ナラティブ・ベースト・メディスン – 特徴・具体例・心理療法やEBMとの違いについて

ナラティブ・ベースト・メディスン - 特徴・具体例・心理療法やEBMとの違いについて 用語

ナラティブ・ベースド・メディスン(NBM)は、患者の物語や主観的な経験を重視し、個別化された全人的なケアを提供する医療アプローチです。
本記事ではこの特徴や具体例、心理療法やEBMとの違いについて解説します。


ナラティブ・ベースト・メディスンとは

ナラティブ・ベースト・メディスン(Narrative-Based Medicine)とは、患者が語る病を主体として捉え、それに基づいて医療を提供するアプローチです。
この方法は、患者の人生や価値観、疾患に対する理解を含めて全人的に医療を行おうとするもので、患者さんを主体とし、複数の語りを認める点が特徴です。

特に在宅医療や終末期医療の現場で有効とされ、科学的エビデンスと患者の物語を組み合わせて最適な医療を提供することを目指しています。

ナラティブ・ベースト・メディスンの特徴

ナラティブ・ベースト・メディスンの特徴として…

  • 「病」を人生の一部とみなす
  • 患者さんを主体とする
  • 複数のnarrative(物語・語り)の存在を認める
  • 治療にインパクトを与える可能性がある

…があげられます。
それぞれ解説します。

「病」を人生の一部とみなす

ナラティブ・ベースト・メディスンの中心的な考え方は、「病」を患者の人生の一部として捉えることです。
これは、病気を単なる身体の異常や障害とみなすのではなく、それが患者の生き方や人生のストーリーにどのように影響を与えるかを重視するアプローチです。

例えば、ある患者が慢性的な疾患を抱えている場合、その疾患が日常生活や仕事、家族関係にどのように影響を与えるかを理解することが重要です。
このような視点は、患者が自分の病気をどのように受け入れ、対処していくかを支援する上で非常に有効です。

つまり、病気を切り離された問題として扱うのではなく、患者の人生の文脈の中で考えることで、より全人的な医療を提供することができます。

患者さんを主体とする

ナラティブ・ベースト・メディスンは、患者さんを主体とすることを強調します。
これは、医療提供者が患者の話を注意深く聞き、患者の意見や価値観を尊重することを意味します。
患者は自分の体験や感情、考えを自由に語ることができ、それが診断や治療の方針に反映されるべきだという考え方です。

例えば、患者が治療に対して特定の希望や不安を持っている場合、その声を無視するのではなく、治療計画に組み込むことが重要です。
患者中心のアプローチは、患者が自分の治療に積極的に関与し、より良い治療結果を得るための基盤となります。

医療者と患者の間に信頼関係を築くことで、患者の満足度や治療への協力が高まります。

複数のnarrative(物語・語り)の存在を認める

ナラティブ・ベースト・メディスンでは、患者の語る物語が一つではなく、複数存在することを認めます。
これは、患者が同じ病気について異なる視点や経験を持つことがあるという認識に基づいています。

例えば、ある患者は自分の病気を悲劇として捉えるかもしれませんが、別の患者はそれを成長の機会として見るかもしれません。
このように、個々の患者が持つ多様な物語を理解し、尊重することが重要です。

医療提供者は、患者の異なる物語を聞くことで、より深く患者の状況や感情を理解することができます。
これにより、患者に合わせたパーソナライズドなケアが可能となり、患者のニーズにより適切に対応することができます。

治療にインパクトを与える可能性がある

ナラティブ・ベースト・メディスンは、患者の物語が治療に対して大きな影響を与える可能性があると考えます。
患者が自分の病気についてどのように語るか、その語りが治療の受け入れ方や治療結果にどのように影響を与えるかを重視します。

例えば、ポジティブな物語を持つ患者は、治療に対して積極的に取り組み、より良い治療結果を得ることができるかもしれません。
一方、ネガティブな物語を持つ患者は、治療への意欲が低下し、治療効果が減少することもあります。

このため、医療提供者は患者の物語を積極的に聞き、治療に対する患者の態度や感情を理解し、支援することが重要です。
患者の物語を治療プロセスに取り入れることで、より効果的で患者に寄り添った医療が実現します。

ナラティブ・ベースト・メディスンは、患者の語りを重視し、全人的な医療を提供するアプローチであり、患者の人生や価値観に寄り添ったケアを目指すんだ!
このアプローチは、科学的エビデンスと患者の物語を組み合わせることで、最適な医療を実現する重要な手法なんですね!

ナラティブ・ベースト・メディスンの具体例

ナラティブ・ベースト・メディスンの具体的な例として…

  • 調停的ナラティブ・アプローチ
  • セルフヘルプグループ
  • ナラティブアプローチを用いた問題解決

…があげられます。
それぞれ解説します。

調停的ナラティブ・アプローチ

調停的ナラティブ・アプローチは、複数の人々のナラティブの間で生じる不調和を調整することを目的とした実践です。
このアプローチは、医療現場における倫理的な問題やトラブルの際に特に有効です。

例えば、専門看護師が「倫理調整」の役割を担い、患者やその家族、医療チーム間の意見の対立を解消するために、各者の物語を聞き取り、それを基に対話を促進します。
医療メディエーションもこのアプローチの一例で、患者や家族が抱える苦情や不満を対話を通じて解決するためのプロセスです。

これにより、関係者全員が納得する解決策を見つけることができ、信頼関係の構築や医療サービスの質向上に寄与します。

セルフヘルプグループ

セルフヘルプグループは、ナラティブ・ベースト・メディスンの具体的な実践例として広く知られています。
アルコール依存症者の自助グループであるAA(アルコホーリクス・アノニマス)や断酒会などがその典型です。

これらのグループでは、参加者が自分の経験を他のメンバーと共有し、共感や支援を通じて問題を乗り越えます。
メンバー同士の対話は、個々のナラティブを重視し、それぞれの物語を聞くことで相互理解を深めます。

このプロセスは、参加者にとって精神的な支えとなり、自己肯定感の向上や回復への動機づけとなります。
セルフヘルプグループは、ナラティブ・ベースト・メディスンの理念がコミュニティベースで実践される好例です。

ナラティブアプローチを用いた問題解決

ナラティブアプローチを用いた問題解決は、相談者に自分の主観的な物語を語ってもらうことで問題を外在化し、客観的に捉え直す方法です。
このアプローチは、個人が抱える問題を新たな視点から見直すことで、より建設的な解決策を見つけるのに役立ちます。

例えば、仕事に対する不満を抱えている人が「誰でもできる仕事しか任せてもらえない」と感じている場合、このナラティブを「上司は自分の強みやキャリアパスに合った仕事を任せてくれている」と再解釈することで、ポジティブな視点を持つことができます。
このように、ナラティブアプローチは、個人の認識を変え、問題に対する新たな解決策を見出すための効果的な手法です。

ナラティブ・ベースト・メディスンの具体例には、調停的ナラティブ・アプローチ、セルフヘルプグループ、ナラティブアプローチを用いた問題解決があり、いずれも患者や参加者の物語を重視することで問題解決や支援を行うんだ!
これらの実践例は、ナラティブ・ベースト・メディスンが患者中心の全人的医療を提供するための有効な手法であることを示していますね!

ナラティブ・ベースト・メディスンと心理療法の違い

同じようなアプローチで”心理療法”があります。
ではこの違いとはなにがあげられるでしょうか?
ここでは…

  • 目的の違い
  • アプローチの違い
  • 対象とする健康の違い

…について解説します。

目的の違い

ナラティブ・ベースト・メディスンの目的は、患者の語る病を主体として全人的な医療を提供することです。
これは、患者の人生や価値観、疾患に対する理解を深め、個々の患者に最適な治療計画を立てることを目指しています。

医療提供者は、科学的エビデンスと患者の物語を統合することで、身体的健康と患者の総合的な幸福を追求します。
一方、心理療法の目的は、個々の人々の心理的な問題や困難を解決し、感情的および行動的な変化を促すことです。

心理療法では、クライアントが自己理解を深め、心理的健康を向上させるためのサポートを提供します。
これにより、クライアントは自身の問題に対する新しい視点や解決策を見つけることができます。

アプローチの違い

ナラティブ・ベースト・メディスンのアプローチは、患者の物語を詳細に聞き取り、それを基に治療計画を調整することです。
医療提供者は、患者の語りから得られる情報を重視し、患者の背景や希望に合わせたケアを提供します。
これは、患者の全体的な健康と生活の質を向上させるために、個別化されたアプローチを採用することを意味します。

心理療法のアプローチは、クライアントが自身の問題を外在化し、新たな視点から捉え直すことを支援することです。
ナラティブ・セラピーでは、問題をクライアント自身から切り離して考え、その問題との関係性を再構築することで、クライアントのアイデンティティや行動を変えることを目指します。

このプロセスは、対話を通じて行われ、クライアントが自己理解を深めるための場を提供します。

対象とする健康の違い

ナラティブ・ベースト・メディスンが対象とするのは主に身体的な健康であり、全人的な医療を提供することを重視しています。
患者の物語を取り入れることで、治療が単なる身体の治癒にとどまらず、患者の生活全体にポジティブな影響を与えることを目指します。
これは、特に慢性疾患や終末期医療において重要です。

心理療法が対象とするのは主に心理的な健康であり、クライアントの感情的な安定や精神的な成長を促進することを目的としています。
心理療法は、クライアントが自身の問題を理解し、それに対処するための新しいストーリーを作り出すことで、心理的な健康を向上させます。

両者はそれぞれ異なる健康領域に焦点を当てつつも、個々の人々の経験や物語を重視する共通点があります。

ナラティブ・ベースト・メディスンは、患者の物語を基に全人的な医療を提供することを目指し、主に身体的な健康を対象としているんだ!
一方、心理療法は、個々の心理的問題の解決を目指し、感情的および精神的な健康の向上を重視するアプローチなんですね!

ナラティブ・ベースト・メディスンとエビデンス・ベースド・メディスンとの違い

ナラティブ・ベースト・メディスンの対の位置にあるものとしてエビデンス・ベースド・メディスン(EBM)があげられます。
エビデンスベースドメディスン(EBM)は、科学的な根拠に基づいた手法で最善の医療を提供することを目指すアプローチです。
具体的には、臨床試験や研究から得られたデータを用いて、治療法の効果や安全性を評価し、その結果に基づいて治療を選択します。

ではこの両者の違いとはなにがあげられるのでしょうか?
ここでは…

  • アプローチの違い
  • 視点の違い
  • 治療の焦点の違い
  • 対象とする情報の違い

…について解説します。

アプローチの違い

エビデンスベースドメディスン(EBM)は、科学的なデータと客観的な証拠に基づいて医療を提供するアプローチです。
EBMのアプローチは、臨床試験や研究の結果を重視し、治療法の効果や安全性を評価することで、最適な治療法を選択します。

例えば、新薬の効果を確認するために行われるランダム化比較試験(RCT)のデータは、医師が治療法を決定する際の重要な根拠となります。
このアプローチは、治療の一貫性や予測可能性を高め、医療の質を向上させることを目指しています。

一方、ナラティブベースドメディスン(NBM)は、患者の物語や主観的な経験を中心に据えたアプローチです。
NBMでは、医療提供者が患者の物語を詳細に聞き取り、その情報を基に治療計画を調整します。
患者の生活背景や価値観、疾患に対する理解を重視し、個々の患者に合わせた全人的なケアを提供することを目指します。

視点の違い

EBMは、科学的エビデンスに基づく客観的な視点を持ちます。
これは、医療提供者が最新かつ信頼性の高いデータに基づいて判断を下すことで、患者に対して最も効果的な治療を提供することを目指します。
EBMの視点は、治療の効果を統計的に検証し、その結果に基づいて最適な治療法を選択するという科学的で客観的なプロセスです。

一方、NBMは患者の主観的な視点や経験を重視します。
NBMの視点では、患者が自身の病気についてどのように感じ、どのようにそれに対処しているかが重要です。
医療提供者は、患者の物語を聞くことで、患者の背景や価値観を理解し、それに基づいたケアを提供します。

この視点は、患者が自分の治療に積極的に関与し、治療の効果や満足度が高まるという利点があります。

治療の焦点の違い

EBMは、治療の一貫性や予測可能性を高めることに焦点を当てています。
科学的エビデンスに基づく治療法は、一般的に広く適用可能であり、異なる患者に対しても同じ効果が期待できるとされています。
このため、EBMは治療の標準化とその効果の再現性を重視します。
例えば、特定の病気に対するガイドラインに従った治療は、EBMの典型的なアプローチです。

一方、NBMは、患者の個別のニーズや価値観に応じたケアを提供することに焦点を当てています。
NBMでは、患者一人ひとりの物語を理解し、それに基づいた個別化された治療を提供することが重要です。

これは、患者が自身の治療に納得し、積極的に参加することで、より良い治療結果が得られるという考え方に基づいています。

対象とする情報の違い

EBMは、科学的研究や臨床試験のデータを主な情報源とします。
このデータは、厳密な研究方法に基づいて収集され、統計的に解析されます。
その結果、EBMは客観的で信頼性の高い情報に基づいて医療を提供することができます。
例えば、治療法の効果や副作用についてのデータは、医師が治療法を選択する際の重要な基準となります。

一方、NBMは、患者の語る物語や主観的な経験を主な情報源とします。
医療提供者は、患者の語りを詳細に聞き取り、その情報を基に治療計画を立てます。

患者の生活背景や価値観、感情など、科学的データでは捉えきれない個別の情報が重視されます。

NBMは、患者の物語や主観的な経験を中心に据えた個別化された全人的なケアを提供することを目指し、EBMは、科学的なデータと客観的な証拠に基づいて最適な治療法を選択することを重視するんだ!
これら二つのアプローチは異なる視点を持ちながらも、組み合わせることで、科学的根拠と患者の物語を統合した、より全面的で患者中心の医療を実現することができるんでしょうね!

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