アドソンテストは、胸郭出口症候群(TOS)や斜角筋症候群の診断に使われる評価法で、神経や血管の圧迫を確認し、症状の再現や脈拍の変化を評価します。
本記事ではこのアドソンテストの目的や方法、注意点などについて解説します。
アドソンテストとは
アドソンテスト(Adson Test)は、胸郭出口症候群(TOS)の診断に用いられる評価法であり、特に斜角筋症候群を判定するのに適しています。
胸郭出口症候群は、肩から腕にかけて神経や血管が圧迫されることで、痛みやしびれが生じる疾患です。
テストでは、患者が腕を外転しながら、頭を検査側に回旋させ、深呼吸を行うことで、脈拍が低下するか、症状が再現されるかを確認します。
アドソンテストの目的
アドソンテストは、胸郭出口症候群の中でも特に斜角筋症候群を疑う際に、有効な検査法として知られています。
このテストの目的は、主に以下の点に集約されます。
- 斜角筋による神経・血管の圧迫の確認
- 胸郭出口症候群の診断補助
- 治療方針の決定
- 治療効果の評価
それぞれ解説します。
斜角筋による神経・血管の圧迫の確認
アドソンテストは、斜角筋が神経や血管をどの程度圧迫しているかを確認するために行われます。
特に腕神経叢や鎖骨下動脈が圧迫されることで、腕や手に痛みやしびれが生じることが多く、テストではこれらの症状が再現されるかどうかを評価します。
患者が首を特定の方向に回すことで、斜角筋が緊張し、圧迫が増加するため、橈骨動脈の脈拍の変化も確認されます。
脈拍が弱くなるか、症状が悪化する場合、斜角筋による圧迫が疑われます。
このテストにより、圧迫の程度や症状の重症度が推測でき、治療方針を決定するための重要な情報が得られます。
胸郭出口症候群の診断補助
アドソンテストは、胸郭出口症候群(TOS)の診断に役立つ評価法であり、特に斜角筋症候群の有無を確認するために使用されます。
TOSには複数のタイプが存在し、アドソンテストは斜角筋による圧迫が主な原因とされる斜角筋症候群を特定するのに適しています。
テストが陽性であれば斜角筋症候群の可能性が高まりますが、頸肋や小胸筋症候群など、他の原因も考慮する必要があります。
このテストは他の検査結果と合わせて用いられ、総合的な診断が行われます。
胸郭出口症候群の疑いがある場合、アドソンテストは診断の一部として有用です。
治療方針の決定
アドソンテストの結果は、患者に適切な治療法を選択するための重要な手がかりとなります。
斜角筋による神経や血管の圧迫が確認された場合、物理療法、薬物療法、または手術療法が選択されることがあります。
特に斜角筋の緊張を緩和するためのストレッチやマッサージなどの物理療法が推奨され、症状が重度の場合は手術が検討されることもあります。
テストの結果に応じて、適切な治療法を決定し、患者に最適なケアを提供します。
治療の選択には、テストの結果と他の検査の総合的な評価が重要です。
治療効果の評価
アドソンテストは、治療の効果を評価するためにも利用されます。
治療後にテストを再度実施することで、症状の改善があればテスト結果が陰性になる可能性があります。
特に物理療法や手術療法の後、圧迫が軽減されたかどうかを確認するためにこのテストが用いられます。
治療効果が十分でない場合は、さらなる治療やアプローチの見直しが必要となる場合もあります。
定期的にアドソンテストを行うことで、治療経過を追跡し、必要に応じて適切な対応を行うことができます。
アドソンテストの方法
アドソンテストは、胸郭出口症候群の診断に用いられる検査の一つです。
特に、斜角筋症候群を疑う際に有効な方法です。
ここではアドソンテストの方法として…
- 準備
- 動作
- 深呼吸
- 判定
- 判定後の対応
…というステップで解説します。
準備
アドソンテストの準備段階では、患者がリラックスした状態で椅子に座り、腕を自然に下ろした姿勢をとります。
このリラックスした状態が重要で、筋肉の緊張を最小限に抑えることで、テストの正確な結果が得られやすくなります。
検査者は患者の手首にある橈骨動脈に触れ、脈拍を確認します。
これは、後に動作を行った際に脈拍の変化を比較するための基準として用います。
準備段階は、患者と検査者の間でしっかりとコミュニケーションを取ることが求められ、検査の流れを説明して安心感を与えることも重要です。
動作
動作の段階では、患者に対してあごを上げ、顔を症状が出ている側の肩に向けるよう指示します。
この姿勢は斜角筋を緊張させ、神経や血管に対する圧迫を増やすため、症状が現れやすくなります。
また、患者にこの動作を無理なく行わせることが大切で、過度な力が入るとテストの正確性が損なわれる可能性があります。
この動作により、腕神経叢や鎖骨下動脈への圧迫が引き起こされ、症状の再現や脈拍の変化が起こるかどうかを確認します。
深呼吸
次に、患者に深く息を吸い込むよう指示し、その後息を止めた状態で姿勢を保持させます。
深呼吸を行うことで、胸郭の動きが加わり、さらに斜角筋が神経や血管に対して圧力を加えることができ、症状が顕著に現れる可能性があります。
息を止めることで、胸郭の動きが制限され、さらに圧迫が持続するため、テストの陽性反応が確認しやすくなります。
このステップでは、患者に過度の息止めや息苦しさが生じないよう、細心の注意を払いながら行います。
判定
検査者は患者が深呼吸し、息を止めた状態で橈骨動脈の脈拍が弱くなるか、消失するかを確認します。
この脈拍の変化は、血管が圧迫されていることを示しており、陽性反応の一つとして評価されます。
また、痛みやしびれといった症状が強くなる場合も、神経が圧迫されている可能性が高く、陽性と判断されます。
これらの反応が見られた場合、斜角筋症候群や胸郭出口症候群の可能性が高いと考えられ、さらなる精密検査や治療方針の検討が必要となります。
判定後の対応
アドソンテストが陽性となった場合、患者に症状の再現や脈拍の変化があったことを説明し、次のステップとして他の検査や治療法を提案します。
テストの結果が陰性であった場合でも、他の診断方法と組み合わせて総合的に判断することが重要です。
患者に対しては、結果に基づいて適切なアドバイスや説明を行い、治療やリハビリの方向性を一緒に決めていくプロセスが求められます。
アドソンテストで陽性になった場合
アドソンテストで陽性になった場合、以下の対処法が考えられます。
- 医師の診断を受ける
- 保存療法
- 生活習慣の改善
- 手術
それぞれ解説します。
医師の診断を受ける
アドソンテストで陽性反応が確認された場合、胸郭出口症候群(TOS)の可能性が高いことから、専門医による正確な診断が必要です。
TOSは神経や血管の圧迫が原因であり、症状の重篤度や原因を特定するためにさらに精密な検査を行う必要があります。
医師の診断により、保存的治療が有効か、手術が必要かなど、最適な治療方針が決定されます。
特に神経や血管への影響が大きい場合、早期の医療介入が求められます。
適切な診断を受けることで、症状の悪化を防ぎ、適切な治療に進むことが可能となります。
保存療法
保存療法として、まずは理学療法や薬物療法が選択されることが多いです。
理学療法では、斜角筋や肩周囲の筋肉を緩めるストレッチや、筋力を強化する運動を行い、神経や血管の圧迫を軽減します。
また、抗炎症薬や鎮痛薬を使用して、痛みや炎症をコントロールし、症状の改善を図ることができます。
保存療法は非侵襲的であり、手術が必要な場合でもその前段階として試みられることが多いです。
患者の症状に応じて、理学療法士や薬剤師と連携しながら最適な治療を行うことが大切です。
生活習慣の改善
胸郭出口症候群の症状を管理するために、生活習慣の改善も重要な要素です。
特に姿勢の悪さが症状を悪化させることが多いため、姿勢の改善が推奨されます。
デスクワークや長時間の同じ姿勢がTOSの悪化要因になるため、定期的な休憩やストレッチが勧められます。
また、無理な動作や重いものを持つことを避けるなど、症状を悪化させる行動を制限することも重要です。
生活習慣の見直しを通じて、長期的に症状の管理を行い、再発を防ぐことが目指されます。
手術
保存療法が効果を示さない重症例では、手術が検討されることがあります。
斜角筋による圧迫が強い場合は、斜角筋の一部を切除する手術や、神経や血管に圧迫をかけている第1肋骨を切除する手術が選択肢となります。
これにより、圧迫が解消され、症状が大幅に改善することが期待されます。
ただし、手術にはリスクが伴うため、患者の状態や症状の重篤度を総合的に判断し、慎重に選択されます。
術後のリハビリも重要で、手術後の経過を見ながら最適な回復プランが組まれます。
アドソンテストの注意点
アドソンテストは、胸郭出口症候群の診断に役立つ検査ですが、いくつかの注意点があります。
ここでは…
- 患者への説明と同意の取得
- 患者の快適性と安全性の確保
- 正しい姿勢の維持
- 包括的診断へのアプローチ
- 結果の慎重な解釈
…について解説します。
患者への説明と同意の取得
アドソンテストを行う際には、患者にテストの目的や手順を丁寧に説明し、同意を得ることが重要です。
これにより、患者は自身の状態を理解し、不安感を軽減できるため、より協力的な態度でテストを受けられます。
また、患者がテストによるリスクや期待される結果を理解していることが、信頼関係の構築につながります。
同意を得ずに検査を行うと、患者が緊張し、結果が正確に出ない場合もあるため、事前の説明は欠かせません。
患者への配慮を示すことで、検査の信頼性が高まり、診断がスムーズに進むでしょう。
患者の快適性と安全性の確保
アドソンテストは、神経や血管を圧迫することで症状を確認するため、患者に不快感や痛みが生じることがあります。
そのため、テスト中に患者が異常な痛みやしびれを訴えた場合は、すぐにテストを中止し、安全を優先することが必要です。
無理にテストを続けると、症状が悪化する可能性もあるため、患者の状態に細心の注意を払います。
また、テスト中の患者の快適性を確保することで、正確な結果が得られやすくなるため、安心して検査を受けてもらうことが重要です。
正しい姿勢の維持
アドソンテストの正確性を保つためには、患者が正しい姿勢を維持することが重要です。
具体的には、患者の首の位置や肩の向きを正しく調整し、検査者が適切な位置で橈骨動脈の脈拍を確認する必要があります。
誤った姿勢でテストを行うと、神経や血管の圧迫が十分に行われず、結果が不正確になる可能性があります。
検査者は患者の姿勢を丁寧に指導し、正しい体位を確認しながら進めることが求められます。
これにより、信頼性の高い結果を得ることができます。
包括的診断へのアプローチ
アドソンテストは有用な診断手段の一つですが、これだけで確定診断を行うことは適切ではありません。
他の検査や臨床評価を組み合わせて、より包括的なアプローチで診断を行うことが重要です。
例えば、ライトテストやモーリーテストなど、胸郭出口症候群の他の要因を確認するための検査も併用することが推奨されます。
これにより、特定の症状の原因をより正確に特定し、誤診を防ぐことが可能です。
複数の検査結果を総合的に判断し、適切な治療方針を決定することが必要です。
結果の慎重な解釈
アドソンテストで陽性所見が見られた場合でも、それだけで胸郭出口症候群が確定するわけではありません。
テスト結果はあくまで参考資料の一つであり、他の検査結果や臨床評価を考慮して総合的に判断する必要があります。
特に、他の要因や疾患が症状に影響を与えている可能性もあるため、テスト結果を過信せず慎重に解釈することが求められます。
正確な診断を下すためには、医療従事者が多角的な視点で評価を行い、適切な判断をすることが重要です。