更衣動作に必要な機能・能力について【着替えを構成する身体・認知機能】

ADL動作の一つである更衣動作ですが、この単に“着替える”という動作も非常に多くの身体機能、認知機能によって成り立っています。
今回はこの更衣動作に必要な身体、認知機能について解説します。

更衣動作に必要な機能・能力について

ADL動作のひとつである更衣動作を行うために必要な機能や能力とはどのようなものになるのでしょうか?
ここでは身体機能面、認知機能面の2つから考えてみます。

身体機能面

上衣や下衣、靴下や靴の着脱も含めた更衣動作を行うのに必要な身体機能としては…

  • 関節可動域
  • 筋力
  • 姿勢保持能力(バランス機能)
  • 上下肢の操作性
  • 手指の巧緻動作能力

…といったものがあげられます。

以下にそれぞれ解説します。

関節可動域

更衣動作における必要な能力や機能の一つとして“関節可動域”があげられます。
更衣動作…つまり“着替える”という動作は、衣服の形状に対して自身の身体を変化させて適合させることが必要になります。

その適合をスムーズに行うためには一定の関節可動域が必要になります。

上衣の場合

上衣の着脱における関節可動域については、その衣服の形状が“かぶり”や“前開き”によって変わってきます。
どちらも適合させるため及びリーチを保障するための肩関節、肘関節、そして操作のための手関節、指関節の可動域が必要になります。

下衣の場合

下衣の着脱における関節可動域については、ズボンやパンツを脱ぎ履きするのに適合させるための股関節、膝関節、足関節の可動域が必要になります。
また、ズボンやパンツへリーチするための肩関節、肘関節、操作するための手関節、指関節の可動域が必要になります。

靴下・靴の場合

靴下や靴の着脱における関節可動域についてですが、これもその対象に適合させるための股関節、膝関節、足関節の関節可動域が必要です。
加えて、靴下や靴を操作するために必要なリーチを保障するだけの肩関節、肘関節が必要ですし、操作のための手関節、手指関節の関節可動域も必要になります。

筋力

更衣動作において必要とされる“筋力”ですが、これはその衣服の種類や形状で大きくことなるものでもないような印象を受けます。
つまり、

  • 衣服へリーチし、自分の身体にまで持ってくるための上肢の筋力
  • 衣服に身体を適合させるために必要な動作を保障するための筋力
  • 衣服を把持、操作するための筋力
  • 姿勢保持、姿勢変換に必要な筋力

…といったところでしょうね。
これらについても以下にそれぞれ解説します。

姿勢保持、姿勢変換能力(バランス機能)

更衣動作を行うためには、遂行しやすい姿勢に変換する能力、およびその姿勢を保持するための能力(バランス機能)が必要になってきます。

上衣の場合

基本的に上衣の着脱の場合は、座位姿勢もしくは立位姿勢で行うのが効率的になります。
そのため、”臥位から座位まで姿勢変換”or”座位からの立ち上がり能力”と、その”座位姿勢”or”立位姿勢を保持する能力”が必要になります。

下衣の場合

下衣の着脱を行うためには座位姿勢と立位姿勢が必要になります。
工程をわけると、下衣の裾に両下肢を出し入れする工程の際は座位姿勢。
下衣を大腿部⇔腰部まで適合させる工程は立位姿勢で行うのが安全、かつ効率的になります。

つまり、座位姿勢の保持能力、座位から立位に姿勢変換する能力、立位姿勢の保持能力、立位から座位に姿勢変換する能力が必要といえます。

靴下・靴の場合

靴下、靴の着脱を行うためには、安全面を考慮すると座位姿勢で行うのがベターと言えます。
つまり、臥位から座位まで姿勢変換する能力と、その座位姿勢を保持する能力が必要になります。

上下肢の操作能力

更衣動作をスムーズに遂行するためには、衣服まで手を伸ばし、自分の近くにまで運ぶというリーチ動作や把持能力。
そして衣服の形状や向き、方向を着脱しやすいように”操作し固定的に働かせるという能力”が必要になります。

手指の巧緻動作能力

衣服には着脱しやすいようにするため、また装飾のためにボタンやファスナーが備わっている場合があります。
これらに対して操作するための巧緻動作能力も、更衣動作の遂行には必要な能力になります。
例としては、

  • ボタン
  • ファスナー
  • ホック

…などがあげられます。

認知機能面

更衣動作を遂行するにあたって、必要とされる認知機能ですが、

  • 左右の判別
  • 衣服の判別
  • 空間認識
  • 問題解決能力
  • 意欲
  • 注意
  • 身体の認識
  • 前頭葉機能

…といったものがあげられます。

前後・左右の判別

衣服の前後、左右の認識、判別能力が必要になります。
空間的な認知機能も関わってくるでしょうね。

衣服の判別

これも認知機能ですが、そもそも衣服を衣服としての判別能力が必要になります。

空間認識

半側空間無視の症状がある場合、見落としやミスが多くなるため、空間認識の能力が必要になります。

問題解決能力

更衣動作では、同じ衣服でもその着脱方法は決して単一的ではありません。
その為1つの方法で遂行してもその方法が困難な時に異なる方法、代替策を考えるという問題解決能力が求められます。

意欲

そもそも更衣動作を行う必要性を感じること、更衣動作を行う意欲が必要になりますし、前提となります。

注意

更衣動作の手順におけるミスに対しての注意を向ける能力や、他の侵害刺激があっても注意がそれないようにする能力も必要になります。

身体の認識

更衣動作はその衣服の形状に身体を適合させることが必要になります。
適合させるための身体機能も必要ですが、そもそも身体の認識能力も必要になります。

前頭葉機能

更衣動作をどの手順で行うのか?という前頭葉の機能が必要になります。

まとめ

今回は更衣動作に必要な身体・認知機能について解説しました。
更衣動作というADLの動作ひとつとっても、様々な身体機能、そして認知機能の上で成り立っていることがわかります。

作業療法士として、この更衣動作を“ADL訓練”として行うのか、構成している要素である身体機能、認知識能の訓練方法として用いるのかは、そのクライアントが求めているものと、目的によって異なります。
どちらにしても、これらのような更衣動作を構成している能力をきちんと把握していることが、大前提となるでしょうね。

逆を言えば、この更衣動作を観察することで上記の身体、認知機能の項目を評価することができるよね!
ボトムアップでの評価よりも課題解決には最短な方法ともいえるでしょうね。

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