アドラー心理学は、人と関わることを仕事とするセラピストにとって非常に有益だと思っています。
そこで今回は、アドラー心理学の概論、5大理論について解説します。
アドラーってどんな人?
まずはこのアドラー心理学の“アドラー”について。
20世紀はじめに活躍した、フロイト(無意識)、ユング(普遍的無意識)に並ぶ心理学者とされています。
自身が肺炎やクル病と言った病気の経験から劣等感を考え、また何かとライバルになる兄、自由を尊重してくれる父、それに対して冷たい母…という家庭環境で育ったようです。
そんな中でも、数学が得意になった経緯から生まれつきの才能や能力は関係ないと考えるようになったのが後のアドラーの理論の根幹になりました。
そして個人心理学(全体論)を確立し、良好な人間関係を築くための優れた理論や心理療法を打ち立て多くの人の「生きづらさ」に貢献したとされています。
アドラー理論の基本
ではそんな心理学者のアドラーが提唱した理論の基本とはどのようなものになるのでしょうか?
ここでは…
- 人間関係とは何か?
- 自分自身が一番変えやすい
- アドラー心理学は勇気の心理学
…というポイント毎にまとめてみます。
人間関係とは何か?
アドラー理論によると、人間関係の4大要素は…
- 自分:自分が自分をどうとらえているか?
- 相手:相手が自分をどう受け止めているか?
- 関係:場面における他者との関係
- 環境:自分自身が置かれている場面
…とされています。
この4つの要素を俯瞰的な視点で見つめる事で、自分が与えられた人間関係の課題を見つめなおすことができると思います。
自分自身が一番変えやすい
その人間関係の課題をクリアするためには次の4つの“変化”によってできるとされています。
- 環境を変える:リスクがある
- 関係を変える:人間関係が悪化する場合がある
- 相手を変える:相手に代わる意思がないのなら意味がない
- 自分が変わる:アドラー心理学の一番のテーマ
環境を変える…ことは大なり小なりリスクを伴います。
職場の人間関係が悪くなったから転職を繰り返す…ということがいい例でしょうね。
関係を変える…とありますが、これも逆にこじれてしまう場合があります。
ましてや“相手を変える”なんてこともなかなか難しいことが多いです。
そうなるとアドラーは「自分が変わる」ということが一番重要であり、アドラー心理学の最大のテーマとしています。
アドラー心理学は勇気の心理学
生きていくにあたって何かしらの困難に立ち向かい、乗り越えるための活力を与えることを”勇気づけ”とアドラー心理学では読んでいます。
この“勇気づけ”がアドラー心理学の最も大きい目的と言えます。
アドラー心理学の5大理論
ではもう少し詳しく、アドラー心理学の5つの基本理論についてまとめてみます。
アドラー心理学を構成する5つの理論は…
- 自己決定性:ユースフル、ユースレス
- 目的論:人の行動には目的がある
- 全体論:意識も無意識も自分自身
- 認知論:客観t系に人や物はみれない
- 対人関係論:すべての感情や行動には相手役がいる 自分自身もだれかの相手役
…になります。
これらについてもそれぞれ解説します。
自己決定性
アドラー心理学での“自己決定性”を言い表す文言としては「人間は自分自身の人生を描く画家である」といったところになります。
アドラーは人間はみずから人生を作り出す力を持っていると考えています。
困難に出会い、どのような決断をすればよいのか?な時は、その基準を“ユースフル(有益)”か、“ユースレス(無益)”かで判断します。
“正解”、“不正解”ではなく、“よい”、“悪い”でもありません。
セラピストの観点を加えるなら、障害を持ったことを“不幸”と捉えるか、それとも自身の糧につながるよう“有益”な事象と捉えるかはその人自身にかかっている…ということでしょうね。
目的論
アドラーは「人の行動には目的がある」と考えており、この点ではフロイトの考え方とは逆になるようです。
人の行動はすべて目的によって説明がつきます。
うまくいかないときは原因より“目的”に目を向けることが重要であり、過去の原因に執着してもあまり意味がありません。
先にある未来をみつめ、その目的を考えることがアドラー心理学の理論の一つになります。
例で言えば、“残業が多い”という「働きづらさ」が課題としてある場合、
原因論で考えるなら、「仕事ができないから残業するしかないんだ…」「こんなブラックな会社に入ったから残業ばかりなんだ…」とその原因にばかり目が向きがちになってしまいます。
しかし、アドラー心理学でいう目的論で考えるなら、「残業したくないから…どうやったら少しでも効率よくできるのか考え、仕事ぶりを見直そう」となります。
全体論
アドラー心理学では、「人の心に矛盾はない」としており、日常よく見られる「つい…」、や「うっかり…」というのも詰まるところ自分の意思決定の結果としています。
人間は体と心がセットで一つの個人を形成しており、分離することは不能だということ…これが全体論です。
フロイトやユングは意識、無意識の考え方を打ち出し、心のなかで良心と欲求との葛藤が行われていると考えました。
そして時々無意識や欲求が意識を踏み越えていくという表現をしています。
アドラーは意識も無意識も全部合わせて“自分自身”。
理性と感情は相反する現象と考えられがちだが、アドラーは矛盾ではなく補いあう関係だと考えています(「意識-無意識」「肉体-精神」「理性-感情」)
セラピストが臨床や現場で患者さんの発言や行動、表情や態度の変化一つ一つも、この全体論で考えてみると案外いままで見えなかった視点を持ってみることができるかもしれませんね。
認知論
人間だれもが自分だけの”色メガネ”でみて、相手を評価します。
大切なのは「どんなできごとか」、ではなく「自分がどうとらえるか」ということです。
アドラーは人間が客観的に人やものをとらえるのは不可能だと考えています。
誰もが自分自身の色眼鏡をかけていて、最初から偏った見方をしてしまいます。
客観的な出来事にこだわるよりも、その人ができごとや人物をどうとらえ、どう意味づけているか、に着目するということになります。
セラピストは客観的にクライアントを把握しないといけない場面が非常に多いと思いますが、本当に100%客観的には把握しきれていないと捉えなおす必要があります。
むしろ「○○と思っているが、もしかしたら××かもしれない」といった選択肢を広げておく程度の判断の方が臨床や現場では有益な視点なのかもしれません。
対人論
行動にははすべて相手役がいます。
相手役の行動によって、自分もまた影響を受け、それがさらに相手役へ影響をおよぼしていきます。
患者の感情一つ一つも、この対人論から考えれば誰かしらの相手に対して向けていること…と捉えると、
案外リハビリ介入が拒否的なクライアントとの関わり方にも、変化が生まれてくるかもしれませんね!
また自分が相手役になることもあり、これは「自問自答」とされています。
どちらにしろ、その行動のベクトルの先がどこに向っているのかを知る必要がありますね!