リハビリテーションに限ったことではないのですが、医療、介護や福祉の現場において、いかにクライアントと良好な信頼関係を築けるか?って非常に重要になってきます。
その分「いつも自分の時だけ拒否される」「うまく良い関係性を築けない」なんて悩むセラピストが多いようにも感じます。
今回はクライアントとラポール(信頼関係)を築くテクニックについて解説します。
ラポールとは?
そもそも“ラポール”とはどのような意味でしょうか?
調べてみると次のような一つの定義がみつかりました。
ラポール (rapport) とは臨床心理学の用語で、セラピストとクライエントとの間の心的状態を表す
つまり、“相手との信頼関係”のことを指します。
臨床で“クライアントとラポールが築けている”というのは、“クライアントと良好な信頼関係を構築できている”という意味として解釈できます。
そもそもの意味は“架け橋”?
どうやらこの“ラポール”とは、フランス語で「架け橋」という意味を持つ「ラポート(rapport)」のようです。
医療者側と患者側の心理的な“架け橋”…という意味にもとらえられます。
ラポールを築くことでのメリット・デメリット
では、医療や介護、福祉の現場において、クライアントとのラポールを築くことでのメリット・デメリットとはどのようなものでしょうか?
以下に解説します。
メリット
メリットとしては次のようなことがあげられます。
- クレームに繋がりにくくなる
- 治療や介入に協力的になってくれる
- スタッフ側の心理的な負担が軽減する
以下にそれぞれ解説します。
クレームに繋がりにくくなる
医療接遇的な観点でもありますが、クライアントとのラポールがしっかりとできている場合は“クレームにつながりにくくなる”といわれています。
これは決してクライアント側がクレーム事案に対して譲歩してくれるから…ということではなく、何かあれば“クレーム”としてではなく“相談”や“意見”として表現する心理が働くからなのかもしれません。
治療や介入に協力的になってくれる
リハビリテーションに関しては特に、クライアント自身のリハビリに対する“意欲”と“協力的姿勢”が重要になります。
ラポールが築いているクライアントの場合、非常にリハビリ自体に協力的になるので効果としても高くなる傾向にあります。
スタッフ側の心理的な負担が軽減する
なによりスタッフ側の心理的な負担を軽減することができます。
いつも怒っていたり、拒否を繰り返すようなクライアントに対しては、いくら「仕事だから」とはいえ関わりにくくなってしまいます。
ラポールを築き良好な関係性の上でリハビリテーションを行う…これはリハビリテーションサービスを提供する側の心理的負担を軽減させることができます。
デメリット
逆にデメリットとして考えられるのは次のようなことになります。
- 築いたラポールを維持することが必要
- 共依存を招くきっかけになることもある
これらについてもそれぞれ解説します。
築いたラポールを維持することが必要
クライアントとのラポールを一度築くと、今度はその築いたラポールを維持することが必要になってきます。
セラピスト側がごく自然な対応によって築いたラポールでしたら維持することは比較的問題ないのでしょうが、仮に“過剰な努力”をすることで築いたラポールは長い期間維持することが難しくなります。
共依存を招くきっかけになることもある
クライアントとラポールを築くことは、リハビリテーションをはじめとした医療・福祉サービスを適切に提供するためには必要なことですが、これが逆に“共依存”の関係を作ってしまう場合もあります。
ラポールは築きますが、心理的な距離が近すぎると結果としては依存性を高めるといった悪い方向へ進んでしまうことがあります。
全てのケースでとは言いませんが、「可能性を含んでいる」と思っておく必要があります。
クライアントとのラポールの築き方
では、実際にクライアントとのラポールの築くためにはどのような点に注意し行う必要があるのでしょうか?
テクニカルな面も含めると、次のような項目があげられます。
- 基本的には“傾聴”の姿勢で接する
- 相手の表現方法に合わせる
- 感情のフィードバックを行う
- 表情の変化を大きくする
- 単純接触機会を増やす
以下に説明します。
1.基本的には“傾聴”の姿勢で接する
何よりもまず、“傾聴”の姿勢で接することが必要です。
クライアントの話を聞き、うなずくこと。
単純なようですが、これができていないセラピストが非常に多いと感じています。
クライアントの考え方や捉え方、行動といった表現したものにNGをだして修正するのではなく、なぜそのような表現に至ったかを探るような姿勢でクライアントの話を聞くことが非常に重要になってきます。
2.相手の表現方法に合わせる
心理用語でいう“ミラーリング”や“ペーシング”といったものが当てはまるかと思います。
つまりクライアントの表現“内容”ではなく表現“方法”にセラピスト側も寄り添って合わせる事で、相手の心理的障壁を下げさらに引き出していく…というものです。
- 姿勢
- 目線の高さ
- 声のトーン
- 声のテンポ
- ボリューム
- リズム
こういった点を注意深く観察し、セラピスト側も合わせ会話をすすめていくことで、クライアントの潜在意識のレベルでの安心感を感じさせることができます。
3.感情のフィードバックを行う
相手の言った内容を“おうむ返し”のように繰り返して返すことで会話をすすめていく“バックトラッキング”に近いイメージですが、少し精神療法(カウンセリング)の手法も取り入れている方法です。
簡単な例で言えば、以下のようになります。
CL:「同じ部屋の人のいびきがひどくて眠れなかったんです」
OT:「眠れなかったんですね。つらかったですね。」
“バックトラッキング”では「眠れなかった」という訴えをセラピスト側も繰り返して表現することで、相手の話をきちんと聞いていることを伝える意味になります。
そこに「つらかったんですね」と相手の意識下、無意識下に抱いている感情を言語化してフィードバックします。
クライアントの“聴覚情報”としてフィードバックすることで、「このセラピストは自分の気持ちをわかってくれる」と感じることができ、ラポールの形成を促すことができます。
4.表情の変化を大きくする
いくらクライアントの会話を傾聴し、感情を汲みとってフィードバックしたとしても、セラピスト側の“表情”が変化していないと「嘘くさいな」と思われてしまいます。
その為には…
- 目元の変化
- 口元の変化
この2点に注意して、できる限り大きく変化して表現することが重要です。
特に昨今は感染予防のためマスクを使用している場合が多いので、“口元の変化”は余計に伝わりにくいと思います。
ですので、特に大きく“目元の変化”をつけて表現するように注意が必要です。
クライアントに“視覚情報”としてフィードバックすることで、よりラポールの形成を促すということになります。
5.単純接触機会を増やす
セラピストが自分のリハビリの時間は非常に熱心にそのクライアントに接していても、その他の時間にそっけない態度、関心のない態度をとってしまっているケースが多いように感じます。
病棟ですれ違った時や他のセラピストがリハビリしているときに、何の関心も持たず目の前を通り過ぎてしまうと、クライアントは非常に困惑してしまいます。
他のセラピストによるリハビリを邪魔してしまうレベルではNGですが、
- あいさつをする
- 笑顔で会釈をする
- 小さく手を振る
こういった表現を少しするだけで効果は大きく異なってきます。
加えて、リハビリの枠以外の時間でもほんの少しの接触機会を増やすことが重要になります。
- 朝、病室に行き昨晩の様子を尋ねる
- 昼、食事の様子を見に行く
- 夕、明日また伺うことを伝える
あくまで一例ですが、自分がリハビリの時間に関わる以外に接する頻度を増やすことは、クライアントとの心理的な距離を近づけることに有効になります。
重要なのは、
「常に私はあなたに関心を持っているんだ」
という姿勢を伝えることです。
まとめ
少しテクニカルな部分も含めて、クライアントとのラポールの築き方について解説しました。
どの項目に共通することですが「クライアント自身に対して関心を持って接すること」が重要になります。
「なかなかクライアントと良い関係性を築けない」と悩んでいるセラピストは、今回ご紹介した項目を意識して行ってみてください。
あ、もちろんこれってリハビリの臨床以外でも汎用できると思います。
クライアントとの関係性だけでなく、他職種との連携や、職場や家庭の人間関係でも応用はきくはずです。
共通して重要なことは、「いかに相手に関心をもって接するか?」ってことでしょうね!
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