高齢者のAPDLやIADL、社会参加を評価する方法の一つに『老研式活動能力指標』があります。
現在でも広く使われている指標ではありますが…最近の「アクティブシニア」といった活動的な高齢者の生活スタイルにまで網羅できているかというと少し難しいという指摘もされています。
そこで今回は『現代版老研式活動能力指標』とでも言える『JST版活動能力指標』について解説します。
JST版活動能力指標について
JST版活動能力指標は、高齢者が自立した生活を送るための活動能力を評価する指標です。
国立長寿医療研究センターや東京都健康長寿センターなどの専門家が開発し、従来の評価方法よりも現代の高齢者の特徴に対応しています。
この指標は、身体的な能力だけでなく、社会参加や認知機能など、広範な生活機能を評価する点が特徴です。
目的
老研式活動能力指標は現代でも広く使われている標準的な指標であるものの、発表されたのが1986年と30年近く前のもののため、携帯電話やメールといった現代では普通のツールの使用や、振り込め詐欺といった現代社会的な問題には対応しきれていない“古い指標”である点が指摘されていました。
またライフスタイルの多様化と健康寿命の長寿化といった点からも新しい指標が求められるようになったことから、JST版活動能力指標がつくられたようです。
ここではJST版活動能力指標の目的として…
- 高齢者の自立支援
- 生活の質の向上
- 健康管理
- 社会参加の促進
- 政策立案の参考
- 地域包括ケアシステムへの貢献
- 高齢者向けのプログラム開発
- 研究目的
…について解説します。
高齢者の自立支援
JST版活動能力指標は、高齢者が自立して生活できる能力を評価し、適切な支援計画を作成することを目的としています。
特に一人暮らしの高齢者が、自立した日常生活を送るための身体的・認知的能力を測定し、支援の必要性を評価します。
この評価に基づき、個別に適した介護やサポートが提供されることで、生活の質が向上します。
高齢者が自立し、社会との関わりを持ちながら生活できることを重視しています。
結果として、生活の自立を維持・向上させるための効果的な介入が行われます。
生活の質の向上
JST版活動能力指標は、高齢者の生活の質(QOL)向上を目的としています。
この指標は日常生活動作(ADL)のみならず、手段的日常生活動作(IADL)や知的活動性、社会的役割といった「高次生活機能」を評価します。
これにより、高齢者がより豊かで充実した生活を送るために必要な能力を包括的に捉えます。
高次生活機能の評価を通じて、高齢者が社会に積極的に参加し、意欲的な日常生活を送れるようサポートします。
この指標を活用することで、より個々のニーズに合った介護計画が作成されます。
健康管理
JST版活動能力指標は、高齢者の健康状態を把握するための有効なツールです。
高齢者の身体的、認知的な能力を包括的に評価することで、健康状態や生活機能の低下を早期に発見し、適切な医療や介護サービスを提供する基礎資料となります。
これにより、予防的な介入が可能となり、健康寿命の延伸が期待されます。
また、健康維持や回復に向けた支援が、指標に基づいて的確に行われます。
継続的なモニタリングにより、個々の高齢者に適した健康管理計画を策定することが可能です。
社会参加の促進
JST版活動能力指標は、高齢者が社会に積極的に参加できるよう支援します。
従来の指標では評価が難しかった「情報収集能力」や「新しい技術への適応力」、そして「生活の計画性」なども評価対象に含まれます。
これにより、高齢者が社会との関わりを深め、健康で活動的な生活を続けられるよう支援が強化されます。
特に、社会参加が高齢者のQOLや心理的安定に大きく貢献するため、その意欲を引き出すことが重要です。
この指標を通じて、より包括的な社会参加支援が実現します。
政策立案の参考
JST版活動能力指標は、政策立案においても重要な役割を果たします。
高齢者の活動能力や生活機能を正確に把握することで、福祉政策や介護サービスの質を向上させるためのデータが提供されます。
このデータは、高齢者福祉に関する課題解決や支援施策の改善に役立ちます。
特に、高齢者が自立し、健康で社会に参加できる環境を整えるための政策立案において、指標の活用が期待されます。
また、地域ごとの高齢者の生活実態を分析することで、地域に特化した施策の立案も可能です。
地域包括ケアシステムへの貢献
JST版活動能力指標は、地域包括ケアシステムの構築にも貢献します。
この指標を用いることで、地域における高齢者の生活状況や支援ニーズを把握し、適切な介護や医療サービスを提供するための基礎資料として活用されます。
特に、高齢者が自宅や地域で可能な限り自立した生活を送ることを支援するため、地域の多職種連携が強化されます。
これにより、医療・介護サービスが地域に根差し、高齢者の生活の質を向上させる包括的な支援体制が整備されます。
地域全体で高齢者を支える仕組みづくりが促進され、住み慣れた場所で安心して暮らせる社会が実現されます。
高齢者向けのプログラム開発
JST版活動能力指標は、高齢者のQOL向上のためのプログラム開発に役立ちます。
この指標に基づいて、高齢者の身体機能や認知機能、社会的役割を強化するためのトレーニングやリハビリプログラムが作成されます。
評価結果に応じて、個々の高齢者に最適化された介入プログラムが提供されるため、効果的な支援が可能となります。
また、プログラムの開発だけでなく、進捗状況の評価や改善も行われるため、持続的な能力向上が期待されます。
これにより、高齢者が自立し、より活動的な生活を送ることができるようになります。
研究目的
JST版活動能力指標は、高齢者に関する研究にも活用されます。
この指標を用いることで、高齢者の生活機能の変化や健康寿命に関する研究が進められ、より良い介護や福祉サービスの提供に貢献します。
特に、高齢者がどのようにして自立した生活を維持し、どのような要因が生活機能に影響を与えるかを解明するためのデータが蓄積されます。
また、研究を通じて新たな支援方法や予防策が開発され、政策やプログラムの改善に役立ちます。
このように、JST版活動能力指標は、高齢者の健康寿命延伸に向けた研究の重要な基盤となります。
JST版活動能力指標の質問項目
JST版活動能力指標における質問項目は以下の4つの分類されています。
- 新機器利用
- 情報収集
- 生活マネジメント
- 社会参加
それぞれ解説します。
新機器利用
生活を送る上で必要な新しい機器を使いこなす能力についての質問になります。
- 携帯電話を使うことができますか?
- ATMを使うことができますか?
- ビデオやDVDプレイヤーの操作ができますか?
- 携帯電話やパソコンのメールができますか?
情報収集
よりよい生活を送るため自ら情報収集し活用する能力についての質問になります。
- 外国のニュースや出来事に関心がありますか?
- 健康に関する情報の信ぴょう性について判断できますか?
- 美術品、映画、音楽を鑑賞することがありますか?
- 教育、教養番組を視聴していますか?
生活マネジメント
自分や家族、周辺の人々の生活を見渡し、管理する能力についての質問になります。
- 詐欺、ひったくり、空き巣等の被害にあわないように対策をしていますか?
- 生活のなかでちょっとした工夫をすることがありますか?
- 病人の看病ができますか?
- 孫や家族、知人の世話をしていますか?
社会参加
地域の活動に参加し、地域での役割を果たす能力についての質問になります。
- 地域のお祭りや行事などに参加していますか?
- 町内会・自治体で活動していますか?
- 自治体やグループ活動の世話役や役職を引き受けることができますか?
- 奉仕活動やボランティア活動をしていますか?
評価方法
JST版活動能力指標の評価方法は…
- 質問に回答
- 点数の集計
- 総合評価
- 領域ごとの評価
- 個別対応策の策定
…があげられます。
それぞれ解説します。
質問に回答
評価の最初のステップは、16項目に対して「はい」または「いいえ」で回答することです。
質問項目は、新機器利用、情報収集、生活マネジメント、社会参加の4つの領域から構成されており、高齢者の日常生活に関連する重要な活動を網羅しています。
回答者は、自分の生活状況や能力に最も近い選択肢を選びます。
質問形式はシンプルで、自己評価が容易に行えるように工夫されています。
これにより、高齢者自身がどの程度自立して活動的な生活を送っているかを把握できます。
点数の集計
回答が終了した後、各項目に対して「はい」と答えた場合は1点、「いいえ」と答えた場合は0点として集計します。
この点数の集計によって、高齢者がどの程度自立した生活を送れているかを数値化します。
点数が高いほど、4つの領域における能力が高いと判断されます。
集計の過程はシンプルで、短時間で結果が得られるため、現場での活用にも適しています。
このような集計は、支援計画の策定において重要な情報を提供します。
総合評価
点数の集計後、16点満点中の得点が算出され、得点が高いほど自立した生活能力が高いと評価されます。
各領域の得点を総合的に評価することで、個々の高齢者がどの分野で強みを持っているか、またはどの分野で支援が必要かを把握できます。
高得点は、社会参加や情報収集、新機器の利用などにおいて積極的に活動していることを示し、逆に低得点はこれらの分野でサポートが必要である可能性を示唆します。
これにより、個別化された支援プランを作成するための基礎資料が得られます。
領域ごとの評価
総合点数に加えて、各領域ごとの得点も評価されます。
これにより、特定の領域で特に弱点がある場合や、逆に強みを持つ領域が明確にされます。
たとえば、新機器利用の領域で点数が低い場合は、デジタル技術に対するサポートが必要とされ、社会参加の点数が高ければ、社会的に活動的な生活を維持できていることがわかります。
この領域ごとの評価は、個別のニーズに合わせた介護や支援計画を立てる上で非常に重要です。
個別対応策の策定
最終的な総合評価と領域ごとの評価結果に基づいて、個々の高齢者に最適な支援策が策定されます。
特に弱い領域に対しては、適切なトレーニングやリハビリテーションが提案され、得点が高い領域に関してはさらなる能力向上のための活動が推奨されることもあります。
こうした評価をもとにした個別対応策は、高齢者の自立性を高め、QOL(生活の質)を向上させるための重要なプロセスです。
このように、JST版活動能力指標は、単なる評価ツールとしてだけでなく、具体的な支援につなげるためのガイドラインとしても機能します。
全国標準値
JST版活動能力指標の合計点と4つの分類それぞれの標準値については以下の通りになります。
全体 | 65~74歳男性 | 65~74歳女性 | 75~84歳男性 | 75~84歳男性 | |
---|---|---|---|---|---|
JST版活動能力指標合計 | 9.7(4.2) | 11.0(3.9) | 10.6(3.8) | 8.9(4.4) | 7.7(4.2) |
新機器利用 | 2.3(1.5) | 2.9(1.3) | 2.6(1.3) | 2.0(1.5) | 1.4(1.4) |
情報収集 | 2.9(1.3) | 3.1(1.2) | 3.1(1.2) | 2.8(1.3) | 2.5(1.5) |
生活マネジメント | 2.8(1.2) | 3.0(1.2) | 3.1(1.1) | 2.5(1.3) | 2.5(1.3) |
社会参加 | 1.7(1.6) | 2.0(1.6) | 1.8(1.5) | 1.6(1.6) | 1.2(1.4) |
*( )内は標準値
老研式活動能力指標との違い
老研式活動能力指標自体はLawtonが提唱した「生命維持、知覚、認知、身体的自立、手段的自立、状況対応、社会的役割」という高齢者の生活機能についての7段階の階層モデルを基につくられています。
このうち「身体的自立、手段的自立、状況対応」を中心に作られていて、「社会的役割」までは含まれていませんでした。
老研式活動能力指標の代わりに使用できる?
しかし、こうなると「もう“老研式活動能力指標”は古いからすべての調査は“JST版活動能力指標”で行おう!」となってしまうのは早合点です。
公式でも、“JST版活動能力指標”のみで使用することは薦めておらず、“老研式活動能力指標”と併用することで対象者の生活能力を幅広く評価することができると述べています。