障害を有する人の復職、就労といった職業リハについて作業療法士として考えてみると、この「働く」ということがどのようなモノなのか…改めて振り返ってみる機会が多くあります。
- 生きていくため?
- 食べていくため?
- 家族のため?
- 大人だから?
- 社会人だから?
…もちろん、いろんな意見があると思います。
学生時代が終わり、社会人となり仕事をする…ということはどのようなものか。
そしてその生活を理想的に送るためには、何が必要なのかについて作業療法士の視点から考えてみます。
この記事が、仕事をしたくない、働きたくない…と悩む人にとっての一助になれれば幸いです。
「働く理由」について
人材採用などを行っている“エン・ジャパン株式会社”が運営する総合求人・転職支援サービス“エン転職”が実施したアンケート調査(2015年実施)では、「なぜいまの仕事を決めたか?」という質問でアンケートを実施したようです。
その結果については次の通りになります。
1.現在の仕事を決めた理由は?(複数回答可)
画像引用:現在就業中の方に聞いた、今の仕事を選んだ理由。―『エン転職』ユーザーアンケート集計結果―
アンケート結果からみると、現在の仕事を決めた理由としては、20代、30代は「やりたいこと」、40代は「できること」を重視している傾向にあるようです。
20代、30代では自身の興味や関心の対象から自身の仕事に、40代ではいままでのキャリアから自身の仕事につなげていく…ということになるでしょうね!
2.次の仕事を選ぶ際に重視することは?(複数回答可)
画像引用:現在就業中の方に聞いた、今の仕事を選んだ理由。―『エン転職』ユーザーアンケート集計結果―
「転職するなら?」ということで、20代は給料や休日といった条件面や職場環境を重視しており、40代以上は経験を活かせるかどうかを重視している傾向にあります。
職業生活が長ければ長いほど、自分が歩んできたキャリアや経験をどう活かすか、という発想で考えることが多い印象ですね!
3.あなたが働く理由は?(複数回答可)
画像引用:現在就業中の方に聞いた、今の仕事を選んだ理由。―『エン転職』ユーザーアンケート集計結果―
働く理由としてはやはり「収入を得るため」がトップになりますね。
細かくみると、結婚というライフイベントによって収入を得る目的も変わってきますが、独身が多いであろう20代は「自立するため」、結婚し家族を持つ人が多いであろう30代以上は「家族を支えるため」という傾向が多くみられます。
ただし注目すべきはこの「収入」以外の回答であると思います。
- 「社会の役に立ちたい」
- 「自分の力を試したい」
…といった回答が少なからず見られることがこの「働くこと」の本当の目的につながっていくのかと思います。
“働くこと”は自己実現と社会参加
作業療法士の視点で結論を言えば、“働くこと”というのは“自己実現”と“社会参加”としての意味を含む必要があると考えています。
生活をしていくため、収入を得るためであったらそれは“手段”として働くことになります。
でもその手段だけでは、働くことが味気のない単純作業になってしまいます。
…それはどう考えてもつまらないですよね。
自分はこれがやるのが楽しいから。
大変だけど、ワクワクするから。
誰かの役に立っているから。
そういう感覚が、生活のためだから…という味気ない単純作業化した仕事に、意味を持たせるのだと思うんです。
もちろん生活の経済的安定のための手段という捉え方は重要です。
あくまで“大前提”であって“全て”ではないということになりますね。
前向きに働くことが大事では?
もう少し補足しますね。
生活をしていくため、収入を得るためを目的とする“だけ”の働き方は、言ってしまえば「受け身な働き方」になります。
自分でコントロールできず、「やらされているだけ」の働き方では、どんなに収入がよくてもそこにはあまり魅力を感じなくなってしまうことが多くあります。
その仕事や働き方に「自己実現」「社会参加」という「前向きな意味」を加えないと、「仕事=生活のための手段」でしかなくなってしまう。
そうすると、長い職業生活がやっぱり味気なく、つまらないものに変わっていってしまいます。
障がい者の職業生活は前向きなことが多い?
職業リハについて様々な文献、論文などを調べていくと、障害を有する人の働き方は非常に前向きなことが多いように感じます。
もちろん、収入を得て自立するためだったり、家族を養うためという目的は含まれています。
でも、なによりも「障害を持っていても働きたい」「社会の役に立ちたい」「自分ができることで役割を持ちたい」という前向きな意欲があるケースが多いように感じます。
少なくとも、「働いたら負け」という感覚ではないことがほとんどのようです。
職業生活という言葉について
「仕事」「働く」という言葉の他に、ちょっと馴染みがないかもしれませんが「職業生活」という言葉があります。
ちょっと堅苦しい表現なので専門用語っぽいですが、実は一般的に使われているものであり、高校の公民の教科でも取り上げられている言葉のようです。
そして面白いのが…
青年は職業をもち、仕事を通じて自分の個性を生かすことができる。
自分の能力を発揮し、それによって社会に貢献することは、まさしく自己実現の一つにほかならない。
という表現で、この職業生活について触れています。
決して「収入のため」と言っていないところが、なかなか“教科書的”ではありますね(笑)
理想の職業生活とは?
そうなると、理想の働き方、職業生活の送り方とは…
- 収入を得る事での経済的自立
- 仕事を通しての社会的貢献
- 仕事をすることでの自己実現
…の3つがバランスよく含まれている状態だと考えます。
もちろん、その時期や状況によってこの3つの優先順位、割合は変わってくるかと思いますが、どの要素も極端に少ない状況にある職業生活はあまりおすすめできない気がします。
まとめ
本記事では、「理想の仕事をするために必要な3つの要素」について解説しました。
いくら収入が多くても、そこに自己実現や社会的貢献の要素が少ない働き方では心にダメージを負ってしまいます。
逆に自己実現や社会的貢献の要素が多すぎて、収入が極端に少ない働き方では生活が成り立ちません。
この3つのバランスを考えた職業生活が理想といえます。
「生活」を総合的に評価し、対象の個人に合った方法で支援するスキルに長けている作業療法士が、障害を有する人だけでない多くの人の働き方を考え、支援することが非常に自然な流れだと思うんです。