「動作経済の原則」ってご存知ですか?
作業療法を始めとするリハビリテーションの分野ではあまり馴染みのない言葉かもしれません。
しかしこの原則を知り理解することは、今後作業療法士にとっても非常に強みになってくると思うんです。
そこで今回はこの動作経済の原則について解説します。
動作経済の原則について
「動作経済の原則(the principles of Motion economy)」とは産業工学、生産工学の分野で使われている「動作のムダ」を解消するための原理原則になります。
提唱したのがサーブリッグ分析など作業研究の先駆者である“ギルブレス”になります。
様々なモノづくりの企業はこの「動作経済の原則」を取り入れる事で、ムリ・ムダ・ムラのない作業改善につなげているようです。
基本原則と要素について
この動作経済の原則のうちの基本原則は次の4つに分けることができます。
- 両手を常に同時に使うこと
- 必要な動作の数を最小にすること
- 動作の距離を最短にすること
- 動作を楽にすること
またこれら4つの基本原則それぞれを「身体、環境、道具」の3つの要素から絞り込んでいくとよりわかりやすくなります。
それぞれ解説します。
両手を常に同時に使うこと
基本的に何か作業を効率的に行うためには、両手の使用が大前提となります。
両手動作ができるかできないかによって、その作業の可否だけではなく効率化にもつながっていきます。
しかし身体障害領域でのリハビリの対象に多い脳卒中片麻痺のクライアントの場合は、この両手動作が困難なケースが多いと思います。
その場合は環境、道具の要素の視点からどのように代償アプローチによって作業遂行を図るか?というアプローチに転換する必要があります。
必要な動作の数を最小にすること
作業の効率化を図るには「探す:Search」「選ぶ:Select」「用意する:Preposition」といったサーブリッグ分析における第2類の動作を必要以上に行わないようにすることが必要です。
作業を行うクライアント自身の能力(この場合は注意力や判断力といった高次の能力)に左右される部分ではありますが、リハビリテーション…特に作業療法においてこの高次の能力の向上を図る必要性があります。
加えて環境整備や道具の配置の工夫といった代償的アプローチによって改善を図る場合もあるかと思います。
動作の距離を最短にすること
不必要に大きい動作を行うことは、作業遂行において非常に非効率的な動作になるとともに、作業ミスや安全性の低下につながることがあります。
また大きい動作を行うことはその分運動量も多くなるので、その結果疲労感につながっていきます。
これは動作を行う際の移動距離ももちろんですが、できるだけ末端の身体部位(指による動作)でその作業ができるかどうかを検討する必要もあると言えます。
同時に目の動きも最小にするために環境整備や道具の工夫、配置改善も行っていきます。
動作を楽にすること
ムリな姿勢で作業を行わない、できるだけ物の力を利用して身体に負担の少ないよう工夫をすることも重要です。
そのためには…
- 運動の方向を急変しない
- 不自然な姿勢を避ける
- 上下方向の動作を避ける
- 作業のリズムに配慮する
…などがあげられます。
この部分は作業者本人の身体能力…というよりは作業環境や道具の工夫といった環境面からのアプローチによる改善が主になると思います。
動作経済の原則を当てはめる対象について
では実際にこの動作経済の原則を当てはめて考えるべき対象ってどのようなクライアントになるのでしょうか?
あくまで個人的な意見、イメージですが…
- 耐久性が低い
- 転倒リスクが高い
- 注意障害がある
- 呼吸器疾患がある
- 心疾患がある
…といったクライアントの生活動作に当てはめると、支援できる範囲が広がるかなと思います。
まとめ
今回は動作経済の原則の作業療法の分野での応用について解説しました。
前述したように「動作経済の原則」は産業工学の分野で扱われ、発展してきた原理原則です。
しかしその原則は非常にリハビリテーションの対象とされるクライアントのあらゆる動作、活動においても応用が利きます。
もちろんその領域も身体障害領域から、精神障害領域まで何か「作業」を行う必要性があるクライアントでしたら誰にでも汎化することができます。
この動作経済の原則を、クライアントへの介入のための一種の“フレームワーク”として利用することは、作業療法士にとっても非常に効率的かつ実践的な介入方法につながるんだと思います。