仕事を行う上では、コミュニケーションが必要不可欠です。
ですが、脳卒中や事故などにより言葉の障害…“失語症”の状態になった場合、このコミュニケーションに不便さを感じることが多くなります。
そうなると、職場復帰や就労の妨げになってしまうため、しっかりとしたフォローが必要になってきます。
そこで今回は、失語症に対しての就労支援の際のポイントなどについて解説します。
失語症について
まず失語症についてですが…
失語症(しつごしょう、aphasia)とは、高次脳機能障害の1種であり、主には脳出血、脳梗塞などの脳血管障害によって脳の言語機能の中枢(言語野)が損傷されることにより、獲得した言語機能(「聞く」「話す」といった音声に関わる機能、「読む」「書く」といった文字に関わる機能)が障害された状態である。
引用:wikipedia
…とあります。
この失語症に対してのリハビリテーションとしては、主に“言語聴覚士”の指導のもとで言語訓練を行います。
失語症の身体障害者手帳の区分について
なお身体障害者手帳では、失語症は次のような区分に当たります。
- 身体障害者手帳3級(音声機能、言語機能、または咀嚼機能の喪失)
- 身体障害者手帳4級(音声機能、言語機能、または咀嚼機能の著しい障害)
失語症が脳卒中による場合は、この言語障害に片麻痺などの身体障害も加わることが多くあります。
この身体障碍者手帳3級or4級とは、あくまでも失語症のみに対しての区分…ということでしょうね。
失語症の4つの障害
“失語症”といってもその障害は人によって異なってきます。
失語症による障害は大きく次の4つに分けられます。
- 聞くことの障害
- 読むことの障害
- 話すことの障害
- 書くことの障害
以下にそれぞれさらっと解説します。
聞くことの障害
この場合、音や声はわかっていてもその「ことば」や「話」の内容が理解できない…ということを指します。
そのため早口で話されたり、長い話になると理解できなくなる場合が多くあります。
読むことの障害
新聞や雑誌、メモなどを読んでも理解できない…というのがこの障害です。
そのため声に出して読むことが難しくなります。
話すことの障害
自分が伝えたいことをうまく言葉にできず、発話がぎこちなくなってしまいます。
言いよどみが多くなったり、逆に回りくどくなったりします。
書くことの障害
この場合、書き間違いが多くなり、文を書くことが困難になってしまいます。
また、「てにをは」といった助詞をうまく使えないというのも特徴です。
失語症の就労支援の視点
では失語症の方への就労支援を言語聴覚士や作業療法士が行う場合、どのような視点が必要になるでしょうか?
ポイントとしては次の3つになります。
- 失語症の特徴と、クライアント自身の特性をきちんと伝える
- クライアントに適した仕事や業務内容をみつける
- 職場の理解と協力を得られるようにする
以下にそれぞれ解説します。
失語症の特徴と、クライアント自身の特性をきちんと伝える
失語症のクライアントに対して就労支援を行う際は、“失語症”という障害を一般の人はしっかりと理解できていないことを前提にすすめていかないといけません。
また、失語症の特徴だけでなく、クライアント本人の症状や性格特性なども含めて、家族や職場に伝える必要があります。
その上でどのようなコミュニケーション方法、手段を取るべきかを検討していきます。
これは言語聴覚士をはじめ、作業療法士も支援者として大きく関わる部分になります。
クライアントに適した仕事や業務内容をみつける
仕事や業務内容をクライアントの特性に合わせる…というプロセスも失語症の就労支援には必要になってきます。
前述したように、クライアント自身の症状や性格特性、そして得意なこと、不得意なことまで把握したうえで、その能力を活かせる作業を提示するように環境設定することも必要になってきます。
この部分には職場と作業療法士が協力して環境設定していかないといけない部分かもしれません。
職場の理解と協力を得られるようにする
実際に職場で仕事をしながらクライアントとコミュニケーションを取るのは、職場の同僚や上司になります。
長期的に働くためには、やはり職場の人の協力が必要不可欠です。
職場の人達に理解と協力を得られるように支援することも、作業療法士には必要になってきます。
失語症の4つの障害別の対応策の提案
ここでは、上述した失語症の4つの障害別での対応策について、それぞれ解説します。
あくまで提案なので、もっと良い方法があるかもしれません。
そこはご了承くださいね。
聞くことの障害
口頭での指示や注意がわからない、“聞くことの障害”が強い場合は…
- 図や手振りを用いた指示の方法
- 作業を固定する
…といった対応策があげられます。
これはクライアント本人というよりは、周囲への配慮方法の指導としてでしょうね。
読むことの障害
仕事をするうえでの警告や危険に関しての連絡がわからない、指示書やマニュアルに記載されていることがわからない、“読むことの障害”が強い場合は…
- 危険な作業を担当させない
- 図を使った説明書、マニュアルを作成する
…といった対応策があげられます。
これもクライアント本人ではなく、周囲への配慮方法の指導としての項目です。
話すことの障害
業務の連絡事項を伝えられない、質問があったもうまくできない、といった”話すことの障害”が強い場合は…
- 連絡カードの使用
- 質問カードの使用
…といった対応策があげられます。
事前にその業務に関わる連絡や質問をカードにしておく。
必要なときにそのカードを提示する…という方法になります。
書くことの障害
仕事内容や伝達事項をメモを使って伝えることができない“書くことの障害”が強い場合は…
- こまめに声掛けをする
- ジェスチャーを取り入れる
…といった対応策があげられます。
もちろん、失語症ですからうまく言葉として発信できないかもしれません。
その場合はジェスチャーなどできる方法を選択することも重要です。
これはリハビリの段階で、言語聴覚士や作業療法士が「コミュニケーションをする上で、言葉以外の方法でなにがあり、スムーズにできるか?」を検討しておく必要があります。
就労支援サービスについて
ここでは失語症の方が主に利用できる就労支援サービスについてご紹介します。
主なものとしては、次の3つのサービスがあげられます。
- ジョブコーチによる支援事業
- 高次脳機能障害者のための職場復帰支援プログラム
- 試行雇用(トライアル雇用)
以下にさらっと解説します。
ジョブコーチによる支援事業
休職中or在職中の障害を持つ人が職場に適応できるよう、“障害者職業カウンセラー”が策定した支援計画に基づいて、担当のジョブコーチが職場に出向いて直接支援を行います。
この際に、ジョブコーチは職場に対して、“当事者とのかかわり方”や“作業方法の指導の仕方”について専門的な助言を行います。
加えて、“失語症という障害の理解についての社内啓発”も行います。
これらの活動によって、職場による当事者への支援体制の整備を促進し、職場定着を図ります。
期間は一般的に2~4か月のようです。
高次脳機能障害者のための職場復帰支援プログラム
“障害者職業総合センター職業センター”では、疾病・事故等により休職している高次脳機能障害者が円滑に職場復帰できるよう支援します。
その生涯の状況や特性に応じ、職業生活全般にわたって必要な支援を行うとともに、事業主に対して職務や職場環境整備等の受け入れ準備に関する支援を合わせて行う機関になります。
期間は16週間で、基礎評価・導入支援(5週間)、集中支援(7週間)、職場適応支援(4週間)の支援を行います。
試行雇用(トライアル雇用)
事業主は、新規に雇用する人に対して原則3か月間の試行雇用(トライアル雇用)を行うことにより、適性や業務遂行可能性などを実際に見極めた上で、試行雇用終了後に本採用するかどうかを決める事ができます。
ちなみに事業主は、試行雇用期間に対応して、対象労働者1人あたり月額4万円(最大12万円)の奨励金を受け取ることができます。
まとめ
本記事では、失語症に対しての就労支援の際のポイントや視点、利用できる支援サービスについて解説しました。
仕事を行う職業生活において、コミュニケーションは必要不可欠な能力といえます。
端的に失語症といってもそのタイプは様々ですし、クライアントの性格や生活背景も多種多様です。
そうなると、それぞれの個性、特性に合わせた介入が必要と言えます。
そしてなにより、職場環境そのものにも、上手にクライアントの障害に合わせられるように支援していくことも重要なのでしょうね。