“正常”と“異常”の違いとはどのようなものになるのでしょうか?
医療、健康分野に関わる者として、ふと気になりました。
今回はこの違いや境界線を引く基準について解説します。
“正常”と“異常”とは?
まずは“正常”と“異常”の違いについて定義から解説します。
正常の定義
“正常”の定義としては次のように示されています。
- 普通であり、変わったところがないこと
- 正しいとされる状態にあること
英語で言えば“normality”になります。
“ノーマル”ってやつですね。
異常の定義
一方、“異常”の定義としては次のように示されます。
- 普通またはいつもと違って、どこかくるっていること
- 通常でないこと
英語で言えば、“abnormality”になります。
“アブノーマル”ってやつです。
身体医学における“正常”と“異常”の違いとは?
では、身体医学における“正常”と“異常”の違いとはどのようなものになるのでしょうか?
実は身体医学の分野ではこの違いを、自覚症状に加えて…
- 検査結果に平均範囲内にあるものを“正常”
- 平均範囲から逸脱がある場合を“異常”
…とし、治療の対象としています。
つまり“主観である自覚症状”と“客観的である数字での比較”によって正常or異常の判断がされるということです。
たしかに、血液データも数値ですし、年齢平均の筋力や体力なんかも数字で表現することができますからね。
精神医学における“正常”と“異常”の違いとは?
では、精神医学の分野ではどうでしょうか?
調べると、精神医学における“正常”、“異常”の違いも身体医学と基本的には同じであるとされています。
しかし精神の場合、身体的な基礎をもたない場合や明らかでない場合には…
国情や時代、文化や宗教といった社会的な価値判断によって正常or異常の判断が異なる場合がある
…という点が身体医学と異なる点です。
決して一様ではなく俗人的…という点が正常と異常の線引きを難しくする理由でしょうね。
精神科領域における“正常”と“異常”の境界線の4つの基準について
では精神科…メンタルヘルスの領域において、なにをもって“正常”とし、なにをもって“異常”とするのか?
その境界線を引く基準については次の通りになります。
- 適応的基準
- 価値的基準
- 統計的基準
- 病理的基準
以下にそれぞれ解説します。
適応的基準
まず、適応的基準とは…
所属する社会や集団に適応しているかどうかによる基準
…ということです。。
この場合、正常と異常の定義としては…
- 正常:所属する社会に適応している場合
- 異常:社会生活が円滑にできなくなった場合
…となります。
また、この基準に基づいて判断するためには次のような判断基準が使われるようです。
- 主観的判断:本人自身が判断する場合、精神的、肉体的な苦悩を伴う場合が多い
- 社会的判断:他者が判断する場合で、個人的な偏見や要求が含まれる場合もある
この所属する社会…というのは国という大きなレベルから地域やコミュニティという小さなレベルまで幅広いと言えます。
価値的基準
次に、価値的基準についてですが、これは…
所属する社会の理念体系に基づく規範
…ということです。
この場合…
- 正常:その規範の許容範囲内で行動している状態
- 異常:その規範から逸脱している場合
…となります。
また、この価値的基準には次の判断があります。
- 生活的判断:道徳観や社会通念、倫理観など日常的な規範意識による判断
- 論理的判断:法律や慣習など制度的規範による判断
…人の内側から外側に向かう“生活的判断”、そして外側から人の内側に向かう“論理的判断”というイメージでしょうか。。
統計的基準
統計的基準とは…
所属する集団での平均的な行動、価値観、思考
…になります。
この場合の正常、異常の定義は…
- 正常:集団の中で平均に近い標準的状態にあるもの
- 異常:平均から偏奇の度合いが強い状態
…となります。
判断としては、基準からどれだけ離れているか?…ということになります。
これは数字を用いて比較される基準ですね。
病理的基準
最後に病理的基準ですが…
精神病理学に基づく医学的判断により、疾病と診断されるかどうか
…になります。
つまり、この場合は…
- 正常:健康と判断された場合
- 異常:疾病と診断された場合
…となります。
この判断には精神障害の診断および統計マニュアルであるDSM-5などが利用されます。
でもこの病理的基準であるDSMは時代によって改訂されていきます。
そう考えると、今は病理的には異常とされるものでも、将来的には正常とされるものもあるのかもしれません(もちろんその逆も)。
まとめ
今回は正常と異常との違いについて、身体、精神の両面から考えてみました。
正常と異常の線引きって難しいです。
特に精神科領域、メンタルヘルスの領域においてはデリケートな部分も含めるので簡単に決めつける事はできません。
今回解説した4つの基準の視点を理解することで、クライアントの心理的な内面をより客観的に把握することができるのかもしれません。
ただセラピストとして重要なことは、正常or異常のどちらかに当てはめるのではなく、“あるがまま”っていう第三の選択肢を選ぶ心構えも必要なのかな…なんて思ってもいますけどね。