コミュニケーション障害を有する人に関わる職種にとって、その能力を伸ばしていくことは治療的な方法になります。
ただし、その疾患や障害の程度によってはそのコミュニケーション能力の向上が困難な場合も多くみられます。
対象によっては、コミュニケーションを図るための代替手段をを探していくことも支援の一つであり、リハビリテーションとなります。
今回はこのコミュニケ―ションのテクニックの一つである、“AAC(拡大代替コミュニケーション)”について解説します。
AAC(拡大代替コミュニケーション)とは?
AACとは”Augmentative Alternative Communication”の略で、”拡大(補助)代替コミュニケーション”という意味になります。
定義としては…
話すこと・聞くこと・読むこと・書くことなどのコミュニケーションに障害のある人が、残存能力(言語・非言語問わず)とテクノロジーの活用によって、自分の意思を相手に伝える技法
…になります。
標準的なAACテクニックについて
まずAACテクニックを導入する前に、対象者であるクライアントが抱えている問題の明確化が必要になります。
つまり…
- 言語活動(Language)の問題
- 話す活動(Speech)の問題
…のどちらかを明確にします。
この2つの違いは似ているようで非常に異なるため、まずこのどちらの活動に問題を抱えているのかを明確にした上で、適切なAACを選び、組み合わせるという工程が必要になります。
加えて、成人のように言葉を一度は獲得したケースなのかどうかによっても、そのAACテクニックの組み合わせが異なってきます。
音声・言語のテクニック
以下の表は支援テクニックを「音声」と「言語」に分けて示したものです。
自分が生活を送っている中でも、自然と使っているものが多く含まれているのではないでしょうか?
音声(VOCAL) | 非音声(NONVOCAL) | |
---|---|---|
言語非補助系 | 話し言葉 | 手話・マカトンサイン・身振り記号 |
言語補助系 | VOCA・AACエイド | かな文字50音表・コミュニケーションボード(ブック) |
非言語 | 泣き・笑い・音声・音量変化・抑揚の変化 | 指さし・身振り動作・表情 |
参考:福祉情報技術コーディネーターテキスト[wp-svg-icons icon=”new-tab” wrap=”i”]
AACの分類について
AACテクニックは大きく分けると次の3つに分けることができます。
- ノンテク技法(非エイドコミュニケーション技法)
- ローテクコミュニケーション技法
- ハイテクコミュニケーション技法
以下に詳しく解説します。
ノンテク技法(非エイドコミュニケーション技法)
“ノンテク技法”は、特定の物品や器具を使用しない方法です。
自分の身体を使ってコミュニケーションをする方法なので、“ボディランゲージ”と考えるとイメージしやすいと思います。
このノンテク技法は次の7つの方法に細分化されます。
- 意図の推測
- 指さし
- ジェスチャー
- 残存音声
- 視線
- YES/NO応答
- 空文字(空書)
意図の推測
行動や反応について、周囲が意図を読み取る方法です。
手を叩いたり足をバタバタさせたり、人によっては大声を出したり…なんてのも実は立派なノンテク技法のひとつと言えます。
自分の意思を周囲の人に伝える、気づいてもらうという点では、一番基礎的なコミュニケーション手段とも言えます。
指さし
欲しいものを指さしたり、なにか物を渡したりすることも自分の意思を相手に伝えるコミュニケーション手段の一つです。
自閉症に多い相手の手を持って要求するハンドリング(クレーン)も同じと言えます。
ジェスチャー
ジェスチャーや、「バイバイ」「いただきます」といった“観念運動”と呼ばれる日常的な身振りから、頭を叩いて「帽子」というような身体部位と対応した身振りも当てはまります。
加えて、イギリスで考案された『マカトンサイン』や聴覚障害の人のための『手話』といった体系化された身振りもノンテク技法といえます。
残存音声
かなり不明瞭で一部しか発話できなくても、近くにいる人は発話の状況と合わせて理解することが可能です。
視線
ALSといった運動障害が重度の場合でも視線によって意図を伝えることは可能です。
もちろん視線のみでは意思の詳細までは伝わりにくいため他の方法と組み合わせるといった工夫が必要です。
YES/NO応答
瞬き1回なら『Yes』、瞬き2回なら『No』、瞬き3回なら『もう一度』というようなルールを決めることで可能ですが、この場合クローズ質問に限って有効なので注意が必要です。
空文字(空書)
空中で文字を書き意図を伝える手段のことを言います。
相手の掌に書く場合もあります。
ローテクコミュニケ―ション技法
“ローテクコミュニケ―ション技法”は主に電子的な作りをしていないアナログかつシンプルな物品を使用してのコミュニケーション手段になります。
物品を使用はしますが、構造がシンプルなため誰でも使いやすくまた場所や準備を比較的選ばない方法とされています。
文字盤
五十音表が書いてある文字盤で、指(もしくは棒など)で直接文字を選ぶことで意思を伝えます。
透明文字盤
対象者と支援者が透明文字盤を挟んで向かい合って使用します。
四肢運動機能障害の方に対して有効なローテクコミュニケーション技法と言えます。
コミュニケーションボード
記号やイラストなどを使用し普段使う会話例などに合わせてカスタマイズすることが可能です。
筆談ボード
特に大きな準備や訓練が必要ないので簡単に導入できる技法といえます。
ハイコミュニケ―ション技法
“ハイコミュニケ―ション技法”とは、電子的な作りをしている道具を用いたコミュニケーションになります。
道具によってはシンプルなモノから複雑なものまで幅広くなります。
応用的な操作が必要とされるため使いこなすにはやや訓練やコツが必要になりますが、様々な機能があるため使い方さえ覚えてしまえば非常に便利な手段とも言えます。
VOCA
VOCA(ヴォカ)とはVoice Output Communication Aidsの略称で、日本語では音声出力会話補助装置と呼ばれています。
自分の考えや意思を相手に伝えるためのツールになりますが、音声出力機能が備わっているのが特徴です。
意思伝達装置
意思伝達装置といっても様々な種類で、単体で使用可能なものから、パソコンにソフトとしてインストールして使用するものなどがあります。
ただ使用できるまではかなりの訓練が必要なことや、導入するためのコストが障壁となる場合があるので、導入する際には注意が必要です。
購入の場合は市区町村の補装具制度である『重度障害者用意思伝達装置』に該当するので、市区町村に申請することでコストの負担を軽減することもできます。
アプリ
スマートフォンやタブレット機器の普及に伴って、AACのアプリも多数リリースされています。
無料から有料のものまで様々ですが、何と言っても通信環境さえ整っていればすぐにダウンロードして使用することができること、複数のソフトを試すことができることなどがメリットとしてあげられます。
注意点
これらAACと言われる技法を用いる場合受けて側の歩み寄りが必要という注意点があります。
特にハイコミュニケーション技法を用いる際に多い傾向があるようですが、これらはあくまでも代替手段ということを忘れてはいけないように感じます。
その技法、機器の性能ひとつだけに頼りきりに、かつ妄信的にならずに相手の発する意図を「くみ取ろうとすること」が必要なのかと思います。
伝わらない=早急に解決する課題
コミュニケーションが取れない、ということがその人自身だけではなく家族や周囲の人にとっても非常に大きな問題となります。
もちろん本人のコミュニケーション能力や機能の向上を訓練によって改善するよう介入することも必要です。
しかし、“他者とのコミュニケーションを図る”という目的を果たすためには、AACといった代替手段も用いることで早急に対処することが必要であることを忘れてはいけないと思うんです。
まとめ
今回は、AAC(拡大代替コミュニケーション)について解説しました。
ノンテク、ローテク、ハイテクの3つの技法がありますが、それぞれのメリット、デメリットを理解したうえで、相手の発する意図を「くみ取ろうとすること」が重要といえます。