高次脳機能障害のなかでも、特に失行といった行為の障害を検査するのに最適なのが、標準高次動作性検査(standard performance test for apraxia :SPTA)になります。
今回はこのSPTAの検査項目や検査方法、点数算出や結果解釈について解説します。
標準高次動作性検査(SPTA)とは?
標準高次動作性検査(standard performance test for apraxia :SPTA)は、高次脳機能障害による“行為の障害”が疑われる方に実施する検査です。
この行為の障害には麻痺、失調、異常運動といった運動障害、老化に伴う運動障害や知能障害、全般的精神障害や失効症との境界症状の状態把握にも有効とされています。
加えて、その行為を完了するまでの動作過程についても詳細に評価することができるようになっている検査です。
検査項目
SPTAの検査項目としては…
- 顔面動作
- 物品を使う顔面動作
- 上肢(片手)習慣的動作
- 上肢(片手)手指構成模倣
- 上肢(両手)客体のない動作
- 上肢(片手)連続的動作
- 上肢・着衣動作
- 上肢・物品を使う動作
- 上肢・系列的動作
- 下肢・物品を使う動作
- 上肢・描画(自発)
- 上肢・描画(模倣)
- 積木テスト
…の13項目で構成されています。
以下にそれぞれ下位検査項目について解説します。
1.顔面動作
この検査によって「口腔顔面失行」を評価することができます。
- 舌を出す
- 舌打ち
- 咳
2.物品を使う顔面動作
この検査項目でも、「口腔顔面失行」を評価することができます。
- 火を吹き消す
3.上肢(片手)慣習的動作
この検査では、「観念運動失行」を評価することができます。
- 軍隊の敬礼(右)
- おいでおいで(右)
- じゃんけんのチョキ(右)
- 軍隊の敬礼(左)
- おいでおいで(左)
- じゃんけんのチョキ(左)
4.上肢(片手)手指構成模倣
この検査でも、「観念運動失行」を評価することができます。
- ルリアのあご手
- ⅠⅢⅣ指輪(ring)
- ⅠⅤ指輪(ring)(移送)
5.上肢(両手)客体のない動作
この検査でも「観念運動失行」を評価することができます。
- 8の字
- 蝶
- グーパー交互テスト
6.上肢(片手)連続的動作
- ルリアの屈曲指輪と伸展こぶし
7.上肢・着衣動作
この検査では「着衣失行」を評価することができます。
- 着る
8.上肢・物品を使う動作
(1)上肢・物品を使う動作(物品なし)
この検査では、「観念運動失行」を評価することができます。
- 歯を磨くまね(右)
- 髪をとかすまね(右)
- 鋸で木を切るまね(右)
- 金槌で釘を打つまね(右)
- 歯を磨くまね(左)
- 髪をとかすまね(左)
- 鋸で木を切るまね(左)
- 金槌で釘を打つまね(左)
(2)上肢・物品を使う動作(物品あり)
この検査では、「観念失行」を評価することができます。
- 歯を磨く(右)
- 櫛で髪をとかす(右)
- 鋸で板を切る(右)
- 金槌で釘を打つ(右)
- 歯を磨く(左)
- 櫛で髪をとかす(左)
- 鋸で板を切る(左)
- 金槌で釘を打つ(左)
9.上肢・系列的動作
この検査では、上肢の「観念失行」を評価することができます。
- お茶を入れて飲む
- ローソクに火をつける
10.下肢・物品を使う動作
この検査では、下肢による「観念失行」を評価することができます。
- ボールをける(右)
- ボールをける(左)
11.上肢・描画(自発)
この検査では、「構成失行」を評価することができます。
- 三角をかく
- 日の丸の旗をかく
12.上肢・描画(模倣)
この検査でも「構成失行」を評価することができます。
13.積木テスト
この検査でも「構成失行」を評価することができます。
実施時間
実施時間は約90分で、検査開始から終了までは原則2週間で行う必要があります。
SPTAは検査項目が非常に多いことから、スクリーニングとしてWAB(westerm aphasia battery)の行為課題を用いる場合もあります。
評価基準
誤り得点
*麻痺や失語症による課題が未完了
2点:課題が完了できなかった
1点:課題は完了したが、その過程に移乗があった(拙劣、修正行為、遅延反応、動作の過少などを含む)
0点:正常な反応で課題を完了した
反応分類
(1)正反応(N:normal response)正常な反応
(2)錯行為(PP:parapraxis)狭義の錯行為や明らかに他の行為を理解される行為へのおきかえ
(3)無定形反応(AM:amorphous)何をしているかわからない反応、部分的行為も含む
(4)保続(PS:perseveration)前の課題の動作が次の課題を行うとき課題内容と関係なく繰り返される
(5)無反応(NR:no response)何も反応しない
(6)拙劣(CL:clumsy)拙劣ではあるが課題の行為ができる
(7)修正行為(CA:coduite d’approche)目的とする行為に対し試行錯誤が認められる
(8)開始の遅延(ID:initiatory delay)動作を始めるまでに、ためらいが見られ、遅れる。
(9)その他(O:others)上記に含まれない誤反応
*反応分類は該当する反応すべてをチェックするため重複しても問題ない
失語症と麻痺の影響
A:失語症との関連が想定される誤り
P:麻痺のための誤り、または麻痺が関与した判定困難な動作や行為
A・P:失語症と麻痺の合併が関与した誤り。またはそれらによる判定困難な動作や行為
注意点
SPTAを実施するにあたっての注意点としては…
- 指示は正反応がえられるまで進める
- 正常な反応が得られた場合にはその先の課題は正常な反応がえられるとみなし、省略して、その旨を記載する。
SPTAの結果解釈とプロフィール作成について
SPTAによる検査終了後、各検査結果を附属のプロフィル用紙に記入して整理し、解釈をします。
検査結果解釈の方法としては、
- 1.誤反応項目数
- 2.修正誤反応率の算出
によって行われます。
以下、それぞれの方法を解説します。
1.誤反応項目数
①各項目のそれぞれの指示様式の中で2点or1点の誤り得点のあった項目数をそれぞれ記入します。
*施行していない場合は“不明”と記入します。
②さらにその中でA(失語症)、P(麻痺)、A+P(失語症および麻痺)の影響のため誤反応となっている項目数をそれぞれ記入します。
2.修正誤反応率の算出
SPTAの検査を行う場合、その結果には対象疾患の症状(A,P,A+P)の影響が含まれている場合が多く、
純粋な高次動作性機能を検査するためには、これらの影響をできるだけ除外して考える必要があります。
そのため、以下の2通りの方法によって修正誤反応率を算出します。
①失語症、麻痺、失語症と麻痺の合併による影響がある場合の修正誤反応率
修正誤反応率%①=(a+b)-(c+d+e)/f-(c+d+e)×100%
a:誤り得点2と評価された項目数
b:誤り得点1と評価された項目数
c:誤り得点の原因が失語症によると判定された項目数
d:誤り得点の原因が麻痺によると判定された項目数
e:誤り得点の原因が失語症と麻痺の合併によると判定された項目数
f:全項目数
失語症の影響はとりのぞかず、麻痺の影響のみ取り除いた場合の修正誤反応率
修正誤反応率%②=(a+b)-(d+e)/f-(d+e)×100%
a:誤り得点2と評価された項目数
b:誤り得点1と評価された項目数
c:誤り得点の原因が失語症によると判定された項目数
d:誤り得点の原因が麻痺によると判定された項目数
e:誤り得点の原因が失語症と麻痺の合併によると判定された項目数
f:全項目数
*分母が0になった場合は修正誤反応率は計算できません。
また、SPTAプロフィール自動作成のソフトがあるのでそちらを使ってプロフィール作成を行うのがおすすめです!
SPTA結果の解釈と作業療法への応用
SPTAの結果から、その被験者が言語的な指示理解が良好なのか、もしくは模倣といった視覚的な指示理解が良好なのかといった情報を得ることができます。
また誤反応の頻度や現れ方を観察し、把握することは、被験者が日常生活を送る上でどのような問題化するのかを予測することができます。
これらの情報は、訓練としての作業療法プログラムに反映することができますし、生活指導や家族指導にも反映できますので、非常に重要な情報となります。
SPTAの診療報酬について
SPTAは診療報酬点数の対象検査であり、
- 区分:D285-3(操作と処理が極めて複雑なもの)
- 点数:450点
…となります。