタッフによる抑制帯の介助が必要とされることも「準備」として評価されます。
抑制帯の着脱は、患者の安全を確保するための重要なステップですが、これが自力でできない場合には、準備が必要な評価点となります。
たとえば、患者が移乗する前にスタッフが抑制帯を外し、移乗後に再度装着する必要がある場合、これは準備として評価され、完全自立とは区別されます。
このように、抑制帯の使用状況も評価に影響を与える要因となります。
掛布団を片付ける場合
移乗の際に、患者が自分で掛布団を片付けることができず、スタッフによる片付けが必要な場合も「準備」として評価されます。
掛布団の片付けは、移乗動作をスムーズに行うための前提条件として重要です。
この準備が必要な場合は、患者が自立して移乗できる能力に対して追加の支援が必要とされるため、評価点に影響します。
たとえば、スタッフが移乗前に掛布団を片付け、患者がその後自力で移乗を行う場合、この準備が評価点に反映され、完全自立とはみなされません。
移乗の往復で介助量が異なる場合
移乗の往復で介助量が異なる場合、評価は点数の低い方を取ります。
これは、患者が異なる状況下でどの程度の自立度を維持できるかを正確に評価するための基準です。
たとえば、患者がベッドから車いすへの移乗は自立して行えるが、車いすからベッドへの移乗は介助が必要な場合、この患者の評価は介助が必要な方の点数となります。
このように、評価は常に最も支援が必要な状況を基に行われ、患者の最大限の自立度を適切に反映します。
昼と夜とで異なる場合
昼と夜で介助量が異なる場合も、評価は低い方の点数を取ります。
これは、患者の自立度が時間帯によって変動する場合においても、最も支援が必要な状況を評価に反映させるためです。
たとえば、昼間は自立して移乗できるが、夜間は疲労や視力の低下などで介助が必要な場合、この患者の評価は夜間の介助が必要な状況を基に行われます。
この基準により、患者の日常生活全般における自立度がより正確に評価されます。
ベッドからの起き上がりも評価対象
FIM移乗評価では、ベッドからの起き上がり動作も評価対象となります。
この動作は、移乗全体の一部として重要であり、患者の自立度を評価するための要素となります。
たとえば、患者が起き上がり動作は全介助で行う必要があるが、その後の移乗動作は自立して行える場合、評価点は介助が必要な起き上がり動作を基に行われます。
このように、部分的な介助が必要な場合でも、全体の評価に影響を与えるため、総合的な自立度を適切に反映する評価が行われます。