更衣動作リハビリテーション(作業療法)【 種類・目的・意味・障害や問題点について】

講座

季節や状況によって衣服を選択し変えるという更衣動作。
身体的に健康な人にとっては普通の何気ない日常生活動作の一つですが、身体的な障害を有している人にとっては非常に困難な動作となります。
では、更衣動作をリハビリテーション…特に作業療法として行う場合、どのような方法で行うのでしょうか?

今回はこの更衣動作の訓練プログラムを“目的”として用いる場合と、“手段”として用いる場合の違いを中心に解説します。


更衣動作とは?

更衣動作の定義ですが…
衣服を脱いだり着たりする行為のこと
…になります。

一般的には下着や服を脱いだり、新しい服を身に着けたりするときに行われます。

具体的な更衣動作ですが…

  • シャツやジャケットなどのトップスの着脱
  • ズボンやスカートなどのボトムス着脱
  • パンツやブラジャーなど下着の着脱
  • 靴下や靴の着脱

…などがあげられます。

更衣動作の意味について

更衣動作の意味、意義についてですが、人間は社会の中で生きる時適当な衣服を身にまとうことを要求されます。
衣服そのものを考えた場合、そこに要求されるのは“機能性”、“装着性”、“外観”などがあげられますが、衣服を着ることの意義には大きく次の2つのことが考えられます。

  • 身体保護として
  • シンボリカルとして

以下に詳しく解説します。

身体保護として

更衣動作の“身体保護”としての意味についてですが、身体の体温調整や外敵から身を守るため…とされています。
いわば生命維持のための手段としての更衣…ということになります。

シンボリカルとして

もう一つの意味としてですが、衣服はシンボリカルな機能として、着用する人の性別や身分、好みなどを表します。
つまり、衣服は個人の自己表現の手段から、特定の文化・社会への所属の手段、重要なコミュ二ケーション手段になっているということになります。

更衣動作の目的について

そもそも更衣動作…つまり衣服を“着替える”という活動はどのような目的になるのでしょうか?
大きく分けると次のような目的があげられます。

  • 体温調節のため
  • 生活習慣、生活リズムの確立のため
  • 身だしなみを整えるという社会的行為
  • 自己表現の手段

以下に分かりやすくするために、マズローの五段階欲求に照らし合わせて整理してみます。

体温調節のため(生理的欲求)

衣服を着替えるという更衣動作の目的の一つには、生命維持のための体温調節という生理的欲求に対しての目的があげられます。
季節や一日の時間によって変化する気温に対して適切に対処するため、更衣動作によって暑い、寒いという状態に適宜対応する必要があります。

マズローの五段階欲求でいう、生理的欲求のカテゴリー内の″恒常性維持”に当てはまります。

生活習慣、生活リズムの確立のため(安全の欲求)

朝起きたら寝間着から普段着に着替えるといったことは、一日の生活習慣、生活リズムを整えるためにも必要な活動と言えます。
一日中同じ衣服で過ごすと、生活環境が単調となり、活動時間なのか食事時間なのか、休息時間なのか判別がつかなくなり、精神活動の低下に繋がりやすくなります。
特に病院で入院をしている、施設で長く入所しているといった状況下のクライアントの場合、一日のリズムつかみにくくなってしまい、自律神経の不調を引き起こすことになります。
これは見当識障害を起こしやすい認知症や高齢の方はもちろん、高次脳機能障害の方でも顕著にみられる傾向があります。
精神面での障害を有するクライアントには特に、生活のメリハリをつけるということは、どんな環境においても最低限必要なことと言えます。

マズローの五段階欲求でいうと…安全の欲求内にある“健康維持”を満たす目的に近いのかなと思います。

身だしなみを整えるという社会的行為のため(社会的欲求)

自宅内で着ている…いわゆる部屋着の状態と、外出や来客対応など他人と接する機会がある場合では、着る装いも変わってきます。
これは更衣動作を社会的な行為として捉えた場合に考えられる理由と言えます。
人は社会的な動物である点も考えると、この更衣動作を社会的行為として捉える視点は、作業療法士として忘れてはいけない視点だと思います。

マズローの五段階欲求でいうと…“社会的欲求”を満たす目的になるのでしょうね!

自己表現の手段(尊敬、評価、自己実現の欲求)

上述した項目は、更衣動作を義務的な観点からみた目的ですが、この“自己表現の手段”…マズローの五段階欲求でいう“尊敬、評価の欲求”や“自己実現の欲求”という点で更衣動作を捉えることも必要です。
つまり、生活の中で自分の好みや生活にあった服装を選択でき、楽しみを感じることが目的になります。
この場合は更衣動作を“ファッション”という別の切り口で考える必要があると思います。

とはいっても、この段階の目的になると、かなり上位の精神的欲求に対しての目的に位置するので、非常に個別性に富んでいる印象を受けます。

作業療法士が更衣動作へ介入することって?

つまり、作業療法士が生活訓練・リハビリテーションとして更衣動作へアプローチするということは、

  • クライアントの身体的、精神的な健康生活の維持のため
  • 多種多様な選択肢を個人が持つことの促進
  • 社会生活上の行動範囲を拡大しQOL向上の促進

…といった要素を支援することにつながります。

更衣動作障害がもたらす問題点

では、ADLの一つでもある“更衣動作”が障害されると、生活においてどのように問題化するのでしょうか?
想定されるものとしては次のとおりになります。

  • 二次的な疾病の発症による健康生活の維持困難
  • 生活リズムの乱れによる自律神経の不調
  • 認知機能の低下
  • 社会生活の狭小化

以下に詳しく解説します。

二次的な疾病の発症による健康生活の維持困難

前述したように、更衣動作に障害がおきると、衣服による体温調整が行いにくくなるため、気温変化に対応できなくなります
その結果、風邪や肺炎といった二次的な疾病を引き起こす可能性が高くなります。

また、衛生面での問題にも発展することがあります。

生活リズムの乱れによる自律神経の不調

一日同じ衣服でいることは、生活のメリハリがつくにくくなります。
その結果生活リズムの乱れが起こり、結果として自律神経の不調をきたす可能性が高くなります。

憂うつな気分や慢性的な頭痛、倦怠感、便秘といった自律神経に関与する問題が顕在化してくる原因にもなり得ます。

認知機能の低下

特に高齢者においては、能動的に着替えるという行為を行わないと、認知機能の低下を引き起こす可能性が高くなります。
また、前頭葉機能の低下と更衣動作は比較的関連性が高く、うつ病の初期症状に着替えるのが億劫になった…という症状がみられるのは、このためだと考えられます。

社会生活の狭小化

同じ衣服で過ごすことは、前提としても結果としても、他者との交流の低下につながります。
また、衣服を着替えるという必要性を感じていたとしても、それがTPOに合ったものでないと、これも社会生活、対人関係に支障をきたす場合があります。

適切な時間、適切な場所で適切な衣服に着替えるという動作に障害があると、どうしても社会生活の狭小化を招いてしまいます。

まとめ

今回は、更衣動作リハビリテーションについて解説しました。

何気なく行っている行為でも、その目的を考え深めると非常に意味があるものになります。
たかが着替え…ではなく、しっかりと支援できるようなセラピストである必要がありますね。

タイトルとURLをコピーしました