リハビリテーション医療において、膝蓋腱反射といった深部反射(腱反射・筋伸長反射)の検査は基礎的な方法と言えます。
でも、この検査は非常に奥深いものですし、重要な検査方法の一つなんです。
そこで今回は「深部反射(腱反射・筋伸長反射)検査の方法や注意点、検査の意義」について解説します。
そもそも“反射”とは?
反射は感覚受容器から伝えられた刺激が、意志とは無関係に中枢神経のある部分で遠心性経路に切り替えられて、効果器に反応を提起する現象…とされています。
また、反射は刺激の需要器が存在する場所によって分類されており、なかでも、“表在反射”、“深部反射”、“病的反射”は神経学的診断や評価において重要視されています。
深部反射について
深部反射は骨格筋の腱を叩打することによって筋が急激に伸展されて起こる反射です。
“腱反射”や“筋伸長反射”ともいわれています。
深部反射検査の注意点
深部反射を検査する際の注意点として、以下の項目があげられます。
- 被験者にはできる限り力を抜いてもらうこと
- 検査する筋は適度な伸長位にすること
- 検査する四肢は露出状態にすること
- 打鍵器は100g程度の弾力性のあるゴム製のものにすること
- 打鍵器による叩打は、手首のスナップを利かせて軽く行うこと
- 反射が減弱している場合は腱を検者の母指で触れ、その上から叩打すること
- 反射が消失or減弱している状態の時は、増強法を行って検査を行うこと
以下にそれぞれ解説します。
被験者にはできる限り力を抜いてもらうこと
腱反射の正確な程度を検査することができなくなってしまうため、被験者には検査時はできる限りリラックスし、力を抜くように指示することが必要です。
検査する筋は適度な伸長位にすること
腱反射の検査対象の筋は、過度に伸展位だったり、弛緩位の状態だと誘発しにくいことから、適度な伸展位にしたまま検査します。
検査する四肢は露出状態にすること
衣服の上からだと、小さな反射が分かりづらい場合がありますから、できる限り検査対象の四肢は露出しておくことが望ましいです。
打鍵器は100g程度の弾力性のあるゴム製のものにすること
検査方法を一定にするという点からも、腱反射の検査の際は打鍵器をしようすることが望ましいです。
打鍵器による叩打は、手首のスナップを利かせて軽く行うこと
打鍵器でむやみに叩打しては腱反射の検査として成立しないだけでなく、被験者へ痛みを与えてしまう可能性もあります。
適度な力で手首のスナップを利かせた方法で行うことが必要です。
反射が減弱している場合は腱を検者の母指で触れ、その上から叩打すること
腱反射が減弱している際に有効な方法ですが、検者の母指で腱を抑え、その上から打鍵器で叩打することで腱反射の異常を母指が感じ取ることができます。
また、反射が減弱している場合は母指で圧迫を加える事もできます。
反射が消失or減弱している状態の時は、増強法を行って検査を行うこと
被験者の反射が消失、もしくは減弱している場合には、“増強法”を行い検査しておく必要があります。
その方法は、上肢の場合は奥歯を強く噛むと同時に検査を実施すること。
下肢の場合は、被験者に両手を組ませ左右に強く引っ張るように指示し、その瞬間に検査を行う“Jendrassik(イェンドラシック)法”で実施します。
腱反射検査の記録方法について
記録は上図のように身体の模式図に以下の判断基準に従って記入する方法は多く用いられています。
判断基準
反射の状態 | 判断基準 |
---|---|
消失(-) | 繰り返し検査し、増強法を用いても反射が得られない場合 |
減弱(±) | 両側で弱く左右差がある場合の弱い側や左右差がない場合 繰り返し実施し反射の疲労現象がある場合 |
正常(+) | |
やや亢進(++) | 両側で強く左右差がある場合の強い側 |
亢進(+++) | 指屈曲反射、足屈曲反射、クローヌスが認められる場合 |
著名な更新(++++) | 1回の叩打によって何回かの連続的な効果をもたらす場合 |
上腕二頭筋反射
中枢:C5、C6
上腕二頭筋反射の検査方法は次の通り。
- 上腕を軽度外転、肘は軽度屈曲、前腕は軽度回内位にして、検者は被験者の肘を軽くつかみ、母指を二頭筋腱の上におき、母指の上をハンマーにて軽くたたく
- 上腕二頭筋の収縮によって肘関節の屈曲が認められる
- 左右差をみることがポイント
上腕三頭筋反射
中枢:C6,C7,C8
上腕三頭筋反射の検査方法は次の通り。
- 前腕部を軽くつかみ肘を軽度屈曲位にし、肘頭上部の上腕三頭筋腱を直接叩く
- 上腕三頭筋の収縮により肘の伸展が認められる
- 正常では、上腕二頭筋反射より誘発が難しい
- 反射が減弱している場合は、上腕三頭筋腱の上に母指をおき、その上から叩いて反射の有無を確認する
回内筋反射
中枢:C6~Th1
回内筋反射の検査方法は次の通り。
- 前腕の末端に回外を促す刺激を加えて、回内を起こさせる
主な方法としては2つあります。
a)橈骨回内反射
前腕の緊張を抜かせてその尺側を大腿の上におく。
橈骨下端の掌側面に対して直角に叩くと前腕が回内する。
b)尺骨回内反射
前腕を半回内位にして大腿の上におき、尺骨茎状突起の背側面に対して直角に叩くと前腕が回内する
膝蓋腱反射
中枢:L2~4
背臥位検査
膝関節を120~150度屈曲させて両下肢をそろえる。
検者は前腕を患者の膝の下に入れ、軽く持ち上げてこれを屈曲させてもよい。
膝蓋の下で四頭筋の腱を指で確認しその上を叩くと、四頭筋の収縮が起こり下腿は伸展する。
座位検査
被験者を足がつかない程度の椅子orベッドに腰掛けさせ、膝蓋下の四頭筋腱を叩く。
増強法:Jendrassik法を用いて反射が出現しやすくする。
あるいは、腰掛け座位で下垂した下腿部を検者の手指で後方に軽く押し込み、被験者はこれに抗して軽く下腿を前に押し出すように指示し、その瞬間に叩く。
アキレス腱反射
中枢:S1,S2
アキレス腱反射の検査方法は次の通り。、
- 背臥位で検査する方の足を他側の下腿前面にのせ、脚を背屈させて実施する
腱反射異常と判断する際の注意点
腱反射の検査を行い、腱反射異常…と判断するためにはいくつかの注意点があります。
- 左右対象かどうかをしっかり診る
- 病的反射の有無をしっかり診る
- 左右差の有無をしっかり診る
- 腱反射亢進=筋緊張亢進…とは限らない
- 感覚障害の有無にも注目する
以下にそれぞれ解説します。
左右対象かどうかをしっかり診る
健常者でも腱反射は消失、亢進する場合があるので、左右対称であるかをしっかりと診ることが重要
病的反射の有無をしっかり診る
著明な亢進がみられても、左右対称的であり、さらに病的反射がない場合は、精神的緊張を原因とする場合も考える。
また、両側に病的反射がある場合は脳幹、脊髄障害の可能性が高い。
左右差の有無をしっかり診る
片側性の亢進や、両側性の亢進でも左右差がある場合は病的意義を有することが多い。
また、亢進側にクローヌスや病的反射、感覚障害もみられるなら明らかに診断価値があるとされます。
腱反射亢進=筋緊張亢進…とは限らない
一般的には腱反射の亢進があれば筋緊張も亢進しますが、なかには例外もあります。
感覚障害の有無にも注目する
腱反射の減弱or消失が両側に認められ、感覚障害を伴っている場合は多発性抹消神経障害の可能性が強くあります。
また、多発神経炎ではアキレス腱反射の低下が原則的に多くあります。
腱反射の異常…と一言で言っても、そこには反射の“減弱”や“消失”、そして逆の“亢進”が含まれています。
これはもちろん、被験者の神経系になにも異常がない状態でも、反射は消失したり、亢進したりする場合があります。
つまり、腱反射における異常…と判断するには、左右差の有無があるかどうかが重要になります。
その被験者全体としてのバランスから理解しないといけないということですね。
まとめ
今回は、深部反射(腱反射・筋伸長反射)検査の方法や注意点、検査の意義そのものについて解説しました。
よく学生からも「腱反射の有無を検査する目的ってなんですか?」と質問を受ける機会が多いです。
今回まとめたように腱反射の検査は神経学的な検査としても非常に有意義な方法になります。
打鍵器という物品1つですぐに検査可能なことからも、クライアントの状態変化にいち早く気づくことができる方法ということです。
より臨床や現場で簡易的かつ効率的にクライアントの神経学的な検査が可能ということは、リスク管理としても非常に有用な方法と言えると思います。