リハビリの最終目標ってどこに位置するのでしょうか?
作業療法士として、職場復帰などの就労支援を行っていると、ふとそんなことを考えたりします。
就労支援…仕事に就くことが、障害を有する人にとって、リハビリの最終目標なのでしょうか?
今回はそんなテーマです。
就労支援は「最終」目標?
作業療法士として多少なりとも障害を持つ人の就労支援に関わっていると、どうしても本人も支援する側も就労支援が「最終目標」として扱ってしまう傾向にあります。
特に病院勤務の作業療法士にとっては、日常生活動作(ADL)の自立もままならない状態からそのクライアントに関わっていることがほとんどです。
その上で「仕事に就く(再開する)」というイベントは非常に大きなものになります。
そうなると、結果として就労が究極のゴールのような非現実的な扱いになってしまうことも無理はありません。
就労支援は職業生活のスタート地点にしかすぎない
就労支援って決して「障害を有する人が、仕事に就くための支援」だけではないと思います。
むしろ仕事に就くという一時的なものではなく、「就労し続ける=“職業生活”を送り続ける」支援にならないといけないと思います。
ただ、そのためには様々な障壁と課題が山積みです。
クライアントが仕事に付き、定着し、それを継続し続けるための支援、“息の長い支援”を続ける必要があると思います。
就労支援後に考えるべき3つの要素
では、作業療法士による就労支援が障害を有する人の最終目標ではなく、“息の長い支援”にするためにはどのような視点・要素が必要になるのでしょうか?
結論から言えば次の3つになるのかな…と考えています。
- 職業生活を継続し続けるための支援
- キャリアアップのための支援
- 経験を伝えるための支援
以下、それぞれ詳しく説明します。
職業生活を継続し続けるための支援
まずなによりクライアントの職業生活を長く継続できるようにするための支援が必要です。
それは…
- 疾患や障害へのフォローアップ
- 増悪予防のための課題抽出と対策
- 本人だけでなく職場環境の調整やコンサルテーション
…といった範囲まで幅広いものでなければなりません。
ただクライアントが作業療法士の支援ありきで職業生活を送ることは、「自立」とは相反するものになってしまいます。
その“支援の濃度”は徐々に薄くしていく必要もあると思います。
あくまで支援を“100”でも“0”でもなく、「何かあったときはOTに相談できるから、安心して職業生活を送ることができる」という安心感を与えられる程度の位置にいることが理想なのかな、と思っています。
キャリアアップのための支援
基本的に職業生活…働くことに対して「安定」というのはこのご時世皆無なのだと思います。
景気が極端に上向きになることも少ないでしょうし、それを維持していくこともまれだと思います。
加えて自身の高齢化、家族の高齢化によってライフスタイルの様々な変化が伴っていきます。
障害を有しながらも働くことができている…でもその状態が永続的に続くけることができるかどうかは非常に不確定なものだと思います。
就労できたから安心ではなく、「どんな状態になっても食べていけるような備え」は必要です。
そのためのキャリアアップ(決して昇進という意味ではありません)は常に意識していないといけないと思います。
まあ、働くことへの危機感については、障害の有無に関わらず支援する側である作業療法士自身にだって当てはまることなんですけどね(苦笑)
経験を伝えるための支援
職業生活を送ることで得られる経験って非常に千差万別だと思います。
でもその千差万別の経験の根本にある「問題点」や「課題」、「考え方」といったもの(原理原則とでも言いましょうか)はどの人にとっても共通しているものだったりします。
この経験って実は非常に他人にとっては有益な財産だったりすることが多いんです。
自分では当たり前で意識しても気づかないようなことが、悩んでいる人、苦しんでいる人にとって非常に有益なものになるってこと…多くありました。
障害を有しながらでの職業生活だと、健常者が“当たり前”で気づきにくいような視点を多く持っていることがあります。
言い方を変えれば、健常者から支援されていた障害者が、逆に健常者を支援することができる、と思います。
この流れをスムーズにするためにも、作業療法士の多角的、総合的な知識と技術が役立つと思うんです。
働くこと=価値提供
役割を持つということは、その範囲が家庭内でも広い社会の中においても「誰かに自分の価値を提供すること」と考えられます。
これはもちろん職業生活においても同義です。
その価値って多くの人が知っていること、持っていること、できることではあまりありがたがられないんですよね(苦笑)。
その人だからできること、その人にしかできないことから“抽出”されたものが、多くの人にとって価値があるものになるのかなと。
障害を持つ人はもちろん、最終的には健常者も含めたこの価値の“発掘”、“抽出”、“伝達”に作業療法士が関われたら…面白いのかなーなんて思ってます。
まとめ
本記事では、就労支援後に考えるべき3つの要素について解説しました。
就労支援には障害を有する人、またリハビリにおいての最終目標なのかどうかとは、前述したようにあくまで「職業生活のスタートに立つための支援」でしかありません。
もっと長いスパンでの支援ができるようにするためには、システムや教育、組織といったものが必要になってくると思います。
作業療法における職業リハが変わるためには、根本から変えていく必要があるのかもしれませんね!