TMT(Trail Making Test:トレイル・メイキング・テスト)は、注意・遂行機能・情報処理速度を短時間で測定できる神経心理検査です。
A・Bの2パート構成で、前頭葉機能や認知的柔軟性の評価に有効とされています。
この記事では、作業療法士をはじめとするセラピスト向けに、TMTの基本・実施方法・採点と解釈・日本版(TMT-J)・カットオフ値・デジタル版の最新動向までを、わかりやすくまとめました。
臨床評価や運転再開支援など、日常場面での活用にも役立つ実践ガイドです。
TMTとは?注意・遂行機能を測る代表的検査【基本情報】
Trail Making Test(TMT:トレイル・メイキング・テスト)は、注意・遂行機能・情報処理速度などの前頭葉機能を測定する代表的な神経心理検査です。1944年の「U.S. Army Individual Test Battery」に起源をもち、のちにHalstead–Reitan神経心理検査バッテリーに組み込まれて臨床で広く用いられるようになりました。
TMTは2つのパートで構成されます。
| パート | 内容 | 主に測定される機能 |
|---|---|---|
| TMT-A | 数字(1〜25)を順に結ぶ | 注意・視覚探索・処理速度 |
| TMT-B | 数字と仮名(または英字)を交互に結ぶ | 認知的柔軟性・課題切り替え・遂行機能 |
検査は紙と鉛筆で短時間(約5〜10分)で実施可能。A・B両方を行う場合でも、負担は少なく、手軽に前頭葉機能を把握できます。
TMTの特徴は、作業の速さと正確さ、さらにエラー傾向や探索パターンを通じて、単なる処理速度だけでなく「思考の柔軟性」「注意の切り替え」を視覚的にとらえられる点です。
実施対象と適応範囲【どんな人に行う検査か】
TMTは幅広い対象者に適応します。
- 脳血管障害(脳梗塞・脳出血後の遂行機能評価)
- 頭部外傷や高次脳機能障害の評価
- 認知症(初期スクリーニングとして)
- 精神疾患(統合失調症・うつ病などでの注意機能評価)
- 高齢者の運転再開・職業復帰の判断支援
さらに、臨床以外でも次のような用途があります。
- リハビリプログラムの前後比較による遂行機能の変化測定
- 注意訓練・課題切り替え訓練の成果指標
- 就労支援における処理速度や作業持続力の把握
ただし、視力障害・上肢の運動制限・理解力の著しい低下がある場合は実施に配慮が必要です。
TMTは「速さ」よりも「正確さ」を重視し、誤り傾向・修正反応・探索スタイルなどの質的情報を合わせて評価することが臨床的に重要です。
実施方法とポイント【正確に評価するための手順】
準備物
- 検査用紙(TMT-J版はA4サイズ)
- 鉛筆またはボールペン
- ストップウォッチ
手順
- 被検者にルールを説明(例:「1から順にできるだけ速く、間違えないように線で結んでください」)
- TMT-Aを実施し、所要時間とエラーを記録
- TMT-Bを実施し、同様に時間とエラーを記録
- 各パートの所要時間・エラー数・修正反応を採点
注意点
- 練習用シートで理解を確認してから本試行へ
- エラー時はすぐに指摘し、修正させる
- 被検者の反応(迷い、独語、集中の切れ目)も観察ポイント
TMT-Bは認知的負荷が高いため、5分(300秒)で打ち切りが一般的な基準です。
TMT-AとBの比較(B/A比やB−A差)は、課題切り替え能力の評価に有用です。
採点と解釈【TMTスコアの見方】
TMTの評価は「所要時間(秒)」と「エラー数」が基本です。
| 指標 | 内容 | 解釈のポイント |
|---|---|---|
| TMT-A時間 | 数字1〜25の結合時間 | 注意・処理速度の低下 |
| TMT-B時間 | 数字と文字の交互結合時間 | 遂行機能・柔軟性の低下 |
| B/A比またはB−A差 | 負荷の大きさ | 認知切り替え能力の目安 |
TMT-Aが遅い場合は、注意の持続や視覚探索能力に問題がある可能性があります。
TMT-Bで著しい遅延がある場合は、課題切り替え能力・ワーキングメモリ・抑制機能の低下を示唆します。
また、線の引き方、迷い線、戻り線なども質的データとして重要です。
検査結果は単一のスコアではなく、他検査(FAB・BADS・SDMTなど)と合わせて多面的に解釈します。
TMT-A・TMT-Bのカットオフ値【臨床判断の目安】
TMTのカットオフ値は、年齢や教育歴によって変動します。
以下は代表的な目安です(TMT-J基準および国内研究より)。
| 年齢層 | TMT-A(秒) | TMT-B(秒) | 判定の目安 |
|---|---|---|---|
| 20〜39歳 | 約30〜40秒以内 | 約70〜100秒以内 | 平均的 |
| 40〜59歳 | 約40〜55秒以内 | 約100〜130秒以内 | 平均的 |
| 60〜79歳 | 約55〜80秒以内 | 約130〜180秒以内 | やや遅延 |
| 高齢者(80歳〜) | 90秒以上 | 180秒以上 | 明確な遅延 |
特に運転再開評価においては、
- TMT-A:90秒以上
- TMT-B:180秒以上
で反応時間・切り替え能力の低下が指摘されるケースが多く報告されています。
ただし、これらの値は参考値であり、教育歴・慣れ・疲労などの影響を受けます。
最も重要なのは、B/A比(通常2〜3程度)や誤りパターンを総合的に見て判断することです。
標準化と日本版TMT【信頼性とバージョン情報】
日本では、2019年に日本高次脳機能障害学会が編集した「TMT-J(日本版Trail Making Test)」が標準化版として公刊されています。
| バージョン | 発行 | 特徴 |
|---|---|---|
| TMT-J(2019) | 新興医学出版社 | 20〜89歳対象、男女別・教育年数補正あり |
| 鹿島らによる横版TMT | 1990年代 | 日本語環境での先行研究形式 |
| Halstead–Reitan版 | 原版 | 国際的な標準形、25ターゲット構成 |
TMT-Jでは、英字を「かな」に置き換えた文化的適応版となっており、日本人に合わせた基準値が提示されています。
信頼性・妥当性ともに高く、TMT-Bの所要時間はBADSやWCSTなどの遂行機能検査と中程度の相関を示します。
なお、「WAIS-IV付属TMT」という表現は誤りで、TMTは**D-KEFS(Delis-Kaplan Executive Function System)**に含まれる形で臨床実施されています。
臨床応用と活用事例【実践での使い方】
TMTは短時間で施行でき、さまざまな臨床現場で応用されています。
主な応用場面
- 高次脳機能障害リハビリの経過評価
- 認知症の早期スクリーニング
- 就労支援・職業リハビリの作業遂行力の確認
- 高齢ドライバーの認知的切り替え能力評価
活用事例
- 遂行機能訓練前後のTMT-B改善(脳外傷例)
- 注意訓練プログラム後のTMT-A短縮
- 認知リハビリにおける「課題設計」指標として利用
結果をフィードバックする際は、「速さ」よりも「正確さ」「注意の持続」「課題の理解度」を重視し、患者自身の気づきを促す支援ツールとして活用することが望まれます。
他検査との関連【組み合わせで見える機能】
TMTは単独でも有用ですが、他の神経心理検査と組み合わせることでより正確な評価が可能です。
| 関連検査 | 主な対応機能 |
|---|---|
| BADS | 遂行機能全般(計画・切り替え) |
| WCST | 認知的柔軟性・カテゴリー転換 |
| SDMT | 処理速度・注意配分 |
| FAB | 前頭葉機能の簡易評価 |
| RCPM | 非言語的推論・知的機能の比較 |
特にTMT-BとBADS・WCSTの結果は、認知的柔軟性や自己モニタリング能力を多角的に確認するうえで有効です。
デジタル・ICT対応【最新動向と未来展望】
近年、タブレットやPC上で実施できるデジタルTMTが急速に普及しています。
特徴
- 所要時間・エラーを自動計測
- 軌跡データ・ペン移動速度・注視点解析を取得可能
- クラウドで経時比較や遠隔評価が容易
- 高齢者でも使いやすいインターフェース設計
複数の研究で、紙版との高い相関(r=0.8前後)が報告されており、信頼性も確認されています。
また、VR・AI技術と連携した探索行動解析・視線追跡・反応遅延マップなど、新たな認知評価ツールとしての発展も期待されています。
将来的には、TMTが単なる「検査」から「行動プロファイリングツール」へと進化し、在宅・遠隔リハビリや自動車運転評価との統合が進むと考えられます。