SAS(Supervisory Attentional System)とは? – 定義・特徴・脳の部位について

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注意を制御する高次のシステムである”SAS”。
本記事ではこのSASについて解説します。


SASとは?

Supervisory Attentional System(SAS、監督注意システム)は、心理学、特に認知心理学や神経心理学において用いられるモデルです。
このモデルは、主に英国の心理学者であるNormanとShalliceによって1980年代に提唱されました。

SASモデルは、計画、意思決定、誤りの訂正、習得されていない新しい行動の連続を必要とするタスクを含む、注意の制御と認知プロセスの管理を理解するための理論的枠組みです。

上図のフローチャートは次の構成要素を示しています。

環境(Environment)

外部の刺激が存在する出発点です。

感覚知覚システム(Sensory Perceptual Systems)

環境からの刺激を処理します。

トリガーデータベース(Trigger Data Base)

特定の刺激が検出されると、特定の応答やスキーマを引き起こします。

競合スケジューリング(Contention Scheduling)

複数のスキーマ(引き起こされた応答)の中から、どれがその顕著性と関連性に基づいて活性化されるべきかを決定するメカニズムです。

監督的注意制御システム(SAS)

自動的な応答が十分でない、特に新奇または困難な状況で介入する高次の制御システムです。
必要に応じて競合スケジューリングを上書きすることができます。

行動(Action)

プロセスの最終結果であり、初期の環境刺激への応答としての行動です。

点線はフィードバックループを示していて、”最近活性化されたスキーマからの出力”がトリガーデータベースと競合スケジューリングにフィードバックされることで、過去の行動が将来の行動に影響を与えることを示しています。

“最近活性化されたスキーマからの出力”について

個人が以前に経験したり、行ったりした特定の行動や認知のパターン、すなわち「スキーマ」に基づく情報のことです。
スキーマは、過去の経験から学んだ知識の組織化された枠組みまたはパターンで、私たちが世界をどのように理解し、情報を処理し、行動を決定するかを形作ります。

この文脈での「出力」とは、これらのスキーマが新たな状況において再び活性化された結果として生じる情報や行動の傾向を指します。
例えば、以前に困難な問題を解決した経験がある人は、新しい困難な状況に直面したときに、それと類似した解決策を試みるかもしれません。
これは、過去のスキーマが現在の判断や行動選択に影響を与えることを意味しています。

SASモデルでは、このような過去のスキーマの活性化からの出力が、新しい情報をトリガーデータベースに供給し、競合スケジューリングに影響を与えると考えられています。
これは、過去の経験が現在の行動にどのように影響を及ぼすかを示すフィードバックループの一部です。

SASは、複雑で計画的、または新しい状況において行動を調整し、制御する高次の認知プロセスを指すってことだね!
このモデルは認知心理学や神経心理学の分野で重要ですね!

SASの特徴と機能

では注意を制御するためのシステムである”SAS”はどのような特徴や機能を持つのでしょうか?
主なものとして…

  • 意図的な制御と調整
  • 目標志向の行動
  • 衝動や習慣からの逸脱
  • エラーの監視と解決
  • 複数のタスクの調整

…があげられます。
以下にそれぞれ解説します。

意図的な制御と調整

SASのこの側面は、特に計画的で意図的なタスクにおいて重要です。
例えば、未知の問題を解決する際や新しいスキルを学習する時、私たちは過去の経験や自動的な反応に頼ることなく、状況に応じて独自のアプローチを考案する必要があります。
この機能は、知的柔軟性と創造性を要求される状況において特に重要で、新しい状況への適応や革新的な解決策の開発に不可欠です。

SASは、これらの状況において意図的な決断を下し、計画を立て、行動を指導する役割を果たします。

目標指向の行動

SASは個人の目標や意図に基づいて行動を制御します。
この機能により、私たちは短期的な誘惑や気晴らしに惑わされることなく、長期的な目標に集中し続けることができます。
たとえば、健康的なライフスタイルを目指す際、不健康な食事の誘惑を避け、運動を継続することは、SASが目標指向の行動を支援している例です。

このシステムは、個人が目標に沿って行動するための自己制御と自己調整のメカニズムを提供します。

衝動や習慣からの逸脱

SASは私たちが習慣的または反射的な行動から逸脱し、より適応的で柔軟な行動をとるのを助けます。
この機能は、自動的な行動や思考パターンを超えて、新しい状況や問題に適切に対応するために必要です。
例えば、怒りを感じた時に衝動的に反応する代わりに、落ち着いて論理的な解決策を考える能力は、SASが衝動的な反応を制御し、より考え抜かれた行動を取るように調整していることを示しています。

この能力は、日常生活での対人関係や職場での意思決定など、多くの状況で重要です。

エラーの監視と解決

SASは行動中のエラーや問題を監視し、必要に応じて修正や調整を行います。
このプロセスは、特に複雑なタスクや新しい状況において重要です。
エラーを認識し、それに対処する能力は、効果的な学習と適応の基盤を形成します。
例えば、新しい楽器の演奏を学んでいる際に間違った音符を弾いた場合、SASはそのミスを認識し、修正するための戦略を提供します。

このように、SASは問題を特定し、それに対する解決策を見つけることで、継続的な改善と学習を支援します。

複数のタスクの調整

SASは、複数のタスクを同時にこなす際にも重要な役割を果たします。
これには、注意の配分やタスク間の切り替えが含まれます。
例えば、職場での多任務処理や家庭での複数の責任を同時に管理する場合、SASは重要なタスクに優先的に注意を向け、次に何をすべきかを判断するのを助けます。
この能力により、私たちは効率的に時間を管理し、複数の要求に効果的に応えることができます。

SASは、優先順位を設定し、必要に応じて注意を素早く移動させることで、タスクの完了に向けてナビゲートします。

SASは、特に認知神経科学や神経心理学において、前頭葉の機能と関連して研究されることが多いようだね!
意思決定、問題解決、計画などの複雑な認知プロセスにおける中心的な役割を果たしていると考えられていますね!

SASを担う脳の部位

SASの役割を担う脳の部位は主に…

  • 前頭前野
  • 前部帯状回

…とされています。
それぞれ解説します。

前頭前野

前頭前野は、脳の前頭葉の最も前部に位置し、高度な認知機能や意志決定プロセスに関与しています。
SASにおいては、計画、意思決定、問題解決、意図的な注意制御などの複雑な認知タスクを担います。
この部位は、新しい状況への適応や未知の問題に対する創造的なアプローチを可能にする重要な役割を果たしており、自己制御や意識的な行動の調整にも関わっています。

前頭前野の機能不全は、注意力の散漫や計画能力の低下につながることがあります。

前部帯状回

前部帯状回は、大脳辺縁系の一部であり、情動処理、注意の制御、意思決定に関わる脳の領域です。
SASにおいては、特に自己調整と衝動制御の機能に寄与しています。
この領域は、目標指向の行動を支援し、注意を維持することでタスクの完了を促進します。
また、感情的な反応やストレスに対する調整機能も持ち、注意力の配分やタスク間の切り替えにおいて重要な役割を果たします。

前部帯状回の障害は、注意力の問題や衝動制御の困難に繋がることが知られています。

意欲や抑制といった高次の機能にSASが関わっているってことだね!
前頭葉症状とSASは重要な関係があるってことでしょうね!

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