現在主流な就労支援のプログラムとして、IPS(個別就労支援プログラム)というものがあげられます。
これは従来行われてきたような段階論的の医学モデルを反映したような就労支援とは異なり、当事者自身が中心となったチームでの支援の形とも言えます。
このIPSについて知ることは、就労支援に悩んでいる作業療法士など職業リハに関わるスタッフの一助になるかと思っています。
そこで今回は、このIPSの特徴や基本原則について解説します。
IPS(個別就労支援プログラム)とは?
IPSとは“Individual Placement and Support”の略で、日本語では“個別就労支援プログラム”と呼ばれています。
このIPSの意味としては…
就労支援、生活支援、医療支援それぞれの専門家がチームを組むことで、包括的に精神障碍者の就労を支えるプログラム
…になります。
米国で1990年代前半に開発された就労支援モデルであり、日本国内においては,2005年より千葉県市川市国府台地区において日本版IPS(IPS-J)が開始されています。
IPSの特徴について
このIPSという就労支援プログラムの特徴についてですが、次のようなものがあげられます。
- 「働きたい」という希望があれば一般の職に就くことを支援する
- 本人の好みや長所に注目する支援
- 就労は治療的な手段として扱う
- 完治を前提とした思想からの脱却
以下にそれぞれ解説します。
「働きたい」という希望があれば一般の職に就くことを支援する
障害を有する当事者本人に「働きたい」という希望がある場合、IPSでは基本的に一般の職に就けるようにサービスを提供します。
あくまで本人の希望に合わせて支援やプログラムを合わせていくというスタンスになります。
本人の好みや長所に注目する支援
IPSでは当事者本人の就労に関する好みや本人が持つ長所、特技といった“強み”に着目した求職活動と同伴的な支援を継続します。
「できないこと、苦手なことを克服する」ではなく「できること、得意なことを増やす」ことです。
就労は治療的な手段として扱う
障害を有する当事者本人に対しての就労支援は、“就労”が目的とされがちですが、IPSにおいてはあくまで就労は“手段”でしかありません。
仕事の現場で“就労”することで必要なスキルを評価し、訓練していくための手段的な活用を基礎にしていることがIPSの最大の特徴とも言えます。
IPSでは、就労には治療的効果があり,当事者自身にノーマライゼーションをもたらすと考えられています。
完治を前提とした思想からの脱却
IPSでは、「就労=治療からの自立」という完治を前提とした思想からの脱却が基礎にあります。
また、「訓練を行い就労に必要な知識や技術を身に着けた上でないと就職は困難」という訓練中心の就労支援からの脱却でもあります。
IPSの最終目標とは?
結論から言えば、IPSの最終目標は“リカバリー”になります。
このリカバリーは、当事者自身が生活の自立度を高め、必要とするサービスや支援を少しずつ減らしていく…という考え方になります。
IPSの基本原則について
ここではIPSの基本的な原則について解説します。
- 症状が重いことを理由に就労支援の対象外としない
- 就労支援の専門家と医療保健の専門家でチームを作る
- 職探しは,本人の興味や好みに基づく
- 保護的就労ではなく,一般就労をゴールとする
- 生活保護や障害年金などの経済的な相談に関するサービスを提供する
- 働きたいと本人が希望したら,迅速に就労支援サービスを提供する
- 職業後のサポートは継続的に行う
以下に詳しく解説します。
症状が重いことを理由に就労支援の対象外としない
本人に「働きたい」という希望がある限り、IPSでは症状が重いことを理由に就労支援の対象外としません。
重い障害でも本人の強みを見出し、その強みを武器として活用できる職場環境を探すor設定し直すことが求められます。
就労支援の専門家と医療保健の専門家でチームを作る
IPSは非常にチームアプローチを重視しています。
就労支援、生活支援、医療支援それぞれの専門家がチームを組み、包括的に支援を行うことが求められています。
職探しは,本人の興味や好みに基づく
あくまでIPSのプログラムの中心は当事者本人になります。
支援側の都合や意向はなるべく排除し、本人の興味、好みに基づく必要があります。
保護的就労ではなく,一般就労をゴールとする
IPSでは、B型就労継続支援事業所といった保護的な就労を目標とはしていません。
あくまで一般就労を目標としています。
生活保護や障害年金などの経済的な相談に関するサービスを提供する
IPSでは就労は手段としての扱いになります。
あくまでノーマライゼーションとしての生活を目標としています。
そのため経済的な支援には積極的に公的なサービスを利用するように情報提供していきます。
働きたいと本人が希望したら,迅速に就労支援サービスを提供する
繰り返しますが、IPSはあくまで中心は当事者本人です。
「働きたい」と本人が希望したら、支援チームは迅速に就労支援サービスを提供する必要があります。
職業後のサポートは継続的に行う
いわゆる定着支援になりますが、就労したからゴールではなく無理なく働き続けることを重要としています。
就職後のサポートは継続的に行う必要が求められます。
IPSの評価について
IPSによるプログラムが当事者にとって適切であり、有益であるかどうかの判断は、適合度評価尺度(Fidelity Scale)というツールを使用したうえで判断されます。
適合度評価尺度(Fidelity Scale)は、8つの原則を25の項目に変換したものでサービスの質を数値化することで評価します。
スコアが高いほど、IPSサービスの品質が高くなり、期待される仕事の成果が高くなります。
まとめ
本記事では、IPS(個別就労支援プログラム)について解説しました。
IPSでは就労は目標ではなく、手段としているという点が非常に特徴的と言えます。
「働くこと」を目的とするか、手段にするかの違いってどんな社会人にも当てはまる視点なんだと思うんです。
ということは、IPSは障害者への就労支援だけに限ったことではないということかもしれません。