リハビリテーションの臨床でよく目の当たりにする”浮腫”という症状。
本記事では浮腫の定義や発生機序と原因について解説します。
浮腫とは?
浮腫とは、皮下組織に組織間液が異常に増加・貯留している状態を指します。
つまり、何らかの病的な原因により、血漿成分が血管外に漏出あるいは滲出して生じる状態です。
通常、組織間液が2〜3倍以上増加すると、臨床的に浮腫として診断されます。
主な部位としては、眼周囲、手指・手背、下腿、足背などが挙げられます。
浮腫の発生機序と原因
浮腫が起こるメカニズム、原因は主に…
- 血管内圧の上昇
- 低蛋白血症による血漿膠質浸透圧低下
- ナトリウムの貯留
- リンパ管障害
…の4つに分類されます。
以下にそれぞれ解説します。
血管内圧の上昇
浮腫のメカニズムの一つは、血管内圧の上昇です。
血管内圧が上昇すると、毛細血管の透過性が増加し、血管から組織間液への漏出が促されます。
この漏出により、組織間液が異常に増加・貯留し、浮腫が生じます。
血管内圧の上昇は、心不全や静脈閉塞などの状態によって引き起こされます。
心不全 (右心不全)では、心臓のポンプ機能の低下により、血液が十分に送り出されず、血管内の圧力が上昇します。
また、静脈閉塞では、血液の流れが阻害され、血管内圧が上昇します。
これらの状態によって血管内圧が上昇し、組織間液の漏出が増加するため、浮腫が発生します。
低蛋白血症による血漿膠質浸透圧低下
また、低蛋白血症による血漿膠質浸透圧の低下も浮腫の原因の一つになります。
蛋白質は血漿中の主要な成分であり、その中でも特にアルブミンは血中内のたんぱく質のうち67%を占めています。
このアルブミンは、血漿膠質浸透圧を維持する役割(膠質浸透圧)を担っています。
しかし、ネフローゼ症候群や肝硬変などの疾患によって血漿中の蛋白質濃度が低下すると、血漿膠質浸透圧も低下します。
通常、血管内外の圧力差や蛋白質の浸透圧差により、組織間液は血管内に戻る傾向があります。
しかし、血漿膠質浸透圧が低下すると、この逆流が促進され、組織間液の貯留が生じます。
ナトリウムの貯留
加えて、ナトリウムの貯留も浮腫の原因の一つです。
通常、体内のナトリウム濃度はバランスが取られており、体液の中で正確に調整されています。
しかし、腎機能の低下といった特定の状況下では、ナトリウムの排泄が減少し、体内にナトリウムが貯留することがあります。
そもそもナトリウムは水分のバランスを調節する上で重要な役割を果たしています。
ナトリウムが増加すると、体液中の浸透圧が上昇し、水分が細胞内から体液へと移動します。
この結果、組織間液が増加し、浮腫が生じる可能性があります。
浮腫につながるナトリウムの貯留は、さまざまな要因によって引き起こされます。
例えば、腎機能の低下により、ナトリウムの排泄が十分に行われなくなる場合があります。
また、ホルモンの異常や特定の薬物の使用もナトリウムの貯留を促進する要因となることがあります。
そのようなナトリウムの貯留による浮腫は、主に全身性浮腫として現れます。
特に下肢や足首などの重力による浮腫が顕著です。
リンパ管障害
リンパ管は体内の余分な液体や老廃物を排出する役割を担っています。
しかし、リンパ管に障害が生じると、リンパ液の流れが妨げられ、組織間液の貯留が起こります。
リンパ管障害は、さまざまな原因によって引き起こされます。
例えば、リンパ節の摘出や損傷、腫瘍の圧迫、感染症などが関与することがあります。
これにより、リンパ管の通路が狭窄し、リンパ液の流れが阻害されるため、組織間液が滞留しやすくなります。
リンパ管障害による浮腫は、局所的な範囲で発生することが多いです。
例えば、手足や顔の浮腫がみられます。
この浮腫は重力によって増強される傾向があります。
浮腫とStarlingの法則
つまり、浮腫が発生する原因としては、毛細血管から組織間隙(間質)への血漿成分の移行量が、組織間隙から毛細血管への吸収とリンパ系からの流出よりも多くなるということになります。
このバランスは、Starlingの法則として知られる理論式によって決定されます。
Starlingの法則は、毛細血管壁を通過する液体の移動を説明するための基本的な原則です。
この法則によれば、液体の移動は、毛細血管内の圧力勾配と浸透圧勾配によって決定されます。
具体的には、毛細血管内の静水圧(Pc)と組織間隙の静水圧(Pif)の差が血漿成分の移行を引き起こし、血漿膠質浸透圧(πp)と組織間隙の膠質浸透圧(πif)の差が吸収や流出を制御します。
これらの圧力と浸透圧のバランスが崩れると、組織間隙に液体が貯留し、浮腫が生じます。