両立支援における労働者・医療・職場それぞれが抱える課題について

病気を抱えながら仕事を行うために、治療生活と両立させることを支援するのが「両立支援」です。
その支援の主な対象は労働者であるクライアントですが、職場や治療を行う医療機関にも関わる必要があります。
しかし、この3者はそれぞれ立場も分野も異なることから、必要な情報や知識を共有化しにくいことが課題としてあげられます。

  • 病気を抱えるクライアント自身は、仕事を続けるための工夫がわからない
  • 治療を行う医療機関は、仕事内容や程度をどう病気のリスクとすり合わせればいいかわからない
  • 職場は、クライアントの病気がどんなもので、どんな配慮をすればよいかわからない

…それぞれが、こんな悩みを抱えてしまうようです。
そこで今回は、両立支援においてそれぞれの環境でどのような課題が顕在化してくるのかについて考えてみました。

病気を抱えても仕事をしたい人、クライアントの職業生活を支援したい医療スタッフ、病気でも仕事を続けようとしてくれる社員を抱える職場。
本記事が治療と仕事をどうにか両立させたいけど、その方法がわからない…という方の一助になれれば幸いです。

両立支援の現場の構図

両立支援においては主に…

  • クライアントにあたる“労働者(社員)”
  • 主治医や産業医といった“医療”
  • 雇用主である企業といった“事業者”

…の3者間で情報や支援内容などがやりとりされます。
つまり両立支援コーディネーターはこの3者に関わることになります。

その際、“労働者”、“医療”、“事業者”それぞれがどのような基準で両立支援のために動いていくのか、判断や診断基準が必要になってきます。
それぞれの連携や情報共有の際の基準における課題について、両立支援の流れをベースに考えてみました。

労働者自身の課題

まずクライアントである労働者自身の両立支援に向けての課題ですが、次のような項目があげられます。

  • 両立支援対象になる疾病の診断基準が曖昧
  • 病気になったら治療に専念するため仕事を辞めるケースが多い
  • 自分の職場のどこに相談したらよいのかわからない
  • 経済的支援といった社会制度や様々な手続きが、当事者及び家族のみでは困難

以下にそれぞれ解説します。

両立支援対象になる疾病の診断基準が曖昧

がんや脳卒中といった「今まさに日常生活(もしくは生命)に支障をきたす重篤な疾病」の場合だったらイメージは付きやすいと思います。
でも、糖尿病やメンタルヘルスの場合は今すぐに職業生活へ影響を及ぼすかどうかは曖昧だったりします。

どの程度までなら自身の健康管理で対応し、どの程度からが両立支援の対象になるのか…という客観的な基準が必要と言えます。

病気になったら治療に専念するため仕事を辞めるケースが多い

病気になり長期入院が必要…となった場合、治療に専念するためという理由で務めていた職場を辞めてから治療生活に入られる方が結構多いようです。
雇用先である事業者の病休、有給の利用といった制度がどの程度適用になるのか…を知ることだけでも「治療のための退職」という選択肢を取らずに済む場合があります。

治療生活のために経済的な困窮を招かないためにも、制度についての情報を知る必要があります。

自分の職場のどこに相談したらよいのかわからない

大企業なら産業医が常駐しているでしょうが、日本の全企業数のうち99.7%が中小企業であり、実質日本の従業員の約7割にあたります。
つまり多くの労働者は企業内の産業医をはじめとした産業医療活動に関わる機会が極端に少ないということになります。

そうなると直属の上司や人事労務管理者に自身の疾病について伝えるという選択肢程度になってしまいます。
この場合、最終的には人事労務管理者に両立支援についての知識が求められることになるんでしょうね。

経済的支援といった社会制度や様々な手続きが、当事者及び家族のみでは困難

前述した病休や有給制度を利用や短時間勤務、テレワークといった勤務形態の変更をしたとしても、健康な時に獲得していた給与からは大幅に減額するケースが多いようです。
本人及び家族の経済的な生活支援をどうするか?も課題になってきます。

国や行政の制度はもちろん、民間医療保険といったものを駆使して、治療生活と職業生活の両立を図る必要があります。

医療機関の課題

では、病気の診断や治療方針を決定し、病気を抱えるクライアントに対して医療的な支援を行っていく医療機関はどうでしょうか?
主治医がいる医療機関によるクライアント(患者)の両立支援に向けての課題については、次のような項目があげられます。

  • 疾病の診断はできるけど、職場の作業内容やどのような配慮をすべきなのかわからない
  • 両立支援において利用できる社会制度についても知識が少ないので情報提供できない

これらについても、以下に解説します。

作業内容や配慮内容についてわからない

医療機関はクライアントの疾病や障害についての診断、障害を有する場合ならその特性、医学的な観点からの予後予測については情報提供できます。
でも、各職場でどのような作業が適しているか、どのような負荷までなら大丈夫で、どういった配慮が必要なのかはわからないことがほとんどです。

「上司と相談して、無理ない範囲で仕事してくださいね。」
…で終わってしまいます。

作成する診断書においても作業内容や配慮内容についての表現が曖昧なことも多く、ほとんどは「わからないから」と、その職場である事業者に判断をゆだねてしまっているのが現状かもしれません。
作業内容や配慮内容については、非常に多様性があるものですので基準を設ける事が難しいと思います。
でも、クライアント本人や事業者に判断を任せるのも無責任です。
疾病や障害別、さらには産業別のベースとなる基準を設け、提案するといった配慮は必要なのかもしれません。

社会制度についての情報提供ができない

医療機関において社会制度や資源についての情報提供ができるとしたら、社会福祉士(MSW)が一番にあげられます。
主治医は特にクライアントに対して診断書の作成のみで終わらず、早期の段階でその医療機関に在籍しているMSWにつなげることが重要になります。
そして、利用できる社会制度についての情報提供をするよう依頼する…という連携も必要になってくると思います。

クライアント自身、入院している病院のMSWに退院直前で初めて会う…なんてケース、よくあるようです。

事業者の課題

では、3者のうちの職場である事業者によるクライアント(社員)の両立支援に向けての課題についてです。
主に次の項目があげられます。

  • 疾病や障害における特性や留意点がわからない
  • 雇用する側としては予後予測や再発の危険性について不安がある
  • どのように安全配慮をすればよいのかわからない

これらについても以下に解説します。

疾病や障害特性、留意点がわからない

雇用する側である企業や事業者は、なにより社員の疾病や障害についての知識が少ないです。
「病気なのはわかるけど、どう接していいのかわからない」
…というのが本音のようです。

もちろん今はインターネットや本で調べれば、病気についての知識を得ることはできます。
でも、そこにその社員自身の性格や生活様式といった個性が加わってくると、どのように注意や配慮をしたらよいのか、手探りでしかわからないというのがほとんどのようです。

予後予測や再発の危険性への不安がある

「この状態はいつになったら良くなるのか?」
「いつまでも治らないのか?」
といった予後予測から、「職場で倒れたり具合を悪くすることはないのか」といった再発の危険性への不安は事業者としては非常に大きいようです。

この不安が大きいと、せっかくクライアントが復職しても思うような働き方ができなくなってしまう場合が多くあります。

どのように安全配慮をすればよいのかわからない

勤務時間(及び通勤、退勤時間)における安全配慮も、事業者の責任になります。
この部分にも、どう配慮すればよいのか情報がないとやりようがない…という状態になってしまうようです。

大きな事故の予防のためにも、その疾病や障害、クライアントの特性をベースにした安全配慮のための情報提供をすることが必要になってきます。

まとめ

今回は、両立支援において労働者・医療・職場それぞれが抱える課題について解説しました。

クライアントは医療側からすれば患者であり、職場からすれば従業員であるためそれぞれの役割や立場が異なってきます。
もちろん本人の地域生活を支える家庭内でも、求められるものが変わってきます。

それぞれの役割や立場に求められること、そして表面化する課題をしっかりと抽出して、3者間の“翻訳者”のような立ち位置になることが両立支援コーディネーターの役割なのかもしれませんね。

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