身体的に健康な人にとっては普通の何気ない日常生活動作ですが、身体的な障害を有している人にとっては非常に困難な動作となります。
では、更衣動作をリハビリテーション…特に作業療法として行う場合、どのような方法で行うのでしょうか?
今回はこの更衣動作の訓練プログラムを“目的”として用いる場合と、“手段”として用いる場合の違いを中心にまとめてみます。
更衣動作訓練の2つの側面
まず、作業療法として“更衣動作”を扱う場合、次の2つの側面を持つと考えられます。
- 更衣動作獲得を目的とした訓練
- 更衣動作を手段とした訓練
つまり、クライアントの更衣動作そのものを獲得し自立or介助量軽減を“目的”とするのか、もしくは更衣動作という“手段”を用いて身体機能、精神機能の向上へ働きかけるのか…の違いです。
両方ともクライアントにとっては必要ですが、どちらを作業療法の訓練として主とし、従とするのかによって視る視点も、アプローチも変わってきます。
では、以下にそれぞれについて解説します。
更衣動作獲得を目的とした訓練プログラム
日常生活で必要な“着替え”という動作の獲得を目的とした訓練プログラムですが、この場合は主に次の5つのステップで構成されています。
- 更衣動作の分析的評価
- 更衣動作の反復訓練
- 更衣動作の代替訓練
- 自助具や手順の検討
- 介助方法の検討
…があげられます。
以下にそれぞれ解説します。
更衣動作の分析的評価
クライアントが更衣動作を行う際、どの工程に問題を抱えているのか?
それは、身体的な機能、能力によるものなのか?精神的、高次脳機能的な要因なのか?
…といった視点で分析的評価をし、問題点を抽出します。
更衣動作の反復訓練
更衣動作という一連の流れのなかでどの部分に問題を抱えているのかを抽出したら、その工程の動作を反復練習を行います。
ただし、同じ条件や状況下で何度もむやみに繰り返し行うのではなく、衣服の素材や大きさ、作業療法士による介助量などを変えながら段階的に訓練を行っていきます。
重要なのは常に評価的な視点を持って訓練的な介入を行うことです。
短時間内でのPDCAサイクルを繰り返していく介入のイメージが重要です。
更衣動作の代替訓練
更衣動作訓練において、ロープを輪にした道具を使用した代替訓練を行う場面も多くあります。
輪を使用しての代替訓練の目的およびメリットとしては、
- 段階付の設定がしやすいこと
- 入力される感覚刺激を工夫しやすいこと
- 訓練の場所を選ばず行えること
…などがあげられます。
反対にデメリットとしては、
- クライアント自身にこの訓練方法の目的や意図をしっかり理解してもらう必要がある
…ということがあげられます。
「なぜこの代替訓練を行うのか?」ということをクライアント自身にも理解してもらったうえで行わないと、能動的な実施に繋がらず、訓練的な意味としては薄くなってしまいます。
クライアントの認知機能や指示理解能力によってこの代替訓練の導入と工夫は考える必要があります。
自助具や手順の検討
段階付という観点からも、自助具や手順の検討が必要ですし、“更衣動作の獲得”のためには必要な訓練プログラムになります。
できるだけ更衣動作の自立を目指す中で、自助具の使用や手順の工夫といった代替的アプローチを検討することも、作業療法士によるリハビリテーションとしては重要になります。
介助方法の検討
本人の身体的能力、精神的機能、自助具の導入、手順の検討…を試行錯誤して行っても、どうしても介助が必要…となった場合、できるだけ最小限の介助量で済むようにすることも作業療法士にとっては必要な介入です。
できる限りの本人の協力動作を促した上で、できる限り最小の介助量で更衣動作の獲得ができるように介助方法の検討、そして家族や介護者への指導を行っていきます。
更衣動作を手段とした訓練
ここでは更衣動作という作業活動を手段的に用いた訓練プログラムについて解説します。
端的に言えば、作業療法で行う手芸などのアクティビティと同じ意味合いで“着替える”という活動を用いることになります。
この場合は、
- 生活全般の評価
- 身体、精神機能の訓練
- 更衣動作の習慣化
…があげられます。
以下にそれぞれ解説します。
生活全般の評価
クライアントが更衣動作をはじめ、その他の日常生活動作、様々な社会参加活動をどのように行っているのか?という俯瞰的な視点での評価を行います。
評価バッテリーとしては、FIMやBarthel Indexなどが代表的です。
つまり、更衣動作をはじめとした生活全般を見る事で、どのように更衣動作を治療手段として用いるのかが決まってきます。
身体、精神機能の訓練
クライアントの身体機能、精神機能の改善を“更衣動作”という手段で改善していくという、いわばボトムアップアプローチとなります。
更衣動作を構成する動作要素を使用して、クライアントの身体的機能、精神的機能を促していく…というイメージになります。
身体的機能に対しては、関節可動域や筋力訓練として用いられますしが、個人的には中枢神経障害に対しての感覚訓練、上下肢の促通訓練、及び座位や立位訓練として手段的に用いることが多い気がします。
また、精神機能に対しては、主に高次脳機能障害である半側空間無視や身体失認といったクライアントに用いることもできます。
更衣動作の習慣化
精神機能に対しての手段的な介入と重複する部分ですが、“着替える”という日常生活動作を習慣化させることで、意欲の向上や生活リズムの調整といった副次的な効果を狙うことができます。
また、行動変容のためのきっかけとして用いる(外出のためにおしゃれをするetc)こともできるので、うつ病や認知症といった精神疾患に対しての手段として用いることが多いようです。
更衣動作と前頭葉機能について
実は個人的に“更衣動作”はクライアントの日常生活動作においてそこまで重要視していなかった時期がありました。
食事や排泄は生存機能として必要な行為なので優先的に考えますが、“着替える”という動作は自立できなくても生きていくことはできますし、全介助で行えれば問題ない…といった考えをもっていました。
しかし様々なクライアントと関わる中で、“更衣動作”を能動的に行わなくなってしまった場合、非常に前頭葉機能の低下、認知機能の低下の進行を招くことが多い印象を受けました。
もちろんこれは更衣動作だけに限ったことではありませんが、更衣動作のように比較的安全に行える日常生活動作であったら、できる限り自立して行えるよう作業療法士が介入することで前頭葉機能の低下、認知機能の低下を予防することができるのでは?と考えるようになり、最近では更衣動作の重要性を強く感じています。
まとめ
今回は、更衣動作における作業療法プログラムについて解説しました。
更衣動作そのものを目的とするのか、それとも手段として用いるのかによって訓練プログラムも評価する視点も変わってきます。
場面や状況によってこの2つの更衣動作訓練の側面を使い分けることが作業療法士としては必要なんだと思うんです。
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