脳卒中という病気は、なによりも迅速な判断と対応が求められます。
早急な処置を施されればされるほど、予後は良好になりまた発症前と同じような生活に戻れる場合は少なくありません。
そこで今回は脳卒中を早期発見するための「FAST」について解説します。
脳卒中を早期発見するための「FAST」とは?
「FAST」は、脳卒中の初期症状を素早く認識し、早期対応を促すための覚えやすい標語です。
この言葉は、「Face(顔面)」、「Arm(腕)」、「Speech(言語)」、「Time(時間)」の4つの頭文字から構成されており、それぞれが脳卒中の典型的な症状を示しています。
まず、顔の片側が垂れ下がる、または笑った際に非対称になる顔面麻痺が「F」、片方の腕に力が入らず、両手を前に出したときに片方が下がる上肢麻痺が「A」として識別されます。
次に、呂律が回らない、言葉が出てこないなどの言語障害が「S」で示され、これらの症状が現れた際には時間が極めて重要であるため、速やかに119番通報をして病院に向かうことが「T」で強調されます。
「FAST」は、このように脳卒中を早期に発見し、迅速な対応を可能にするための重要な指針となっています。
FASTのそれぞれの意味
前述したように「FAST」のそれぞれは…
- Face (顔面)
- Arm (腕)
- Speech (言語)
- Time (時間)
…の4つになります。
それぞれ解説します。
Face (顔面)
脳卒中の初期症状として、顔の片側が垂れ下がる、または笑ったときに非対称になる顔面麻痺が見られます。
この症状を確認する方法としては、本人に笑顔を作ってもらい、片側の口角が上がらないかどうかを確認します。
顔が左右対称ではなく、片方の頬が下がったり、口角が片方だけ上がらない場合は、脳卒中の可能性があります。
また、笑顔を作ろうとしても片方の口角が上がらず、不自然な笑顔になることも、脳卒中のサインとなるため注意が必要です。
Arm (腕)
脳卒中では、片方の腕に力が入らず、両手を前に出したときに片方の腕が下がる上肢麻痺が見られることがあります。
この症状を確認するためには、本人に両腕を前に伸ばしてもらい、片方の腕が下がってしまうかどうかを観察します。
片方の腕が上がらない、もしくは力が入らず途中で止まってしまう場合、脳卒中が疑われます。
また、片方の腕に力が入らず、持っていたものが落ちてしまうこともあるため、日常的な動作に異変を感じたら速やかに対応が求められます。
Speech (言語)
脳卒中は、呂律が回らない、言葉が出てこないなどの言語障害としても現れることがあります。
この症状を確認するには、本人に簡単な文章を話してもらい、言葉がはっきりしているかどうかをチェックします。
言葉がもごもごしていたり、うまく言葉が出てこない場合は、脳卒中の兆候である可能性が高いです。
また、言葉が聞き取りにくくなったり、文末が途切れる、相手の言葉が理解できないなどの症状が現れることもあるため、早期に医療機関を受診することが重要です。
Time (時間)
脳卒中の症状が現れた場合、時間との戦いとなります。これらの症状が確認されたら、速やかに119番通報をして救急車を呼び、病院へ急行することが必要です。
時間が経つほど脳へのダメージが大きくなり、後遺症が残るリスクや生命の危険が増すため、一刻も早い対応が求められます。
脳卒中の発症から治療までの時間を短縮することで、適切な治療を受ける可能性が高まり、回復の見込みも向上します。
なぜFASTが大切なの?
FASTは、脳卒中の初期症状を覚えやすくするために作られた言葉ですが、なぜFASTがこれほど重要視されるのでしょうか。
その理由としては…
- 早期発見
- 迅速な対応
- 治療の効果
- 命を救う
- 認識の向上
…などがあげられます。
それぞれ解説します。
早期発見
FASTの重要性は、脳卒中の症状を早期に発見し、迅速に対応することにあります。
脳卒中治療において「ゴールデンタイム」とされる発症から3時間以内に治療を開始することで、後遺症を最小限に抑えることが可能です。
この時間内に治療を受けることができれば、脳の損傷を軽減し、回復の可能性を大いに高めます。
また、症状が進行する前に適切な治療を受けることで、脳へのダメージを最小限に留めることができます。
迅速な対応
脳卒中の治療において、迅速な対応が極めて重要です。
時間が経つにつれて脳のダメージが拡大し、回復が難しくなるため、早期に症状を認識し、医療機関へ向かうことが求められます。
早期の治療開始により、脳へのダメージを最小限に抑え、後遺症の軽減や機能回復の可能性が高まります。
迅速な対応こそが、患者の生命を守る鍵となります。
治療の効果
FASTによって早期に治療を受けることで、脳卒中の治療効果が最大化されます。
脳の機能回復が期待でき、麻痺や言語障害などの後遺症を減らすことが可能です。
早期治療は、脳の損傷を抑え、患者が日常生活に戻る際の支障を最小限にすることにつながります。
これにより、生活の質が向上し、より自立した生活を送ることができるでしょう。
命を救う
FASTによる迅速な対応は、患者の命を救う可能性を大幅に高めます。
脳卒中は、死亡原因の上位に位置する重大な病気ですが、早期に適切な治療を受けることで、致死率を大幅に低下させることができます。
早期対応により、命を守るだけでなく、長期的な健康状態の改善も期待されます。
早期治療が、患者の生命と健康を守るための最善の手段です。
認識の向上
「FAST」を覚えることで、脳卒中の症状を誰でも簡単に認識できるようになります。
これにより、周囲の人々が脳卒中の症状を迅速に察知し、適切な対応を取ることが可能です。
脳卒中に対する理解が広がることで、地域社会全体の健康意識が向上し、予防と早期対応の重要性が広く認識されます。
これが、脳卒中による被害を減らすための社会的な力となります。
その他、脳卒中発症時の症状について
FASTは脳卒中の代表的な初期症状ですが、他にも様々な症状が現れることがあります。
症状は、脳のどの部分が損傷を受けたかによって異なります。
例としては…
- 激しい頭痛
- めまい
- 意識が混濁する
- 視界が二重になる
- 平衡感覚が失われる
…があげられます。
それぞれ解説します。
激しい頭痛
脳卒中の症状の一つとして、突然の激しい頭痛が挙げられます。
特に、経験したことのないような激痛や「ハンマーで殴られたような痛み」と表現されることが多く、これは脳内で出血が起こっている可能性を示唆します。
このような頭痛が急に発生した場合は、すぐに医療機関を受診する必要があります。
時間を置くことなく対応することで、脳への損傷を防ぎ、後遺症のリスクを減らすことができます。
頭痛は見過ごされがちですが、脳卒中の重大な兆候となるため、注意が必要です。
めまい
脳卒中のもう一つの症状として、突然のめまいやふらつきが現れることがあります。
このめまいは、平衡感覚を司る脳の部分が損傷を受けたことによるもので、通常の立ちくらみや疲労によるめまいとは異なり、強く持続することが特徴です。
めまいが急に現れ、特に立っているのが困難になる場合は、脳卒中の可能性を疑い、早急に医療機関での検査を受けることが推奨されます。
めまいを軽視せず、脳卒中のサインとして認識することが重要です。
意識が混濁する
脳卒中は、意識の混濁や混乱を引き起こすことがあります。これは、脳の一部が十分な血流を受けられなくなり、正常な機能が維持できなくなるためです。
意識が急にぼんやりしたり、物事を正確に認識できなくなったりする場合は、緊急の対応が必要です。
この状態は時間が経つほど悪化し、脳に深刻なダメージをもたらす可能性があるため、即座に医療機関を受診することが求められます。
意識の混濁は、見逃してはいけない重要なサインです。
視界が二重になる
脳卒中の初期症状として、視界が突然二重に見えることがあります。
これは、脳の視覚を司る部分が影響を受け、正確に視覚情報を処理できなくなった結果です。
二重視は、片目で見ると改善することがあるものの、脳卒中の兆候である可能性が高いため、無視してはいけません。
視界が急にぼやけたり、二重に見えたりする場合は、すぐに医師の診断を受けることが必要です。
視覚の異常は、脳卒中の重要な警告信号です。
平衡感覚が失われる
脳卒中により、平衡感覚が失われることがあります。これは、脳のバランスを保つ機能が損なわれた結果であり、歩行や立位が困難になることがあります。
この症状は、転倒や事故のリスクを高めるため、非常に危険です。
平衡感覚の異常を感じた場合は、すぐに座るか横になるなどして安全を確保し、直ちに医療機関を受診することが重要です。
平衡感覚の喪失は、脳卒中の深刻なサインの一つとして注意を払うべきです。
まとめ
今回は”脳卒中発症時の症状”と、覚えておくべき“FAST”について解説しました。
意識障害や腕に力が入らない…といった明らかに“おかしい”と感じる症状でしたら、すぐに対応するのでしょうけど、めまいとか歩いていてちょっとつまづくといった症状の場合は案外見逃されてしまう場合があります。
一つだけの症状とは限らないので、“FAST”などを利用して、他の症状の有無を確認し早急な対応をする必要があるんでしょうね!