作業療法を始め、リハビリを進めていくうえでもクライアントの「意欲」や「自発性」は非常に重要な要素になってきます。
また身体機能面での問題がなくても、意欲や自発性の低下によって社会参加ができない…なんてケースも多いくみられます。
「意欲」というのはこれからの作業療法にとって非常に重要な治療対象になっていくと考えられます。
そこで今回はこの意欲や自発性を定量的に検査する“CAS”について解説します。
CASの特徴
意欲や自発性を定量的に評価することは非常に難しいとされています。
標準意欲評価法(CAS)はクライアントの意欲、自発性を…
- 面接による自発的な意欲評価
- 質問紙による自覚的意欲評価
- 日常生活行動面での意欲評価
- 自由時間の行動観察
…という多角的な視点での評価を行うことができる点が特徴といえます。
また 『意欲評価法』と便宜上呼んでいますが、決して狭義の意欲のみを評価対象にしているわけではない点も特徴といえます。
CAS(Clinical Assessment for Spontaneity)との名称からわかるように、広い意味での「自発性の障害」を対象としています。
検査の目的
CASを行う目的…についてですが、前述したようにクライアントの「意欲・自発性」を評価することを目的としています。
他覚的、自覚的(主観的)、行動観察的な視点からの評価を統合し多角的に評価することはもちろん、“意欲の低下”や“自発性欠乏のレベル”の評価を可能な限り“定量的”に行うことを試みている検査です。
この定量化を行うことで「意欲」「自発性」といった非常に曖昧な機能を、客観的にみることができ比較検討を行いやすくすることができ、作業療法の治療介入やクライアントの日常生活の指導に汎化することができます。
主な対象者
CASを行うにあたって、その対象としては脳血管障害、頭部外傷といった疾患を対象に行われることが多いようです。
どちらも自発性の低下といった前頭葉の障害を持ったケースといえます。
検査環境
CAT同様、CASも以下のように外部からの音や注意がそれるような物品などがない個室が好ましいとされています。
必要物品
CASを実施するにあたって、必要な物品は以下の通りになります。
- 評価用紙(5部)
- プロフィール全世代平均値(5部)
- プロフィール右半球損傷例(5部)
- 記入用紙(質問紙法による意欲評価スケール・5部)
検査時間と実施手順
CASの検査を行う上での実施手順についてですが…
- 面接による意欲評価スケール
- 質問紙法による意欲評価スケール
- 日常生活行動の意欲評価スケール
- 自由時間の日常行動観察
- 臨床的総合評価
…になります。
以下にそれぞれ解説します。
1.面接による意欲評価スケール
被験者と直接面接(インタビュー形式)を一定時間行います。
この間、17個に及ぶチェック項目に基づいて5段階の評価を行っていきます。
このチェックする17項目についてですが…
- 表情
- 視線
- 仕草
- 身だしなみ
- 会話の声量
- 声の抑揚
- 応答の量的側面
- 応答の内容的側面
- 話題に対する関心
- 反応が得られるまでの潜時
- 反応の仕方
- 気力
- 自らの状況についての理解
- 周囲のできごとに対する関心
- 将来に対する希望・欲求
- 注意の持続性
- 注意の転導性
*16,17は注意に関連する項目
…になります。
また、面接する際の会話や問いかけの内容については必ず「こうしなければならない」というルールは定められていません。
ただ、上記の17項目をチェックするにあたっては…
「具合はどうですか?」
「何か困っていることはありませんか?もしあるようでしたら教えてください!」
「今回どのようにして調子を崩してしまったのですか?」
「どんなふうに入院することになったのですか?」
「ご自身の病気についてどのように理解していますか?」
「最近身近で起こったできごとについて聞かせてください」
「自分の病気について、どんなふうに思っていますか?」
「最近どんなことに関心や興味がありますか?」
「時間があるときはどんなふうに過ごしていますか?」
「今、周りでどんなことが起こっていると思いますか?」
「今、一番してみたいことはどんなことですか?」
「これから先、自分ではどんなふうにしていきたいと思っていますか?」
といった問いかけを行っていくことになります(多少の改変はあるでしょうが…)。
つまり“半構造化面接”のような形として実施していくことになります。
2.質問紙法による意欲評価スケール
ここでは被験者に質問紙を読んでもらい、過去数週間or数日間の自分の考えや気持ち、行動に照らし合わせて、それに当てはまると思う箇所のうち一つに丸を付けていく…という実施方法になります。
もちろんできるだけ被験者の本音を質問紙に反映させるように、リラックスした雰囲気作りや声掛け、導入の仕方が検者には要求されます。
質問内容は、興味や意欲の有無、自主性や自身の感情、行動といったものに関連する合計33項目で構成されています。
この33項目の質問に対して被験者は、
- 0:よくある
- 1:少しある
- 2:あまりない
- 3:ない
…の4段階で答えていきます。
3.日常生活行動の意欲評価スケール
ここでは被験者の意欲の状態を日常生活の行動項目別に観察して評価します。
この観察する期間は原則として7日間程度とされており、その間での平均の状態を記載するようにします。
また観察する日常生活行動についてですが、
- 食事
- 排泄
- 洗面・歯磨き
- 更衣
- 入浴
- 訓練
- 服薬
- テレビ鑑賞
- 新聞、雑誌を読む
- 挨拶
- 会話
- 電話
- 手紙
- 行事への参加
- 趣味活動
- 問題解決
…の16項目になります。
1~5は基本的なADL動作に対しての自発性・活動性を評価しています。
6,7は自分の病気に対しての意欲の状態を、8以降は他人や周囲、社会への関心とQOLに関する意欲の状態を評価していると捉えられます。
これらの項目に対して…
- 0:いつも自発的に行動できる
- 1:まれに促しや介助が必要
- 2:ほぼいつも促しや介助が必要
- 3:促しや介助があっても、行動しないこともある
- 4:促しや介助があっても行動しない
…の5段階で評価します。
4.自由時間の日常行動観察
ここでは被験者の特に予定が決められていない自由時間内の行動を観察します。
評価の期間は最低5日間、できれば2週間以上であることが望ましいとされています。
そのなかで評価する項目としては以下の通り。
- 行為する場所
- 行為内容(具体的に)
- 行為の質の評価
- 談話の質の評価
- 備考
1,2については被験者を観察した場所、時間、その内容といったもので特に難しくはないのですが、3,4ではその「質」を評価することが求められることになります。
行動の質の評価について
『3.行為の質の評価』については基本的に…
- 0:意欲的な行為や自発的な問題解決行為
- 1:自発的な行為
- 2:依存的な行為
- 3:何もしない(無動)
…の4段階で評価をします。
しかし、【1:自発的な行為】との評価でも
- 1(A):いつもの習慣的(テレビを観るetc)な行為の1つとして
- 1(B):いつもとは違う積極的な行為(久しぶりに昔の友人に連絡をするetc)
…という段階に分けられます。
【2:依存的な行為】でも、
- 2(A):ある特定の個人的な働きかけでようやく行為に移る
- 2(B):集団生活で「みんなやるから…」というような個人的な誘いではない場合で行為に移る
…の段階にわけることができます。
談話の質の評価について
『4.談話の質の評価』については基本的に、
- 0(Remark):事故や他人の具体的な問題にたいして、はっきりとした自分の意見がある。
- 1(Talk):自ら世間話などをしたり一般的な感想を述べる程度。自分の意見はない。
- 2(Chime):相槌を打つ程度。話しかでも言葉少な目に応答する程度だが、談話参加自体は楽しんでいる。
- 3(Yes/NO):寡黙の状態。YES・NOの一言のみの返事だけで話しかけには関心は低い。
- 4(Mute):発語なし
…のように評価できます。
5.臨床的総合評価
ここでは臨床場面でのトータルでの印象に基づいた5段階の総合評価を行っていきます。
その評価段階は、
- 0:通常の意欲がある
- 1:軽度の意欲低下
- 2:中程度の意欲低下
- 3:著しい意欲低下
- 4:ほとんど意欲がない
…の5段階になります。
CATの点数解釈とカットオフ値
CATの点数とカットオフ値についてですが、著作権の関係で明記するとアレなので、こちらの論文を参考にしてみてください!
標準注意検査法(CAT)と標準意欲評価法(CAS)の開発とその経過
CAS(標準意欲評価法)の評価用紙を手に入れるには?
CASはサクセスベルより販売されています。
きちんと正規のマニュアルを参考にすることをおすすめします。