ADLの中でも、身だしなみである整容動作。
でも…
- どういう風に評価していいかわからない
- そもそも整容って目的は何?
- なんとか一人でできてるし、別に関わらなくても…
…という意見をよく聞きます。
結果、リハビリ場面でも意外と細かく関われてない印象を受けます。
でもその目的や意味をきちんと考えると、社会生活を送る上で必要な行為と言うことが分かります。
今回はこの整容動作への支援における目的や意味、整容動作障害によって起こり得る問題点について解説します。
整容動作とは?
もともと“整容”とは…
姿・かたちを整えること
…という意味になります。
類義語としては…
- 身だしなみ
- 身支度
…なんて言葉で表されます。
整容動作と“グルーミング”
“整容”ですが、これはADL動作の一つとして扱われます。
英語では“Grooming”と表記されます。
この“Glooming(グルーミング)”は一般的には…毛繕い(けづくろい)の意味になります。
これって、動物が体の衛生や機能維持などを目的とする行動を指しているんです。
整容動作の種類について
“整容動作”ですが、いくつかの種類の活動の総称として使用されています。
この整容動作の種類についてですが…
- 歯磨き
- 洗顔
- 手洗い
- 爪切り
- 髭剃り
- 整髪
- 化粧
…などがあげられます。
整容動作の目的について
では、整容動作を行う目的とはどのようなものになるのでしょうか?
主なものとしては大きく…
- 衛生管理として(生理的欲求)
- 社会生活における他者への配慮として(社会的欲求)
- 自己実現のひとつとして
…の2つに分けることができます。
以下にそれぞれ解説します。
衛生管理として(生理的欲求)
まずは生理的欲求を目的としてです。
- 歯を磨く
- 顔や手を洗う
- 髭を剃る
- 爪を切る
…という“整容動作”は、衛生管理としての機能を担います。
口腔内が不衛生状態ですと、感染症や肺炎といった疾患のリスクが高くなります。
顔や手を洗うというのも、汗や皮脂を洗い流し皮膚の健康状態を保つことになります。
また髭が伸ばしっぱなしだと、雑菌の増殖につながり衛生上の問題になる恐れがあります。
爪が伸びっぱなしだと、爪が割れる、肌を傷つける…といったリスクにもなります。
こうしたことから、整容動作を行う目的のおひとつが「自分の健康を守る」という意味での衛生管理があげられます。
マズローの五段階欲求でいうと“生理的欲求”に位置します。
社会生活における他者への配慮として(社会的欲求)
整容とは、社会生活を送る上での他者に不快感を与えないようにするための配慮、という機能も担います。
口臭や体臭といった匂い、髪はフケだらけ、汗をかきっぱなしで顔もベタベタ…なんて状態は、非常に不衛生であることから相手を不快感にさせてしまいます。
円滑な人間関係を築いていくためにも、整容動作は社会生活上必要不可欠と言えます。
マズローの五段階欲求でいうと“社会的欲求”に当てはまるかと思います。
自己実現として
“歯磨き”、“洗顔”、“手洗い”、“爪切り”、“髭剃り”は整容動作としても上述した2つの目的が主になる動作です。
でも、“整髪”、“化粧”は場合によっては…
- おしゃれをしたい
- よりきれいに(かっこよく)見られたい
…というマズローの五段階欲求としては上位の欲求…“承認欲求”や“自己実現の欲求”としての機能も担う場合があります。
作業療法士が整容動作へ介入することって?
つまり、作業療法士がクライアントの整容動作に関わることは…
- クライアントの身体的、精神的な健康生活の維持のため
- 他者からの拒絶や社会的孤立の予防
- 社会生活上の行動範囲を拡大しQOL向上の促進
…といった要素を支援することにつながります。
整容動作支援における注意点
作業療法士としてクライアントの整容動作に関わる際、これらの目的や支援対象の要素を考えることが必要です。
そして、整容動作そのものの動作遂行だけでなく、その完成度までしっかりと評価する必要があります。
また、“整髪”や“化粧”の部分に関わる際は、“ただできるorできないの最低限のレベル”で考えるのでは不十分です。
クライアント自身がどのレベルまでを求めているのか?を明確にした上でその支援につなげていく必要があります。
整容動作障害がもたらす問題点
クライアント自身が障害によってこの整容動作障害を呈した場合、起こりえる問題としては…
- 二次的な疾病の発症による健康生活の維持困難
- 家族や介護者、支援者からの嫌悪による孤立
- 自己評価の低下
- 社会参加機会の喪失
…などが想定できます。
以下にそれぞれ解説します。
二次的な疾病の発症による健康生活の維持困難
前述したように、衛生管理が不十分になることからの感染症、肺炎、皮膚の健康状態悪化などが起こり得ます。
結果、健康生活を維持するのが困難になる可能性が高まります。
実際に医療、介護の現場では肺炎予防のため歯科衛生士が口腔内のケアに介入する機会も増えています。
健康生活と口腔内衛生の維持は相関性が高いことが分かります。
家族や介護者、支援者からの嫌悪による孤立
整容動作障害による不衛生な状態が続くと、匂いなどによって非常に相手に不快感を与えてしまいます。
一時的なものならまだしも、この状態が継続して続いていると、家族や介護者から嫌悪の感情を抱かれます。
結果、孤立に繋がってしまいます。
自己評価低下
入院しているクライアントを洗面台の鏡の前に連れていくことってよくあるんです。
でもそうすると、髪がボサボサの状態に対してがっかりしたような表情や発言を聞かれることが多くあります。
身体的な障害でも、精神的な障害でも、身だしなみを整えられないという状態は非常に自己評価の低下につながります。
結果、様々なことへの意欲の低下にもつながっていきます。
社会参加機会の喪失
身だしなみが整っていないから社会生活が送れないのか。
社会生活が送れないから結果として身だしなみが整わないのか…は、クライアントによって様々です。
しかし作業療法士にとって、この場合どちらが先行しているかという点にフォーカスをあてるより、“社会参加する機会を失っている”という事実に目を向ける必要があります。
他者との関わる機会損失を招かないように、作業療法士は整容動作にも積極的に介入していく必要があります。
まとめ
今回は、整容動作へのリハビリテーションの目的や意味、種類などについて解説しました。
整容動作と一言で言っても、それは歯磨きや洗顔、手洗い、整髪、爪切りや髭剃り、化粧といった活動を含みます。
性別によって違いはあっても共通する目的としては、自分自身の衛生管理として、そして他者に不快感を与えないための配慮があげられます。
整容動作障害によって結果として、健康生活の悪化や自己評価の低下、社会的孤立といった全方向への生活障害に発展する危険性があります。
「たかが整容動作」と考えず、その障害がどのように発展的に悪化していくのかを想像したうえで、支援をしていくことが作業療法士にとって必要な能力なのかもしれませんね。