尿失禁に対する主な6つの治療について 【生活指導、膀胱訓練法、下部尿路リハビリテーションなど】

リハビリの現場での作業療法士は、クライアントの尿失禁に対しての治療的な介入を求められることがあります。といっても、いまひとつ明確な手段が確立していないような印象を受けます。
そこで今回は尿失禁に対しての治療をガイドラインを基に考えてみます。

ガイドラインからみる尿失禁に対しての治療方法

結論から言えば、尿失禁に対しての治療方法としては次のようなものがあげられます。

  • 生活指導
  • 膀胱訓練法
  • 下部尿路リハビリテーション
  • 薬物治療
  • 膣内装具
  • 外科的治療

以下にそれぞれ解説します。

生活指導

まずは尿失禁に対する生活指導について解説します。
尿失禁に対しての生活指導は、当然ながら指導を受ける側であるクライアントの尿失禁の種類によって多少変わってきます。

腹圧性尿失禁の場合は比較的生活習慣においての危険因子(肥満、便秘、飲水過多)に由来するものが多いのでその危険因子に対しての指導。
また切迫性尿失禁の場合は、早めにトイレに行く習慣化であったり、スピーディーに着脱できるように着衣の工夫をする、トイレ環境の整備といった一般的な指導が行われます。

作業療法士をはじめ医療スタッフ側は、的外れな指導にならないようにクライアントの尿失禁がどの種類のものなのか?を把握しておく必要があります。

高齢者には“行動療法”も必要

生活指導を行うにも、認知機能が正常域な方なら問題はありません。
しかし、認知症や身体障害が背景にある高齢者の尿失禁の場合はややテクニックが必要になります。
「〇〇してください」「〇〇に気を付けてください」といったシンプルな指導方法や環境整備では不十分なケースがほとんどのようです。

尿意や排尿間隔、排尿動作といったものを評価し、時間排尿誘導や排尿訓練などの“行動療法”によって対応する必要があります。

パッドやおむつは補助的手段

ここで重要なのは、尿パッドやおむつの使用はあくまでも“補助的なものとして扱う”ということです。
特に高齢者に対しての安易な尿パッドやおむつの使用は、尿失禁に対しての治療機会の喪失だけでなく、QOLの低下、寝たきりの誘発につながってしまいます。
「尿失禁したからすぐに尿パッドorおむつを使おう!」ではなく、その原因を突き止め、生活習慣の改善などで対応できないかどうかを検討します。

また常に使用するのではなく「外出する際のお守り替わり」のような使い方など、その使用目的をしっかり持っているなら問題はないのかなと。

下部尿路リハビリテーション

尿失禁そのものに対しての改善方法として、下部尿路リハビリテーションと呼ばれるものがあります。
これは…

  • 排泄介助(Toileting assistance)
  • 膀胱訓練(Bladder training)
  • 骨盤底筋訓練

…の3つに分けられます。

排泄介助

尿失禁に対しての排泄介助には…

  • 時間尿誘導:あらかじめ決めておいた一定の時間ごとにトイレに誘導する。排尿が自立していない患者に有効。(エビデンスグレード : C)
  • パターン排尿誘導:個々の患者の排尿パターンに合わせた排尿誘導で、排尿習慣がある程度確立している場合に有効(エビデンスグレード : B)
  • 排尿習慣の再学習:尿意をある程度認識でき、排尿促しに反応できる患者に有効。認知機能はある程度障害されていても可能。(証拠の強度 : A)

…の3つがあります。

膀胱訓練法

下部尿路リハビリテーションの2つ目として、膀胱訓練法があげられます。
膀胱訓練法とは排尿間隔を少しずつ延長することで膀胱容量を増加させる訓練になります。

対象としては切迫性、混合性尿失禁のケースになります。

この膀胱訓練法の具体的な方法としては、まずクライアントに排尿機能、尿失禁、尿禁制のメカニズムについて説明をします。
そして膀胱訓練法の目的や狙いについて理解してもらいます。
その後、排尿計画を立てて、短時間から始めて少しずつ15~60分単位で排尿間隔を延長していきます。
最終的には2~3時間の排尿間隔が得られるように訓練を行います。

尿意と時間をコントロールできるようにするイメージですね。

骨盤底筋訓練

下部尿路リハビリテーションの3つ目としては、“骨盤底筋訓練”があげられます。
“骨盤庭筋訓練法”は腹圧性尿失禁の軽症例では30~40%程度の消失率が報告されているため、治療方法としてはまず試みられるべき方法とされています。

加えてバイオフィードバック療法の併用によってより治療効果が向上するようです。

下部尿路リハの課題

しかし、この下部尿路リハビリテーションの普及率はまだまだ低いことが現実のようです。
というのも、この指導にはある程度のノウハウを要すること、専門的に指導できるコメディカルスタッフがいないこと、説明や訓練に時間を要するということ、その割には診療報酬点数が未確定なこと…などが理由としてあげられます。

“骨盤底筋訓練法”が尿失禁に一定の効果を示すことは、パンフレットの配布などによって認知度としては高まったようですが、実際に指導を受けないことには効果としては期待できません。

骨盤底電気刺激療法も有効

また、ここ最近骨盤底筋訓練法と同様の有効性が示されているものとして“骨盤底電気刺激療法”があげられます。
この骨盤底電気刺激療法は経皮的、経膣、経肛門的に骨盤底筋へ電気刺激を行うものであり、対象としては腹圧性尿失禁、切迫性尿失禁のクライアントになります。

薬物治療

尿失禁に対しての薬物治療もある程度の効果が期待できます。
しかしその尿失禁の種類によって治療方法の中心となるか、補助的になるかが変わってくるので処方を行う主治医との相談が必要になります。

腹圧性尿失禁に対しての薬物療法

腹圧性尿失禁に対しては“交感神経α刺激薬(塩酸エフェドリン)”、“β刺激薬(塩酸クレンブテロール)”、“三環系抗うつ薬(塩酸イミプラミン)”などが選択肢としてあげられます。
また閉経後の助成腹圧性尿失禁のクライアントに対しては“エストロゲン補充療法”が行われることがあるようですが、有効性については不明のようです。

切迫性尿失禁に対しての薬物療法

一方、切迫性尿失禁に対しては薬物治療は中心的な治療方法として選択されます。
この場合“塩酸オキシブチニン”、“塩酸プロピベリン”といった抗コリン薬が用いられます。
また“三環系抗うつ薬(塩酸イミプラミン)”や“塩酸フラボキセート”が用いられることもあるようです。

しかし抗コリン薬を長期的に投与することで、口渇や便秘といった副作用が現れるため注意が必要です。

膣内装具

尿失禁に対しての治療方法として、“膀胱頸部支持器(Bladder Neck Support Prosthesis)”や“尿道栓”といった治療用装具も開発されていて、効果としても一定の効果も報告されているようです。
しかし日本ではまだ広く使用されるには至っていないようです。
あくまで知識として…というご紹介。

外科的治療

尿失禁…特に腹圧性尿失禁に対して行われる外科的治療については、“膀胱頸部拳上術”や“膀胱頸部スリング術”、“尿道周囲コラーゲン注入療法”の3つが主なものとされています。
一方、切迫性尿失禁に対しては“膀胱拡大術”が行われる場合があるようですが、手術侵襲の大きさ、術後清潔間欠導尿の必要性などから最終的な治療方法として位置づけられるべきとされています。

その他

溢流性尿失禁の場合ですが、基本的に尿排出が障害され、膀胱内に多量に尿が残ってしまうことによるものなので、治療は尿排出障害の改善になります。
症例として多い“前立腺肥大症”といった下部尿路閉塞による場合は薬物治療、もしくは外科的治療による閉塞の解除が必要になります。
また膀胱収縮障害の場合位は、清潔間欠導尿による排尿管理が必要になります。

まとめ

尿失禁と一言で言ってもその病態は様々であり、それによって治療方針も変化してきます。
当然のことですが、クライアントの尿失禁がどのような病態によるものか、どのような尿失禁の種類に位置するのかを明確にすることが大前提になってきます。

作業療法士として尿失禁という排泄のトラブルに関わる場合、できることは限られてきますがトイレ環境整備も含め多角的な視点、アプローチが必要になってくると思います。

参考サイト

EBMに基づく尿失禁診療ガイドライン

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