障害を持つ人への雇用や就労の課題を、労働者でありクライアント本人の視点から考えることは重要です。
でも、逆に「雇用する側である企業や事業所側に立ってみる」ってことも必要だと思います。
そうすると…
- 障害を持つ人を雇うことはどんな点で注意が必要か?
- 具合が悪くなったり、病気が進行したりしたらどうするのか?
- 働きやすくするための配慮はどうすればよいのか?
…こんな疑問や不安が浮かんでくるかなと。
このような点を払拭することも、就労支援を行う作業療法士には必要なのかもしれません。
そこで今回は、企業といった事業所が障がい者を雇用する場合、作業療法士が事業所側に対してできること…について考えてみました。
作業療法士が事業所に対してできること
まず結論から言えば、次の3つが可能性として考えられます。
- 障害特性からの「関わり方」や「働きかた」の提案
- 今後起こり得る課題を予後予測し早期対処
- 労働生産性、労働環境改善へのコンサルテーション
では、それぞれ考えてみます。
障害特性からの「関わり方」や「働きかた」の提案
事業所側は雇用する障害を有する人の特徴…障害特性というものに馴染みがない場合が多いことがほとんどのようです。
- 「脳卒中で片麻痺…とはいうけど、指先くらいは力入るんでしょ?」
- 「失語症で言葉がうまく話せない?じゃあ文字で書けばいいんじゃない?」
- 「うつ病でやる気がでない?根性がたりないんじゃないの?」
…もちろん人にもよるところはあります。
診断名や障害名から、インターネットなどで調べることで、“概要”としての特徴を把握することはできるかもしれません。
でもそこに個性やパーソナリティーが加わった多種多様な特性になるとさらに把握しづらくなります。
そうなると、事業者側はどのように関わったらよいのか判断に困ることが多くなるようです。
そこで医学的な知識と経験を持ち、社会的なモデルにまで落とし込み、さらにそこから総合的な評価が可能な作業療法士が介入する必要があります。
クライアントのフィジカル面だけでなく、障害特性、性格や思考の傾向など、包括的に評価、検査、判断します。
その情報を元に事業所に…
- どのように関わるのがベストなのか(関わり方)
- どのような働き方がよいのか(働き方)
…の提案をすることができます。
予後予測と早期対処
作業療法士は、病気の特性や予後予測に関わる医療的な観点を持っています。
さらに、そのクライアントのパーソナリティーの傾向、障害特性といったものまでみることができます。
これらの情報から、おおまかでも今後どのような変化が起こるのか…という予後予測が可能です。
- 片麻痺でも今は腕は痛みなく動きますが、がんばりすぎたり、気温が下がる時期は(痙性の亢進によって)痛みがでる場合があります。
- 落ち着いていれば問題なく作業を行うことができますが、納期が近くなって時間に追われる状況下では注意が続きにくくなるかもしれません。
- 夏になり冷房を入れると、外と中との気温差が激しくなって、体温調整がうまくいかなくなり気分の落ち込みやすさにつながるかもしれません。
こういった身体機能、メンタル、生活習慣からの総合的な健康面と言った点まで、作業療法士には予後予測が可能です。
そしてこういった予後予測が可能であれば早期対処も可能になります。
結果、重篤な状態になる前に事業所側に改善の提案をし早期対処することが可能になります。
労働生産性、労働環境改善へのコンサルテーション
障害を有しながら働く場合、仕事をする環境下でなにかしらの「働きにくさ」をダイレクトに感じるはずです。
それは身体障害でも、精神障害、発達障害でも同じです。
でもこれは裏を返せば「その労働環境の改善点を敏感に感じ取る能力」と捉える事ができます。
これはユニバーサルデザインの発想に近いものがあると思います。
ユニバーサルデザインの考え方は、「障害の有無に関係なく“すべての人”が“初めから”使いやすいようにデザインされたもの」ということです。
これって労働環境にも当てはめることができる発想と言えます。
- 車いすの社員が移動しやすくするためにスロープを職場に設置したら…大量の書類を運ぶための台車も通りやすくなった。
- 記憶障害の社員が忘れにくいように物品の位置の固定を徹底したら…社員皆が物品を使いやすくなった。
- うつ病の社員が働きやすいように指示や注意方法について配慮したら…他の社員の離職率が激減した。
障害を有する人が働きやすい職場環境というものは、他の健常な人にとってはさらに働きやすくなる環境になります。
従来の環境を障がい者雇用を通して改めて見直すことで、総合的な生産性の向上、環境改善につなげることが可能になります。
ただしこれは当事者であるクライアント-事業主間のみではなかなか気づきにくい点でもあります。
そこで専門知識を持つ作業療法士がコンサルテーション的に関わることで、より効率的に労働生産性、労働環境改善を図ることができるのだと考えられます。
まとめ
本記事では、作業療法士が障がい者雇用を行う事業所(企業)に対してできること…について解説しました。
どうしても「障がい者の雇用」となると障害者雇用促進法によって定められていることから、企業にとっては義務的なものとして捉えられています。
乱暴な言い方をしてしまえば“しょうがなく”行っているものという認識がいまだに多いようです(もちろん全部とは言いませんが)。
もしくは、CSRのように従来の障がい者雇用の企業側のメリットである「社会的なイメージの向上」としてしかとらえていない企業もちらほらあるようです。
障がい者雇用を何か特別なこと、企業にとって大きな負担になることとして捉えるのではなく…
障害を持つ社員=企業が業務改善を図るためのアドバイザー
…として捉える。
そうすることが、雇用される側、雇用する側双方のメリットにつながるのではないでしょうか?
そしてその双方への支援に作業療法士が関わることができるのかもしれませんね。