痛覚の伝達メカニズムについては解説しましたが、その痛覚が伝わるためには神経伝達物質が重要です。
本記事では…
- 痛覚の神経伝達物質
- 痛覚の調節機構
…について解説します。
痛覚における神経伝達物質について
上述したように痛覚は、末梢組織に加わった侵害刺激が脊髄に伝わり、脊髄から大脳皮質へと複数のステップを経て伝達されます。
この伝達には2種類の”神経伝達物質”が関わってきます。
それが…
- グルタミン酸
- P物質
…になります。
以下にそれぞれ解説します。
グルタミン酸
グルタミン酸は、非必須アミノ酸の1つで、体内ではアラニン、アスパラギン酸、セリンをつくる際に必要なアミノ酸です。
このグルタミン酸は一次知覚神経の一つであるAδ線維から放出され、痛覚の伝達に関わる神経伝達物質の一種になります。
これは脊髄後角表層にあるグルタミン酸受容体に結合して疼痛伝達を促進するものです。
グルタミン酸は、上行性の興奮性シナプス伝達の中心的な役割を担っています。
またグルタミン酸の作用によって、二次ニューロンの興奮性が高まり、神経障害性疼痛などの慢性疼痛が発生する可能性もあります。
P物質
P物質(サブスタンスP)はタキニンの一種で、痛覚の神経伝達物質です。
このP物質は一次知覚神経の一つであるC線維から放出されます。
このP物質も脊髄後角の受容細胞に結合して、上行性の神経細胞を興奮させます。
痛覚の調節機構について
痛みはその程度や種類によって感じ方が異なります。
これは生体内の”痛覚の調節機構”によって、痛みの感じ方や強さを変えていることが理由になります。
この痛覚の調節機構には…
- 内因性鎮痛機構
- 痛覚シグナル調節機構
…があります。
内因性鎮痛機構
痛覚の内因性鎮痛機構とは、脳幹や脊髄から下行性の神経系が痛みの伝達を抑制する機構です。
内因性鎮痛物質と呼ばれるエンドルフィンやノルアドレナリン、エンケファリンなどの神経伝達物質が関与しています。
これらの物質によって、脳幹や脊髄で下行性の抑制系を活性化させて、痛覚の伝達を抑え、痛みに対する耐性や忍耐力を高めます。
例えば、スポーツ選手が試合中に怪我をしても、痛みを感じないことがあります。
これは、内因性鎮痛機構が活性化されているためです。
痛覚シグナル調節機構
痛覚シグナル調節機構は、神経細胞が分泌する短鎖ペプチドである神経ペプチドが、痛みの感受性や伝達を増強したり減弱したりする機構です。
この痛覚に関する神経ペプチドには、サブスタンスPやカルシトニン遺伝子関連ペプチドなどがあります。
つまり、この機構が働くと痛みの神経伝達物質そのものを抑制するということです。
外因性鎮痛機構について
内因性痛覚機構があるなら外因性痛覚機構もあるのか?と思いましたが、”内因性”はあくまで生体内での機構ですので外因性というものは外部からの薬剤投与を指すことになるかもしれません。
あえて言えば、外因性鎮痛機構は、外部から投与されるモルヒネやコデインなどのオピオイド薬が、オピオイドペプチドと同じ受容体に結合して、同様に下行性の抑制系を活性化させて、痛覚の伝達を抑える仕組み…といえるかもしれません。