ちょっとした油断などで転んでしまうことで起こる「大腿骨頸部骨折」。
また脱臼や糖尿病といった様々な原因から起こる「大腿骨頭壊死」。
どちらもその程度によっては「人工骨頭置換術」によって対処する場合があります。
手術後、痛みも落ち着いてまた普段通りの生活を送れる…と思っても、今度は再度股関節の脱臼を起こさないように注意しないといけません。
実際に人工骨頭置換術のリハビリの現場を経験すると、ズボンや靴下、靴の脱ぎ履きで苦労する場合が多いようです。
「脱臼しないように…」と気を配りながらの着替えは、なかなか手こずってしまう…。
そこで今回は、人工骨頭置換術後の方が着替えを行う際の注意点について解説します。
人工骨頭置換術のアプローチによって脱臼のリスクが違う
人工骨頭置換術後の着替えの注意点の前に、まず自分が…
- 前方アプローチ
- 後方アプローチ
…のどちらなのかを把握する必要があります。
というのも、この前方アプローチか後方アプローチかによって脱臼率が変わることがわかっています。
その脱臼率の違いですが…
- 前方アプローチ:0~2.2%
- 後方アプローチ:1~9.5%
…というデータもあるようです。
つまり、後方アプローチの手術のほうが明らかに脱臼しやすいということがわかります。
参考記事:人工股関節外来専門医 久留 隆史 公式サイト
*他の論文による脱臼率のデータについて知りたい場合は(旧版)大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン (改訂第2版)を参考にしてみてください。
人工骨頭置換術の脱臼しやすい姿勢について
人工骨頭置換術後…特に後方アプローチの方は、その姿勢によっては関節に負担がかかり再度股関節が脱臼してしまう…というリスクを抱えていることがわかりました。
では実際にこの脱臼しやすい姿勢とはどんな姿勢でしょうか?
結論として、この姿勢は…
- 股関節を過度に曲げる(過剰屈曲)
- 股関節の過度に伸ばす(過剰伸展)
- 股関節の過度に内側に入れる(過剰内転)
- 股関節の過度に内股にする(過剰内旋)
…があげられます。
また、これらが複数組み合わさる動作(複合動作)ならさらに脱臼リスクは高まってしまいます。
*ちなみに脱臼は術後3か月以内に発生しやすいといわれていますが、姿勢によっては3か月以降も脱臼するケースもあるようなので注意が必要です。
人工骨頭置換術の着替える際の注意点について
上述した姿勢は、どれも下衣や靴下、靴の脱ぎ履きに大きく関わります。
その為、工夫や注意をしないと脱臼のリスクが高まってしまいます。
主な注意点ですが…
- 椅子などに座った姿勢(座位)で行うこと
- 着るときはオペをした側から行うこと
- 靴下や靴の着脱の際、過度に前かがみにならないこと
…があげられます。
以下にそれぞれ解説します。
椅子などに座った姿勢(座位)で行うこと
まず、着替えをする際は椅子などに座った姿勢で行うことをお勧めします。
これはズボンや靴下、靴の脱ぎ履きはもちろん、できるなら上着の時も言えます。
というのも、人工骨頭置換術のオペをした後は、どうしても立った状態のバランスが不安定になってしまいます。
できる限り安定したイスやベッドに座った状態で行うことで転倒リスクをぐっと減らすことができます。
着るときはオペをした側から行うこと
人工骨頭置換術後の方の着替えの際の基本ですが、「着るときはオペ側から、脱ぐときはオペしていない健康な側から行う」と指導しています。
実際に行ってみるとわかりますが、ズボンを履く際はオペを行った側の下肢からのほうが裾にスムーズに通すことができます。
そのため、上述した股関節の過剰屈曲などの脱臼リスクを高める姿勢をとらずに履くことができます。
脱ぐ際は逆にオペをしていない側の足から行うほうがスムーズです。
靴下や靴の着脱の際、過度に前かがみにならないこと
ズボンやパンツなどの脱ぎ履きよりもやっかいなのが、靴下や靴かもしれません。
足先に手が届きにくく、必死に手を伸ばした結果股関節が過剰に曲がってる姿勢をとってしまっている…ということが多く見受けられます。
どうしても足先に手が届かず靴下や靴を操作しにくい場合は、リーチャーやソックスエイドといった自助具を利用することが必要です。
まとめ
今回は人工骨頭置換術後の着替えの際の注意点や、脱臼リスクを減らすちょっとした工夫について解説しました。
大事なのは自分のオペが前方、後方どちらかなのかを把握すること。
そしてどういう姿勢が危険なのかを知ること…と言えます。
「脱臼するのが怖いから」といって着替えが億劫になり、結果外出もしなくなって家に閉じこもり…なんてことがないようにしていただければ幸いです。